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股関節は人体最大最強の筋肉に囲まれ、体重の7倍の力に耐え、移動という観点からは最も重要な関節です。股関節の機能的特徴は可動性と安定性です。一見矛盾する二つの特徴は、関節運動の際に骨頭の中心が1点で動かない、ということにより絶妙なバランスを保ちながら統一されています。
股関節の病気の中でも最も重要なものは先天性股関節脱臼です。発生率が高いだけでなく、治療が複雑で難しいこと、さらに、早期治療により完全に治癒せしめないと、加齢とともに(早くて10才代、おそくとも40才頃には)変形性股関節症が発生して進行性の痛みと歩行困難が発生するからです。最近では股関節障害にたいし人工関節手術が盛んに行われていますが、本邦ではその原因の80-85%以上はこの先天性股関節脱臼にあると言われています。人工関節は優れた治療法ではありますが、術後には日常活動の制限もありますし、車と同じように買い替えも必要なことがあります。我が国の平均寿命が伸びている今日、早期診断と完治せしめる確実な治療が極めて重要な課題となりつつあります。
この疾患の発生率は主に石田先生によって開始された脱臼の予防運動により昔と比べると大幅に減少し、また少子化とも相まって患者数も減少してきました。しかしなくなることはなく、英国などでは微増の傾向にあることも報告されており今後も一定の発生率で推移していくことが予想されています。
昔は日本中の病院の整形外科に先天性股関節脱臼の患者さんが大勢訪れていましたが、最近では、一般病院の整形外科で扱うことは稀です。この疾患も他の小児整形外科疾患と同じように、子ども専門病院で扱う場合が多くなってきております。
大きな問題として、発生頻度の減少とそれに伴う健診に関わる医師のトレーニング不足や自治体の財政上の問題より健診体制がややおろそかになりつつあることです。その結果歩行開始後にみつかる年長児での股関節脱臼例が増えているのが現状のようで、治療も難航することが少なくありません。
この疾患について以下の順番で述べます。