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脳性麻痺の患者さんや脊髄の問題で足が麻痺している方、また筋肉の力が低下している筋疾患の患者さんに側弯が生じてくる場合があります。この場合側彎の出現は多くは車椅子を中心に生活している10歳前後-10代前半にみられます。座位が安定している場合はよいのですが、バランスが悪くなり座位が不安定になってくる事が少なからずあります。10代前半に40度以上のカーブとなると大人になった後も弯曲が進行するという報告もあります。強いカーブへと進行して行くようであれば、患者さんの状態を見て手術が考慮されます。これは背骨が彎曲することによる心肺機能への悪影響を予防するためと(ライフセービングのため)、座って生活している人が座れなくなる、座りにくくなる、また杖などを使用して歩ける人がより歩きにくくなるなど、活動レベルに直接影響がでるため、ハンディキャップのある人にとってより不利益なことが増えてしまう事への打開策(ライフクオリティーのため)としての意味があります。いずれにしても患者さんの生活の状態を把握し、また健康状態を十分に検討して手術を行った方が良いかどうかを決めることが大切です。当センタ-では他の病院からの紹介もあり最近こういった麻痺や筋肉疾患による側彎の患者さんに対し、外科的な治療を行う機会が増加してきました。患者さんの中には特発性側彎症の患者さんよりカーブも強く、硬く、全身状態もやや不良な方が少なからずおられ、治療側も苦労することが稀ではありませんが、手術後の御両親の感想をお聞きすると、見かけのために手術した方にくらべ機能的に目に見えて改善することが多いためか(安定してすわれる、食欲がアップした、風邪を弾かなくなったなど)、多くの方が高い満足感をもたれます。1988年から2002年までに本センターでは、症候性側彎61例の手術をおこないました。手術は特発性側彎と比較するとはるかに難しいものですが、今日では手技の向上、手術器械の改善、麻酔学の進歩などにより殆どの症例に対して安全に行えるようになりました。
神経疾患、脊髄疾患、筋肉疾患、骨疾患のそれぞれ代表的なものを解説します。
生活の中心が、坐位もしくは臥位である場合は、約半数に30度以上の脊柱側彎が合併しています。通常彎曲は骨盤の左右の傾斜を伴う為、患者さんは姿勢保持が困難となり、日常生活は著しく制限されてきます。その多くは進行性であり、彎曲の程度が著しくなると、内臓に圧迫が加わり呼吸器系や消化系不全が起こって生命そのものまで脅かされる場合があります。保存療法(装具療法)は10歳以下の年少時には有用で、側彎の進行を遅くする可能性がありますが、体格が大きくなったり、カーブが強くなると装具をつけること自体が困難になり、本人のみならず、直接ケアをする家族の人にも負担が増加します。したがって、すでに重度の変形が有る場合には保存療法に固執するよりも最初から観血的治療が望ましい場合が多いように思われます。手術では骨盤の傾きを矯正し、頭部が骨盤の中心に来るようにします。そのためには、固定を強固にし、矯正のための金属棒は骨盤にまで延長しなければなりません。四肢麻痺の患者さんにおいては、骨脆弱を認めるのが普通であり、矯正に限界があるかもしれません。15歳を過ぎると脊柱可動性が乏しく(硬くなる)なりますので、手術は15歳になるでに行うのが良いと考えられます。また先にも述べましたように、15歳以前で40度のカーブを超えた場合は、側彎は60度以上に進行し日常生活に大きく影響するとされています。このような知見に基づき、的確に患者さんの将来を予測して、必要最小限の治療により患者さんの負担を少なくしていくことが合理的であると思います。ただし治療に際し、全身状態の把握は重要であり、特に栄養状態の不良な場合は手術の適応とはなりません。側彎手術は患者さんにとっても治療者側にとっても負担の大きいものですが、術後得られるものは大きいものです。
二分脊椎における脊柱変形は、先天性椎弓欠損部から髄膜・脊髄が体外に脱出し神経麻痺が生じた場合に発生しやすくなります。麻痺が胸椎レベルでは全例に、下位腰椎レベルでは約半数に側彎が発生します。側彎の原因は、1)高位麻痺レベルによる体幹筋力低下、2)水頭症による痙性片麻痺、3)脊柱の成長により癒着した脊髄が牽引を受けて発生する麻痺、4)二分脊椎に伴う脊椎奇形、などが原因と考えられています。側彎は骨盤の傾きを伴うことが多く、体幹バランスが崩れ坐位が不安定になります。また坐位においては知覚麻痺がある両側の座骨部に均等に体重が加わらない為、同部に難治性の褥創ができやすくなります。さらに、股関節脱臼、膝関節拘縮、足部変形が合併する場合があるので患者さんの日常生活は著しく制限されるようになり、腹臥位での生活を余儀無くされることもあります。高度の弯曲に対して保存的治療は無効であり、観血的治療により、脊柱・骨盤の三次元的矯正をおこないます。まず、骨盤の傾きを矯正することが重要です。骨盤傾斜の矯正が不十分な場合は骨盤まで金属棒の固定を伸ばす必要があります。場合によっては骨盤の手術をおこなって坐骨を水平にすることが必要となります。前後方向の矯正では注意が必要です。下位腰椎の後彎を強くすると、女子の場合自己導尿が困難となり、弱めの後彎では股関節屈曲拘縮のため立位が不可能となる場合があるからです。術前には股関節を評価をし、場合によっては股関節手術を行っておかねばなりません。
進行性筋萎縮症における側彎は、患者が起立歩行困難となり坐位が生活の中心となると発症し急激に進行します。矢状面での変形は、極端な腰椎後彎と胸椎前彎です。椎体は強い回旋をともない、彎曲と同時に骨盤の左右方向への傾きが生じる為、バランスが崩れて坐位保持が困難となります。体幹の重みがすべて一方の坐骨結節にかかるために同部に痛みを生じ、坐位が妨げられて患者さんの日常生活は著しく制限されるようになります。この疾患においては体の中心にある大きな筋肉と比べ、末梢の筋肉は比較的遅くまで保たます。そのため患者さんは車椅子生活となっても手を使った作業は可能であることが多いのですが、坐位を保持するために上肢が使われてしまうので、手の機能が十分に発揮されなくなります。したがって、側弯の矯正は生活を確保する意味でも必要なことと考えます。手術は全身状態が増悪しないうちに、そして彎曲が強くなる前に行うことが望ましく、脊柱の前後方向の変形と骨盤の傾きを矯正し、強固な固定をおこなって術後早期に離床するようにしなければなりません。一般に10歳ごろより肺活量の減少が始まるといわれており、1年に約4%ずつ、最終的に正常の25%まで減少するといわれています。また側彎が進行するにつれ肺活量も減少するため、早めに治療した方が手術による合併症も少ないとされており、肺活量が通常の40%以上、または側彎が35度以下であるうちに手術をした方が良いと報告している研究もあります。コルセットはカーブの進行を遅くはするかも知れませんが、止めることはできません。コルセットを長期使用した後、10代後半で手術が必要となっても、その時点ではすでに肺活量が30%を割っていたり、心臓が不整脈などの異常をきたしていて、もはや手術が行なえなくなっていることが少なからずあります。現在の日本では筋ジスの患者さんに早期に脊柱の手術を行うことはまだ殆ど受け入れられていないのが実状ですが、これは今まで我が国のこの疾患に対する医療の中で、患者さんにそもそも脊椎の手術を受けるという選択肢が無く、多くの方が20歳前後で亡くなることは避けられないとの認識が一般的であったためかもしれません。この分野で日本よりかなり進んでいるアメリカでは、小児科医が初めに患者さんまたは家族に病名を言う時に、同時に今後の治療計画として、10歳頃になったら背骨の手術をして背骨が曲がらないようにすべきであることを説明するそうです(Dr. John Bach, New Jersey Medical School, USAによる)。理由は明解です。患者さんの寿命を伸ばすためです。もちろん呼吸のリハビリテーションもきわめて大切です。両者がうまくなされれば、30代後半以後まで元気に生活している方が少なからずおられるようです。正しく座れることで、生活の内容(ライフクオリティー)も改善しますが、それ以上に重要なのはライフセービングです。この目的での側彎手術がもっとも必要なのは実はこの病気の患者さんであると思います。
重度骨形成不全症においては、易骨折性とともに著しい骨変形、筋力低下を伴っています。このため支持ならびに移動能力が奪われ、2歳を過ぎても支持歩行不可能な場合があります。脊椎骨も脆弱で、重症例では椎体変形が見られます。椎体変形のある場合は、脊柱全長にわたる特異的な側彎を生じます。また、脊柱矢状方向においては、ほとんどの例に胸椎前彎、胸腰椎移行部の後彎、腰椎(特に腰仙椎部)の高度前彎が見られます。脊柱側彎は早期に発生し、10歳前後急激に進行することが多いようです。重症例では肋骨脆弱の為、保存療法が困難です。手術療法の場合、矢状方向の変形に伴う肋骨変形、ならびに骨脆弱性の為に、手術操作は困難を極めます。四肢長管骨にたいする髄内釘手術の後、側彎が進行すれば、高度彎曲に至らないうちに手術療法が必要でしょう。