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先天性多発性関節拘縮症
この疾患は比較的稀なのですが、治療が難しく、また長期に渡ることから、ほとんどの場合子供専門病院で治療されているのが現状です。本センターでは2001年までに24例の治療をおこなってきましたが、振り返ってみればいずれも難しく、専門技術の粋を集めた手術が必要です。手術が正しく行われればその効果は劇的なことがあり、たとえば、それまで坐位しかできなかったお子さんが、両股関節手術後に支持歩行可能となる例もありました。
左右対称的に様々な関節の拘縮(かたくなること)があり、写真に示したように四肢は独特の肢位、形態をとります。障害のある部位の筋肉は線維組織や脂肪組織に置き換わって本来の収縮機能を果たさなくなっております。このためamyoplasia(筋肉形成が無いこと)とも呼ばれています。皮膚には正常の場合に見られるような皺がありません。筋肉が弱いため、ヘルニアもよく発生します。また、顎関節が拘縮していると食事摂取が困難となることもあります。また、時々額に血管腫があることがあります(額が赤くなっている)。病状によって移動能力が決まってきます。25%の患者さんが車椅子生活を余儀無くされているといわれています。
上肢は肩関節で内側に捻れ、肘は伸び切った状態で常に下垂し、手関節は手のひらの方向にまがったままであり、特徴的形態をしています。股関節は通常屈曲・外旋しており、しばしば両側、或いは片側の脱臼があります。膝は完全に伸びているか或いは逆に極端に曲がった状態です。内反足や垂直距骨など足の変形があるのが普通です。30-50%に年齢とともに脊椎側彎が出現してきます。
治療は変形全体を評価して計画的におこなわなくてはなりません。個々の関節の治療の難しさもさることながら、成長にあわせてどのような順序で治療してゆくか、というのにも難しさがあります。小児整形外科専門医のもとで、長期的(成長が終了するまで治療が続きます)に治療を続けなくてはなりません。。地域での学校生活が基本ですが、入院生活をしながら学校生活をすることが必要なこともあります。
初期には、訓練が重要です。関節の可動域を可能な限り増大させ(おそらくは他動的可動域)、また、訓練後には装具を装着して矯正された関節の再変形を防止します。股関節、膝関節、内反足については、関節そのものの変形が発生しないうちに手術的治療が必要です。
股関節の脱臼がある場合には整復が必要です。ただし、両側例ではそのまま放置しておく、と主張する医師もいます。両側を整復してもどちらかが再脱臼してしまうことが多いからです。本センターでは両側例でも整復するようにしています。やはり、股関節の脱臼は日常生活を大きくさまたげるので、これを矯正するのはすべての出発点と考えるからです。関節を大きく展開し、すでにある変形はすべて矯正しないと必ず再脱臼してしまいます。
膝関節の伸展拘縮に対する手術は、股関節手術に先だって行います。伸展拘縮を残しておいて股関節を整復しても再脱臼は必発です。膝関節の屈曲拘縮は、筋肉・腱の延長解離、あるいは、骨切りによって矯正します。どの程度矯正するかは、本人の移動能力によって決まります。ただし、膝を外科的に伸ばしても、今度は逆に曲げる事が難しくなります。ここがこの治療の難しいところです。
足の変形は頑固です。先天性内反足と同じ手術ではたちうちできないこともありました。
上肢はいろいろ問題があります。ある程度年齢がたって(少なくとも4才以上)機能をみきわめた上で手術を行います。実際には変形(肩、肘、手関節)があってもうまく使いこなせるので手術するケースは稀です。私達も指の拘縮を矯正したくらいの経験しかありません。
側彎は約半数の患者さんに発生します。彎曲が強くなるとバランスが崩れ、坐位が不安定になります。長時間の坐位ができなくなり、また、座っている時にいつも手で体を支えなくてはならなくなるからです。50度をこえれば手術が必要となります。装具ではなかなかうまく進行を押さえることができません。3年前に重症の男子1例に脊椎手術を行いましたが、一般の側彎手術とおおきな差はありませんでした。