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軟骨無形成症

軟骨無形成症にたいする変形矯正および骨延長術

延長前
下腿骨と大腿骨延長後、上腕骨を延長しているところ
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イリザロフ装着のまま風呂に入っている

私たちはさまざまな疾患の患者さんに対し創外固定器を用いて数多くの変形矯正・骨延長術を行ってきました。ここでは特に軟骨無形成症の患者さんに対する変形矯正・骨延長について述べます。2002年までに本センターでは軟骨無形成症52人、軟骨低形成症6人の患者さんが登録されており、殆どの方が四肢の骨延長術を受けられたか、あるいはそれを希望されております。

骨延長術の目的は、1)四肢延長により四肢体幹運動機能を向上させ、日常生活をより快適に過ごせるようにする。2)身体のバランスを改善し、見かけを改善する、ことです。骨延長は楽ではありませんが、延長終了後には劇的な効果があり、患者さんの心理的影響も計り知れません。

軟骨無形成症の患者さんには下肢短縮があり、背が低いことに起因するいろいろな不便があります。たとえば、自動販売機や券売機を利用しにくい、電気のスイッチに手が届かない、公衆電話がかけにくい、等です。また、椅子に座る際には下腿が短いと足が地に着かず、どうしても不安定になりがちです。また、大腿が短いため深く腰掛けることができず(特に便座に座るときなどは深く腰掛けることが必要です)に坐位が不安定になります。下肢延長術を受けた患者さんたちは背が高くなった喜びはもちろんですが、それ以外に椅子座位の安定感など、日常生活動作が改善されることを実感しています。
アメリカのように公共福祉が整備された国々では、背が低い人も車椅子に乗った人も普通に社会生活を送ることができるよう配慮されています。軟骨無形成症の患者さんが生活の不自由を感じなくなるような社会を作ることが理想的ですが、我が国においてそれがすぐに実現することを期待して待っているというのも現実的ではありません。したがって脚延長により生活をより快適にしてゆくことも一つの選択枝であります。

下肢の変形はO脚変形が最もよく見られます。これは下肢の機能軸の内側偏位や、膝関節や足関節の傾きを引き起こします。これらの関節のアライメントの異常は変形性関節症の原因となります(もっとも軟骨無形成症の患者さんは変形性関節症になりにくいとも言われていますが・・・)。これらのアライメントの異常は骨延長を行うときに同時に矯正が可能です。特に私たちが行っているイリザロフ法では三次元的な変形矯正が容易に正確に行うことができます。

上肢の短縮は主に上腕骨の短縮によって起こっています。上肢の短縮が日常生活動作に及ぼす影響は極めて大きいものです。たとえば排泄の後始末の時、後ろからでは手が届きにくいことがあります。また、洗顔や食事などで上肢が短いことによりさまざまな不便があるとの訴えをよく耳にします。勉強や読書のときに上肢が短いと姿勢が悪くなりがちですが、上肢延長により前屈みの姿勢が改善します。人は走る時に上肢のバランスが重要ですが、延長により足が早くなったと聞いています。坐位姿勢のまま移動することを考えてみましょう。上肢が短いと上体を手で支えることが困難ですが、延長後には坐位での移動が改善します。また下肢を延長した患者さんは外観上の点からも機能上の点からも上肢の延長を希望されることが多いようです。下肢が長くなることでズボンや靴下の着脱が困難になるからです。意外と知られていないのですが、軟骨無形成症の患者さんには脊柱管狭窄があります。本センターでの研究の結果、正常と比較して脊柱管の直径が約半分になっていることがわかりました。脊柱管は脊髄神経の通り道ですので、脊椎へ過度の負担が続いて脊椎骨変形が生じると下肢麻痺をおこす可能性があります。したがって、脊椎骨への負担をできるだけ軽減するように小さいころから注意を払わなくてはなりません。たとえば、坐位をとっている時、背部が丸くならないように注意してあげることが必要です。また、背部の変形が強い場合にはコルセットの処方がいるかも知れません。上肢が短いと、日常生活動作において脊椎への負担が大きくなります。その意味で上肢を長くすることは、脊椎骨の変性を少しでも予防することに役立ちます。下肢延長術を希望されない場合でも、先に述べたようにリハビリがスムースにするだけでなく、脊椎を守る意味でも上腕延長は是非受けられることをお勧めします。脊柱管に慢性的負担がかかり過ぎると変性し神経を障害することがあります。上肢を長くして脊柱への負担を少なくしてあげることも必要です。また、上肢を延長すると機能的にはもちろんのこと、体全体のバランスが良くなるために、身長は低くても見かけが良くなります。上肢を延長した患者さんはいぜんおります。上肢の延長はいろいろな意味で重要と考えられます。

骨延長の時期:理論的には4歳頃から成人にいたるまで、どの年齢でも可能です。しかし、あまりに年齢が低いと延長中の合併症に対応するのが難しかったり、延長中のリハビリテーションがスムースにゆかなかったりする場合があります。一方、年齢が高くなると骨形成に時間がかかったりして、わずかな延長距離でも治療長期間が長くなってしまいます。軟骨無形成症の患者さんが四肢の骨延長をおこなう場合は、最初に両方の下腿骨の延長(10cm、治療期間約10ヵ月)を8歳頃におこなうのが良いでしょう。この時期であれば、延長に対する本人の自覚も出てきます。またリハビリも積極的に取り組めますし、延長中の様々な合併症に対しても対処することができるようになります。下腿骨延長手術は整形外科医が二組に別れ両側同時に行っております。手術時間は、約2時間です。下腿骨延長が終了したら、上腕骨延長(10cm、治療期間7~8ヵ月)もしくは、大腿骨の延長(8~10cm、治療期間約8ヵ月)をおこないます。最近では上腕骨延長を先にすることが多くなっています。その方がリハビリがスムースに行える事がわかったからです。こうして下腿、上腕、大腿延長が終り、さらに希望があれば、数年後に再び下腿骨延長をおこなうことも可能です。

延長中にはできるだけ快適な生活が送れるように様々な工夫をしております。一番大きなことは器械をつけたまま風呂に入っていただくことです。入浴しても安全であることを確かめるまで本センターで様々な実験や取り組みがなされました。いまではその安全性が確かめられ、全員入浴していただき、退院してからも続けるように指導しています。

さて、勉強は大切です。延長手術は、将来の社会生活が少しでも円滑に行くことを願っておこなう手術です。治療のために学業が途切れるようなことはあってはなりませんので、入院中はセンターで橋でつながっている守山養護学校に通学していただきます。幸いたくさんのお友達が入院していますので、お互いに成長しあう環境には恵まれていると思います。

長期入院は可能な限り避ける必要があります。本センターの研究によって、特に小学校高学年ならびに中学生の場合は、長期間の入院によって友達等との間にあった心の絆が失われてしまう場合があることが明らかになりました。本センターでは、この時期の治療においては、入院期間をできるだけ短くするように指導しています。また延長が終了すれば夏休み、冬休みは一時退院をしていただいております。

軟骨無形成症は骨の成長が障害されますが、周囲の軟部組織(筋肉、神経、血管、皮膚など)は正常に発育します。したがって骨を延長しても周囲に無理がかかりにくく、長く延長しても延長に伴う合併症は比較的少なく、延長に向いているとも言えます。しかし、軟骨無形成症における四肢の延長に対し反対の意見も存在します。実際、骨延長術はさまざまな合併症を伴う可能性があり、辛い事もあります。訓練の持続など、治療中は患者さんの日々の努力も必要です。従ってどこの施設でも行っている治療ではありません。

私たちは以上述べたような考え方に基づいて、延長の希望が強い患者さんに対し延長術を行っております。延長の希望はご家族のみならず本人の希望と強い意志も重要です。詳しくは整形外科外来を受診下さい。

お問い合わせ
病院事業庁 小児保健医療センター
電話番号:077-582-6200
FAX番号:077-582-6304
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