貯水池の水面の高さ方向の位置のことで、ダムの貯水位は一般的に標高(EL.エレベーション・海抜標高)で表現します。
たとえば地図で山間部を見ると、たくさんの等高線が書かれており、そこには所々に標高を示す数値が書かれていますが、これらの数値を使っていると考えてください。水面の位置がどの等高線あたりにあるかというイメージです。
余呉湖では貯水位はEL.132m付近ですが、水深が132mあるわけでなく水面が標高132mの高さにあり、余呉湖の一番深い場所の湖底の標高は119m位ですので、最大水深としては13mとなります。また琵琶湖の貯水位としてはおよそEL.84m付近です。
ダムが完成し、貯水してダムに異常がないかをチェックするための試験です。ダムの湛水の前にはその安全性については十分に確認する必要があり、周到な計画をたてる必要があります。
湛水開始とは、実務上、工事中に川の水を迂回させている仮排水路の閉鎖をもって湛水開始としています。一般に洪水時最高水位(サーチャージ水位)まで貯めてから最低水位まで減らし、その間にダム本体、放流設備、貯水池周辺等の安全性を実地に検証します。
平成13年に行った姉川ダム(写真)では11月20日から2月13日の約3ヶ月ほどかかりました。
試験湛水が終わって安全性が確認された後、通常の運用管理に移行します。
ダムの管理を行う場合、ダム建設の所期の目的を達成するために、その操作方法を定めたものでダムごとに作成します。
また洪水調節を目的に含むダムでは操作規則、水道水や農業用水など利水専用ダムでは操作規程といいます。(管理規程という言い方もあります)
緊急放流(異常洪水時防災操作)とは洪水調節の最中にそのダムの計画規模を大きく超える異常な洪水となったとき、今後ダムが満水になり洪水調節が不能となり「ダム流入量=ダム放流量」となることを遅らせるための非常時の操作を示します。(ダム関係者間では通称、「ただし書き操作」といい、機械式水門のあるダムで、操作規則などで定めた洪水貯留や放流のパターンの適用除外の操作を意味しました。)
緊急放流操作により放流量を徐々に増加させダムの満水到達時刻を遅らせることにより、結果として下流の水位上昇を遅らせるとともに避難時間を確保できることがあります。
緊急放流操作ではダムの貯水位を下げる操作ではなく、ダムの貯水位を最高水位で維持するために行う経過操作であって、たまった水を放流するわけでなく、上昇する貯水位に応じて徐々に放流量を増加させていき、ダムに入ってくる水量とダムからの放流量を等しくしていくために行う経過操作全体をさします。この操作の開始は「緊急放流(異常洪水時防災操作)判断水位」である治水容量の80%位から必要に応じて行うことが多く、残りの20%の治水容量を大切に使い、満水を遅らせるために行う有効な操作方法です。ダムに貯まった水を放流し貯水位を下げるのは下流が安全になってからとなります。
所管ダムでは、このような計画を超える洪水時操作の事例は今までありません。
この用語は「ただし書き操作」→「無調節操作(ゼロカット操作)」→「異常洪水時防災操作」→「緊急放流」と変遷してきましたので、各種ダム関係資料には以前の用語が使われている場合があります。
なお計画規模を超える洪水でダムが満水になった場合はダムへの流入量がそのままダムからの放流量となり、その間はダムがなかった状態と同じとなりますが、ダムのない状態より洪水がさらに増大することはありません。たとえば蛇口からお風呂に水を入れ続けて、あふれている状態と同様です。
ある治水ダムで洪水調節を開始するダム流入流量がそのダム固有の洪水量です。
一般的な水門ゲートを備えたダムでは、洪水量以下の水量はそのまま下流へ通過させ、洪水量を超える水量がダムの貯水池に入ってきた時から、各ダム毎に定められた操作に従って洪水の調節を開始します。
なおダムがそのダムの洪水量に達したとしても下流河川が必ず洪水状態であるとは限りません。
洪水時に人為的な水門ゲート操作のない自然調節方式のダムの場合は、構造上、洪水量未満であっても少しずつ洪水の調節を開始し始めています。
洪水調節方法としては、もっともオーソドックスな一定量方式についての絵付き解説、日野川ダムの例。
ダムからの放流によってダム下流河川内での人身事故などが発生することを防止するため、ダム管理者がサイレンや放送あるいは警報車などで河川敷の中にいる人々に河川の外に出るように促すための警報です。
この放流警報は法令により増水の主要な原因がそのダムの放流変化による場合だけのため、ダムよりかなり下流地点の場合や、比較的近い地点でも支流の増水による場合などダムを原因としない増水時には警報がありませんので注意が必要です。
放送例は念のためPCのボリュームを絞っていただき下をクリックして下さい。↓
前の右の写真は、無線遠隔制御式の放流警報局です。警報局にはサイレンとスピーカが取り付けられたサイレンスピーカ局とスピーカのみ取り付けたスピーカ局があります。
前の左の写真は川沿いに設置している警報看板(立札)例です。滋賀県内の治水関連ダムの放流警報立札の情報はこちら。
ダム関係で使われる「擬似音」(「疑似音」ではありません)とは、放流警報を行うときにサイレンの代わりに使われるもので、警報放送用スピーカから流す擬似的な電子サイレン音です。正弦波周波数523.5Hzと526.5Hzの混合音でうなりを伴った電子音です。
どんな音かは念のためPCのボリュームを絞っていただき下をクリックして下さい。↓
サイレンは広範囲に音が届く利点はありますが、動力電源(200V,0.75~7.5kw程度)が必要なことから停電対策が高コストなこと、3分から7分ほど鳴り続くため騒音としての苦情もあるなどの欠点があります。
擬似音は警報局に用いているバッテリーが利用でき停電時に有効であり、密に配置された警報放送スピーカからの電子音は比較的騒音が軽減されることから、深夜時間帯など状況に応じサイレンの代わりとして放流警報時にはしばしば用いられています。(現在の警報局装置ではサイレンが停電または異常がある場合、自動的に擬似音に切り替わります。)
なお、サイレンと擬似音は装置としての機材は違うものの、放流警報の目的からは同義ですので、擬似音を使う場合でも一般に理解しにくい「擬似音をならしますので・・」といわず「サイレンをならしますので・・」などといわれることが通常です。
河川のある地点において舟運、漁業、観光、流水の清潔の保持、塩害防止、河口閉塞防止、河川管理施設の保護(木製施設の保護)、地下水位の維持、景観、動植物の生息生育地状況、人と河川の豊かな触れあい確保などを総合的に考慮して決められた維持流量と、その地点より下流の水利流量(水道、農業用水、発電など)の双方を満足する流量をいい、年間では期間によって変わることもあります。
河川のある地点において舟運、漁業、観光、流水の清潔の保持、塩害防止、河口閉塞防止、河川管理施設の保護(木製施設の保護)、地下水位の維持、景観、動植物の生息生育地状況、人と河川の豊かな触れあい確保などを総合的に勘案して決められる流量をいい、年間では期間によって変わることもあります。
河川維持用水という言い方もあります。
ダム堤体内部に設置される階段通路で、管理においては放流設備の操作、堤体や放流設備などの点検、各種の計器による測定、継目等からの漏水の堤体外部への排水、また建設中においてはカーテングラウチング作業、ゲート据付作業、基礎排水孔の設置、電気計器設置、各種電力通信ケーブル配線経路の確保などを目的に設置されます。
多くは幅 2mで高さは 2.5m程度の断面となります。ギャラリーともいいます。
遠方の観測計測データを計測伝送する設備で有線式と無線式があります。(telemeter:遠隔計測器)
治水関係ダムでは河川部局と同様に、一般的に雨量観測や河川水位観測に電波法の免許を受けた固定無線局として超短波(VHF)や極超短波(UHF)無線式を採用しており、国の道路河川無線式テレメーターの標準仕様品である国電通仕第21号や同54号規格のテレメーターシステムを使用しています。前図は、県の河川、ダム、砂防関連の雨量水位観測テレメーター局の配置です。
それらのデータは下記アドレスよりご覧下さい。
http://shiga-bousai.jp/(外部サイトへリンク)
従来型携帯版は下記アドレスです。
http://shiga-bousai.jp/mobile/
多くのデータをマイクロ波無線で一括伝送する設備。
鉄塔やビルの上におわん型(パラボラ)アンテナを乗せているのが各地にみられます。
ダムでは、豪雨にも強いことから無線電話のほか、ダムのデータやカメラ画像を離れた防災関連機関に送るために使用しますが、すべてのダムで設置されているわけではありません。
ダム関係者が使う通称で、現在の定義ではダム管理用制御処理設備のことで、以前ではダム管理用コンピュータ設備もしくはダムコントロール設備といわれていたことがありました。
ダムの水門の監視制御やダム管理情報の監視・算定、各種情報の伝送などを行うダム管理の中枢設備です。
ここでいうCCTVとは監視用テレビカメラ設備のことです。(外国のテレビ局のことではありません。)
closed circuit television(閉回路テレビ)の略で、広範囲の人々に画像を送る放送用TVと対比した言葉です。
ITV(工業用テレビジョン)という言い方もありますが、国土交通省関係機関ではCCTVとしています。
河川の護岸や橋またはダムに取り付けられた水位を目視で測るための目盛り板です。
今はこれらの水位は自動測定器で計測伝送しますが、今後とも見た目でわかる量水板は電子式水位計の表示値調整作業にも必要であり、水防関係者にも有用であることから各地で用いられています。
量水標ともいいます。
ダム湖などで浮かべるように貯水池を横断して張られたゴミや流木を捕捉するための網。
ふつう約 2mごとに浮力をもった樹脂製フロートが配置され、これに渡された高強度のメインロープの下に 2m丈程度の網がぶら下がっています。
その下にはおもりとして太い鎖などが取り付けられています。
ダムを運用管理するために必要な設備の総称で、ダム本体や水門設備以外のものを指します。たとえば観測計測設備や監視設備、放流警報設備、通信設備、操作制御設備、管理所建物、貯水池付属施設などがあります。
水門機械装置のすぐ近くで水門の開閉操作を(スイッチなどで)行うことで現場操作ともいいます。
ダムの管理所建物の操作室(コントロール室)から水門操作する場合は遠方操作といい、さらにダムから離れた防災機関などから操作する場合は遠隔操作といいます。なお、洪水時操作などの重要な操作を遠隔操作することは誤作動の危険があることから一般的に利用されていません。
写真は機側操作盤のひとつです。
静止軌道上の通信衛星を中継局として利用し通信するための、コンパクトなアンテナを用いた(Very Small Aperture)衛星対向用地球局通信装置(Terminal)のことです。
衛星利用通信では宇宙局(衛星)と地球の局の間の通信なので地球局といわれています。
周波数が極めて高くアンテナ口径も小さいため、強い豪雨では電波が散乱して短時間不通になることもありますが、一般の地上系無線通信にくらべ通信回線が比較的容易に作れ、地震災害時など大規模災害時では機動的に通信回線を構成することも可能です。
ダム堤体の変位を計測するための装置で、通常型ではダム上部からダム底部付近の監査廊横まで設けた垂直の縦穴におもりをつけたステンレス線(plumb line:測鉛線、下げ振り線)をぶら下げて、その下端の移動量を電気的に計測します。
これによりダム本体の温度変化や水圧荷重に対するダムのごく小さい変位量を測定し安全管理のためのデータを得ます。
現在では、アーチ式コンクリートダムや高さ 50m以上の重力式コンクリートダムには設置されます。
地震加速度計の分類の一つ。地震計にはその計測範囲別に、微少地震測定用の地震計や強震動測定のための強震計があります。ダムなどの構造物では、一般に 2000ガル超える強震動まで計測できる強震計が用いられます。
国土交通省では昭和56年にダムエネルギー適正利用化事業制度を設け、ダムの目的に発電を含まないダムでも水力エネルギーを有効活用するとともにダム管理用電力としても自前で供給できるようダム管理事業者みずから水力発電を行うことが可能となりました。
この制度ではダム管理に消費した以外の余った電力は売電することも可能です。
所管の青土ダムでは発電出力最大250KWの小規模なダム管理用発電を設置し昭和63年8月から運転開始しています。水車型式はクロスフロー型です。
国土交通省や水資源機構の管理中ダムで2007年7月より発行が開始された、そのダム固有の情報を紹介したミニパンフレット的なカード。
大きさは63×88ミリの両面PP貼りの紙製でオモテ面はダムの写真とダム型式記号・ダム目的記号などで、ウラ面は所在地・河川名・ダム型式・ゲート種類・堤高・堤頂長・総貯水容量・管理者名・本体着工年完成年・その他ランダム情報とこだわり技術情報が記載されています。
入手するためには基本的にそのダムに行く必要があり、少しずつ発行ダム数は増加しています。二種類以上のカードを配布しているダムもあります。
外部リンク:
国土交通省水管理・国土保全局「ダムカード」のページhttp://www.mlit.go.jp/river/kankyo/campaign/shunnkan/damcard.html
発電を目的に持っているダムのうち、近年では一般的に設置される表面取水や選択取水放流設備などを持っていない特定のダムでは、ダム貯水池の底層の水温の低い位置から放流されることがあり魚類や農業などに影響が出ることがあります。
対策としては適切な水温層から取水放流することのできる選択取水または表面取水設備の採用などが考えられます。
多くのダムでは下流の農業用水やあゆなど温水を好む魚のためにダム貯水池のにごりの少ない表層水を放流することが行われています。しかしダム下流河川で冷水性渓流魚が多い場合には水温の高い時期には問題となることがあります。
対策としては適切な水温層から取水放流することのできる場合は選択取水の採用などが考えられます。
洪水のときにダム貯水池に流入してくる河川水は洪水時の下流河川と同様に一般的にはうす茶色に濁っていますが、濁水の原因となる粒子が大きければ、洪水終了後、比較的早い時間で粒子が沈降し、ダム表層水からだんだん澄んでいきます。
しかし、まれにダム上流域から非常に小さい粒子が洪水とともに供給される地域では、短い期間では貯水池が澄んでいかず、そのダムから放流される水も濁りがなかなかおさまらないときに問題となることがあります。
対策として、貯水池内フェンス、清水または洪水バイパス施設や選択取水放流などが考えられます。
ダム上流域の特殊な状況のため、ダムへの流入水の窒素やリン成分が高い場合、貯水内の流動対流状況や水温と日射条件により、植物プランクトンが異常繁殖する場合があります。
対策として、ダム集水区域内の下水道整備や畜産排水処理施設などやダムでの曝気・循環設備や、特定の支流の場合はダム流入水浄化施設などが考えられます。
所管ダムでは余呉湖ダムでの深層曝気設備や姉川ダムで散気管による循環設備があります。
温帯域にある日本の多くの自然湖やダムやため池などでは春から秋(成層期)に表面水と湖底付近には水温差が発生します。表面は暖かく底は冷たくなり、この水温差が起こると水の比重の差から水深方向に混ざりにくくなります。
このとき、湖底付近で酸素の消費が大きいと、大気と接する湖面付近からの酸素供給が少なくなるため、やがて湖底付近の酸素量が減っていきます。冬に近づくと湖面が冷やされていき、湖底の水温とほぼ同じになると、水深方向に上と下の水が混ざります。(循環期)
図のグラフ例では左目盛りの深さ11mあたりは大きく水温が変化していますが、こういう水深箇所は水温躍層(すいおんやくそう)といいます。
曝気とは、空気(酸素)を水中に送り込んで水に溶け込んでいる酸素濃度を上昇させてやることですが、ダムなどでは湖底付近の水に溶けた酸素濃度を上昇させる必要があるときに行います。
目的としては、無酸素のとき湖底からリンなどが水中に溶け出すことを抑制したり、鉄やマンガンの溶け出しを抑制するためなどです。
所管の余呉湖ダムや姉川ダムでは、富栄養化対策として深層曝気設備を運転しています。
湖沼やダム、ため池などで、春から秋の成層期に湖水の水深方向の循環が途絶えた場合、窒素リンなどが豊富に存在する状況では日射や水温の影響で湖面付近で植物プランクトンが光合成活動して急激に増加し、いわゆるアオコ現象となったりすることがあります。
このプランクトン増加を抑制する手段として主として光合成時間を減少させる観点で、プランクトンを水深方向深くまで循環対流させる設備です。
写真は姉川ダムで循環設備として設置した散気管の工事中写真です。現在はダム湖の水の中となっています。
毎年5月から11月頃まで先端から空気を出し、その気泡によりダム湖の水が循環しています。この方式を浅層曝気ともいいます。
湖沼やダム貯水池で植物プランクトンなど藻類の増加・成長を助ける物質を総称して栄養塩といいます。
藻類なとが必要とする元素は、基本的に陸上の植物とほぼ同様ですが、湖沼やダム貯水池などの水質に関しては多数の元素のうち、もっとも支配的(制限因子)なものとして窒素やリンのことを指すことが一般的です。