放流(放水)のための設備で、洪水時の流水を放流する洪水吐きと、非洪水時に使用するその他の放流設備に大別されます。
洪水吐きには、洪水調節用放流設備とダム設計洪水流量の放流のための非常用洪水吐きがあります。
また、その他の放流設備には、ダムにより、利水や流水の正常な機能維持のための利水放流設備(低水放流設備)、水位維持を行う計画水位維持用放流設備、ダムの安全管理のため貯水池水位を低下させる貯水位低下用放流設備などの補助放流設備があります。
一般には、液体を流すための仕切りに設けられた穴(orifice)で、開口部断面に対して通過距離の比較的短いものをいいます。
ダムでは、水門ゲートを人為的に開閉しない自然調節式の洪水吐きに多く用いられており、縦横の寸法が数m程度の四角形の開口部です。
このオリフィスに機械式水門(ゲート)が設けられている場合、その名称分類はオリフィスゲートといいますが、このゲート下端部分の設計最大水深が25mを超えるものの場合は高圧分類となりコンジットゲートといいます。
一般的には山頂、頂上の意味ですが(crest)、ダムでは水を流すための越流頂をクレストといい、多くの非常用洪水吐きは越流頂で構成されており、さらに越流頂に機械式水門(ゲート)が取り付けられているとき、その水門をクレストゲートといいます。
写真(試験湛水時のもの)は水門のないクレストで、その高さを水面が超えれば自然に水が流れ出すことから自由越流頂ともいいます。
ダムから落下する流水のエネルギーを弱めるための施設で、堤体周辺地山の安全確保とダム直下の河道などの保護のために設けられます。
ダム直下に設けられた、水の勢いを減らす為の池。水叩き、導流壁、水位確保のための副ダム等で構成され、跳水式減勢工や自由落下式減勢工で用いられます。
一般にはダムへ洪水が入ってくるとき、ダムの保安のために設けられた洪水時に使用する放流設備の総称ですが、洪水調節を目的に含むダムでは、洪水調節時に下流河川が流下可能な水量を調節放流するために用いる設備をいいます。
昭和40年代迄の利水ダムでは「余水吐き」(よすいばき)ともいわれていました。
洪水吐きのうち、主として洪水調節に用いるものをいいます。ダム設計洪水流量の放流を目的として設けられる非常用洪水吐きに対する用語で、一般にはオリフィスや高圧放流管の管路式放流設備が用いられます。
洪水調節を目的に含むダムでは、洪水調節時に下流河川が流下可能な水量を調節放流するために用いる設備をいいます。
洪水吐きのうち、ダム設計洪水流量の放流を目的として設けられる放流設備。洪水調節を行うために設置される常用洪水吐きに対する用語で、常用洪水吐きの放流可能量とダム設計洪水流量の差を放流するために設けられ、一般にコンクリートダムでは堤体上部などに洪水をあふれさせる越流式として作られます。
フィルダムでは、堤体とは別にコンクリート製の越流部を設けます。
写真はロックフィルダムの青土ダムで、左写真は試験湛水時の満水写真です。矢印が非常用洪水吐きです。右写真は平常時で、これらの写真の水位の差は約8メートルでその水量は410万立方メートルに相当し、すなわち洪水調節のための治水容量となっています。
流入部を通過した流れをダム下流の減勢工へと導く部分。堤体を利用した堤体流下式や、別途水路を設けたシュート式、転流トンネルを利用したトンネル式等があります。重力式コンクリートダムでは経済的な堤体流下式が用いられていますが、フィルダムでは、別途水路を設ける必要がありシュート式やトンネル式が用いられます。
跳水の下流水位確保を行うための堰上げ用構造物。跳水式や自由落下式減勢工において、水叩き上に安定した跳水を生じさせるためには、適当な下流水位が必要であるが、自然の状態では水位が低い場合が多く、副ダムにより水位確保を行う場合が多くみられます。
魚道が確保されるダムでは、魚の遡上のため副ダムにスリット(隙間)などを設けることもあります。
減勢工に設けられるコンクリート製の床。跳水区間では高速潜流が存在するとともに、跳水渦の形成により流速や圧力の激しい変動が生じるため、コンクリートにより河床の保護がなされます。
ダムのゲート(gate)とは、流水を調節するための水門のことで、太いワイヤで吊って開閉するタイプや油圧シリンダーにて開閉する方式があります。小型ゲートではモーターによる直接ギア駆動のものもあります。パイプの途中またはパイプ先端に取り付けた小型のものはバルブと呼びます。
写真は青土ダムのゲートです。
洪水吐きに機械式の可動水門(gate:ゲート)のない(less)ダムをいいます。
この場合、洪水調節方法は自然調節方式となります。(用語「自然調節方式」参照)
なお、洪水吐きにゲートがあっても洪水調節時には全く操作しない場合、このダムは「ゲートレス」に分類されます。
ダムなどで小容量の放流に用いる水門の一種。(Jet Flow Gate)
圧力変動によるキャビテーションの影響から水門内部の戸溝を守るため絞りこみのリングを内蔵しており、近年では標準的に採用されるゲートで口径は数10cmから2m程度が多いようです。
以前、ダムで小容量の放流に用いられた水門の一種。筒先をふさぐように円錐上のニードル弁体をスライドさせ、中空(hollow)のジェット流(jet)にして放水できるようにしたバルブ(valve)。
最も一般的な水門。平たい水門本体に取り付けたローラー(roller:ころ、車輪)でなめらかに上げ下げできるようにしたゲートでダムでは常用洪水吐きや非常用洪水吐きなど大流量の制御に用います。
水圧の大きい大流量の制御のための水門。
ゲート表面が円弧状(radial)になっています。
戸溝を必要としないため保守が比較的容易です。テンダーゲートとほぼ同じものです。
機械式水門(ゲート)の水漏れを抑制するために水門に取り付けられたゴムをいいます。
そのゴムの断面の形によって P型ゴム、 L型ゴム、平ゴム、ケーソン型ゴムなどがあります。
一般的には利水のために必要な水量をダム湖から取水するためや、洪水時でない平常時にダムから小流量をダム下流に放流するために、必要な水深位置のダム貯水を取水放流するための施設をいいます。
機能的分類用語で貯水池の表層からの取水を行う取水設備。
ダム下流の農用水には比較的温水が必要なことからダム湖の表面水を放流する操作が行われます。
所管ダムでは余呉湖ダム、石田川ダム、宇曽川ダム、青土ダムなどが表面取水を行っています。
機能的分類用語で貯水池の表層、中層、底層の任意の層からの取水が可能な取水設備。
貯水池における冷濁水や富栄養化の水質問題に対応するため、低水放流設備の上流端に設置され、例えば、冷水問題に対しては、水面付近の温水を取水し、濁水問題に対しては、清水の層から放流を行うなど、貯水池の密度成層を利用した取水操作が行われます。
所管ダムでは姉川ダムが選択取水を行っています。
表面取水や選択取水設備の設備形式の構造的分類の一つ。
複数の標高に水門(ゲート)付きの取水口を設けたもので、水密がよく維持管理が容易な利点がありますが、取水位置が限定され、取水口の大きさも自ずと限定されるため、取水量が比較的小さい場合に用いられています。
所管ダムでは石田川ダムが使用しています。
表面取水や選択取水設備の設備形式の構造的分類の一つ。複数のゲートを連ね、全体として呑み口が上下に移動(スライド)するようにしたもので、そのゲート形状から、直線、半円形、円形(シリンダー)型に分類されます。
取水量が小さい場合を除き、最も一般的に用いられている設備形式です。
所管ダムの青土ダムで円形型を使用しています。(写真は青土ダムでの 3段式シリンダーゲート組立中写真)
取水設備にゴミや流木なとが吸い込まれるのを防止するために取り付けられた縦格子またはオリのようなもので、金属製や FRP製のものがあります。(screen:ふるい、網戸)
多くのスクリーンは間隔 10センチ程度で作られています。なお 2m角程度以下の小型の洪水放流用洪水吐きにも流木対策として取り付けられることもあります。