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じんけん通信

 人権施策推進課では、人権に関する特集記事「じんけん通信」を毎月、ホームページ上で発信しています。

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令和5年(2023年)8月(第184号)

人権が尊重される豊かな社会とは「だれもが幸せに暮らすことができる社会」「だれもが生まれてきてよかったと思える社会」と言いかえることができます。このような社会をつくるためには、私たち一人ひとりが人権についての意識を高め、日々の生活の中で実践を積み重ねていくことが大切です。なかでも障害のある人の人権を守るためには、その人を理解し、一人ひとりが自分の考えや行動を振り返り、何ができるのかを考え、実践していくことが大切になります。

今回は、「障害と共に生きる方々が生涯にわたって音楽に親しむ機会を」という熱い想いをもち、障害のある人を対象とした音楽教育、音楽療法に取り組んでおられる滋賀大学教育学部音楽教育支援センター(愛称:おとさぽ)のセンター長 林睦(むつみ)教育学部教授と、センター専任教員 山本知香特任講師にお話を伺いました。

特集 障害と共に生きる方々へ音楽と親しむ機会を届けたい ~音楽を生きる力に~

■滋賀大学教育学部附属音楽教育支援センター(愛称:おとさぽ)とは

「おとさぽ」建物前の看板

令和2年(2020年)10月に創設された、障害のある人の音楽教育に特化した学部附属研究施設で、教育学部の音楽教育や障害児教育の教員など12名がそれぞれの専門性を生かして事業に携わり、地域の音楽家や音楽の指導者とも連携しています。

「おとさぽ」の相関図
「おとさぽ」相関図

■「おとさぽ」の活動について<インタビュー>

Q:活動を始められたきっかけを教えてください。

林)活動を始めたきっかけは、生前に音楽を愛好されていた藤村泰子さんから、「障害と共に生きる方々の音楽教育のために」とご寄附をいただいたことです。滋賀大学では、このご寄附をもとに「滋賀大学藤村泰子記念基金」を設立し、教育学部に附属音楽教育支援センターを開設しました。センターの名前が長く覚えにくいので愛称を考え、読みやすいひらがなで、覚えやすい4文字がいいと思い、「音をサポートする」を短くして「おとさぽ」に決めました。

誰もが使いやすいようセッションルームのドアを引き戸に

 「おとさぽ」は2020年10月に創設と言っていますが、これは寄附をいただいた時期で、この時は本当に何もない状態でした。2021年3月までは、音楽棟の改装や規程の作成などをしていました。音楽棟に2部屋あった講義室の壁を壊してセッションルームとし、車いすの人が使えるように引き戸にしたり、段差をなくしたりとバリアフリーにしました。セッションルームの隣のトイレも車いすで使えるように改装しました。また、環境ホルモンが少ない素材を使うなど配慮しました。

 廊下も改装したため、ここに何かあったら良いなと思い、ギャラリーを作りました。甲賀市のやまなみ工房さんとアールブリュット展をするなどしています。音楽は消えてしまうものなのと、「おとさぽ」には特に興味がない人でも、展覧会を見に来たことからおとさぽの存在を知っていただけて、より多くの方に利用していただけるので、良かったと思っています。展覧会期間でない時期は、「おとさぽ」の活動の写真(許可を頂いたもの)を展示し、「おとさぽ」の活動がどのようなものか分かるようにしています。

アールブリュット展
「おとさぽ」の廊下でアールブリュット展を開催

Q:「おとさぽ」の現在の活動について教えてください。

「おとさぽ」は、4つの事業を柱に活動しています。

「おとさぽ」4つの事業
事業名 事業内容
アウトリーチ事業 滋賀県内の特別支援学校や障害者の就労支援施設、放課後等デイサービスなどに出向き、センター所属教員や音楽家を派遣して音楽教育プログラムを提供
インリーチ事業 センター内のセッションルーム等で、障害のある人を対象とした音楽療法のセッションや音楽のワークショップ、アートプロジェクトを実施
指導者研修会 障害のある人を対象とした音楽療法や音楽教育の指導者向け研修会、ワークショップを実施
パイロットプログラム 障害のある人の音楽教育についての先端研究、パイロットプログラムを実施し、その成果を国内外に発信

 1つ目のアウトリーチ事業は、「おとさぽ」から学校の支援学級や特別支援学校などに出向いてコンサートなどをしています。

 2つ目のインリーチ事業は、対象者に「おとさぽ」まで来てもらい、音楽活動やそのサポートをするものです。主に音楽療法や特別支援のピアノレッスンをしています。音楽療法は、経験が豊富な資格を持った音楽療法士が対応しています。ピアノのレッスンも、特別な支援が必要な方の専門的なピアノのレッスンなので専門的な知識を持ち、生徒に合った対応ができる先生によるレッスンです。

「おとさぽ」でのインリーチ事業の様子
僕も行ってみたいのだー
「おとさぽ」インリーチ事業のチラシ
研修会にも色々な楽器を持って出かけます

 3つ目は指導者研修会で、「おとさぽ」だけではなく他の場所でもこういった音楽活動が広がればと思い、音楽療法の研修会や障害がある人を対象とした音楽教育をしている先生方の研修会をしています。対面でもオンラインでも開催し、全国の方に参加していただいたり、遠方の先生に講師をお願いしたりと広がりがある形になっています。

 最後4つ目のパイロットプログラムは、大学として、先端研究やプロジェクトをと考えています。たとえば、県立盲学校と連携して研究し、「さわるオーケストラ」というプログラムを行いました。盲学校の音楽の先生とコラボして、一人ひとりの希望や学びの状況に寄り添ったプログラムを作りました。先生によると、盲学校の生徒さんは「触る」ことからたくさんのことを学び、感じ取っているとのことでしたので、「触る」ことを中心に据えたプログラムを制作しましたが、大変好評でした。

 実際に楽器を弾いてもらうと「すごい!めっちゃふるえてる!」「音楽の中に入っているようで、音楽と体はつながっていると思いました」など、素晴らしい感想が聞かれて、うれしかったです。この「さわるオーケストラ」の様子はテレビニュースでも取り上げられました。

「さわるオーケストラ」のチラシ

Q:活動を開始されてから2年で様々な活動をされているのですね。活動をされているなかで大変なことはありましたか。

林)立ち上げが大変でしたね。全く前例がないので、本当に手探りでした。

山本)今は逆にだんだん知られるようになって、「○○してほしい」という要望すべてに応えられるわけではないので、一度アウトリーチに学校へ行くと「また来てほしい」と言ってもらえますが、同じ学校に何回も行くわけにもいかないので、どうしたらよいかと悩んでいます。続けて「来てほしい」と思ってもらえると嬉しいし「ぜひ行きたい」と思うのですが…。こういったご要望にどのように対応するかが今後の課題かなと思います。

林)「おとさぽ」の活動は滋賀県だけとは限定しておらず、特に先端研究やパイロットプログラムなどは全国レベルまたは世界を目指してみたいところです。「おとさぽ」は滋賀大学のセンターなので、「滋賀県に根差したセンター」であることをとても大事にしています。皆さんのご要望に沿って一つひとつ丁寧に、喜んでもらえるように細かい心配りをして、というのは創設当時から私たちの変わらないスタンスです。そのために、入念な打合せを行っています。たとえば「さわるオーケストラ」は構想からだいたい1年くらいかかりました。一番嬉しいのは子どものいい顔で、それが私たちの励みです。みんなが音楽を真ん中に笑顔になる、それが私たちの幸せな瞬間です。

Q:活動をされてる中で、お子さんの「いい顔」を見て「よかったなあ」と思われるんですね。

保育園へのアウトリーチ活動の様子

林)そうですね。どこに行っても喜んでいただけて、音楽ってすごいなと思います。長年音楽をしてきましたが、障害がある方のとても豊かな、ダイレクトな反応から、人間と音楽の原点が見えてきます。人間にとって音楽は必要なもので、音楽を真ん中にすると言葉を持たない人にも色々なことが通じたり、交流ができたり、不思議なこともいろいろ起きます。

山本)私はたとえば音楽療法をしたりして子どものいい顔を見るとか、アウトリーチに行っていい顔を見ることも良かったと思いますが、さらに「普段あんな顔見られない」「普段見られない姿が見られました」とか、先生が喜んでくださっているのが、二重に嬉しいですね。

林)アウトリーチに行った支援学校ですごく素敵な場面がありました。会場は体育館で、扉は開いているのにずっと入ってこない生徒さんが一人いて、先生がその子の様子を見ていました。先生も興味があるんだなあと見守るスタンスでした。しばらくしたら生徒が入ってきて、最後は演奏者さんのマイクのところに行って踊りだしました。それにつられてあと2~3人の生徒さんが出てきて一緒に踊りました。これはとてもいい光景でしたね。最初から最後まで踊ったり、指揮をする人もいて、またその踊りや指揮が的を得ていて、音楽的に見て素敵な表現だったりします。あとは、音楽療法の教室に来てくれる子どもたちが長い間見てて変わってくることもありますよね。

山本)音楽療法は子どもに限っていませんが、今は学齢期のお子さんが多いです。「おとさぽ」で育つ面もありますが、外で育ってきた姿をここで見せてくれることもあります。学校だと子どもたちが音楽に合わせることが多いと思いますが、「おとさぽ」では子どもに合わせて音楽を作っていくということを大事にしています。その子のなかから表現が出てくると本当に嬉しいですし、支援学校などへアウトリーチに行くと、同じことを順番にしてもらったりしますが、一人ひとりの個性が演奏のしかたや音に現れていて、それをみんなで「あの子らしいな」とか逆に「そういう表現するんだ」とかワイワイ見守っていけるのが楽しいですね。

 変化も色々あって、あるお子さんは、音楽療法のセッション中歩いたり座ったりはするけれど、楽器を一切触らないんですね。でも「僕が歩いている間、ピアノを弾いたり太鼓を叩いたりしてね」と、手を打って合図をしてきます。ずっと演奏しているとこちらも疲れてくるので、途中でときどき休憩するのですが、するとまた手を打って「やって」と。そうこうしているうちに、いつの間にか「やって」の合図として手を打つだけではなく、音楽が始まってからも音楽を指揮するようにずっと手を打つようになりました。「提供されるもの」だった音楽が、「自分が演奏するもの」になったりして、そういうのが面白いな、そういう風に変わっていくんだなとこちらが発見させてもらったりしています。その子もずっと歩いていたら疲れるから座りますが、座っても演奏をやめないでほしいから足をたたいていたりします。

林)言葉で表現しなくても、なんだか伝わったり、発信しあったり、共有できたり、感じるものはそれぞれでいいと思うんです。良い体験やきっかけとなり、みんなが良い時間を過ごせたらいいなと思っています。

「おとさぽ」音楽療法のチラシ

Q:今力を入れておられることはなんですか。

林)寄附者の藤村さんがおっしゃったご希望は、「障害がある人が学齢期だけではなく生涯にわたって音楽を楽しめるようにしてください」ということでした。ですので、学齢期だけでなく、さまざまな年齢層の方に音楽をお届けしていきたいと思っています。

Q:今後どんな活動がしたいと考えておられますか?

林)3つほどありまして、1つは、滋賀県に「おとさぽ」があることを知っていただいて、「おとさぽ」を利用していただけるようにしたいなと思います。2つ目に、研究機関ですので、まだ世の中にない新しい音楽のプログラムや障害のある方と一緒に楽しめることを追求していきたいと思っています。そういう意味でクリエイティブでありたいですね。どうしたら良いものができるか、新しいものができるか、創造的なものができるかを考えて、みんなが喜んでくれる楽しい活動を良いかたち、良い方向に生み出していきたいです。3つ目は、ひとつひとつの活動を丁寧にということですね。オーダーメイドでプログラムを作るというところはこれからも変わらないと思ってます。

山本)少ない人数でできることには限りがありますが、「おとさぽ」の研修を受講してもらい、「子どもに合わせて音楽を作っていく」という視点を子どもたちに持って帰って実践してくれる先生を増やしたいです。「おとさぽ」ではピアノレッスンと音楽療法ができるのですが、枠に限りがあるので、「こういうかかわり方もあるんだな」と広がっていったらいいなと思います。「おとさぽサポーター」が増えていったらいいなあと。

「おとさぽ」ピアノレッスンのチラシ

Q:最後に読者の皆様へメッセージをお願いします。

林)どこかで皆様と出会うことがありましたら、一緒に楽しみたいです。

山本)「おとさぽ」では支援が必要な方のためのピアノレッスンと音楽療法を開催しています。また、先生方の研修もしています。「障害のある方へ音楽と親しむ機会を届けたい」との思いで活動していますので、ぜひお越しください。

林先生、山本先生、ありがとうございました!
山本特任講師(左)と林教授(右)

■じんけんミニフェスタを開催します!

 子どもから大人まで、身近なところから人権について考え、行動することの大切さが感じられるように、滋賀県人権啓発キャラクター「ジンケンダー」とともに「じんけんミニフェスタ」を開催します。

昨年度の「じんけんミニフェスタ」の様子

日時:令和5年(2023年)9月2日土曜日 11時から16時まで

場所:イオンモール草津 1階セントラルコート(草津市新浜町300)

 「ホワイトハンドコーラス京都withおとさぽ」 とジンケンダーのステージイベント、じんけん○×クイズ、キッズダンス、書道パフォーマンス(滋賀県書道協会)、人権啓発ブースの設置の他、クイズラリーによる啓発活動を行います。

 ステージイベントは「おとさぽ」の学生さんも一緒に行うので、ぜひお越しください。

 じんけんミニフェスタホームページ

https://www.pref.shiga.lg.jp/ippan/kurashi/zinken/320538.html

ジンケンダーのちょっと一言 だれもが好きなものにふれる機会がある豊かな社会を目指すのだー!

人権カレンダー8月

●6日 広島原爆の日 /9日 長崎原爆の日

昭和20年(1945年)8月6日に広島へ、9日には長崎に原爆が投下され、広島では約14万人が、長崎では約7万人の方が亡くなったとされています。

 

●7日 ホームレス自立支援法の公布・施行

平成14年(2002年)のこの日に公布・施行。ホームレスの自立の支援や、ホームレスとなることを防止するための生活上の支援等に関して、国、地方公共団体の責務を明らかにしました。 平成30年(2018年)6月14日の改正により、自立支援の有効期限が令和7年(2025年)まで10年間延長となりました。

 

●12日 国際青少年デー

8月12日を「国際青少年デー」とすべきだとする青少年に関する世界閣僚会議の提案が、平成11年(1999年)12月17日、国連総会に認められました。 この日は政府やその他の人々の注意を世界の青少年問題へ向ける機会とされており、毎年異なるテーマが設定されています。

 

●15日 戦没者を追悼し、平和を祈念する日

昭和20年(1945年)8月15日に第二次世界大戦が終結したことを受け、昭和57年(1982年)に、この日を「戦没者を追悼し、平和を祈念する日」とすることが閣議決定されました。

 

●28日 解放令の公布

明治4年(1871年)のこの日、明治政府は、それまで賤民とされていた人々の身分や職業を平民と同様とする内容の「太政官布告(解放令)」を公布しました。

 

●26日~9月1日 全国一斉「こどもの人権110番」強化週間

全国の法務局では、子どもの人権に関する専門相談電話「こどもの人権110番」(フリーダイヤル0120-007-110)を設置しています。週間中は平日の電話相談受付時間を延長するとともに、土曜日・日曜日も電話相談に応じますので、気軽にお電話ください。通話・相談は無料、秘密は厳守します。

法務省ホームページhttps://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken112.html

 

●30日 強制失踪の被害者のための国際デー

世界のいたるところに存在する何万人という強制失踪の被害者への関心を高める日となっています。わが国は拉致問題を含む強制失踪の問題への国際的な関心を高める上でも重要であることから、「強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約」に平成19年(2007年)に署名、平成21年(2009年)7月23日に締結しました。

お問い合わせ
滋賀県総合企画部人権施策推進課
電話番号:077-528-3533
FAX番号:077-528-4852
メールアドレス:[email protected]
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