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第36回 「こんにちは!三日月です」

  • 対話相手性暴力被害者総合ケアワンストップびわ湖 通称SATOCO の皆さん

性暴力被害者総合ケアワンストップびわ湖 通称SATOCO の皆さん

今回は、草津市の性暴力被害者総合ケアワンストップびわ湖 通称SATOCO の皆さんと対話を行いました。

性暴力被害者総合ケアワンストップびわ湖 SATOCOは、滋賀県産科婦人科医会、認定NPO法人おうみ犯罪被害者支援センター、滋賀県警察、滋賀県の4者による連携体制の下、性暴力被害者に対する総合的なケアを可能な限り1か所で提供し、被害者の心身の負担を軽減しその回復を図るとともに、警察への届出を促進し被害の潜在化を防止することを目的に、平成26年4月に開設しました。

24時間ホットライン体制により専門看護師が電話相談対応を行い、必要に応じて産婦人科医療による「からだ」のケアや警察(女性警察官)と連携した安全確保を実施する初期対応、被害者に寄り添った「こころ」のケアや付添支援、臨床心理士や弁護士など支援に関する関係機関とも連携した途切れのない支援を実施する中長期対応を行っています。

今回はワンストップ支援に携わる皆さんと性犯罪・性暴力被害者支援について語り合いました。

SATOCO=Sexual Assault victim TOtal Care One stop BIWAKO
(性暴力) (被害者)(総合ケア)(ワンストッフ゜)

知事から

今回の対話について

  • 性暴力被害者支援に24時間、365日御対応いただいており、知事として県民を代表しお礼申し上げる。平成26年4月の開設以来、222人の方々に対し、延べ1,888回にわたり相談等に御対応いただいている。被害者ファーストでどう向き合っていくのか、どうその傷を取り除き、立ち直り、次の生活を営んでいただくのかということは極めて大事な課題だと思っている。
  • 大事な課題であるが故に、支援を担っている方々に、負担が重くのしかかっているという現状があるので、それらをどう分かち合っていくのかということも極めて大事である。
  • 支援方法等について、本日は忌憚(きたん)のない御提言等を賜りたい。

性暴力被害者総合ケアワンストップびわ湖 通称SATOCO の皆さんから

SATOCOの取組について

  • 当初は滋賀県警とおうみ犯罪被害者支援センターと産科婦人科医会の3者で立ち上がったが、そこに県が参画し、受け皿をしっかり持った今の形になった。最初は試行錯誤で大変であったが、3年経って何とか軌道に乗ってきた。ここまで来るのに、本日参加している皆さんが大変苦労された。寝食惜しんで働き、肉体的にも精神的にも苦労している。知事にはそういうところを分かっていただき、今後とも物資面の御協力等をお願いしたい。
  • 急性期の患者の支援を拠点病院である南草津野村病院で行い、望まない妊娠、性感染症から被害者を守っている。そのためには、365日24時間体制でやらないといけない。最初の1年は電話の対応を無休で、ボランティアでやってもらった。国のモデル事業や滋賀県産科婦人科医会、南草津野村病院からの持ち出しで何とか体制を整えてきた。お金の話をするのは気が引けるし、陳情ということではないのだが、永続的に続く事業として県の予算をつけてほしいと思っている。
  • 急性期は病院でケアを行い、その後はおうみ犯罪被害者支援センターにバトンタッチして心のケアをすることになっている。体のケアは病院で、心のケアはおうみ犯罪被害者支援センターでという棲み分けができている。
  • SATOCOの特徴としては、(1)24時間のホットラインで急性期対応を行うこと、(2)警察との連携、(3)診察から心のケアへつなぐということがあり、最大の特徴は女性警察官、SANE(セイン:性暴力被害者支援看護職の略)、産婦人科医、おうみ犯罪被害者支援センター相談員、臨床心理士、精神科医が連携を取っていることである。
  • 警察官の教育から科捜研(科学捜査研究所)での証拠保全までしっかり警察と連携している。今までは患者が警察に訴えないと警察は動けなかったが、警察に訴えるのを躊躇しているケースでも協力いただいている。
  • SATOCOは24時間ホットライン体制であるが、夜間休日の相談が約4割を占める。
  • 全国の性暴力研修会や、SANEの研修会で、「滋賀県はすごいことやっていますね」とSATOCOの取組を評価いただいている。24時間体制であること、男性からの被害相談も受けていること、病院からすぐに支援センターと連携が取れること、警察が本人の希望を聞いたうえで拠点病院まできちんと連れて来ることなどが評価されている。当たり前と思ってやっていたことが、他府県に比べたらすごい。これが滋賀県方式ですと言って自慢していたら、多くの方が視察に来られるようになり、立ち上げから3年目ですごいことになってきた。
  • 今は自分たちが頑張っているが、次の世代がちゃんと引き継いでくれるようなSATOCOの体制を作らないといけないと思っている。

被害者支援の現状について

  • レイプ被害の特徴としては、約8割の加害者が被害者の知人である。親など家族が加害者である場合も多い。このような被害にあうと9割近くがPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患う。PTSDにならないようにするには、1か月が勝負なので急性期の間に臨床心理士やおうみ犯罪被害者支援センターにつないでケアできるよう努力している。
  • 看護職で患者に寄り添うという気質を持った人たちが、教育を受けてSANEという資格を取っているので、患者さんも安心する。安心して信頼関係が築けたところで、「警察にもお話ししましょうか」、「先生にも診ていただきましょうか」という話をするので、その時には男性の医師が診察しても問題がないようになっている。
  • 他府県では拠点病院となる病院を探すのがものすごく難しい。拠点病院として手を挙げてしまうと大変なことになるのが分かっているので、やろうと思っても拠点病院をどこにするかというところで止まってしまう。大阪府ですら、SACHICO(サチコ、性暴力救援センター大阪)というところがあるが、拠点病院は1つである。
  • 県内に拠点病院がたくさんあればいいというものでもなく、良いものを一つ、しっかりつくっておくのが大事だと思っている。県北部にもう一つあってもいいかとも思うが、近所の目を気にされるので県北部の人が遠方の草津まで来るのを嫌がるということはない。
  • この仕事は続けるのが大変である。被害者から話を聞くことによる二次受傷というものがある。例えば、沖縄での事件の話を聞くと、沖縄に行きたくても行けなくなる。その人の思いをできるだけ受けないようにするが、やっぱり心の中や頭の中に入ってしまう。そのようなことが積み重なると支援ができなくなる。相談員適正自己診断表があり、診断結果が悪いと、相談担当はやめるように指導される。
  • 海外では、SANEのためのリハビリプログラムがある。
  • フォレンジック・ナース、法看護師という専門家がいる。証拠の採取なども法看護師が行うことができる。カナダやアメリカは30年の歴史がある。日本では2014年に「日本フォレンジック看護学会」ができた。昔はこのような学問、看護師はなかったが、ようやくここまでたどり着いた。
  • SANEの資格を取るには80時間の研修が必要で、滋賀県では2名が受講中である。県内の資格取得者は5名なので、合計7名となる予定。全員女性である。
  • 今は各警察署に女性警察官がかなり増えてきて、ほぼ全ての警察署の捜査部門に女性警察官が入っている。性犯罪被害者の女性を助けたいと思っている人たちも多い。
  • 男性捜査員に興味本位のような調べ方、聞き方をされると、2回心を殺されるようなことになる。事件を聞くためには被害に遭ったことを思い出していただく必要があり、聞くこと自体が二次的被害とも言えるので心を配る必要がある。
  • 犯罪の被害者であれば、診察の費用や中絶の費用が全て公費負担になる。公費負担になるかどうかの基準は県によってばらつきがあるが、滋賀県は理解があり、公費負担が認められるケースが多い。しかし、被害者が嘘をついている場合もある。男の人の気を引くためであったり、話が大きくなってしまい、引くに引けなくなったりする。そうなると、警察の公費負担では出せない。虚偽の場合は仕方ないが、ぎりぎり公費負担にならないケースもある。男女の関係は難しく、男性が合意の上だと言い張り、裁判が維持できなくなると警察も降りてしまう。そうすると女性が悪いことをしたようになってしまう。公費が出ないと、本人に請求することになるが、そのような人に請求することもできず病院側が負担していた。
  • 犯罪被害者支援について、条例があると動きやすい。市町にも働きかけをしているが、県に条例がないのに市町では作れないというような話をされることもあり、色々と動きづらいところがある。条例を作っただけで終わってしまうと駄目で、どう実行するかにもよるが、滋賀県だからこんな手厚い支援が受けられた、滋賀県だから良かったと言ってもらえるような条例ができたらいい。見本として一番しっくりくるのは明石市の条例であると思う。
  • 子どもの性被害については、大人の意見が先行し、被害者の子どもたちが置き去りになる危険性がある。大人の視点で事が動いてしまわないように対応している。
  • 性犯罪の相談割合が増えてきていて、平成23、24年頃に、急激に増えてきた。その頃に、滋賀医大の産婦人科の先生に来ていただいて研修をした。その研修で性犯罪被害に遭って救急車で連れてこられた患者さんの話を聞いた。暴行も受けて怪我をして、悲惨な目に遭っている女性が、証拠を取ったり検査を受けたりするために全裸で診察台に乗っている。意識は全部シャットアウトして、何をされても反応がない中で診察をされた。検査が全部終わってから、おうみ犯罪被害者支援センターを紹介されたが、結局その人はおうみ犯罪被害者支援センターには来なかった。その話を聞いて、被害に遭った後、病院でこのようなことが行われているということをもう一度きちんと自分の中に落とし込んだ。警察の事情聴取に付き添ったときは被害者に「もっとちゃんと思い出してごらん。次はどうなったの。」と言わないといけない。言葉では分かっていたつもりだったが、「病院に行きました」「警察で全部話してきました」ということはこういうことで、つらい思いの後、被害者センターの全く知らない人に電話をするのはすごく大変なことだと改めて思い知った。ワンストップ支援は絶対に必要である。
  • 望む妊娠で赤ちゃんの状態を見てもらう内診でさえ、結構きついものがある。なのに、犯罪の被害で証拠採取をされたり、怪我しているところを調べられたりするのは屈辱以外の何ものでもない。それを分かって聞き取りをしないといけない。
  • 被害に遭ったときに「どうしてこんなことになったの、なんで私」とみんなが思う。理由が分かると、人間は少しすっきりするが、性犯罪の理由は分からないので、私が悪かったからという理由付けをしてしまう。私がこんな時間に外を歩いたから、私がこんな服装をしていたから、私があの人に誤解されるような言葉を言ったから、私が悪い。私のせいというふうに納得させて楽になろうとするが、それは間違った納得なので、堂々巡りで考えてしまう。
  • 性犯罪被害者支援の取組は抑止力にもなるので、もっと広報をしてほしい。滋賀県がこんな良いことをやっているとみんなが知れるようにしてほしい。SATOCO周知スイングポップも薬局に置いている。妊娠反応を調べるために薬局に買いに行くので、そこで知っていただくなど色々な方法で周知している。今後、大学や高校の女子トイレに周知シールを貼るなど広報に力を入れていただきたい。

性教育について

  • 性教育はいじめの予防や虐待の予防にもなる。知事には性教育にも力を入れてほしい。
  • 最近はネットやSNSで様々なイメージや映像が氾濫しているが、親には聞けず、自分で判断している。今、学校ではコンドームも教えていない。
  • 50~60年前の話だが、スウェーデンでは小さい時の性教育に力を入れたら犯罪が減った。だから北欧では、割と小さいときから性教育をする。
  • 性教育を積極的に行うことで、性犯罪が増えないように、起こらないようにしていきたいと考えている。性教育指導セミナーが全国レベルの学会として滋賀県で開催されて、滋賀県のレベルも上がってきた。ぜひ県としても応援してほしい。近所の人がみんなで子どもたちを守るという体制ができるといい。
  • 性教育を学校の先生がやり始めるのでは遅い。核家族になり難しいが、家庭で教えるシステムをつくらないと駄目。今、虐待は新生児虐待にとどまらず胎児虐待がある。お腹にいるときから、虐待をする。どこかで断ち切らないといけない。幼稚園や小学校へ行く前に、性犯罪の素地のようなものが出来上がってしまう。
  • 「子育て世代包括支援センター」を平成32年までに全国展開していくということで国が動いており、医師会も全国レベルで動いている。そこで課題になっているのは、子育てではなく親育てである。親をまず育てないと、子育ては何年先になるか分からない。まずは今の親を育てないといけない。親がどうやって子どもを育てていけばいいのか分からない、それを教える人がいない。子育て支援には、性教育もあり、親育て、産後うつのケアなどがある。順繰りに回っているこれらの課題をどこで始めていくかを真剣に考える時期になっていると思う。
  • 少子化の時代に生まれてきた人たちが、いじめなどでどれだけ命を落としているか。中学校、高校は自殺がどんどん増えている。そのような人たちを助けるためにも、最初の教育というか、性の健康教育、いわゆる命の教育が重要になる。
  • 被害に遭った人をたまたま見つけて助けた、被害に遭った人からたまたま連絡があって助けたでは駄目で、被害に遭う前に子どもたちに、これが被害なんだよ、こういうことは「嫌」と言っていいんだよと教えないといけない。子どもたちも、何か嫌だ、気持ち悪い、何かおかしいことされている感覚はあるが、親に言うなと言われるから、言わずに我慢して、大人になって精神的なバランスを崩して働けなくなって発覚するという事例が多くある。
  • 小さい子どもが被害に遭って、そのとき意味が分からなくても、大きくなって理解したときにどうなるのかなど、課題もたくさんある。
  • 24時間ホットラインには、緊急対応が必要ではない電話もたくさんかかってくる。子どもの時や何年も前の被害相談もある。このようなことになる前に、小学校や中学校で性教育が必要だと思っている。
  • 子どものときに、これは嫌なことだと断らないといけない。自分の体は自分で守る、自分の心は自分のものだということを、ちゃんと教えていかないといけない。

知事から

対話を振り返って

  • 今は、「なくそう犯罪」滋賀安全なまちづくり条例に基づく基本方針の中に犯罪被害者支援が入っているだけなので、犯罪被害者支援の条例についてはよく研究し、携わっていただいている皆さんの御意見を聞きながら一緒に作っていきたい。
  • 性の健康教育は、より力を入れてやりたいと思う。
  • SATOCOの取組についても、もっといろんな方法で広報をしていきたい。
  • 滋賀県の取組を誇りを持って御紹介いただけることは、大変ありがたいと思うが、その仕組みやネットワーク・組織が、苛酷で過重な働きによって支えられているとすれば、みんなでバックアップして持続可能なものにしていかなければならないと思う。