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第27回 「こんにちは!三日月です」

  • 対話相手朽木針畑地域で林業に携わる皆さん

朽木針畑地域で林業に携わる皆さん

今回は、朽木針畑地域で林業に携わる皆さんと対話を行いました。

滋賀県唯一の「村」として知られた高島市朽木地区(旧朽木村)は、面積の90%以上を森林が占め、森林の約50%が人工林となっています。肥沃な土地と豊富な降水量に恵まれたこの地はスギの生育に適しており、かつてはスギを中心とした林業が盛んな地域でした。

旧朽木村の西端に位置する針畑地域は、県境で接する京都府の旧美山町とともに、豊富な降水と積雪により優良な天然スギが生育していたことから「芦生杉」の産地として有名で、現在もその種から植林された森林を適正に管理し、優良材の生産に取り組まれています。

対話の参加者のお一人、栗本林業代表の栗本慶一さんは滋賀県を代表する林業家の一人です。約100haもの広大な人工林で、自然の力を生かした林業に取り組みながら、山での仕事の他に、地元の建築業者との協働で地域材を用いた家づくりなどにも参加されています。

今回は、京都府・福井県との県境にほど近い朽木針畑地域の桑原の地を三日月知事が訪ねて、人工林の間伐現場を見学し、チェーンソーを使って立木を切り倒す作業体験を行った後に、琵琶湖の水源の森のこれからについて、栗本さんを始めとした朽木針畑地域で林業に携わる皆さんと、朽木の大自然の中で語り合いました。

知事から

今回の対話について

  • 私は、知事に就任して以来、県内各地に短期間居住して、各地域の暮らしや特性を体感する取組を行っている。今回は、4日前から朽木岩瀬の民家をお借りして住まわせていただいており、今週は毎朝、岩瀬から通勤して仕事をしている。
    朽木に居住させていただく今回の取組の一番の目的を、山の仕事について知り、学ぶという点に置いており、先ほどご指導くださった間伐作業などを体験する機会をいただき、たいへん感謝している。未だにチェーンソーの振動の感覚が手に残っているが、間伐のために木を切り倒す作業では、今まで味わったことのない緊張感と達成感を感じた。
  • 昨年9月に「琵琶湖の保全及び再生に関する法律」が公布・施行され、これから琵琶湖の保全と再生に向けていろいろな施策に取り組んでいく。県庁で施策を協議する際には、いつも「琵琶湖を守るために山を守ろう。山にもっと人の心や力が入る、そういう取組をしていこう」と話している。今日は、琵琶湖の水源の森や山をよくご存知の皆さんから、琵琶湖を、そして山を守るために考えていくべきことを、お教えいただきたいと考えている。

朽木針畑地域で林業に携わる皆さんから

針畑地域の林業と栗本慶一さんの取組について

最初に、この地域の林業や森林のことと、私の取組について説明したい。

(対話会場の)すぐ前を流れている川は針畑川と言い、車で20~30分上流へ遡ると、福井県と京都府の県境でもある分水嶺に行きつく。分水嶺を挟んで、朽木側と京都府側の付近一帯に「芦生杉」という非常に優秀な品種の天然スギがたくさん生育している。市場での評価も非常に高いので、私は林業を始めてから、生育地へ種を取りに行ったり、挿し穂(挿し木をするために母株から切り取る茎や枝のこと)を取ってきたりして、家で増やした苗を植林して増やしてきた。芦生杉は、東大寺の建立時にも使用されたほど優れた品種であり、たくさん木が売れた時代はよかったが、木材価格が低迷する状況となってしまってからは、非常に厳しい状態が続いている。

林業は厳しい状況にあるが、この地で生まれたからには、覚悟を持ってこの地を守っていきたいと考え、家を建てるお客さんと直接向き合って、地元の山のスギを使った家づくりに取り組む「安曇川流域・森と家づくりの会」を2004年に立ち上げた。この会では、製材所や工務店、設計士、大工などの「川下」との繋がりを重視し、我々「山側」と「川下」が、みんなで力を合わせて一緒にやっていこうと考えている。家づくりにあたっては、施主であるお客さんに使用する木材を選ぶために山まで来てもらって、どのような木がどこに生えているというところから見ていただいて、お客さんの気に入った木を使っていただいている。

「安曇川流域・森と家づくりの会」では、会のメンバーのつながりを生かして、木の選定から始まって、製材(木を角材や板に加工すること)や、大工による刻み(製材した木材にホゾやホゾ穴、溝などの加工を施すこと)といった工程も全てお客さんに見ていただいており、繋ぐことによって木の家の値打ちを高めている。私自身も木材市場に売りっぱなしだった頃は値段にしか興味がなかったが、、自分の育てた木が一つの家として形になるところまで、設計段階から家づくりに参加している現在は、お客さんの心に寄り添って、自分の家を建てるぐらいの覚悟を持って取り組んでいる。

家ができあがった時には、お客さんと抱き合って感動することもしばしばで、今では、森から繋がる家づくりが、自分の林業のスタイルになっている。節があったり、曲がっている木も、使う側がしっかりと見て、使える場所を探してやることで、山で捨てる木はまったく無くなり、無駄のない山づくりにも繋がっている。こうした取組を通して、木を使う流れができることによって森林の整備も進んでいくので、「山側」の私にとって、「安曇川流域・森と家づくりの会」に参加することが非常にありがたく、近年では、リフォームも含めて毎年約10棟を建てている。

朽木針畑地域で林業に携わる皆さんの自己紹介

  • もともと草津に住んでいたが、山が好きで、コメ作りもしたかったので、18年前に針畑の山に惹かれて移住してきた。ここに来て山に入るようになってから、針畑の山がさらに好きになった。高島森林組合の作業班として仕事をする中で、環境林施業(手入れが行き届かない人工林に適切な間伐を実施して広葉樹等の生育を促し、二酸化炭素吸収や水源保持など森林の多面的機能を、より発揮する環境林に導く施業)を、尾根筋など標高の高い森で行っているが、クマによる樹皮の皮剥ぎが非常に多い。荒れている人工林に広葉樹を増やして環境林にしていくことで、クマなどの動物と人間が上手に住み分けていくことが、この地域の山では一番良いのかなと感じている。
  • 千葉県生まれで、縁あってこちらへ移住し、30年以上になる。針畑川のさらに上流の県境に近い小入谷(おにゅうだに)という在所に住んでいる。小入谷に山仕事をしている人が何人かおられたので、その方々に仲間に入れていただいたのがきっかけで森林作業員を始め、現在に至っている。
  • 私は、針畑川ではなく、麻生川という別の谷筋にある木地山(きじやま)という集落に住んでいる。東京出身だが、合併前の朽木村が募集した「緑のふるさと協力隊」に応募して朽木村に来た。その後、朽木の女性と結婚してそのまま定住し、森林作業員をしている。今住んでいる家は、妻の実家が所有する山の木を使って建てた。
  • 私は京都からの移住で、針畑地域の奥の方にある中牧という集落に住みながら、この仲間たちと一緒に森林作業員をしている。
  • 針畑の生まれ育ちで、もうすぐ70歳になる。長浜の農業学校を出て20年林業に携わったが、子どもがお金がかかる年頃になった頃に、木材市況が落ちてきたために林業をやめて、その後20年間はサラリーマンをやっていた。最近、農業はもちろん、林業についても、苗木の食害や、シカの角研ぎやクマの皮剥ぎで樹皮の被害などの獣害が深刻なので、わな猟の免許を取ってシカなどを捕まえている。高島市だけで昨年1年間で1,242頭、今年6月までで418頭のシカが捕獲されているが、シカは一向に減らない。先日は集落の畑がシカに荒らされたが、こういうことが続くと、被害にあった人はやる気を失ってしまうので、そこを一番危惧しており、体力の続く限り地域のために1匹でも多く捕まえるように努力したいと頑張っている。
  • 私もこの奥の在所で生まれ、一度は京都や大津に出ていたが、その後、高島市の森林組合に勤めた。3年ほど前に森林組合を退職し、いまは自分の家の山を整備に行って、仕事半分遊び半分で、山を楽しむといった暮らしをしている。森林組合時代に覚えたチェーンソーアート(チェーンソーだけで動物などを彫る彫刻)を、いまは自分の山で楽しんでいる。

水源森林の未来に向けての課題

  • 最近は、我々の現場にもクマがよく出るようになった。クマは、木の幹を下の歯でこすり上げるようにして樹液を舐める。昔は細い木を狙っていたが、最近は銘木級の立派な木にも被害が出て、困っている。クマに樹皮をめくられた木は、めくられた部分からだんだん腐ってしまうので、切って処分するしかなくなってしまう。
  • さきほど知事に見ていただいた人工林にもあったが、幹にテープを巻きつけておくと、獣害対策に一定の効果がある。
  • 山で仕事をしている最中にクマと遭遇した経験はない。現場に向かっている最中に近くにいたことはあるが、人間がしゃべったりしていると、クマが先に逃げていく。
  • 獣害で一番危惧しているのは、シカによる樹皮の食害。シカは下層木(森林の中で低い位置を形成する比較的若い樹木。斜面崩壊の防止に有効と言われる)の樹皮を食べてしまう。平成25年の台風18号で、高島市内も鴨川が決壊するなど大きな被害が出たが、平成23年の紀伊半島豪雨の際に起こったような大規模な山崩れが、このあたりの山でも起こる可能性が十分にあると思う。
  • シカは数も増え続けており、シカによる食害を防ぐのは難しい。最近は、大掛かりな間伐を行うことで下層木を育てて環境林にしていく方向へ変わってきており、いま伐採期を迎えている人工林については、伐採後は、広葉樹など様々な樹種が混交する環境林にしていくことになるだろう。朽木一帯の森林を環境林にしていくには50~100年は時間がかかるだろうが、今やっておかなければならないことだと思う。
  • 昔からずっと植林地で、地元の人間が手入れをしている森については、そのまま植林地でも何の問題もない。朽木全体で山林が約1万7千haあるので、この面積を「木材の生産工場」と考えれば、巨大な工場だと考えることができる。この地域できちんと循環する仕組を作ることができれば、山に大きな雇用が生まれることになり、三日月知事が言う「林業を成長産業に押し上げていく」ことも可能になってくる。
  • 現在の一番の課題は林地の境界の問題。地元の若い人が町に出て行ってしまう中で、高齢者が亡くなって世代交代していくうちに、自分の家の所有する山がどこなのかが、まったく分からないという状況が生じている。
  • 不在地主の山や、所有者の分からない山が増えているので、林地の境界画定の事業に、行政は力を入れてほしい。境界画定ができれば、森林組合が状況に応じた手入れを進めていくことができる。まずは境界画定をして、それから、朽木の山を木材生産工場と考えるような大きな流れをつくっていくことができれば、山の整備も進み、また山側にたくさんの雇用が生まれる。将来的には、そういうかたちが一番望ましい。
  • 昔は年配の方がおられたので、山を案内してもらって、ここからここは誰々の山と説明していただけたが、世代が変わって、「父親が一人でやっていたので、息子さんは行ったことがない」という山が増えてくる。人間が山への関心をなくしてしまったことで、かなり困った状況となっている。
  • 朽木に移住してきて、家を建てたときに宅地を購入したが、実際の土地の形状と公図(登記されている土地の境界や建物の位置を確定するために法務局が管理する地図)が全然違っており、ずいぶんと手間がかかった経験がある。公図がまったく出鱈目なうえに登記の面積も違うので、地元の方に聞いて回って、ようやく分かったが、昔のことを知っている方が亡くなっていくと移住者が土地を買うのはもっと難しくなっていく。山でも同じことで、土地の境界がはっきりしていないと、この先、何かにつけて困ったことになる。
  • 朽木では最近、自然保護団体の日本熊森協会が、荒れた山林の保護のために、その山林を持っていた企業を買収する形で山林を買い取ったが、良いアイディアだと感じた。最近は外国資本に木を売ることもあるが、木だけでなく山を買い付けに来ているケースもあると聞いている。外国に水源林を売却されてしまうと、後で何が起こるかわからないので、水源森林地域保全条例(水源森林地域内の土地を売買する際に事前の届出を義務付ける条例。平成27年度施行)を県が作ってくれて安心した。
  • 木材価格が高くて、木がお金になるのであれば、相続人の若い人も関心を持ってくれるのだろうが、木材価格が低迷している今は、都会に住んでいる相続人などは、所有する山の境界に関心を持ってはくれない。
  • 私は、森林組合の仕事で放置林防止対策境界明確化事業(森林の境界の明確化を進めるために行う登記簿調査や測量等に対して、自治体が補助を行う事業)に関わったが、境界の明確化は、木材価格が安い今こそ、やるべき時期だ。今であれば、土地所有者の関心が低いので争いになりにくいが、木材価格が高騰すると、1本の木でも奪い合うことになり、境界の明確化は進まなくなる。
  • 境界明確化事業では、遠方に住んでいる所有者にコンタクトを取ったり、登記や文献の調査や測量を行うといった準備を行い、最終的には隣接する所有権者と森林組合の三者が現地立会をして、図面に残す。3年がかりの時間と手間がかかる事業だが、所有者にも喜んでもらえるので、森林組合としても地域のために、もっとやっていければと考えている。
  • 先ほど獣害問題を話した時にも触れた件について、もう少し話したい。木にテープを巻くことで、樹皮の食害を防御しているが、私たちは琵琶湖の水源となる源流域で仕事をしているので、山を守るのと同時に水も守っていかねばという責任も感じている。そういった地域で、石油製品でできたテープを使用することが気がかりになっており、できれば環境に優しい材料を使っていきたいと考えている。
  • 今は、デンプンでできた有機分解するテープが開発されており、琵琶湖の水源を守るために活用したいと考えているが、単価が高いうえに石油製品のようには長持ちしないために高コストで、現場では使いづらい。有機分解する材料で森も動物を守るという流れを作ることができればと考えており、何らかの形で応援してもらえれば嬉しい。
  • 一本一本の木にテープを巻くこと自体もたいへんだが、1度巻いても5年も持たずに劣化して切れてしまうので、巻きなおさなければならず、現状では、環境配慮型のテープはコスト的に導入することが厳しいので、ビニール製のものを使わざるを得ない。

知事から

対話を振り返って

  • 林地の境界確定は時間がかかる作業であり、県下で年間600~1,000haのペースだと聞いており、朽木の森林だけでも10年かかる計算になってしまう。個人情報の問題など色々と難しい問題も多いが、非常に大事なことだと感じており、最後に伺った有機テープのことも含めて、持ち帰って検討していきたい。
  • 「山にもっと人の心や力が入っていかねば」と普段から言っているが、その前提となる作業や取組が必要なのだということが、皆さんのお話を伺ってよく理解できたので、これからしっかりと対応していきたい。これを機会に、今後とも色々と教えていっていただきたい。今日は貴重なお話をありがとうございました。