今回は、朽木針畑地域で林業に携わる皆さんと対話を行いました。
滋賀県唯一の「村」として知られた高島市朽木地区(旧朽木村)は、面積の90%以上を森林が占め、森林の約50%が人工林となっています。肥沃な土地と豊富な降水量に恵まれたこの地はスギの生育に適しており、かつてはスギを中心とした林業が盛んな地域でした。
旧朽木村の西端に位置する針畑地域は、県境で接する京都府の旧美山町とともに、豊富な降水と積雪により優良な天然スギが生育していたことから「芦生杉」の産地として有名で、現在もその種から植林された森林を適正に管理し、優良材の生産に取り組まれています。
対話の参加者のお一人、栗本林業代表の栗本慶一さんは滋賀県を代表する林業家の一人です。約100haもの広大な人工林で、自然の力を生かした林業に取り組みながら、山での仕事の他に、地元の建築業者との協働で地域材を用いた家づくりなどにも参加されています。
今回は、京都府・福井県との県境にほど近い朽木針畑地域の桑原の地を三日月知事が訪ねて、人工林の間伐現場を見学し、チェーンソーを使って立木を切り倒す作業体験を行った後に、琵琶湖の水源の森のこれからについて、栗本さんを始めとした朽木針畑地域で林業に携わる皆さんと、朽木の大自然の中で語り合いました。
最初に、この地域の林業や森林のことと、私の取組について説明したい。
(対話会場の)すぐ前を流れている川は針畑川と言い、車で20~30分上流へ遡ると、福井県と京都府の県境でもある分水嶺に行きつく。分水嶺を挟んで、朽木側と京都府側の付近一帯に「芦生杉」という非常に優秀な品種の天然スギがたくさん生育している。市場での評価も非常に高いので、私は林業を始めてから、生育地へ種を取りに行ったり、挿し穂(挿し木をするために母株から切り取る茎や枝のこと)を取ってきたりして、家で増やした苗を植林して増やしてきた。芦生杉は、東大寺の建立時にも使用されたほど優れた品種であり、たくさん木が売れた時代はよかったが、木材価格が低迷する状況となってしまってからは、非常に厳しい状態が続いている。
林業は厳しい状況にあるが、この地で生まれたからには、覚悟を持ってこの地を守っていきたいと考え、家を建てるお客さんと直接向き合って、地元の山のスギを使った家づくりに取り組む「安曇川流域・森と家づくりの会」を2004年に立ち上げた。この会では、製材所や工務店、設計士、大工などの「川下」との繋がりを重視し、我々「山側」と「川下」が、みんなで力を合わせて一緒にやっていこうと考えている。家づくりにあたっては、施主であるお客さんに使用する木材を選ぶために山まで来てもらって、どのような木がどこに生えているというところから見ていただいて、お客さんの気に入った木を使っていただいている。
「安曇川流域・森と家づくりの会」では、会のメンバーのつながりを生かして、木の選定から始まって、製材(木を角材や板に加工すること)や、大工による刻み(製材した木材にホゾやホゾ穴、溝などの加工を施すこと)といった工程も全てお客さんに見ていただいており、繋ぐことによって木の家の値打ちを高めている。私自身も木材市場に売りっぱなしだった頃は値段にしか興味がなかったが、、自分の育てた木が一つの家として形になるところまで、設計段階から家づくりに参加している現在は、お客さんの心に寄り添って、自分の家を建てるぐらいの覚悟を持って取り組んでいる。
家ができあがった時には、お客さんと抱き合って感動することもしばしばで、今では、森から繋がる家づくりが、自分の林業のスタイルになっている。節があったり、曲がっている木も、使う側がしっかりと見て、使える場所を探してやることで、山で捨てる木はまったく無くなり、無駄のない山づくりにも繋がっている。こうした取組を通して、木を使う流れができることによって森林の整備も進んでいくので、「山側」の私にとって、「安曇川流域・森と家づくりの会」に参加することが非常にありがたく、近年では、リフォームも含めて毎年約10棟を建てている。