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第20回 「こんにちは!三日月です」

  • 対話相手滋賀県就労継続支援A型事業所協議会の皆さん

滋賀県就労継続支援A型事業所協議会の皆さん

滋賀県就労継続支援A型事業所協議会は、滋賀県独自の制度として平成12年度に創設した「事業所型共同作業所」から発展してきた「A型事業所」により今年度設立された団体で、障害者を福祉サービスの受け手としてのみではなく、共に働く労働者として捉えて活動する県内のA型事業所相互の情報共有や連携促進に取り組まれています。

今回は、社会福祉法人共生シンフォニーが就労継続支援A型事業所として運営されている「がんばカンパニー(クッキーの製造)」で、障害者の皆さんの作業されている様子を見学させていただき、その後に、滋賀県就労継続支援A型事業所協議会の皆さんに知事と語り合っていただきました。

知事から

今回の対話について

  • 常日頃から、障害の有無にかかわらずに誰もが能力を活かして働ける環境を提供するために、それぞれの現場でご尽力いただいていることについて、滋賀県民を代表して感謝申し上げたい。
  • 今回の「こんにちは!三日月です」は、知事に就任して以来20回目の節目の回となった。「こんにちは!三日月です」では、県内で様々な取組をされている皆さんの活動されている現場にお伺いして、直接意見交換をさせていただくことを通じて、県庁の中にいては見えてこない課題などをお教えいただいている。今日も先ほどクッキー工場で働いている皆さんの様子を見学させていただいたが、こうして現場にお伺いし、対話をさせていただくことから分かり合うこと、共感につながる。そこから皆で一緒に力を合わせて、いい滋賀県をつくっていこうという協働につなげていくという姿勢を大事にしていきたいと考えている。
  • 障害をお持ちの方が雇用契約を結んで働く場であるA型事業所は、これからの一つの大きな可能性だと思っている。一方で、A型事業所には様々な課題もあると聞いているので、今日はどちらの面もしっかりと伺いたい。事業の質を確保していくことが、今後のA型事業所にとっての大きな課題であるとの認識のもとに、協議会を作って情報交換などををされていると聞いているので、そういったご苦労の一端も今日はお伺いできればと考えているので、よろしくお願いしたい。

滋賀県就労継続支援A型事業所協議会の皆さんから

協議会の概要と設立の経緯

  • 障害者の「働きたい」という思いに応える形で、70年代に小規模な作業所が増え、法定授産施設に該当しない小規模の作業所をどう運営していくかが当時の一つの課題となっていた。その後、県独自の作業所への補助も始まり、小規模の素朴な作業所を次々と立ち上げる時代から、質にこだわった、様々な作業所を立ち上げる動きが出てくるように変わっていく中で、職員と障害者を分けずに障害の有無にかかわらず一緒に働こうという考えの施設も増えていった。
    このような福祉的な考えに立脚しながら、事業体としてやっていこうという、後のA型事業所につながるような在り方の施設では、「施設の職員がいて、職員にお世話いただく障害者がいる」という図式ではなく、一緒になってやっていこうという考え方が一つの軸になる考え方となっていった。
  • 1970年ごろから様々な施設が積み上げてきた流れの中で、平成18年に施行された「障害者自立支援法」で「就労継続支援A型」という施設の形態が位置付けられ、小規模な作業所として運営してきたわれわれもA型事業所という形態を選択して、事業を遂行することとなっていった。
    障害者の就労継続を支援する事業所にはA型とB型の二つの形態があり、雇用(A型)か非雇用(B型)かという点で大きく異なり、考え方や運営方法、理念まで異なってくる。私がA型をやろうと考える動機としては、障害者を働く人としてとらえ、労働者性というものを重視したいと言う思いがある。
  • A型事業所以外の施設であっても、施設利用者からは「働けるからうれしい」という素朴な声は聞くが、最低賃金を始めとする一般労働者が持つ様々な権利をしっかりと担保できる事業所はA型しかない。しかし、過去からの流れの中でしっかりした理念に基づいて運営するのではなく、いまある制度に乗って新しく立ち上げられたA型事業所が爆発的に増えてきた。
    A型事業所協議会では、新しい事業所を排除するのでなく、我々が自らの襟を正して、しっかりしたA型の運営を続けながら、あるべきA型事業所の在り方を考えていく場としたいと考えている。

協議会に参加している各事業者の現状について

  • 就労継続支援A型・B型と、就労移行支援(註:一般就労を目指す障害者に訓練や求職活動支援を行う施設)を併せ持つ多機能型の事業所等を運営している。A型・B型と、就労移行支援の三つを合わせた定員が40人となっており、A型の定員は10人となっている。
    B型とA型を比較すると国からの給付は大きくは変わらないが、B型は加算が付きやすい面があり、いまのところB型の方が給付金は多い。
  • 雇用型であるA型については、最低賃金以上の給料を払わなければならない。A型で来ていただく方とB型で来ていただく方の違いは、事業を運営する中で最低賃金を払えない方はB型ということになる。B型で始めた方が、最低賃金を払えるところまで成長していただいたら、雇用をしてA型になってもらっている。
    しかし、A型になると社会保険などの本人負担や、事業主としての持ち出しもでてくる。この点についての国からの補てん等はないが、いまのところは県から補助をしてもらっている。就労移行支援も行っているので、A型から更に就労移行支援を経て一般企業へ就職される方もあり、A型については流動性も非常に高い。
  • 知的な障害のある方の中には、社会生活にうまく適応できない方も多い。施設利用者の中にも、触法行為のために執行猶予中となっている方や保護観察中の方なども働きに来ている。
  • サッシメーカーの企業が支援して立ち上げた福祉工場からスタートしたA型事業所を運営している。企業がベースになっているので、年間1900時間ぐらいのカレンダーを組んで、一般企業とほとんど同じやり方で運営している。
    企業からのバックアップはあるが、直接的に金銭的な補助が出ることはなく、自分たちで稼いでいかなければいけない。工場ではサッシを製造しているが、普通の工場のように多品種を製造することは難しく、障害者の方たちでできるものに限られてくる。また、スペース的な制約もあって、年間の売り上げが安定しない。企業の支援があることについて恵まれていると思われがちだが、実際の運営は日々苦労をしている。
  • 工場の体制は障害者の方が33名、スタッフが10名となっているが、障害者雇用促進法の法定雇用率との兼ね合いもあって、33名の障害者のうち9名は支援企業の一般就労に移り、支援企業から引き続き出向するという形を取っている。
    こういった背景から、A型としての人数が少ない分、補助も少ない中でやりくりをしているのが現状。
  • 一法人で3つの現場を持っており、印刷関連の下請や湯葉製造など多角的に展開しているので、あちこちの現場へ応援に行く毎日を送っている。今朝は湯葉工場にいたが、昨日は印刷の作業をしていた。
    3現場で20、20、20の60名が定員だが、現時点では障害者は48名となっている。A型である以上は最低賃金を保証しなければならないので、仕事もきっちり確保する必要があるが、様々な方がおられる中で、一人一人の心理的なケアなどにも気を配っている。
  • 業務委託など地元の企業さんとのコラボレーションで仕事をさせていただくことが大きい部分を占めているので、企業さんの信用を傷つけないようにしっかりした品質管理をすることが、仕事の確保につながっている。
  • 平成19年に経営者の集まりが立ち上げた法人で、40名の方を雇用しながら、ミシンの縫製等を行っており、車のシートの材料等を手掛けている。
  • 立ち上げから8年ほどになるが、協議会のメンバーの他法人に比べると後発で、福祉の業界の外から後発で参入したこともあり、立ち上げの頃は「うさんくさい」と周囲から言われていたので、見返してやろうとやってきた。
    障害者を食い物にしているような事業所があるのではと言われる現状は、A型事業所の事業者として大変悔しい。だからこそ今、この協議会で「あるべきA型事業所」の姿を規範的に示すといったことに取り組み始めている。
  • 昭和61年に無認可の障害者小規模作業所として始まり、早くから作業所の障害者全員と雇用契約を締結するなどしていた。平成16年に小規模授産施設事業所型へ、平成20年にはA型事業所となった。法人としては、クッキーの製造販売を中心に、カフェや介護保険事業なども展開しており、A型以外にB型や生活介護なども行っている。
  • 実際の運営は非常に厳しく、個々の力を出し合って頑張っているが、なかなか売り上げが思うようにいかないことも多く、市場の動向にダイレクトに影響される中で、資金繰りは非常に厳しい。法人として数億円の収入があるが、クッキーは流行り廃りも激しく、少し前まで人気のあった商品がすぐに不人気になることもある。
    その中でも、A型なので最低賃金以上は払わなければならず、日々大変だが、苦労しつつもきちんと給料が支払えているから、頑張って働いている障害者の人たちは自立をしたり、グループホームから通ったりできている。親や子供を扶養している人もいれば、事業所で出会って、結婚して独立した人も何人もいる。生活保護を受けていた方が、事業所の給料で自立したケースもある。こういったことは一般の企業ではなかなかできないので、これからもA型を応援していただけたらと考えている。

利用者から見たA型事業所について

  • 一般企業に勤めていたが、事業縮小に伴うリストラに2度遭い、リストラの際には、やはり障害者から切られるのだと感じた。ハローワークの求職活動では車いす使用者は難しいと何度も断られたが、働き・暮らし応援センターの紹介で、A型事業所で働き始めた。
    勤務先のA型事業所は設備が整っており、車いすでの移動やトイレにも困ることはない。事業所内では、それが当たり前のことだが、実は、それがとてもありがたいことで、外に出掛けると、階段や段差、傾斜があり、なかなか自由に移動ができないのが実情。
  • 一般企業に勤務していた頃は障害者は私一人で、仕事だけでなく、日常的なことでも周りの人からお世話をしていただく立場にあり、周りからの気遣いに対して居づらさやしんどさを感じていた。今の職場では一方的にお世話をされることはないので、そういったしんどさを感じることはない。
    経理事務をしながら、他の障害者へのアドバイスや、フォローもしており、互いに助け合って適材適所で働いている。障害の有無にかかわらず、同じ労働者として互いの力を出し合って働ける点が、A型事業所の長所だと思う。
  • 私はシングルマザーで、子どもが二人いる。障害者である私が働くことで家族を扶養し、社会保険に入り、税金を払っている。私の事業所で働く仲間の中には、私以外にも一家の大黒柱として働いている障害者がいる。
  • 私はA型事業所の利用者でもあるが、法人の事務長もさせてもらっている。事業所には政府関係者や市町なども含めて、全国からたくさんの方が視察にこられるが、それは滋賀県の行政と民間とが協働して先駆的な事業をしているからだと思う。
  • 私は30年ぐらい前に養護学校を卒業し、公務員試験を受験した。筆記試験は通ったが、車いすを使っているので、トイレや移動の際に介助が必要だったことから不採用になった。民間企業も探したが、なかなか働く場所を見つけることができなかった。現在のB型のような事業所を、当時は作業所と言っていたが、そういった施設では月給が1万円程度しかもらえないので、絶対そうした所では働きたくないと思っていたところ、今の勤務先の事業所の前身を立ち上げるときに声を掛けていただき、その時から事業運営を一緒に関わってやってきた。
  • いまは事務長として、給付金と売り上げ等を全部合わせて4億円ほどのお金の管理をしている。私の働く法人では、お金の管理や会計は、ほぼ全て障害者がやっている。こんな仕事ができるのも、ともに働けるA型だからこそだと思っている。

A型事業所を運営する中で感じていること

  • 働いている障害者の方の親御さんが高齢化する中で、事業所で働くメンバーの収入が家計の基盤となる家庭が増えていることが、最近気になっている。そのような家庭で、親御さんが認知症になってしまったケースなどでは、事業所で働くメンバーの負担がかなり大きくなってしまっている。
    事業所で働いている方のサポートはできても、ご家庭のことまでは対応しきれないので、老人福祉の方面との連携も今後の課題となってくると思う。
  • 障害者は働かなくてもいいのだろうといった陰口を聞く機会がよくある。我々の側が、正しい情報を発信する方法が少ないのが現状であり、寂しい思いをしている。
  • 雇用型でないB型と同じ感覚で、A型を運営すると、すぐにつぶれてしまう。企業に近い感覚を持って、資本主義的に稼いで社会主義的に平等にみんなで分けることが一つの理念だと思う。
    しかし、障害者の中にもできる人とできない人はいるので、それをどのように平等に扱うかという問題は、企業以上に気を使うところとなっている。平等ということには一番頭を痛めており、本当の平等とは何だろうかと常に考えているが、みんなから異議が出ない分配の仕方が一番の平等ではないかと自分では思っている。
  • 給料については、額が一緒だったら平等かと言うと、そうとも言い切れない。一家の大黒柱として生活が掛かっている方と、ほとんど自分の小遣いにできる方を同じ額にするというわけには、なかなかいかない。ここで差を付けようとすると、それは能力なのか、生活状況なのかといったことを悩みながら給料を決めている。
  • 働いている障害者の方々にはA型事業所から一般企業に育っていってほしいと考えているが、一般就職したものの、企業の厳しさに打ちのめされてA型に帰ってきてしまう人がたくさんいる。
    車いすを使っている障害者からの相談で聞いた話だが、すごく配慮をしてくれる企業で働いているが、ある日2階で会議をすることになったところ、エレベーターがないから、今日はもう帰ってもらっていいと言われたというケースがあった。
    企業の側は配慮したつもりだったのだが、本人にしてみると「私は必要とされていないのか」と、人間的尊厳をずたずたにされてしまっている。こういった出来事が、われわれ障害者の就労意欲をそぎ落としてきた歴史がある。

A型事業所を取り巻く状況

  • 滋賀県には、障害のある人も含めた就労の困難な人を、いろいろなかたちで支える仕組みが整っており、評価もされている。滋賀県独自の「障害者働き・暮らし応援センター(註:障害のある人の就労を就労面と生活面の両面から一体的に支援する専門機関)」が大きな役割を果たしていて、就労だけでなく、その裏側の生活を支える仕組という点で連携が取れている。
    全てをA型事業所だけで丸抱えすると、外部の目が入らず閉鎖的になり、人権面の問題なども見えにくくなるので、「働き・暮らし応援センター」や行政などと連携しながら、利用者を支えている。
  • 滋賀県では、国がA型事業所の制度を作る前から、雇用という仕組みを取り入れた「事業所型作業所」という独自の制度を作っていた。また、滋賀県はA型事業所の制度ができて以降も、A型加算という加算金を全国に先駆けて行っている。
    A型事業所を作る際にも、国は滋賀を設計モデルにしたと言われており、滋賀は障害者就労に力を入れているということを、これからも機会をとらえてアピールしていってほしい。
  • 一般的にB型事業所の月給は1万円前後で、A型事業所は10万円前後と、かなりの差がある。家族のいない障害者や、家族を支えねばならない方にとって、1万円の給料ではやっていけないので、A型の存在意義は今後も更に高まっていく。
    しかし、10万円前後の給料を保証するためには、一定の売り上げを確保し続けないといけない。理解のある企業とコラボレーションしている事業所もあれば、独立独歩で自主商品を開発してがんばっているところもあるが、どこも運営は厳しい。
  • 障害者優先調達推進法に基づく、官公庁からの優先発注には助けられているが、一般企業だけでなくB型事業所などとも競合するため、A型にはA型の特性にあった支援が、B型にはB型にあった支援があればと思う。

知事から

対話を振り返って

  • 保護観察中の方の雇用の話があったが、県でも、保護観察対象者を雇用する企業に対して、建設工事の入札参加資格の審査の際に加点するという就労支援を始めたところ、協力事業主が着実に増加した。いろいろな困難を抱える人が働きやすいところは、全ての人に働きやすいところでもあるので、県としても、これからもできることをやっていくことで、理解を広げていきたいと考えている。
  • 福祉の枠にとどまらずに、働かれる障害者の方々にきちんと給料を支払うことで、障害者の自立にもつながる皆さんの事業は、たいへん意義のある事業だと感じている。皆さんにもご評価いただいたとおり、滋賀県はA型事業所の「原点の地」だと思うので、県も皆さんとwin-winの関係をつくっていって、滋賀県はこういった事業所をもっと伸ばしていきたいと思っているのだと言うことを全国にPRしていければと考えている。
  • 車いすを使っている方の就職やトイレの問題が話題に挙がっていたが、すべての人に出番のある共生社会を目指すためにも、こういった「バリア」を少しでも解消する取組を進めてきたいと考えている。我々も応援していくので、引き続き、いろいろなお声を聞かせてほしい。