文字サイズ

第67回 「こんにちは!三日月です」

  • 対話相手にしあざい診療所の皆さん

にしあざい診療所の皆さん

にしあざい診療所は、指定管理での運営により、へき地における安定した医療サービスの提供・充実、次世代に引き継げる持続可能な医療の実現を目指し、取組を進めておられます。

 この度、皆さんの日頃の取組について御紹介いただくとともに、今後の地域医療の在り方や思い描く西浅井地区の未来像について語り合いました。

 

知事から

今回の対話にあたって

●昨日から木之本の古民家をお借りし、今週の土曜日まで、5日間生活をさせていただいており、今朝は長浜養護学校に行ってきた。

●養護学校に通う子どもさんのおうちにまず行き、一緒に通学バスに乗り、学校で初等部、中学、高等部の皆さんと交流をした。その後、造らなくなったが、丹生ダムの周辺地域をどうするのかということで、その現場視察に行ってきた。

●毎年、短期居住でこの地域を訪れるタイミングでは全然雪がない。ただ、もちろんそういう時だけではないので、たくさんの雪が降る時などは、色々と大変なこともあるはずであり、そういう冬場の雪国のお困りごとなどもしっかりと承って帰りたいなと思っている。

●特にこちらでは、診療所の労働環境を整えていただいたり、働き方改革を先んじて実践していただいたり、そういう取り組みも聞かせていただければと思っている。この湖北地域の医師、医療スタッフの皆さんをしっかりと確保することとか、病院の役割分担、機能分担をしっかり話し合いの上、合意形成をして整えていくこととか、県も市や町と一緒に力を合わせてやらないといけないことがいっぱいあると思うので、ぜひこれからも、現場の皆さんの声を聞いて、方向を見出していきたいなというふうに思っているところ。

にしあざい診療所の皆さんから

にしあざい診療所について

○まずは簡単に地域医療振興協会の説明をさせていただくと、そもそもは自治医大の卒業生でつくったものであり、地域医療に困っている地域を支援するということ、地域医療の要の総合医を養成するということを掲げて取り組んでおり、現在76施設を運営している。

○北は北海道から南は沖縄まで、特に滋賀県内ではうちの西浅井地区診療所を含め、3施設を運営しており、連携を取りながら湖北の地域医療振興に取り組んでいる。

○4月にホームページもリニューアルした。当初、指定管理を始めたときから、「地域住民さまのお幸せを追求する診療所」というのを理念として取り組んでおり、幸せと言っても目先の幸せではなく、地域にとって本当は何がいいのかというところを考えられる診療所でありたいと思っている。

○長浜市には11万人が住んでいるが、西浅井で3800人、合併をした2010年から比べると年間90人ぐらい人口が減ってきているという地域。この永原地域のにしあざい診療所、あと菅浦、塩津の出張診療所の合計3カ所を運営している。

○西浅井には病院がなく、一番近いところで木之本の湖北病院がへき地医療拠点病院としてここから約13キロのところにある。いわゆる3次医療、高度医療が必要になってくる場合は、長浜赤十字病院がここから約30キロであるが、そこまで救急車で30分か40分ぐらいかかり、搬送が必要となってくる。

○真冬だと、雪が降ったり路面が凍結したりするので、菅浦地域からここまで救急車で30分ぐらいかかってしまい、非常に課題が多い。このような、県境辺りになってくると、滋賀県内だけの話というよりは、県域を越えた医療というものを一定、需要として捉えていく必要があると考える。ドクターヘリを飛ばすこともあるが、やはり、冬場はどうしても天候にも左右されてしまう。

○拠点化でいうと、去年までの旧体制では永原診療所、塩津診療所を運営していた。私たちが交代で行っていたが、地域によって高齢化が多い、要介護者が増えてきたという問題も出てくる。医師や専門家が偏在するなか、一定水準、診療技術等を、整備しないといけない。〇様々な問題が生まれる中、今後、西浅井の医療体制を続けていって、10年後も住民さんの大多数が満足できる体制を確保し、健全な運営ができるのか、また、持続的に、効率的に地域の質を高める方法がないのかどうかを考えながら、住民さんにも提案させていただいている。地域医療については、医療を支えるための仕組みと住民さんが安心して暮らしていくための仕組みを両立する必要があると考えている。

○そのためには、永続可能な地域医療、在宅医療の提供、一方で医療者を疲弊させない体制を構築する、また、そのために医師だけではなくて様々な職種の人が関わり、相互連携をし、病院、専門医、病床等を確保しつつ、人材を循環させていくということも大切だと考えている。

○結果、4月からこのように、にしあざい診療所に拠点をつくり、そこから出張所に行くというような形態に変えた。現状は、われわれの活動としては、診療・介護・保健・教育・地域活動を5つの軸として取り組んでいる。

○診療以外に、教育も大事な取り組みだと考えている。今後、一緒に働いていただく人材の教育・養成活動にも取り組んでいる。

○研究活動について、地域医療振興協会には、様々な診療所が点在してあるが、ベースは一緒であり、似たような課題を抱えていたりするので、集まりながら一つの研究活動ができればいいなということで実施している。

○訪問診療について、現在、マキノの方へも行ったりしており、平日の往診や在宅での看取りという部分で約30件担当し、2週間に1回、お宅に伺い、診察をしている。対象者は数としては横ばい状態だが、高齢の方が多いのでお亡くなりになったり、入院されたり、一方で対象者が増えたりといった状況。在宅看取りに関しては、病院ではなくて家で過ごしたいという気持ちをできる限り支えていきたいというスタイルで行っている。

○保健事業について、小学校での喫煙防止授業ということで、大人になってもタバコを吸わせないよう授業を実施しており、子どもたちを対象に幼いころから意識を植え付けておくという効果と、子どもへの指導教育を通じ、家族への波及効果も狙っている。

○将来の人材確保のため、最近では地域医療体験講座というのも中学生を対象に実施している。高校生以上になると、地元から出るケースが多いので、血圧の測定を体験してもらったり、地域医療の魅力を伝えたりし、将来的に地元に戻ってきて地域医療に従事してもらおうと取り組んでいる。

○個人的には、母校の自治医大の方で年1回、総合診断学という講義を行っている。西浅井地域については、自治医大がある下野市とだいたい面積が同じであるが、人口は6万人ぐらい差がある。向こうには大学病院が二つあり、合計で2千床、その他にも病院、診療所も多数ある。このような異なる状況下では、同じ診療所の医者であっても考える事や、必要な対応も変わってくるということをお伝えしている。

○広報について、毎月、診療所の方から診療所通信というものを発行しており、スタッフで分担しながら原稿を書いている。

○地域医療を支え、安心して暮らせる仕組みを整えると先ほど述べたが、自分たちの力だけではどうにもならないことはやはり多い。西浅井地域のため、連携で健康を支える仕組みというのを考えていく必要があると考えており、今後、特に力を入れていきたいというのは、一つは教育・人材の部分で、将来の地域医療を育む機能というのは、やはり診療所に必要であり、人が入れ替わり入っきて、循環していく、そういう人材育成の体制が取れるということが理想だと思う。そのためには私たちだけではなくて、やはり地域の協力というのも必要だと思うので、地域の皆さんが、やはりそういう診療所の教育理念に関心を持ってもらうということが、必要である。

○そもそも、生活ができる基盤というのが大事であり、例えば、買い物とか、身の回りのものが取りそろえられるような場所がないと住民としては安心できない。例えば、こういう複合施設や公民館、商店と意欲的に連携し、全体としてシステムが出来上がるとよい。

診療所スタッフとしての取組、地域での気づき等について

○自分は親が長浜出身なので、そういう縁でこちらへ来させてもらったが、現在のスタッフもこの周辺地域の出身者が大半である。ここにゆかりのある人じゃないとなかなか来ないというのが現状。次世代の人材を育成していかないと、なかなか医療が進まない。

○事務長をしている。お金のやりくり等、経営面でも大変なことが多い。

○この4月から診療所が一つになってからは、訪問看護や日常の診療等をさせてもらっている。高齢の方が多く、「もうダメだ」と言うおじいさんやおばあさんには、ここにご自身で来られるだけでもすごいことなのだ、と毎日毎日言い続けている。

○看護師をしている。自分は、診療所が指定管理になった時から勤務しており、もう5年目になる。余呉町から通っているので、最初はここの地域の名前を覚えるところから始まり、今ではやっと患者さんの顔と名前が一致するほど西浅井に馴染むことができた。

○自分も看護師である。私も生まれも育ちも西浅井で、専門学校等で市外に出ていたが、こちらに戻り、務めている。子どももまだ大きくないので、近くで働かせてもらい、他のスタッフにも助けられている。

○自分は12年前に西浅井に引っ越してきて、診療所で働かせてもらってから2年ぐらいになる。西浅井の患者さんが来られる診療所であり、患者さんも私のことをよく知っておられる。長く勤めているスタッフは、患者さんそれぞれの病気のことはもちろん、家族構成までよく知っておられるので、私も早くそんな看護師になれるように頑張ろうと思っている。

○事務を担当している。生まれも育ちも西浅井町なので、受付時は西浅井弁丸出しで、患者さんと触れ合うことが楽しく、ありがたい職場だと思っている。この4月から院外処方となり、丸1年たつが、だいぶ患者さんにも慣れてきていただいている。

○院内処方の方が便利ではあるが、薬の調合を全て看護師が実施していたため、人手がとられるというデメリットがあった。この度、薬局がこの敷地内にでき、薬剤師さんが町内にいてくれるようになった。

○理学療法士として、4月より勤務し始め、もうすぐ1年になる。

○患者さんとの距離が近い分、一見、無茶を言われると思われがちであるが、医療を行ううえで、きちんと自分の思いを伝えてもらうことは大切。大きな病院に行っても何も言えず、ここにきて色々なことを話してくれるというケースもある。「それは病院に行った時点できっちり伝えてください」というお話はしているが、必要な時きちんと伝えてもらうような環境を日頃から作っておくことは地域医療を行っていくうえでとても大切だと思う。

○子どもの数は少ない。西浅井地域には永原、塩津と2つの小学校がある。2つ合わせても学年30人に満たないので統合の話も出てきているが、やむを得ないのかなと思う。保育所が一つなのに、小学校へ行くと塩津と永原とに分かれて、中学校へ行くとまた一つになる。

○子どもが小中一貫校に通っているが、一貫して同じ友達と同じ学校に通い、同じ先生に続いて習うので、いい印象があります。

○24時間連絡を受けられる携帯電話を持って歩いており、医師・看護師とで当番を決めて対応にあたっている。以前は2つの診療所に2人の医師がそれぞれ割り振られていたので、休まる時間がなかったが、かなり解消された。なるべく休みが取れる体制にはなってきているので、拠点化になってよかったと思う。

地域医療の課題について

○医師の立場からいえば、次の人材の育成が必要だと考えている。当然、地域医療振興協会という母体もあるが、決して人材が潤っているというわけではなく、日本中どこでも人が足りないという状況。急遽、異動が生じた場合などは、非常に大きな問題が生じる。

○以前は、二か所の診療所を二人で運営していたので、医師が病気などの場合は片方を閉めるしかなかったが、拠点化した現在はこの診療所で二人体制となっているため、なんとかカバーすることが可能となった。

○中学生の体験講座について説明したが、看護師になりたいから受講したい、という子もいる。県外に進学しても、そのような人たちに、こういう地域医療を行う場があり、将来的に自分の地元に貢献できるということを知ってもらうことが大事。

○学生さんが研修などで来た際に、「良い場所だ」と思っていただけるような魅力がないと次へつながらないので、地域の観光資源というのは非常に大切。このあたりだとワカサギ釣りとかビワイチとか。地域医療に関しては、そういった影響も想像以上に大きく、この地域に関しても、思っていた以上に来られた方の印象がよかったりする。長浜の中心市街地から通ってもらうだけでなく、夜もこちらに滞在してわかる良さもある。地域の魅力を知ってもらう、そして、次の人材を地域で育てるという意味では、そういう支援もある程度必要。空家自体はあるので、そういう資源を生かし切れていない部分が残念。

人生会議・ACP(アドバンス・ケア・プランニング)

○知事が、県民の声を大切にされているように、私たち診療所でも、患者さんの声をすごく大事にしたいと思っていて、患者さんがどのように考えているか、どういう治療を受けたいか、この生まれ育ち馴染んだ地で、どのように生活をしていきたいのか、そういう声を大事にしていきたいなと考えているので、現在、厚生労働省が勧めている人生会議、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)をこの診療所にも取り入れていきたいと考えているところ。

○4月から患者さん、ご家族も含めて数回人生会議をさせていただいた。患者さん本人にご家族も含めて、これからどのように生きていきたいのかというお話を聞かせていただくが、これはすごくいいことであり、今後も取り組んで行きたいと考えている。

○対象者については、こちらから協力をお願いする形で、一番若い方で60代の方にもさせていただいた。今後は、訪問診療とか訪問看護の対象者からもお話を伺い、今後医療をしていく上で、患者さんが考えている方向に向かって私達が支援できるよう、患者さんの気持ちを大事にしていきたい。

○人生会議自体がまだ浸透していないのが現状。本診療所においても、医療スタッフ、地域住民さん共にまったく知らない状態なので、まずはそれがどういうことなのかというところから進めていきたいと考えている。今後どうしたいか、どういう生き方をしたいのかという部分を家族の中で自由に話せるようになればいいと思っている。

○診療所の役目として、今後そのような人生会議の内容を深めていくにあたり、必要な材料を必要な時に提供するだけの体制をつくるためにも、まずは一般的に啓蒙しつつ、受け入れられやすい人から受けていただいて、「よかった」と口コミで浸透していくのが好ましい。

○いわゆる病院のような場所で話しあうと、人工呼吸器を付けるかとか、延命措置をするかとか、偏ったイメージからの議論に終わりがち。地域医療の中ではそういう話ではなく、「本当にどうやって生きたいのか」、「どこに最後までいたいのか」。

○「どう生きたいか」、「その人が何を大事にしているか」が、まず根幹にあって、その結果としてどういう延命措置にするのかとか、そういう話に行き着くものなので、いきなり延命措置をするかどうかだけを議論しても、本来の意味合いとは違ってくる。

○独居の高齢者もおられるので、そうなると本人さんの希望だけではどうにもならない問題も出てくるが、そこはある程度、介護とか福祉とかサービスを使ってカバーできる範囲であればいいと思う。この地域で生活をするとなると、基盤の話ではないが、まずは食べるものをどうするのかというところから始まる。

○そうすると、包括支援センターや、地元の隣人とか、そういうつながりというのが大事。関係者だけが入ってやるよりも、周りで見てもらうということが大切であるが、これが今後どう時代とともに変わっていくのか心配ではある。

知事から

対話を振り返って

●私の妻も看護師であり、今は現場を離れているが、働き始めるならこういう診療所がいいなと思ったりしていたところ。

●へき地での地域医療について、例えば、スタッフが体調不良等に陥ってしまった場合はそのやりくりがすごく大変になると思う。

●次世代の人材確保について、医師、看護師、理学療法士等、こういう診療所を支える人材の確保が特に大事だと思う。

●琵琶湖をはじめとするこの湖北の地域資源に魅力を感じ、滞在する人も実際にいるので、もっとそれらを活かしていきたいと考えている。

●学校については、余呉にあるような義務教育学校、小中一貫という形態はこういう地域にとってすごくよいかもしれない。

●医療従事者の働き方改革は今後すごく大切なこと。このように診療所を拠点化することはすごくよいことであり、医療スタッフ、事務員が一体となって地域医療を進めていこうという思いが感じられる。

●現在、県では死生懇話会というものをつくろうと思っている。死について考え、そこから「よりよく生きる」ということについて考えていく。在宅、看取りもそうであるが、不慮の事故などで悲しい死を迎えた人のグリーフケアをどうするか、せっかく子が生まれてきたのに、虐待等で殺めてしまいそうな人や、生みたくても生めない人に対する支援をどうしたらいいのか、考えたいと思っている。

●私が、年頭に死について考えますとか言うと、それは宗教家やお医者さまに任せましょうという人もいたが、死をあまり遠ざけずに、タブー視せずに考えた方がよいのではないかなと思っている。

●最初は、なぜそんな話し合いをしないといけないのかと思うもの。でも、徐々に「やっぱり言っておいてよかったな。ああいう場って大事やな。」って思ってもらえるようになると思うし、そういう時代になってくる。ぜひ一緒にやりましょう。僕らも色々話を聞かせていただきたい。

●私自身も20年前に父を60歳で亡くしている。がんで闘病して、とにかく治すことを目指し、切るんや、取るんやで、相当手術も行った。薬も使い、副作用もあり、入院もし、人工肛門も付けたりで、色々やったが、結果、死期を早めてしまったんじゃないかという思いがものすごくある。もっと話し合っておけばよかったなと思っている。そういうことを思う人がたくさんいると思うので、そういう場づくりとか、話しやすさとかを大切にしていきたい。

●最初に先生に説明いただいたような、10年後の医療について、医療資源も含めて持続可能性を考えていく必要があるという部分はやっぱりすごく大事だなと皆さんとの意見交換を通じて感じた。もちろん、現在の医療、今いる住人さんへの対応も大事だが、これは続くものなのかなとか、僕らもそういう観点に立って考えないといけない。

●県としては県全体を見渡すが、医療資源の再配分とか、そういう部分を進めていきたいと思っている。せっかく縁あって一緒にここで生きているので、よかったなとか、幸せだなと感じられるような、そういう滋賀をつくりたいし、そういう地域を一緒につくっていきたい。