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第53回 「こんにちは!三日月です」

  • 対話相手「長浜バイオ大学の学生」の皆さん

「長浜バイオ大学の学生」の皆さん

今回は、「長浜バイオ大学の学生」の皆さんと対話を行いました。

日本初のバイオ・生物学系単科大学として2003年に開設された長浜バイオ大学。「バイオの総合大学」として、開設以来15年にわたり、地域社会からの支援と期待に応える研究教育を進めてこられました。

今回は、最先端のバイオ研究成果を応用し、地域と連携しながら、「脂の乗りをよくする養殖ビワマスの餌開発」「梅の実から取り出した酵母を使った清酒開発」「伝承野菜のバイオサイエンスを基礎としたブランド化」に取り組む学生の皆さんの研究室を見学した後、研究活動における成果や課題、地域との連携等について意見交換を行いました。

知事から

今回の対話にあたって

  • 先ほど研究室を見学させていただいた。皆さんが研究されていることが解明されれば、もしくは開発されれば、色々な薬や、食べ方や作り方、使い方で、私たちの寿命に影響したり、健康に影響したりするし、また、色々な製品や薬品が開発される可能性のある研究だということを実感した。
  • ここは長浜バイオ大学ということで、長浜の地、湖北の地、もちろん滋賀県にとっても、なくてはならない場所だと思うので、研究の御苦労の一端をお聞かせいただきたい。

「長浜バイオ大学の学生」の皆さんから

「脂の乗りをよくする養殖ビワマスの餌開発」にかかる研究内容について

  • 私たちはビワマスを研究している。ビワマスは琵琶湖の固有の大変美味な魚である。天然のビワマスは漁獲量が減少しており、供給量が少ない。また、禁漁期間があるので、食べられる期間が限られているというデメリットがある。養殖のビワマスは年中食べられるという特長があるが、デメリットとして脂の乗りと味で天然に劣ってしまうところと、飼料に用いる魚粉などの価格が高騰し、コスト面で採算が取れないという問題がある。これを解決していこうというのが私たちの研究。
  • 脂が乗るという状態をつくるため、脂を作ろうと働きかける成分を含んでいるものを探してきて、本当に脂が乗ったのかをCT撮影装置で分析する。すると脂肪が筋肉に入っているかどうかが分かる。色々な飼料を試して、現在は、外来魚のブラックバスや規格外のコアユ、奇形や傷により市場に出せないような魚、ビワマスを調理した後の内臓や頭などの廃棄物を資源に餌をつくり、ビワマスに与えて、脂が乗ったかを調べている。
  • 中でもブラックバスのミンチを使った飼料は、従来の飼料が20キロで5800円ぐらいするところが、試験用として提供してもらっていることもあり2000円程度と従来の3分の1以下でできている。しかも、ブラックバスの飼料を食べたビワマスは成長が早い。その分、早く出荷できるので、電気代等も削減できる。体内の脂肪の数値もブラックバスの飼料を食べたビワマスはかなり高い数字を示す。また、筋肉に”さし”が入り、脂の乗り方もよい。食味試験で、実際に養殖ビワマスの関係者に食べてもらい、味の評価をしていただいたが、ブラックバスの飼料を使ったビワマスの評価は他の飼料を使ったビワマスを上回ったので、今はブラックバスに注目している。
  • ミンチにしたブラックバスに、主に小麦粉と魚粉が入っている餌の元の粉を混ぜている。ミンチは水分が多いので、それを混ぜることによって、まとまるようになる。あとはビタミンやミネラルなどを足して冷凍にして、餌の形に成形している。
  • なぜブラックバスのミンチは成長が早いのかを、今調べているところ。脂肪を増やすような因子があるのではないかということと、ブラックバス自体が筋肉質な魚なので、優良なタンパク質を得ることで成長が早いのではないかということを原因として考えている。
  • 養殖ビワマス全体のブランドとして「びわサーモン」があるが、その中でも、私たちが作った飼料を食べたビワマスを「ビワトロマス」と呼んでいる。びわサーモン振興協議会に出席し、研究成果の報告をさせていただいている。

「梅の実から取り出した酵母を使った清酒開発」にかかる研究内容について

  • 私たちは梅の実酵母を研究している。酵母はパンやお酒造りに利用されている。酵母には様々な種類があり、お酒造りはSaccharomyces cerevisiaeという酵母を使用している。さらに清酒酵母にも、たくさん種類が存在していて、どの酵母を使うかによってお酒の味が変わる。
  • 私たちが研究している梅の実酵母は、2年前に卒業した学生が、滋賀県犬上郡にある「岡本本家」の梅の実から採ってきた酵母である。その梅の実酵母を使用して造ったお酒は、一般的な日本酒より低アルコールで口当たりがよい。梅の実は使っていないので、梅の味がするというわけではない。
  • 梅の実酵母以外に、三つの清酒酵母について解析を進めている。「きょうかい酵母7号」は、華やかな香りで、吟醸および普通醸造用によく用いられている酵母。「きょうかい酵母9号」は、短期もろみで、早くお酒を造ることができる。華やかな香りと吟醸香が高い酵母。「きょうかい酵母10号」は低温長期もろみで醸造する酵母で、酸が少なく、吟醸香が高いという酵母。私たちは、この3つの清酒酵母と梅の実酵母との代謝物の違いを、NMRという機械を使用して解析している。
  • 酵素と酵母は違うものである。酵素は体のなかで必要なもの。酵母は人間のような生きもの。消化酵素などが酵素で、酵母は「イースト菌」のように名前が付いている。酵母は世の中にすごくたくさん種類がいる。パンをつくるものだったり、ワインを造るものだったり、ビールを造るものだったり、色々なものがいる。発酵させるものは、だいたい酵母を使っている。

「伝承野菜のバイオサイエンスを基礎としたブランド化」にかかる研究内容について

  • 私たちの研究では尾上菜の優良系統の確立を行っている。尾上菜は、長浜市湖北町の尾上地区のみで栽培されてきた葉物野菜で、一説によると、江戸時代までには既に栽培されていた。現在でも尾上地区では家庭での消費用に栽培されており、漬物や煮物などにして食べられている。
  • 尾上菜には、血糖値を下げる活性があるとも言われていることから、長浜の新たな特産品として、地域貢献できる可能性を持っていると思う。
  • 古くから栽培されている尾上菜だが、長い間、自然交配のみで種子が採られて伝承されているので、形態がふぞろいである。実際にその形態を観察すると、他のアブラナ科植物の特徴を示す個体があったり、個体サイズがばらばらになったり、形態が不均一であった。このままだと、安定した品質の尾上菜を供給することができないので、味もよくて、形態も均一で、なおかつ血糖値を下げるなどといった活性を持つ尾上菜の系統を確立することを目的に研究を行っている。
  • 研究を始めるにあたり、尾上菜の遺伝的な知見を得るためのゲノム解析を行ったところ、尾上菜はアブラナ科のBrassica rapaという白菜や小松菜などと同じ種類であることが明らかとなった。アブラナ科植物のなかには、自身の雌しべに自身の花粉を付けても受精が行われず、種子を得るためには別の個体からの花粉を必要とする性質(自家不和合性)を持っているものがある。尾上菜にも、その性質があるのか調べたところ、自家不和合性であることが明らかになった。そこで、昨年から優良個体9株を選抜し、掛け合わせを行って、今年の6月に種子を得た。
  • 現在は、自家不和合性を制御している遺伝子の解析を行っていて、今後は味や形態的特徴、今調べている遺伝子等を考慮し、個体選抜を行いたいと考えている。アブラナ科に関しては、どの遺伝子によって自家不和合性が制御されているかということが分かっている。アブラナ科の自家不和合性は花粉側の因子と、雌しべ側の因子が一致した時に種子ができないという特性がある。しかし、これらの因子が発現しないうちに受精させる方法をとることで自家不和合が打破されることも分かったので、そういった方法を使って自殖系統を作成し系統の確立を行いたい。
  • 本研究は尾上菜のブランド化を目指した取組であり、長浜市全体で進めている。長浜バイオ大学では形態を均一にする方法や他の活性の有無を調べているが、長浜農業高校では最適な栽培条件を調べたり、滋賀県調理短期大学校では新たなレシピの開発を行ったりとネットワークを作って協力している。地域の人たちや、長浜農業高校の生徒たち、滋賀県調理短期大学校の方や長浜市役所の皆さん、長浜バイオインキュベーションセンターの方などの支援を受けたプロジェクトで今年が2年目となる取組である。
  • この研究は尾上菜以外の伝承野菜にも応用可能だと思うので、今後はブランド化する植物種を増やしていきたい。
  • 対象となる伝承野菜は、伊吹大根や高月菜などを考えている。バイオサイエンスを基礎としたこのような研究で伝承野菜をブランド化し、地域に貢献したい。

研究を進めるうえでの課題について

  • 今年度は試験用にブラックバスをいただくことができたので、実験ができた。そして非常に良い結果が得られたのだが、次からは供給元がない。漁協の方や関係者の方に聞いていると、県漁連がキロ330円の駆除経費を出して回収され、それが広島県の魚あら処理の会社に、キロ6円で売られているらしい。キロ330円の駆除経費については県から助成金が出ているので、県漁連が回収したブラックバスをいざ実験に使いたいと思っても、現状では助成金の枠内のブラックバスも取れていないため、私たちが安い価格で欲しいといっても、助成金の方が高いので、そちらに回す。県の水産課の方に伺っても、取った分は広島の会社に全て渡すという契約になっているので、なかなか差し上げられないと言われている。最初に広島の会社と契約したときは、県内で需要がなかったかと思うが、今は県内で取った分は、全部消費できるぐらいの需要があると思っている。ひと池で約1トンのブラックバスを使う。今は私たちの池だけだが、他の業者とも組んでいけば、確実に消費していける量になると思う。せっかく県内で消費できる事業があるので、ぜひ回していただきたい。来年度の分は、自分たちで釣りに行って集めているが、1日で1、2キロしか釣れないので、1トンまではほど遠く現実的ではない。
    この事業でブラックバスを消費することで、琵琶湖からブラックバスがいなくなるなら、それはそれでいいと思っている。その時は、また別の餌を私たちが見つけたいと思う。
  • 釣り人の方は、ブラックバス釣りをスポーツとして楽しむ文化がある。滋賀県は本来リリース禁止だが、実際のところ、ほとんどの方がリリースされているため、ブラックバス確保のために協力いただくのは難しい。
  • 琵琶湖岸に回収ボックスがあるので、夏場に回収ボックスに入ったブラックバスをもらえるようにお願いしたが、回収が3日に1度であるため、虫がわいてしまい、使いものにならなかった。
  • 私たちとしてはブラックバスをどんどん使いたいが、供給の見通しが立たない。私たちはいつも4つの池を使っているが、来年度は1つの池だけでも実験を続けたいと思っている。1つの池だけでも最低1トンのブラックバスが必要。せっかく滋賀県で取れたものなので、滋賀県内で全て餌として消費したい。
  • 池を貸してくださっている業者さんが応援してくださっている。ブラックバスの餌をすごく気に入ってくださっており、この飼料で養殖したビワマスを、滋賀県のビワマスのブランドとして売りに行きたいと言っていただいている。少し前に、テレビでもビワマスが取り上げられ、注目を浴びた。注文や問い合わせも多かった。養殖ビワマスの数が、需要に比べて圧倒的に足りていないのが現状。
  • 採算が合わず、撤退される業者さんが多い。このブラックバスの飼料なら、価格も抑えられるし、味もいいので、これで一気に供給量を増やせば、需要はいくらでもあると考えている。
  • 最終的には、会社をつくって、そこを拠点に餌を作って、ビワマス養殖業者も増やしていければと思っているが、今は施設もない状況である。

日常生活で感じる課題について

  • 長浜市は、車の運転が怖い。自転車通学している時に、何回か引かれそうになったことがある。自転車や歩行者がいない前提で運転をしているのかなと思う。駐車場から、すごい勢いで出て来るのでちょっと怖い。
  • 大学の周りの道に照明を付けてほしい。大学の周りには学生が下宿している建物があまりないので、自転車通学の人が多いが、大学から下宿先までの道があまり整備されていないし、暗い。下宿先で多いのは、長浜駅周辺である。
  • ただ、照明をつけるとなると、お米の日照時間なども考慮しないといけない。街灯はイネの発育に影響する。
  • 寒い時期になると、雪で道が固まってしまい、車で通うのが毎日怖い。2回ぐらい車が途中で止まってしまったことがあった。除雪がまったく通っていない地域が多いと思う。融雪してあるのは駅前通りだけで、湖岸は除雪車は通っているが、融雪はなかったと思う。
  • 長浜市の高月に住んでいるが、年々、寂しくなってきている。人口が少なくなってきて、とても寂しく感じている。人口が増えてほしいと思う。

知事から

対話を振り返って

  • 梅の実酵母で造ったお酒を「こんな効用のあるお酒です」と言えたらいいと思いながら聞いていた。梅の実酵母は、味以外に何か効能に違いがあるか、また研究してほしい。ビワマスも、おいしいだけでなく、健康にどう影響しているかなどを言えるとなお良いかもしれない。
  • 滋賀県は発酵食が昔から根付いているし、健康にもいいので、これをもっと広げられたらと思っている。
  • 滋賀県の人は日本で一番長生き。日本の人は、世界で一番長生きなので、日本で一番長生きということは、世界で一番長生きである。なぜ滋賀の人は長生きなのかを、今みんなで研究している。理由として、たばこを吸う人が少ないというのもある。あてはまるのは男性だけだが、実際それを示すデータもある。まだ有用なデータはないが、ふなずしを食べる人が多いのも影響しているのかもしれない。農業をする人が多いことが健康寿命を延ばしている可能性については、色々な論文で指摘していただいている。滋賀はボランティア活動やスポーツをする人が多いので、人と関わることが理由としてあるのかもしれない。こういったことを、色々なところで研究して、他の地域や、世界に発信していきたいと思っているので、ぜひそういう面でも、御協力いただきたい。
  • (ビワマスの課題について)業者さんや漁師さんと一緒に、何か嘆願書をつくって持ってくればどうか。私は今日聞いたし、テイクノートする。どうしたらいいか、私も一緒に考えるが、世論を巻き込んで、「長浜バイオ大学の取組を応援しよう」「ブラックバスを供給してあげよう」と言ってもらえるように、一回、先生方と一緒にやってみたらどうか。
  • 研究の成果をさらに発展させるためにどうしたらいいのかというところに、皆さんの専門でない領域の壁やハードルがあるかもしれない。だから逆に、色々な人を味方に付けて、巻き込んで、「自分たちはこんなことをしようと思っているが、どう思う?」と言って、さらに広げていくと、色んなものを突破する力が得られるのではないか。ビワマスの取組が不十分だと言っているわけではなく、ずいぶん動かしてきているとは思うが、さらに広げようと思うとそういうことが必要なのではないか。
  • バイオ大学で研究されていることは、幅広いし、将来的に有用性というか、貢献度合いが高い分野のことが多い。そういうことを私たちも知って、色々なところで広めて、こんなことやっているよ、あんなことができているよと紹介すると、みんなの関心が高まるかもしれない。関心が高まったら「応援しよう」、「お金を出そう」、「場所を貸そう」という人も増えるかもしれない。
  • 今日からローソンで、みずかがみのおにぎりが発売されている。具なし、海苔なしで、お米にだしとブイヨンで味付けだけしたもの。これは県内の大学とローソンのコラボレーション企画である。皆さんの研究や、色んなニーズ、シーズを、例えば企業とマッチングさせて、ブランド化するようなことにも、これからどんどんチャレンジをしていければいいと思う。
  • 雪の問題を解決する方法を皆さんも考えてもらえないか。融雪には塩化カルシウムが良いが、撒きすぎると、錆びて赤色になってしまい、道路の劣化に影響があるので、悩ましいところがある。
  • 人が減って寂しくなっているという話は、私もよく聞くし、悩む。このことを「どう思う」「どうしたらいいと思う」と色々なところでみんなに話してみてほしい。自治会などでも、みんなで話してみて。何か素材を見つける取組を、同級生や年代の近い人でやってみてはどうか。応援する。