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多言語・翻訳アワー in 滋賀 #4「ウェブサイトや紙媒体等での多言語対応」議事録

多言語・翻訳アワー in 滋賀 #4

滋賀県内に住む、また訪れる外国人が不自由なく生活・滞在するにあたって、彼らを支える翻訳者・通訳者が、これまでどのような困難・失敗に直面してきたのか、経験談に基づく共感によって、言語対応のあり方を模索しあう「多言語・翻訳アワー in 滋賀」。
第4回は「ウェブサイトや紙媒体での多言語対応」をテーマに、翻訳業務やウェブサイト開発業務にあたっている方々の経験談・失敗談をもとに、意見交換を行いました。

  • 日時:平成29年11月17日(金曜)18時30分~21時00分
  • 場所:滋賀県庁 本館4階4-A会議室(大津市京町四丁目1-1)
  • 参加者:20名(県内外国人相談員・国際交流員、ウェブサイト開発事業者、外国人向けプロモーション支援事業者、市町行政職員)
  • ゲスト:三好隆之さん(合同会社ロックロブスター)、上野勝之さん(コンクリートファイブジャパン株式会社)、神野春奈さん(株式会社デイアライブ)、大野裕太郎さん(スタジオ・ウミ)

意見交換の内容

1. ウェブサイトやアプリの多言語対応、どうやって構築・運用していますか?

ここ最近、様々な形で機械翻訳のサービスがニュースで取り上げられています。ニュースをみていると近未来な印象を受けますが、一方で誤訳によるトラブルなども耳にします。前半はそんな「機械翻訳」について、その仕組みを学ぶとともに、その向き合い方について意見交換をしました。

システム構築

コンテンツと言語情報の割り当て

様々なサービスを通じて、ウェブサイトは誰もが簡単に構築・公開できるようになりました。しかし多言語化の仕組みを知らない、或いは考慮しないままに多言語のウェブサイトが作られると、特に情報の整理の点で苦労することが多いようです。

  • 私の職場にはブラジル人とアメリカ人(当時)の外国人スタッフがおり、それぞれの出来事をスタッフ日記として一つのブログに掲載しています。でも普通のブログのテンプレートに載せるだけでは、ポルトガル語の記事と英語の記事が混在することになってしまい、ブログ全体で見たときに分かりにくくなると感じています。
  • 在住外国人向け情報提供サイトを5年前にボランティアで作ったのですが、システムで割り当てができず、記事を書く翻訳スタッフが独自にサイトの構成まで触ることになり、とても見辛くなってしまいました。

ウェブサイトを多言語化するためには、ページやコンテンツごとに言語情報を割り当てる必要があります。
今日のウェブサイトの多くは様々なコンテンツ管理システム(Content Management System = CMS)を使って構築・運営されています。そして多言語対応サイトの多くはこの CMS 側で自動的に言語別の割り当てを行えるよう、専用のプラグイン(システムの機能を拡張するプログラム)を別途組み込んだり、標準でサポートされている CMS を選んでいます。
そのようなプラグイン等の存在を知っていればよいのでしょうが、選び方もあるようです。

  • 私が使っているプラグインは、一つの投稿データに対して全ての言語が混在しています。データの頭にjaやenといった言語コードがつけられていて、ウェブ上に表示する際振り分けを行っているのですが、言語数が増えると処理が重くなってしまうことがネックになっています。
  • 多言語化のプラグインはデータベースに大きな変更をもたらすものが多く、ウェブサイトをリニューアルする際、そのプラグインの仕様が邪魔をしてデータベースを引き継げないことがあります。できるだけシステム標準のデータ構造に忠実に沿ったプラグインを採用することで、コンテンツを作った人がプラグインに依存せず自由にデータを移管できるような環境をつくることが大事だと思います。
構造化データ、意味の認識

電話番号ひとつとっても、「077-528-3063」と書いただけでは、機械にはこれが何を意味する文字列なのかがわかりません。これが電話番号であることを示すよう、一つ一つの情報に対して意味づけしていくことが、ウェブ対応では求められます。そのようなデータを「構造化データ」といいます。言葉を世界共通の語彙規格(schema.orgなど)と紐づけることで、データの多言語対応が可能になります。

  • 最近ではGoogleなどの検索サービスが、構造化データの導入を促しています。構造化データを導入することで検索が上位に出やすくなると言われていたり、検索結果から直接営業時間がわかるようにもなるので、ウェブ業界全体として知らず知らずのうちに構造化データが導入されていく機運があると感じます。
  • CMSが構造化データの記述をサポートしてくれていると、開発がすごく楽になります。

また日本語の文字は欧文と異なり単語をスペースで区切りません。このことが機械側の意味の理解に影響を及ぼすようです。

  • 検索エンジンを内蔵しているCMSでも、単語をスペースで区切らない韓国語・中国語・日本語の場合は、検索結果の精度が上がらないことがあります。ウェブにおいても主語や述語を明確にした「やさしい日本語」を心がけていくのがよいのかもしれないですね。

レイアウト・運用

全ての情報を載せきれない、手が回っていない

多言語に対応したシステムが構築できても、今度は対応する言語分の原稿と、その原稿を書ける人が必要になります。その対応で苦慮しているという声もありました。

  • 自分たちで翻訳して公開している外国人向けサイトがありますが、ポルトガル語は更新が止まったままになっています。
  • 私の市のウェブサイトには機械翻訳サービスが入っていますが、スペイン語とポルトガル語については別途職員が翻訳したページを作っています。本来であればすべての情報が翻訳できるとよいのでしょうが、対応できる人の数が足りないため、外国語については必要な情報だけピックアップして載せています。十分ではないとは思っています。
  • 翻訳できる人のリソースが足りないため、言語によって翻訳されている情報数の差が生じることがあります。でも利用者がどの情報が翻訳されていないのかがわからないと不便だろうなと思うことがあります。
ターゲットに応じて見せ方や内容を変える

多言語対応というと、同じ文章を同じレイアウトで翻訳するというイメージを持たれがちですが、商業の場面では、国ごとの背景に応じてアピールすべき見せ方や内容を変えることも普通にあります。

  • 外国人向け観光サイトでも、クライアントに「なぜその言語のサイトをつくるのですか」と尋ねると、いろんな背景を知ることができます。その国から直行便の船が出ているからとか、日本独自の体験が売れるからとか・・・。翻訳したい言語が決まっているということは、そこにはターゲットや背景があるということですから、その背景に応じてウェブサイトのアプローチ方法を変える必要があります。港からのアクセスをわかりやすく載せるとか、高級感のあるデザインにするとか・・・。ただしアプローチを分けるぶん、その商材の根幹もしっかり定めておく必要もあると考えています。
  • 商売の場面では、アメリカ、韓国、東南アジア、それぞれ伝えたい相手が欲しがる情報が変わってきますので、売れるECサイトをつくろうとするとき、単純に日本語の文章をそのまま外国語にしようとはしません。相手が知りたい内容も変わるので、そこが柔軟に対応できていないと、いくらきれいな外国語で書かれていても、お客様は不満を持たれます。
  • ウェブサイトのローカライズでは様々苦労があります。その国の人にライティングをお願いするからその国の人に魅力が伝わるものだと思いますが、例えば観光の場合、その地域に住んでいない翻訳者に対してその地域の魅力をどう伝えたらよいのかとか、ECサイトの場合でも、商品のサンプルを翻訳者に触ってもらえればよいのでしょうが、納期の関係で海外に送る時間も勿体ないし、その辺で苦労しています。
言語が変わると文章量も位置も変わる

見せ方や内容をわけると、当然レイアウトも変わることになります。どのように工夫をしているのでしょうか。

  • デザインしていると文章のなかに強調したい単語が出てきます。文字を大きくしたりするのですが、言語の文法によって単語の位置が変わるため、レイアウトを組む人が翻訳された文だけをもらっても、どの単語の文字を大きくしたらよいかが分からなくなるのです。そのため、最近は翻訳の段階であらかじめ強調すべき箇所を太字でもらうよう翻訳者さんにお願いしています。
  • ウェブサイトでも、文字数の増減を考慮したデザインを心がけるようにしています。翻訳すると言語によって文字数が変わりますので、柔軟なコーディングが必要になります。文字数は長くなる場合もあれば短くなる場合もありまして、ボタンなどのサイズにも影響が出るんですね。そのためボタンなどは最小のサイズを決めておいて、文字数が少なくても余白をつくるようにしておくとか、そういうコーディングの配慮が、普通の日本語サイトと違っているのかなと感じます。翻訳文をレイアウトに流し込んでみて初めて問題がわかるケースもありますので、そういう調整のできるスケジュールを確保することも大切かなと思います。

2. 紙媒体の多言語対応、その悩みを聞かせてください。

後半は紙媒体を中心に、ウェブとはまた異なる問題、また考え方について意見交換を行いました。

外国人住民向け情報紙の実務から

日本人による外国人住民向け広報は概して紙媒体で配布されることが多いのですが、そこには様々な苦労があるようです。県内で情報紙発行に携わっている方からその経験談を伺いました。

  • 私が翻訳を担当している外国人向け情報紙はMicrosoft Wordで作られています。日本語でレイアウトされたWordファイルが届き、それを各翻訳スタッフが翻訳とレイアウト修正を担当しているのです。この日本語からのレイアウト修正が大変で、1枚の紙に入るようにフォントを変えたり行間を小さくするなど各々で工夫するのですが、その結果、言語ごとにフォントや文字の大きさが変わり、同じ情報でも見えかたが変わったりします。
  • 英語の相談員からは「日本語の原稿を英語に打ち替えるんじゃなくて、ポルトガル語の原稿を英語に打ち替えると、レイアウトに影響が出にくい」という声を聞いたことがあります。
  • 文字数も多くなるので崩れてしまうのです。フォントを変えたり行間を小さくするなどいろんな工夫をしていますが、レイアウトまで考えなければならないのが難しいです。

紙媒体の編集をどう考えるか

それぞれ異なるPCで同じレイアウトを組むという制約について、どう対応すればよいのか。今度は技術者の方から意見を伺いました。

  • Microsoft Wordは、文字に合わせてページが送られていくという作りのソフトですから、どうしてもレイアウトが崩れます。Microsoft OfficeですとPublisher、Libre OfficeですとDraw、Adobe InDesignやIllustratorのような、レイアウト主体で文字組みができるソフトを使うのがよいと思います。
  • とある民間企業が発行しているフリーペーパーは多言語対応をしているんですが、同じ文章を翻訳しているのではなく、日本語・英語・中国語、それぞれのコンテンツを用意しているようです。それら一つの冊子に一緒に入っているだけで、共通する情報を日本語から英語に翻訳するとか、同じレイアウトを組むとか、そういうことを考えていないようなんですね。そのような対応も有効なんじゃないかと思います。

ウェブと紙媒体の違い

今回の意見交換会では、ウェブと紙媒体での多言語対応についてお話を伺いましたが、ウェブと紙媒体の違いはどのようなところにあるのでしょうか。

  • 紙媒体ではウェブと違って構造化データのことなどは全く気にしません。DTP(デスクトップパブリッシング、PCを用いた紙媒体の編集・出版作業のこと)は基本的に原稿を一定のスペースに整理するだけなので、ウェブのようにデータをデジタルにどう使うかということは考えません。
  • 紙とウェブでは載せるべき情報が違います。紙は紙で役割があって、ウェブはウェブで役割があるものだと思っています。
  • 観光情報の「その地域へのアクセス情報」ではその違いが顕著かなと思います。ウェブの方だと現地にくる前に調べる人が多いんですが、パンフレットの方は現地で見られることが多いので、その目的の違いで情報を変えています。

長野県木曽町での多言語対応の話

最後に参加者から、長野県木曽町で取り組んだ多言語対応の話を共有していただきました。

  • 多言語サイト制作の知識や経験をもとに、レストランでの写真付き英語メニューをみんなで作るメソッドを提案したことがあります。レストランのメニューは、メニューの名前だけを見ても外国語では何かわからないですが、写真をつけるとわかりますよね。そこで町役場の人と観光協会の人と地元飲食店の人と一緒に、このようなワークショップを開きました。
  • まず必要なのは写真、ノート、はさみ、のり、そして辞書です。テクノロジーは翻訳アプリだけを使います。ノートに料理の写真を貼り、その下に情報を追加していきます。かっこいいメニュー名を考えるのではなく、料金やその料理で使われている材料だけをリストアップしていくのです。翻訳する情報は単語ですので、機械翻訳でも簡単に、確実に使えます。アレルギーとかベジタリアンとか禁煙とか、あとお通しだけのものは予め記されたリストにマルをつける形で対応すればよい。
  • そしてコメントコーナーを設けます。外国人のお客さんにコメントを書いてもらうのです。こうすれば翻訳にお金をかけず、紙媒体で多言語メニューをつくることができるというものです。
  • このように機械翻訳や口コミサイトの特性をアナログに活かしながら紙媒体をつくる工夫も有効ではないでしょうか。
お問い合わせ
滋賀県総合企画部国際課
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