琵琶湖のすぐそば、湖岸の木陰や砂浜の脇にひっそりと立つ、古びた案内板。よく見ると「近江湖の辺の道」と消え入りそうな文字が刻まれています。
それが何を意味するのかよくわからないまま、通り過ぎてしまっている人も多いのではないでしょうか。
この「近江湖の辺の道」の存在に気づき、実際に全コースを歩いた人がいます。アウトドアライフを提案する比良のセレクトショップ「CONNECT(コネクト)」の西村さんです。
西村さんに話を聞いてみたら、この道の知られざる役割と魅力がたっぷり出てきました。
西村さんの仕事は、アウトドアの楽しみ方を提案すること。
滋賀の公園に可能性を感じて調べる中で、園地や湖岸緑地といった自然公園に魅力を感じ、その先で「近江湖の辺の道」の地図に出会いました。
そのとき、ある記憶がよみがえります。
以前、琵琶湖の北端に位置する集落・菅浦を訪れたとき、道が突き当りになった先に「近江湖の辺の道」と書かれた案内板を見ていたのです。
「突き当りかと思った道の先に看板がある。そこに書かれてる矢印はさらに奥を指してる。道というよりも、湖岸の崖ギリギリに人ひとりが通れるような獣道。でもなんか雰囲気がいい」
気になりつつもそのときは先へ進まず、記憶の片隅に残り続けていた光景でした。
調べてみると、近江舞子から近江八幡まで、琵琶湖の北側を半周する遊歩道が「近江湖の辺の道」だと判明。
30年以上前に整備されていて、総距離は約140km。そして地図を見てわかったのは、この道が琵琶湖沿いに点在する湖岸緑地や園地といった自然公園をつないでいるということでした。
「実際にどんな道なのか、自分の目で確かめたくて現地調査を兼ねて歩いてみることにしました」
西村さんはそのコースを4回に分けて完歩。歩いてみると、道はひと言では語れない多様さをもっていました。
琵琶湖の際スレスレを進む道、漁港の脇を抜ける細い路地、ただただまっすぐ続く田んぼ道。
道というより単なる浜辺だったり。
「とくに菅浦の道はワイルドなんですよ。時間が止まったみたいな手つかず感が残ってる。賤ヶ岳から見下ろす余呉湖もきれいでした。誰もいない道を、ワクワクしながらゴールを目指して歩きました」
そしてなにより驚いたのは、飽きなかったこと。ずっと琵琶湖を見つめながら歩く道ですが、時間によっても、見る角度によっても景色が違う。
そんな道中をさらに楽しくしてくれるのが、あの案内板の存在。
次のポイントとメッセージが書いてあります。
「ゴミを持ち帰りください」
「自然を大切に」
「山を汚すな」
「場所によってメッセージも違って、なんか思わず写真を撮りたくなる」と西村さん。古びた看板が、それだけで妙に絵になります。実際に全コースを歩ききった西村さんが、「本当に素晴らしい道だった」と話すのも納得です。
「園地や湖岸緑地といった琵琶湖沿いの自然公園ってすごく魅力があるのに、うまく活用されていない」
そんなもどかしさを感じていた西村さんが、実際に歩いて確かめたのがこの道でした。
「サイクリングやドライブでは気づけないものが、近江湖の辺の道にはある」と言います。
集落の暮らし、道端の草木。歩くペースだからこそ、そういうものがじわじわと見えてくる。
「全部を歩いてわかったのは、この道が地域の魅力の塊だということ。湖岸には何度も訪れてましたが、まだ知らなかった滋賀がここにありました」。
「散歩感覚で部分的に歩くのもおすすめ」とも。
琵琶湖の北端以外はほぼ平坦なので、子どもや年配の方でも歩けます。
ただ、案内板がなくなっていてルートが不明瞭な部分もあるので、念のため地図は持っておいたほうがよさそうです。
自然公園をつなぐように伸びるこの道は、30年以上たったいまも途切れることなく続いています。
「滋賀の豊かな自然と暮らしをつなぎながら、これからも歩みを続けていく道として、もっと多くの人に知ってほしい」西村さんはそう話してくれました。
※本レポートに掲載した風景写真は、CONNECT(コネクト)の西村さんが撮影された写真です。