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第14回 生態学琵琶湖賞 受賞者紹介

津田 敦(つだ あつし)氏

津田 敦(つだ あつし)氏

■ 国立大学法人 東京大学海洋研究所海洋生態系動態部門浮遊生物分野准教授

■ 日本 >>
>> 津田敦氏 「海と鉄と地球環境」 記念講演要旨

● 略歴

(表)
1987年 3月 東京大学大学院農学研究科 水産学専攻博士課程修了 農学博士
1987年 4月 東京大学大学院研究生
1988年11月 東京大学海洋研究所助手
1996年 4月 水産庁北海道区水産研究所海洋環境部 生物環境研究室 室長
2001年 4月 (独)水産総合研究センター北海道区水産研究所亜寒帯海洋環境部生物環境研究室 室長
2003年 4月 東京大学海洋研究所 海洋生態系動態部門 浮遊生物分野 助教授
2007年 4月~ 現職

● 研究分野 

海洋浮遊生物学(鉄散布の浮遊生物群集への影響と二酸化炭素削減技術としての効率性の検討) 

● 主要業績

鉄が生物生産の制限因子となっている外洋海域において、鉄散布をおこなうことにより海洋生物によるCO2吸収機能を強化させる技術の生態系影響と効果性の評価に着目した研究である。温暖化物質である大気中のCO2濃度上昇を抑制するために様々な方策が考えられているが、その中で、海洋生物によるCO2固定量を制限する微量金属の鉄濃度を高めることによって、大気から海洋へのCO2吸収機能を強化させる技術が注目されている。本研究では、鉄不足によって生物によるCO2固定の抑制が顕著な亜寒帯太平洋において、2001年(西海域SEEDS1)、2002年(東海域SERIES)及び2004年(西海域SEEDS 2)に鉄散布実験を行い、生態系への影響を解明するとともに、CO2吸収機能強化手法としての鉄濃度調節操作の評価を行った。

  1. SEEDS 1は北太平洋で行った初めての実験であり、これまで他の海域で実施された実験と比べて、最も高い植物プランクトン密度を記録し、羽状目珪藻(Pseudonitzshia turgidula)から中心目珪藻(Chaetoceros debilis)へのシフトを初めて確認した。P.debilisの増殖速度は2.6回分裂/日と非常に速く、Chl-a濃度は最高で20 mg m-3まで達し、最終的には珪素欠乏によりやや衰退傾向を示したことを明らかにした。
  2. SERIESでは、カナダの研究チームと共同で実験を行い、SEEDS 1で明確でなかった固定された炭素の運命を明らかにした。この実験では、鉄散布実験として初めて植物プランクトンの増殖期~衰退期を明確に確認し、炭素沈降量は当初の予測より低く、動物プランクトン等捕食系やバクテリア等分解系への移動量が多く、二酸化炭素削減技術としての効率(単位鉄添加量に対する炭素沈降量)は、予測より低いことを初めて明らかにした。
  3. SERIESでは、カナダの研究チームと共同で実験を行い、SEEDS 1で明確でなかった固定された炭素の運命を明らかにした。この実験では、鉄散布実験として初めて植物プランクトンの増殖期~衰退期を明確に確認し、炭素沈降量は当初の予測より低く、動物プランクトン等捕食系やバクテリア等分解系への移動量が多く、二酸化炭素削減技術としての効率(単位鉄添加量に対する炭素沈降量)は、予測より低いことを初めて明らかにした。 

● 学術的・社会的貢献と今後への期待

鉄散布による大気から海洋へのCO2吸収機能を強化させる技術の科学的根拠はマーチン仮説(1990)に依存していた。この仮説は、氷河期に南方海洋での鉄供給増加が植物プランクトンに対する鉄制限を解除して、その生産量を増加させ、それに伴う炭素沈降量の増加が大気の低CO2濃度をもたらしたというものである。今回の一連の実験は、マーチン仮説の前半部の鉄制限解除については支持するが、後半の炭素沈降量増加については問題があることを初めて科学的に示したものである。これらの成果が、学術的・社会的に影響力が大きいScience、Natureに発表されたことで、マーチン仮説をよりどころとして鉄散布により大気中のCO2の抑制を図ろうとする安易な動きに大きな抑止力として働いた。これら3回に及ぶ実験は、企画・計画及び実行にいたるまで、国内の他機関の研究者の組織化、カナダと米国チームとの交渉を含めて、候補者が中心となって実現したものであり、プロジェクトマネージメント能力も極めて優れたものをもっていることがわかる。

候補者は、鉄散布実験を起点として、外洋のみならず日本近海域でも窒素、リン、珪素の他に鉄が第4の制限栄養塩として機能していることをあきらかにしており、日本近海での鉄供給メカニズムへの研究に発展していること、鉄濃度調節により固定された炭素の運命をさらに明確にするための長期的研究を展望しており、今後の研究の展開が期待される。 

  1. SEEDS 1は北太平洋で行った初めての実験であり、これまで他の海域で実施された実験と比べて、最も高い植物プランクトン密度を記録し、羽状目珪藻(Pseudonitzshia turgidula)から中心目珪藻(Chaetoceros debilis)へのシフトを初めて確認した。P.debilisの増殖速度は2.6回分裂/日と非常に速く、Chl-a濃度は最高で20 mg m-3まで達し、最終的には珪素欠乏によりやや衰退傾向を示したことを明らかにした。
  2. SERIESでは、カナダの研究チームと共同で実験を行い、SEEDS 1で明確でなかった固定された炭素の運命を明らかにした。この実験では、鉄散布実験として初めて植物プランクトンの増殖期~衰退期を明確に確認し、炭素沈降量は当初の予測より低く、動物プランクトン等捕食系やバクテリア等分解系への移動量が多く、二酸化炭素削減技術としての効率(単位鉄添加量に対する炭素沈降量)は、予測より低いことを初めて明らかにした。
  3. SERIESでは、カナダの研究チームと共同で実験を行い、SEEDS 1で明確でなかった固定された炭素の運命を明らかにした。この実験では、鉄散布実験として初めて植物プランクトンの増殖期~衰退期を明確に確認し、炭素沈降量は当初の予測より低く、動物プランクトン等捕食系やバクテリア等分解系への移動量が多く、二酸化炭素削減技術としての効率(単位鉄添加量に対する炭素沈降量)は、予測より低いことを初めて明らかにした。

● 学術的・社会的貢献と今後への期待 鉄散布による大気から海洋へのCO2吸収機能を強化させる技術の科学的根拠はマーチン仮説(1990)に依存していた。この仮説は、氷河期に南方海洋での鉄供給増加が植物プランクトンに対する鉄制限を解除して、その生産量を増加させ、それに伴う炭素沈降量の増加が大気の低CO2濃度をもたらしたというものである。今回の一連の実験は、マーチン仮説の前半部の鉄制限解除については支持するが、後半の炭素沈降量増加については問題があることを初めて科学的に示したものである。これらの成果が、学術的・社会的に影響力が大きいScience、Natureに発表されたことで、マーチン仮説をよりどころとして鉄散布により大気中のCO2の抑制を図ろうとする安易な動きに大きな抑止力として働いた。これら3回に及ぶ実験は、企画・計画及び実行にいたるまで、国内の他機関の研究者の組織化、カナダと米国チームとの交渉を含めて、候補者が中心となって実現したものであり、プロジェクトマネージメント能力も極めて優れたものをもっていることがわかる。
候補者は、鉄散布実験を起点として、外洋のみならず日本近海域でも窒素、リン、珪素の他に鉄が第4の制限栄養塩として機能していることをあきらかにしており、日本近海での鉄供給メカニズムへの研究に発展していること、鉄濃度調節により固定された炭素の運命をさらに明確にするための長期的研究を展望しており、今後の研究の展開が期待される。
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鄭 明修(Ming-Shiou Jeng ミンシュー ティ)氏

鄭 明修(Ming-Shiou Jeng ミンシュー ティ)氏

■ 中央研究院 生物多様性研究センター研究員

■ 中華民國[台湾] >>
>>鄭明修氏 「海洋永続への道 -台湾海洋の生態系の変遷について-」 記念講演要旨

● 略歴

(表)
1991年 國立臺灣大學海洋研究所博士課程修了Ph.D.
1995年 中央研究院 生物多様性研究センター副研究員
2005年~ 現職

● 研究分野 

 甲殼類動物学・海洋生物学・沿岸水域生態保全(沿岸域の甲殻類動物の生態と多様性に関する研究)

● 主要業績

鄭明修氏は、台湾のすべての珊瑚礁と海岸を30年間調査し、この間の無脊椎動物(主に甲殻類)の生態的遷移を調べてきた。この過程で、台湾南端のKenting国定公園で295種、台湾北東岸で231種、台湾海峡のPenghu諸島で112種を記載し、台湾近海が種多様性の高い水域であることを明らかにした。また、台湾科学院に海洋無脊椎動物の膨大なコレクションを作り上げた。生態学的な業績としては、Xenograpsus testudinatus というカニの生態研究がある。このカニは、台湾北東部の浅い水域に棲んでおり、熱水噴出口から出る毒水で殺された動物プランクトンを食べて生活しているという興味深い生態を発見し、その論文をNatureに発表した。さらに、応用生態学的な研究として、沿岸部の無脊椎動物における重金属の蓄積量を調べ、それが危険なレベルに至っていることを明らかにした。社会的な活動にも熱心で、積極的に環境問題の広報を行い、Penghu諸島のTungsha国立海洋公園の設立や、現在設立中のGreen Islandの海洋保全地区の支援活動も行っている。

● 学術的・社会的貢献と今後への期待

多くの海洋生物を分類学的に記載し、台湾近海における種多様性の高い生態系の存在を示したことは、学術的な貢献度が大きい。また、その研究成果は、台湾近海の生態系の重要性を社会に認識させ、生態系保全に大きく貢献するものでもある。漁業資源として重要な貝類などの沿岸部の無脊椎動物に蓄積している重金属濃度の実態を明らかにし、その問題を提起したことにも社会的に意義がある。さらに、鄭氏は、海洋国立公園や海洋保全地域の設立活動や、学校や様々な場所での講演活動、DVDの制作、テレビや他のメディア等を通しての環境問題の広報を積極的に行っている。これらの活動により、危機に直面している沿岸海洋環境の保全を、リーダーシップをとって推進していくことが強く期待される。

お問い合わせ

滋賀県琵琶湖環境部環境政策課 
電話番号:077-528-3353
FAX番号:077-528-4844
メールアドレス:de00@pref.shiga.lg.jp