皮膚がんの発症に関わる遺伝子変異が生じる新しい機構を発見しました。
滋賀県立成人病センター研究所の野中太一郎研究員と木下和生専門研究員は同センター皮膚科、京都大学医学部、産業医科大学のグループと共同で皮膚がんの発症に関わる遺伝子変異が生じる新しい機構を発見しました。皮膚がんの予防と治療に応用できる発見であると期待されています。
皮膚がんは紫外線によって皮膚細胞の DNA が損傷を受ける結果、遺伝子に変異が生じて発症することが知られています。しかし、皮膚がんの一部には衣服で覆われ紫外線が当たらない部位にできるものがあり、紫外線によらない皮膚がんがどのようにして生じるかは謎でした。本研究では、免疫で重要な働きをする抗体の遺伝子を変異させるAIDが皮膚細胞の遺伝子をも変異させる可能性に着目しました。動物実験と皮膚がん患者の検体を使った解析で、その仮説を支持する結果が得られました。AID は炎症に伴って皮膚細胞で作られるので、炎症が引き金となる皮膚がんに関与すると思われます。AID は紫外線を浴びた細胞でも作られるので、紫外線による皮膚がんの発症にも関わっている可能性もあります。AID の働きを抑えることができれば皮膚がんの予防や新しい治療法になるかもしれません。
本研究は2016年3月14日、The Journal of Clinical Investigation 誌オンライン版に掲載されました。
Taichiro Nonaka,Yoshinobu Toda, Hiroshi Hiai, Munehiro Uemura, Motonobu Nakamura, Norio Yamamoto, Ryo Asato, Yukari Hattori, Kazuhisa Bessho, Nagahiro Minato, Kazuo Kinoshita. Involvement of activation-induced cytidine deaminase in skin cancer development. The Journal of Clinical Investigation
野中太一郎,戸田好信,日合弘,植村宗弘,中村元信,山本典生,安里亮,服部ゆかり,別所和久,湊長博,木下和生. 皮膚癌発症におけるAIDの関与. The Journal of Clinical Investigation
http://www.jci.org/articles/view/81522
第51回滋賀県立成人病センター研究所セミナーを開催しました。
開催日時 2016年2月8日(月)17時15分~18時15分 場所 滋賀県立成人病センター研究所会議室 演題 光イメージング〜 activatable probeからtheranosticsまで 〜 演者 中島 崇仁 先生(群馬大学大学院医学系研究科寄付講座分子画像学 准教授) 要旨 病変を検出する際に、病変部と背景とのコントラストを上昇させることが重要になります。今回は蛍光物質を使った病変部からのシグナルだけをON/OFFできるactivatableという技術を紹介します。また、この蛍光物質の応用として、画像診断(diagnosis)と治療(therapy)を同時に行うtheranosticsという新しい分野から、抗体と蛍光増感剤を利用した光線免疫療法について概説します。 世話人 東 達也
チラシ (PDF:824 KB)
第124回核医学症例検討会にて、東達也総括研究員が発表を行いました。
第124回核医学症例検討会において、東達也総括研究員が発表を行いました。「後腹膜脂肪肉腫の2例」と題して行われた症例検討の発表において、 東研究員はFDG-PET/CTで特徴的な集積を認めた後腹膜脂肪肉腫の2例を症例報告し、病理組織像などと対比することで、FDG-PET/CTにおける脂肪肉腫診断と再発予後予測などの意義についての検討行いました。
開催日 平成28(2016)年2月6日 学会名 第124回核医学症例検討会 開催地 ホテルホップインアミング、尼崎市、兵庫県 発表形式 口演(一般演題) 演題 後腹膜脂肪肉腫の2例 演者 東達也 要旨 FDG-PET/CTで特徴的な集積を認めた後腹膜脂肪肉腫の2例を症例報告した。組織型が脱分化型であった1例では脂肪肉腫結節影の集積は一部軽度、一部中等度、一部で高度に亢進していた。組織型が高分化型であった1例では脂肪肉腫結節影の集積は軽度亢進のみであった。脂肪肉腫において、FDG集積は組織学的なサブタイプと悪性度に関連する傾向があるとされており、脂肪肉腫において、FDG集積は有用な予後因子である可能性が示唆された。
扇田専門研究員が第27回日本めまい平衡医学会総会・学術講演会で発表しました。
発表日 2015年11月26日 学会名 第27回めまい平衡医学会総会・学術講演会 開催地 岐阜市 発表形式 ポスター 演者 扇田秀章 演題 コンピュータを使用したSquare Drawing Test の記録および解析 要旨 遮眼書字検査は福田ら(1959)により報告され、上肢の筋緊張の不均衡を表すとされている。 Square Drawing Test (SDT) は関谷ら(1975)が福田の遮眼書字検査をもとに運動失調を、定量的に評価を行う目的で考案された。今回我々は、SDTをより簡便に記録し、詳細に解析を行うため紙の代わりに、コンピュータ(PC)上で記録および解析を行った。方法は、ペンタブレットの上で記入を行い、結果をWindows上で、オリジナルのプログラムを用いて筆跡に記録を行い、各種パラメータに解析についてもオリジナルのプログラムを用いて行った。記入方法については関谷らの報告に準じておこなった。 具体的には開眼で縦1列に正方形を4個記入。その後閉眼で正方形を1列に4個、2列分記入を行った。京都大学耳鼻咽喉科外来を受診した各種めまい症例を対象として検査を行った。関谷らの報告した各種パラメータについて検討を行った結果、中枢性めまい症例と末梢性めまい症例の間で、失調性を表すパラメータである”蛇行”において有意差を認めた。また、小脳胸郭部腫瘍症例において、腫瘍径が大きくなるにつれて、”蛇行”が大きくなる正の相関を認めた。
第30回名古屋PET症例検討会にて、東総括研究員が症例発表を行いました。
第28回名古屋PET症例検討会において、東達也総括研究員が症例発表を行いました。名古屋PET症例検討会は愛知・岐阜を中心とする東海地方の核医学診断医が年3回集まり、興味あるPET症例を提示・検討する会で、核医学の振興を目的として行われている研究会です。東研究員は2008年より積極的に参加し、現在は運営委員も務めています。今回は、「非特異的な縦隔FDG集積の一例」と題して、肺癌照射後の一例の症例提示を行いました。照射後の縦隔に見られた、特異なFDG集積を紹介し、PET診断医への教育・啓蒙を行いました。
開催日 平成27年11月20日 学会名 第30回名古屋PET症例検討会 開催地 安保ホール、名古屋市、愛知 発表形式 口演(一般演題) 演題 非特異的な縦隔FDG集積の一例 演者 東達也総括研究員 要旨 60歳代の男性、3年前肺癌にて右S6部分切除後。1年前右S3に小結節をを認めたため、精査したところ、前回PETにて肺癌(異時多発ないし転移)+多発リンパ節転移を指摘された。右S3の部分切除後、右肺門部+縦隔のLN転移に対し、外照射+化学療法を行い、奏功したため、経過観察目的にFDG-PET/CTを施行、心臓基部に不整な集積亢進を認め、転移等が疑われた。ベテラン診断医の皆さんにも再教育として役立てていただけるように、症例提示を行った。
第55回日本核医学会学術総会において、加川信也主任研究員、東達也総括研究員と山内浩副所長をはじめとする当研究所の研究員が発表を行いました。
平成27年11月5-7日、第55回日本核医学会学術総会が行われ、当研究所の研究員が下記のように多くの発表を行いました。日本核医学会学術総会は日本核医学会の年に一度の学術総会で、核医学に関する研究・診療を行う医師等が集う学会です。本年は、東京医科大学八王子医療センターの小泉潔教授が会長としてハイアットリージェンシー東京にて開催となり、多くのシンポジウム、講演、ポスター展示などが行われ、また日本核医学会関連の多くの委員会活動などが行われました。
※以降は下記表記に読み替えて記載しています。
発表日 2015年11月5日 学会名 第55回日本核医学会学術総会 開催地 ハイアットリージェンシー東京、東京都新宿区 演題1 蒸留法によるBenzyl [18F]Fluoroacetateの合成基礎検討 演者1 ○加川信也1) 2), 水間広3), 西井龍一1) 4), 東達也1), 山内浩1), 大野正裕3), 高橋和弘3), 尾上浩隆3), 川井恵一2) (1.滋賀成人セ研, 2.金沢大院, 3.理研CLST, 4.宮大医放) 要旨1 我々は、Acetateを[18F]標識したPET診断薬[18F]Fluoroacetate ([18F]FACE)に関して、グリア細胞との関係について着目し、ラット脳虚血-再灌流モデルを用いて検討を行い、虚血性脳血管障害の予後判定を目的とした画像診断法の開発を目指している。[18F]FACEの合成に関しては、これまでに、一般的な合成法であるオンカラム加水分解法、臨床応用へ向けてより簡便で安定なtwo-pot蒸留法、さらに新しい固相抽出技術を利用したone-pot蒸留法など、種々の合成法を確立してきた。 現在、脳への移行性を高める目的で[18F]FACEのベンジルエステル体であるBenzyl [18F]Fluoroacetate (Benzyl [18F]FACE)に着目し、合成法を検討している。今回、HPLCの分離精製を省略した最も簡便な方法であるone-pot蒸留法と逆相カラムによる固相抽出法(目的物を逆相カラムで分離捕集して水洗いした後、少量のエタノールを含む水溶液でBenzyl [18F]FACEを溶出)を組合せた新しい合成方法について検討したので、その結果を報告する。 発表形式2 シンポジウム:分子イメージング:基礎研究から臨床応用まで 演題2 F-18フルオロ酢酸PET検査の霊長類を用いた動物実験から臨床試験まで 演者2 ○西井龍1) 2) 3), 東達也2) 加川信也2) 3), 水間広3), 山内浩2), 岸辺喜彦2)、高橋昌章2), 尾上浩隆3) (1.宮崎大学 医学部 放射線科, 2.滋賀成セ研, 3.理研RIKEN-CLST) 要旨2 日本には優れたがん研究があるにもかかわらず、診断・治療の臨床応用は欧米に比べおくれている面がある。これは画像診断薬開発/臨床応用においても同様である。イメージング薬剤開発には1)標的分子および創薬シーズ発見、2)化合物スクリーニング、3)化合物の最適化、4)前臨床試験、5)安全性試験、6)臨床試験、6)PMDA申請と承認など基礎研究から臨床研究まで多くのステップを経なければならない。 基礎研究はどちらかというと独創性や新規性が重要であるが、臨床などの応用研究になると有用性、実用性、市場性、知財性などが求められる。Bench to bedのスムーズなトランスレーションのためにはこの基礎研究と臨床開発のギャップを埋め、独創的な研究フェーズから臨床応用を見据えた開発フェーズへ研究を展開させる重要がある。 F-18 FDG-PET検査は広く日常診療に用いられているものの、FDGはi)脳や心臓、胃、泌尿器系臓器への強い生理的集積があること、ii)炎症巣にも一定の集積を来し疑陽性所見となること、iii)糖代謝亢進の強くない腫瘍の検出能が高くなく偽陰性所見となることなどの課題も残っており、その有用性には限界がある。それらの弱点をカバーするためにも新規分子イメージングの臨床応用が望まれるところである。 本講演では、我々が行ってきた新規分子イメージングの基礎から臨床応用について、F-18フルオロ酢酸PET開発などを例に紹介する。フルオロ酢酸は生体内の重要なエネルギー代謝の一つであるTCAサイクルに取り込まれ、フルオロクエン酸となり同代謝内で滞留するといわれている。そのTCAサイクルの活性をマーカーにしたF-18フルオロ酢酸PET検査の開発である。 我々はその放射性フッ素標識体F-18フルオロ酢酸を新規合成した。基礎検討を経た後、前臨床研究としてアカゲザルを用いて毒性/安全性試験及び被ばく線量計算を行い、F-18フルオロ酢酸PETが臨床応用可能であることを示した。健常ボランティアを対象にした研究プロトコールにてF-18フルオロ酢酸PET検査の安全性も確認したあと腫瘍疾患の応用、さらに最近では脳神経疾患への基礎および臨床検討も行っているのでそれらも供覧したい。 発表形式3 教育講演 演題3 甲状腺癌のI-131による内用療法 分子標的薬の適応も含めて 演者3 ○東達也1)(1.滋賀県立成人病センター研究所) 要旨3 分化型甲状腺癌(differentiated thyropid cancer以下DTC)に対する放射性ヨウ素I-131内用療法(RAI治療)は我が国では専用の入院病床の不足もあり、あまり普及してこなかった。さらに最新の報告ではDTC患者のRAI治療入院のための待機時間が半年以上である医療機関は50%以上と、深刻な状況は改善されていない。 2011年我々は被膜外浸潤・転移のあるDTC術後RIT例の予後を解析し、全摘術後の初回RITまでの期間が180日を超えると経過中の死亡率が4倍以上上昇することを報告した。これは全国の半数近くの医療機関で、悪性腫瘍の転移を持った患者が無治療で半年近く待たされ、死亡率の上昇というリスクを負わされているということで、大きな社会問題と言えるだろう。 これらの改善を目指した関連学会などの積極的な活動の成果が実を結び、ここ数年で我が国でもDTC診療に関する医療環境は大きく変化しつつあり、大変注目されている。 2010年我が国でも甲状腺腫瘍診療ガイドラインが出版され、また2010年の1,110MBq(low dose) 外来アブレーションの承認、2012年のrhTSH製剤を用いたアブレーション準備法への保険適応の拡大などが相次ぎ、さらに2012年にはNew England Journal からアブレーションにおける、rhTSH法と従来法(甲状腺ホルモン休止法)、low dose法とhigh dose法の大規模ランダマイズ試験が報告され、rhTSH法とlow dose法を組み合わせても良好なアブレーション完遂率が得られるとの結果が示された。 これらをうけて我が国でもlow dose外来アブレーションが活発化し、今後もさらなる普及が期待されている。これらRAI治療に関わる内外の動きを提示し、今後の課題や展望をお示ししたい。 また、2014年に分子標的薬であるソラフェニブの「根治切除不能な分化型甲状腺癌」に対する効能追加が本邦で承認され、これに合わせて患者選択の条件として「RAI治療抵抗性」などが示された。DTCに対するRAI治療の効果判定や臨床経過の実際をお示しするとともに、「RAI治療抵抗性」に対する理解を深め、適切な患者選択の基準を示す。 発表形式4 第16回日本脳神経核医学研究会シンポジウム 演題4 PET/SPECTによる血行力学的脳虚血の評価:理論と実際 演者4 ○山内浩1)(1.滋賀県立成人病センター研究所)
第2回池田理化賞採択通知書授与式及び再生医療分野若手研究者交流会にて、当研究所の西村幸司研究員が講演を行いました。
平成27年10月31日、第2回池田理化賞採択通知書授与式及び再生医療分野若手研究者交流会が東京都の株式会社池田理化本社にて行われ、当研究所の西村研究員が再生医療分野若手研究者交流会にて第2回池田理化賞の受賞講演を行いました。西村研究員は「ダイレクトリプログラミングによる聴神経の再生」と題して講演を行い、グリア細胞からの神経細胞誘導アプローチによる聴神経の再生につき紹介し、専門家の皆さまと議論を深めました。
発表日 2015年10月31日 学会名 第2回池田理化賞採択通知書授与式及び再生医療分野若手研究者交流会 開催地 株式会社池田理化本社5階 大会議室(東京都千代田区鍛冶町1-8-6 神田KSビル) 発表形式 口演 演題 ダイレクトリプログラミングによる聴神経の再生 演者 西村幸司 要旨 一度失われると自発的には再生しない聴神経の再生を目指して、ラセン神経節シュワン細胞から聴神経へのリプログラミングをin vitroで試みた。ラセン神経節シュワン細胞は聴神経の近傍に存在するグリア細胞で、聴神経が障害された後も死滅せずかつ増殖能を失わないために、聴神経の再生に向けてリプログラミングの細胞ソースとして利用できる。 新生児マウス蝸牛切片の免疫組織化学とFACSで選別したSox2陽性ラセン神経節細胞の解析の結果、グリア細胞は普遍的な幹細胞マーカーであるSox2陽性かつ神経堤由来マーカSox10が陽性であった。さらに、強力な神経誘導転写因子Ascl1を強制発現されたSox2陽性グリア細胞から聴神経様神経細胞が誘導された。今後は作成された神経細胞と蝸牛有毛細胞・蝸牛神経核細胞の結合をex vivoさらにはin vivoで検証したい。
山内副所長が第27回日本脳循環代謝学会総会で発表しました。
発表日 2015年10月31日 学会名 第27回日本脳循環代謝学会総会 開催地 富山市 発表形式 口演 演者 山内浩 共同演者 東達也、加川信也、岸辺喜彦、高橋昌章、西井龍一、水間広、高橋和弘、尾上浩隆 演題 アテローム硬化性脳主幹動脈閉塞性疾患による慢性脳虚血と18F-fluoroa cetate取り込み増加 要旨 【目的】2-[18F]-fluoroacetate (18F-FACE)は、中枢神経系グリア酢酸代謝を評価可能と考えられるPET薬剤である。動物実験では、脳虚血に伴ない18F-FACEの取り込みが虚血早期より増加し、最終梗塞体積と関連したため、18F-FACEの取り込み増加は虚血性組織障害のリスクの高い領域を描出している可能性が示唆されたが、ヒトでの評価はされていない。 本研究では、慢性期アテローム硬化性脳主幹動脈閉塞性疾患患者で、18F-FACEの取り込みが血行力学的脳虚血を呈する梗塞のない大脳皮質において増加しているかどうか検討した。 【方法】一側性症候性アテローム硬化性脳主幹動脈閉塞性疾患患者9例(内頸動脈:頭蓋外閉塞4例,頭蓋内閉塞1例,中大脳動脈:閉塞2例,狭窄2例;mRS≦2)を対象とし、慢性期に、15O-gasと18F-FACEを用いたPET検査を行なった。 大脳皮質には梗塞を認めない例である。中大脳動脈大脳皮質に関心領域を設定し、半球平均値を求めた。18F-FACEの取り込みは、投与後40-60分の画像を使用し、血管病変側/健常側取り込み比を解析した。 【成績】全体として、病変側大脳皮質では、健常側と比較して、血流量、酸素代謝率、および血流量/血液量は低下し、酸素摂取率と血液量は増加していたが、18F-FACEの取り込み(SUV)は増加していた。18F-FACEの病変側/健常側取り込み比は、血流量、酸素代謝率と負相関し、酸素摂取率と正相関した。 多変量解析では、18F-FACEの取り込み比増加は、血流量低下(あるいは酸素摂取率増加)および酸素代謝率低下と独立して関連していた。 【結論】アテローム硬化性脳主幹動脈閉塞性疾患患者では、貧困灌流と酸素代謝低下を呈する慢性脳虚血状態にある、梗塞のない大脳皮質において、18F-FACEの取り込みが増加していた。貧困灌流に加えて酸素代謝低下を呈する領域での取り込み増加は、18F-FACEの取り込み増加が、特に虚血性組織障害のリスクの高い領域を描出している可能性を示唆している。
第48回日本甲状腺外科学会学術集会にて、当研究所の東達也研究員が講演を行いました。
平成27年10月30日、第48回日本甲状腺外科学会学術集会が東京都の青山ダイヤモンドホールにて行われ、当研究所の東研究員がランチョンセミナーにおいて教育講演を行いました。東研究員は「分化型甲状腺癌に対する放射性ヨウ素治療現状と展望」と題して講演を行い、放射性ヨウ素内用療法・RI内用療法を中心とした日本国内外の現状、内外のガイドラインの変更点などを紹介し、分子標的薬の登場に伴い大きな変革期を迎えている甲状腺疾患診療の最新動向や、放射性ヨウ素内用療法、アブレーション普及に向けた学会活動の成果などを示し、その普及とさらなる発展を目指して、専門家の皆さんと議論を深めました。
発表日 2015年10月30日 学会名 第48回日本甲状腺外科学会学術集会 開催地 青山ダイヤモンドホール、〒107-0061 東京都港区 北青山3丁目6−8、東京都 発表形式1 口演(ランチョンセミナーでの教育講演) 演題 分化型甲状腺癌に対する放射性ヨウ素治療現状と展望 演者 東達也 要旨 分化型甲状腺癌(differentiated thyropid cancer以下DTC)に対する放射性ヨウ素I-131内用療法(アイソトープ治療、radioactive iodine therapy以下RAI治療)の有用性はすでに数多く報告され、遠隔転移のない症例の再発や癌死に関与する独立予後因子とされ、ハイリスク群でも局所再発、遠隔転移、癌死の低下が期待されてきたが、我が国では専用の入院病床の不足もあり、RAI治療はあまり普及してこなかった。 さらに近年我が国では診療報酬制度でのDPCシステムの導入と国立大学の独立行政法人化をきっかけに、RAI治療入院病床数は減少し、2002年からの10年間で約1/4の減少となる一方、同じ10年間で入院治療件数約75%の増加を示した。最新の報告でもDTC患者のRAI治療入院のための待機時間が半年以上である医療機関は50%以上と、深刻な状況は改善されていない。 2011年我々は被膜外浸潤・転移のあるDTC術後RIT例の予後を解析し、全摘術後の初回RITまでの期間が180日を超えると経過中の死亡率が4倍以上上昇することを報告した。これは全国の半数近くの医療機関で、悪性腫瘍の転移を持った患者が無治療で半年近く待たされ、死亡率の上昇というリスクを負わされているということで、大きな社会問題と言えるだろう。 これらの改善を目指した関連学会などの積極的な活動の成果が実を結び、ここ数年で我が国でもDTC診療に関する医療環境は大きく変化しつつあり、大変注目されている。 2010年我が国でも甲状腺腫瘍診療ガイドラインが出版され、また2010年の1,110MBq(low dose) 外来アブレーションの承認、2012年のrhTSH製剤を用いたアブレーション準備法への保険適応の拡大などが相次ぎ、さらに2012年にはNew England Journal からアブレーションにおける、rhTSH法と従来法(甲状腺ホルモン休止法)、low dose法とhigh dose法の大規模ランダマイズ試験が報告され、rhTSH法とlow dose法を組み合わせても良好なアブレーション完遂率が得られるとの結果が示された。 これらをうけて我が国でもlow dose外来アブレーションが活発化し、開始直後の2012年からすでにDTCに対するRAI治療のうち約20%を占めるに至っており、今後もさらなる普及が期待されている。これらRAI治療に関わる内外の動きを提示し、今後の課題や展望をお示ししたい。 また、2014年に分子標的薬であるソラフェニブの「根治切除不能な分化型甲状腺癌」に対する効能追加が本邦で承認され、これに合わせて患者選択の条件として「RAI治療抵抗性」などが示された。DTCに対するRAI治療の効果判定や臨床経過の実際をお示しするとともに、「RAI治療抵抗性」に対する理解を深め、適切な患者選択の基準を示唆したい。 また2015年10月、米国甲状腺学会が最新の診療ガイドラインを公表した。前回のガイドラインとの比較も交えて、概説したい。
西村幸司専門研究員と扇田秀章専門研究員が第25回日本耳科学会総会・学術講演会で発表しました。
発表日 2015年10月8-10日 学会名 第25回日本耳科学会総会・学術講演会 開催地 長崎ブリックホール(長崎県長崎市) 発表形式1 口演(シンポジスト) 演題1 人工内耳手術に対する内耳機能保存の基礎研究 演者1 西村 幸司 共同演者1 扇田 秀章、伊藤 壽一、山原 康平、山本 典生、中川 隆之、吉川 弥生 要旨1 低音部分は音響刺激で、高音部分は電気刺激で聴神経を刺激する残存聴力活用型人工内耳(EAS: electro-acoustic stimulation)は1999年von Ilbergらが初めて臨床応用し報告した(von Ilberg et al., 1999)。 EASは従来の電気刺激のみの人工内耳に比べて、低音部の残存聴力を活用するために、騒音下での語音弁別(Gantz and Turner, 2003)と音源定位(Dunn et al., 2010)に優れ、音楽も認知できる(Gfeller et al., 2006)。我が国でも2010年8月より厚生労働省から「残存聴力活用型人工内耳挿入術」が高度医療として承認を受け、2014年7月より保険償還され臨床実施ができる。 残存聴力活用型人工内耳手術においては通常の人工内耳よりしなやかで細い人工内耳電極をsoft surgeryで挿入して低音残存聴力の保存が可能である(宇佐美ら、2010; 熊川ら、2014; 茂木ら、2011、2012)。 一方で、症例数が蓄積されるにつれ、電極挿入直後の軽度の聴力閾値上昇(Gantz et al., 2009; Gifford et al., 2008; Podskarbi-Fayette et al., 2010) や、電極挿入後1から6ヶ月で生じる遅発性の聴力閾値上昇(Kopelovich et al., 2015; Santa Maria et al., 2013; Woodson et al., 2010)が報告されている。 前者の原因としては電極挿入時の蝸牛への物理的障害が最も想定されており、障害を最小限にするために臨床では周術期にステロイドの全身投与がなされている(Van Abel et al., 2015; 宇佐美ら、2012)。 動物実験ではステロイドの局所投与(Eshraghi et al., 2007)やMPCポリマーによる人工内耳電極の被覆(Kinoshita et al., 2015)が蝸牛障害の軽減に有効であったと報告されている。後者の原因として、動物実験では血管条の変性(Tanaka et al., 2014)や蝸牛有毛細胞とラセン神経節細胞の求心性シナプスの変性(Kopelovich et al., 2015)が提唱されているが、統一された見解は無い。 臨床現場では年齢、性別、人種、難聴の原因、失聴期間、進行性難聴か否かなど、背景因子が異なるために、人工内耳手術に対する内耳機能保存に重要な新知見が推論されても、それらに対しての因果関係の証明は困難である。一方で、動物実験は背景因子を統一して、仮説の妥当性を検証しやすい利点がある。 この基礎研究の利点を活用して、われわれはこれまでに、インスリン様成長因子−1(IGF-1)の内耳保護効果およびそのメカニズムをin vitroで明らかにしてきた(Hayashi et al., 2013, 2014)。さらに、ステロイド全身投与による治療抵抗性の突発性難聴に対してIGF-1の安全性と有効性をランダム化比較試験により示した(Nakagawa et al., 2014)。 これらの結果を踏まえて、われわれは、人工内耳手術による内耳機能障害の保護においてもIGF-1が重要な役割を果たすと仮説を立てている。仮説の検証のために以下の3つの目的を達成したい。1)低音部に残存聴力がある感音難聴モデル動物の作成。2)人工内耳電極挿入に伴う急性・遅発性の内耳障害の機能的・組織学的評価。3)IGF-1の内耳局所投与による内耳機能保存の有効性の検証。 本シンポジウムではpreliminaryな結果の報告と今後の展開につき発表する予定である。 研究助成1 山本典生京都大学医学部附属病院臨床研究総合センター H27年度探索医療研究助成(シーズA)「IGF-1を用いた残存聴力活用型人工内耳における聴力温存法の開発」 謝辞1 本研究の遂行に必要な動物実験に用いる人工内耳電極を提供して頂きましたMedEl社Claude Jolly博士に深謝いたします。 発表形式2 口演(一般演題) 演題2 ダイレクトリプログラミングによる聴神経の再生 演者2 西村 幸司 共同演者2 野田 哲平、ダァブドゥブ・アラン 要旨2 蝸牛有毛細胞で機械信号から電気信号に変換された音情報は聴神経を経て中枢に伝達される。したがって聴神経は音を内耳から脳に伝える上できわめて重要であり、補聴器や人工内耳が効果的に機能するには聴神経の生存と機能が必要である。 しかし中枢神経系と同様にいちど障害された聴神経は自発的には再生しない。 従来聴神経の障害は、蝸牛有毛細胞障害に続いて生じる二次性障害によるものが大半と考えられてきたが、音響暴露や加齢性に生じる一次性聴神経障害の存在が近年注目を集めている(Engle et al., 2013; Furman et al., 2013; Kujawa and Liberman, 2009; Lin et al., 2011)。 さらに両側人工内耳手術症例の術後の語音弁別能と側頭骨病理による残存聴神経数を比較した研究によると、同一個体内では聴神経数が多い側の耳の語音弁別能が有意に高いことが示されている(Seyyedi et al., 2014)。したがって、聴神経の再生は根本的な感音難聴の治療法開発の端緒となるのみならず、人工内耳の効果を高める上でも重要と考えられる。 聴神経を再生させる方法の一つに遺伝子治療が挙げられる。神経栄養因子、例えばBDNF(Shibata et al., 2011; Wise et al., 2011)、NT-3(Wise et al., 2011)、human beta-nerve growth factor(Wu et al., 2011)などの遺伝子導入による聴神経の保護と神経突起の伸張を目指した内耳遺伝子治療の試みがこれまでに報告されている。 一方でわれわれは、ダイレクトリプログラミングによる聴神経の再生を目指している。 ダイレクトリプログラミングは初期化を介さずに直接体細胞を誘導する技術で線維芽細胞から転写因子MyoDの導入により筋芽細胞を作成したDavisらの報告(Davis et al., 1987) を嚆矢とするが、iPS細胞の樹立以後再び脚光を集めている。線維芽細胞(Vierbuchen et al., 2010)やグリア細胞(Heinrich et al., 2010)から神経へのダイレクトリプログラミングが報告されている。 われわれもAscl1を含む転写因子の強制発現により、生後の蝸牛非感覚上皮から神経細胞への誘導に成功している(Nishimura et al., 2014)。 今回われわれは、聴神経近傍に存在するシュワン細胞を含む非神経細胞に転写因子を強制発現して神経細胞の誘導を試みた。bHLH転写因子のAscl1, Neurog2, NeuroD1のコーディング領域をpIRES2.DsRedExpress2 (Clontech)のマルチクローニング部位に挿入して発現ベクターとした。 神経レポーターマウスとして生後1日齢のTau-GFPマウスを用いた。ラセン神経節から選別した非神経細胞に前述のベクターを導入して培養した細胞を形態学的・免疫細胞化学的・電気生理学的に解析した。誘導された神経細胞はTau-GFP陽性かつDsRed陽性細胞として回収し、トランスクリプトーム解析に用いた。 誘導された神経からは活動電位が記録され、聴神経に特徴的なタンパク(Prox1, Gata3, Map2, TuJ1, Vglut1)の発現を認めた。さらに誘導された神経と蝸牛有毛細胞あるいは蝸牛神経核細胞のシナプス結合をin vitroで検証した。将来的には聴神経の障害モデル動物を用いてin vivoでの聴神経再生を目指したい。
木下専門研究員が平成27年度第4回「地域医療をチームで担う人材育成研修」でがんの分子標的薬について講演しました。
発表日 2015年9月13日 学会名 平成27年度第4回「地域医療をチームで担う人材育成研修」 開催地 滋賀県立成人病センター東館講堂 発表形式 口演 演題 がんの分子標的薬 演者 木下和生 要旨 近年増加する分子標的薬の歴史や特徴を概観し、コンパニオン検査として行われる遺伝子検査がなぜ必要になるのかを、遺伝子パスウェーの観点から解説した。
加川主任研究員が第15回放射性医薬品・画像診断薬研究会にて発表しました。
開催日 2015年9月12日 学会名 第15回放射性医薬品・画像診断薬研究会 開催地 京都市左京区 演題 one-pot蒸留法による[18F]FACEの合成:オンカラム加水分解法とtwo-pot蒸留法との比較 演者 加川信也 共同演者 矢倉栄幸、水間広、西井龍一、東達也、山内浩、大野正裕、高橋和弘、尾上浩隆、川井恵一 要旨 我々は、虚血性脳血管障害の予後判定を目的とした画像診断法の開発を目指し、Acetateを[18F]標識したPET診断薬[18F]Fluoroacetate ([18F]FACE)に着目し、いくつかの合成法について比較検討してきた。初めは一般的な合成法である(1)オンカラム加水分解法を、次に臨床応用へ向けてより簡便な(2)two-pot蒸留法を、さらに新しい固相抽出技術(中間体の加水分解、[18F]FACEのトラップ、洗浄、NaClによる[18F]FACEの溶出の4工程をカラム上で行う方法)を利用した(3)one-pot蒸留法をそれぞれ確立した。 その結果、one-pot蒸留法では、オンカラム加水分解法と比較して、最後の中和工程を省略でき、しかも高品位な薬剤を合成できた。また、前二法に比べて、合成装置部品が約7割程度に簡素化できた。one-pot蒸留法は、今後の[18F]FACE普及の上で優れた合成法であることが明らかとなった。
第1回Thyroid Cancer Workshop in Wakayamaにて、当研究所の東達也研究員が特別講演を行いました。
平成27年9月10日、日本耳鼻咽喉科学会和歌山地方部会が主催、ジェンザイム・ジャパン株式会社が共催する、第1回Thyroid Cancer Workshop in Wakayamaが和歌山市の県民交流プラザ和歌山ビッグ愛にて行われ、当研究所の東研究員が特別講演を行いました。東研究員は今回「分化型甲状腺癌に対する放射性ヨウ素治療現状と展望」と題して講演を行い、放射性ヨウ素内用療法・RI内用療法を中心とした日本国内外の現状、内外のガイドラインの変更点などを紹介し、分子標的薬の登場に伴い大きな変革期を迎えている甲状腺疾患診療の最新動向や、放射性ヨウ素内用療法、アブレーション普及に向けた学会活動の成果などを示し、その普及とさらなる発展を目指して、専門家の皆さんと議論を深めました。
発表日 平成27(2015)年9月10日 学会名 第1回Thyroid Cancer Workshop in Wakayama 開催地 県民交流プラザ和歌山ビッグ愛、和歌山市手平21-2、和歌山県 発表形式 口演(特別講演) 演題 分化型甲状腺癌に対する放射性ヨウ素治療現状と展望 演者 東達也(特別講演) 要旨 分化型甲状腺癌(differentiated thyropid cancer以下DTC)に対する放射性ヨウ素I-131内用療法(アイソトープ治療、radioactive iodine therapy以下RAI治療)の有用性はすでに数多く報告され、遠隔転移のない症例の再発や癌死に関与する独立予後因子とされ、ハイリスク群でも局所再発、遠隔転移、癌死の低下が期待されてきたが、我が国では専用の入院病床の不足もあり、RAI治療はあまり普及してこなかった。 さらに近年我が国では診療報酬制度でのDPCシステムの導入と国立大学の独立行政法人化をきっかけに、RAI治療入院病床数は減少し、2002年からの10年間で約1/4の減少となる一方、同じ10年間で入院治療件数約75%の増加を示した。最新の報告でもDTC患者のRAI治療入院のための待機時間が半年以上である医療機関は50%以上と、深刻な状況は改善されていない。 2011年我々は被膜外浸潤・転移のあるDTC術後RIT例の予後を解析し、全摘術後の初回RITまでの期間が180日を超えると経過中の死亡率が4倍以上上昇することを報告した。これは全国の半数近くの医療機関で、悪性腫瘍の転移を持った患者が無治療で半年近く待たされ、死亡率の上昇というリスクを負わされているということで、大きな社会問題と言えるだろう。 これらの改善を目指した関連学会などの積極的な活動の成果が実を結び、ここ数年で我が国でもDTC診療に関する医療環境は大きく変化しつつあり、大変注目されている。 2010年我が国でも甲状腺腫瘍診療ガイドラインが出版され、また2010年の1,110MBq(low dose) 外来アブレーションの承認、2012年のrhTSH製剤を用いたアブレーション準備法への保険適応の拡大などが相次ぎ、さらに2012年にはNew England Journal からアブレーションにおける、rhTSH法と従来法(甲状腺ホルモン休止法)、low dose法とhigh dose法の大規模ランダマイズ試験が報告され、rhTSH法とlow dose法を組み合わせても良好なアブレーション完遂率が得られるとの結果が示された。 これらをうけて我が国でもlow dose外来アブレーションが活発化し、開始直後の2012年からすでにDTCに対するRAI治療のうち約20%を占めるに至っており、今後もさらなる普及が期待されている。これらRAI治療に関わる内外の動きを提示し、今後の課題や展望をお示ししたい。 また、2014年に分子標的薬であるソラフェニブの「根治切除不能な分化型甲状腺癌」に対する効能追加が本邦で承認され、これに合わせて患者選択の条件として「RAI治療抵抗性」などが示された。DTCに対するRAI治療の効果判定や臨床経過の実際をお示しするとともに、「RAI治療抵抗性」に対する理解を深め、適切な患者選択の基準を示唆したい。 また2011年の東日本大震災と福島原発の事故をうけ、被ばく教育の重要性なども注目されている。本講演では関連学会などでの様々な取り組みをご紹介したいと考えている。
加川信也主任研究員が、9月2日から5日までアメリカのホノルルで開催された世界分子イメージング学会にて発表しました。
世界初のPET薬剤であるBenzyl [18 F]FACE([18 F]FACE誘導体)についての基礎及び臨床合成研究の2演題の発表です。
※以降は下記表記に読み替えて記載しています。
発表日 2015年9月2日 学会名 WMIC(2015 World Molecular Imaging Congress;世界分子イメージング学会) 開催地 ボルチモア(アメリカ) 演題1 Development of Benzyl [18F]Fluoroacetate Radiosynthesis for PET Imaging of Ischemic Brain Injury 演者1 加川信也(主任研究員) 共同演者1 Hiroshi Mizuma3, Ryuichi Nishii4, Tatsuya Higashi1, Hiroshi Yamauchi1, Masahiro Ohno 3 , Hiroyuki Tateishi 3, Kazuhiro Takahashi 3, Hirotaka Onoe 3, Keiichi Kawai 2 1) Shiga Medical Center Research Institute, 2) Graduate School of Medical Science, Kanazawa University, 3) Division of Bio-Function Dynamics Imaging, RIKEN Center for Life Science Technologies (CLST), 4) Department of Radiology, Faculty of Medicine, University of Miyazaki 演題2 Accumulation of [18F]FACE in cerebral ischemia 共同演者2 Hiroshi Mizuma1, Shinya Kagawa2, Masahiro Ohno1 , Kyoko Kakumoto1 , Yoshino Matsumoto1 , Tatsuya Higashi2, Ryuichi Nishii3, Hirotaka Onoe 3, Hirotaka Onoe 1 1) Division of Bio-Function Dynamics Imaging, RIKEN Center for Life Science Technologies (CLST), 2) Shiga Medical Center Research Institute, 3) Department of Radiology, Faculty of Medicine, University of Miyazaki 要旨 世界初のPET薬剤であるBenzyl [18F]FACE([18F]FACE誘導体)及び関連薬剤である[18F]FACEの理化学研究所と宮崎大学による共同研究であり、基礎から臨床合成に関わる発表2演題です(標識合成法の開発、動物を用いた基礎検討)。第1題は、[18F]FACEの誘導体であるBenzyl [18F]FACEの臨床使用に向けて、標識合成、品質評価を検討しました。 第2題は、脳血管障害における[18F]FACEの集積機序についての報告です。これらの2演題により、滋賀県立成人病センターでの[18F]FACEを用いた脳血管障害の研究が世界をリードしており、今後の研究成果が期待される内容でありました。
第123回核医学症例検討会にて、東達也総括研究員が発表を行いました。
第123回核医学症例検討会において、東達也総括研究員が発表を行いました。「特異な全身FDG像を呈した胃がん術後の一例」と題して行われた症例検討の発表において、 東研究員はFDG-PET/CTで肝臓の集積が低下した、低栄養状態の胃がん術後一例を症例報告し、栄養状態の指標血清アルブミン値などと対比することで、FDG-PET/CT診断における栄養状態の影響とその意義についての検討行いました。
開催日 平成27(2015)年8月8日 学会名 第123回核医学症例検討会 開催地 ホテルホップインアミング、尼崎市、兵庫県 発表形式 口演(一般演題) 演題 特異な全身FDG像を呈した胃がん術後の一例 演者 東達也 要旨 FDG-PET/CTで肝臓の集積が低下した、低栄養状態の胃がん術後一例を症例報告した。胃がん術後の食思不振と癌性腹膜炎・腹膜播種の両者により生理的な肝臓集積は低下し、腹腔内の集積は軽度亢進していた。生理的な肝臓のFDG集積に影響を与える病態を検討刷るため、採血結果、とくに栄養状態の指標血清アルブミン値などと肝臓集積を対比することで、FDG-PET/CT診断における栄養状態の影響とその意義についての検討行った。
第16回鹿児島甲状腺疾患研究会にて、当研究所の東達也研究員が特別講演を行いました。
平成27年7月31日、鹿児島甲状腺疾患研究会が主催、あすか製薬株式会社が共催する、第16回鹿児島甲状腺疾患研究会が鹿児島市の城山観光ホテルにて行われ、当研究所の東研究員が特別講演を行いました。東研究員は今回「甲状腺がん診療と放射性ヨウ素内用療法課題と展望」と題して講演を行い、放射性ヨウ素内用療法・RI内用療法を中心とした日本国内外の現状、内外のガイドラインの変更点などを紹介し、分子標的薬の登場に伴い大きな変革期を迎えている甲状腺疾患診療の最新動向や、放射性ヨウ素内用療法、アブレーション普及に向けた学会活動の成果などを示し、その普及とさらなる発展を目指して、専門家の皆さんと議論を深めました。
開催日 平成27(2015)年7月31日 学会名 第16回鹿児島甲状腺疾患研究会 開催地 城山観光ホテル、鹿児島市新照院町41-1、鹿児島県 発表形式 口演(特別講演) 演題 甲状腺がん診療と放射性ヨウ素内用療法課題と展望 演者 東達也(特別講演) 要旨 分化型甲状腺癌(differentiated thyropid cancer以下DTC)に対する放射性ヨウ素I-131内用療法(アイソトープ治療、radioactive iodine therapy以下RAI治療)の有用性はすでに数多く報告され、遠隔転移のない症例の再発や癌死に関与する独立予後因子とされ、ハイリスク群でも局所再発、遠隔転移、癌死の低下が期待されてきたが、我が国では専用の入院病床の不足もあり、RAI治療はあまり普及してこなかった。 さらに近年我が国では診療報酬制度でのDPCシステムの導入と国立大学の独立行政法人化をきっかけに、RAI治療入院病床数は減少し、2002年からの10年間で約1/4の減少となる一方、同じ10年間で入院治療件数約75%の増加を示した。最新の報告でもDTC患者のRAI治療入院のための待機時間が半年以上である医療機関は50%以上と、深刻な状況は改善されていない。2011年我々は被膜外浸潤・転移のあるDTC術後RIT例の予後を解析し、全摘術後の初回RITまでの期間が180日を超えると経過中の死亡率が4倍以上上昇することを報告した。 これは全国の半数近くの医療機関で、悪性腫瘍の転移を持った患者が無治療で半年近く待たされ、死亡率の上昇というリスクを負わされているということで、大きな社会問題と言えるだろう。 これらの改善を目指した関連学会などの積極的な活動の成果が実を結び、ここ数年で我が国でもDTC診療に関する医療環境は大きく変化しつつあり、大変注目されている。 2010年我が国でも甲状腺腫瘍診療ガイドラインが出版され、また2010年の1,110MBq(low dose) 外来アブレーションの承認、2012年のrhTSH製剤を用いたアブレーション準備法への保険適応の拡大などが相次ぎ、さらに2012年にはNew England Journal からアブレーションにおける、rhTSH法と従来法(甲状腺ホルモン休止法)、low dose法とhigh dose法の大規模ランダマイズ試験が報告され、rhTSH法とlow dose法を組み合わせても良好なアブレーション完遂率が得られるとの結果が示された。 これらをうけて我が国でもlow dose外来アブレーションが活発化し、開始直後の2012年からすでにDTCに対するRAI治療のうち約20%を占めるに至っており、今後もさらなる普及が期待されている。これらRAI治療に関わる内外の動きを提示し、今後の課題や展望をお示ししたい。 また、2014年に分子標的薬であるソラフェニブの「根治切除不能な分化型甲状腺癌」に対する効能追加が本邦で承認され、これに合わせて患者選択の条件として「RAI治療抵抗性」などが示された。DTCに対するRAI治療の効果判定や臨床経過の実際をお示しするとともに、「RAI治療抵抗性」に対する理解を深め、適切な患者選択の基準を示唆したい。 また2011年の東日本大震災と福島原発の事故をうけ、被ばく教育の重要性なども注目されている。本講演では関連学会などでの様々な取り組みをご紹介したいと考えている。
山内副所長らが脳血管障害患者におけるフルオロ酢酸PET研究をStroke誌に論文発表しました。
ヒトにおいて、脳虚血領域でフルオロ酢酸の取り込みが増加していること初めて示しました。
掲載日 2015-07-30 掲載雑誌名 Stroke 2014; doi:10.1161/STROKEAHA.115.010080 著者 Hiroshi Yamauchi, Shinya Kagawa, Yoshihiko Kishibe, Masaaki Takahashi, Ryuichi Nishii, Hiroshi Mizuma, Kazuhiro Takahashi, Hirotaka Onoe, and Tatsuya Higashi 表題 Increase in [18F]-Fluoroacetate Uptake in Patients With Chronic Hemodynamic Cerebral Ischemia 要旨 Background and Purpose:[18F]-fluoroacetate (18F-FACE) can be used for evaluating glial cell metabolism. Experimental studies have shown an increase in 18F-FACE uptake in rodent models of cerebral ischemia. The aim of this study was to determine whether 18F-FACE uptake is increased in the noninfarcted cerebral cortex in patients with hemodynamic ischemia owing to atherosclerotic internal carotid artery or middle cerebral artery disease. Methods:We evaluated 9 symptomatic patients with unilateral atherosclerotic internal carotid artery or middle cerebral artery disease and no cortical infarction using positron emission tomography with 18F-FACE and 15O-gases. 18F-FACE uptake during 40 to 60 minutes after injection was compared with the cerebral blood flow, cerebral metabolic rate of oxygen, oxygen extraction fraction, and cerebral blood volume in the middle cerebral artery distributions. Results:Significant decreases of cerebral blood flow and cerebral metabolic rate of oxygen and increases of oxygen extraction fraction and cerebral blood volume were found in the hemisphere ipsilateral to the arterial lesion, and 18F-FACE uptake in this region was greater than that in the contralateral hemisphere. The relative 18F-FACE uptake (ipsilateral/contralateral ratio) was negatively correlated with cerebral blood flow or cerebral metabolic rate of oxygen values and was positively correlated with oxygen extraction fraction values. Multivariate analysis showed that the ipsilateral/contralateral 18F-FACE uptake ratio was independently correlated with the cerebral blood flow (or oxygen extraction fraction) and cerebral metabolic rate of oxygen values. Conclusions:In patients with atherosclerotic internal carotid artery or middle cerebral artery disease, 18F-FACE uptake is increased in the noninfarcted cerebral cortex with chronic hemodynamic ischemia characterized by misery perfusion with decreased oxygen metabolism. Increased 18F-FACE uptake may indicate the cortical regions that are at particular risk for ischemic damage.
第29回名古屋PET症例検討会にて、東総括研究員が発表を行いました。
第29回名古屋PET症例検討会において、東達也総括研究員が症例検討・発表を行いました。名古屋PET症例検討会は愛知・岐阜を中心とする東海地方の核医学診断医が年3回集まり、興味あるPET症例を提示・検討する会で、核医学の振興を目的として行われている研究会です。東研究員は2008年より積極的に参加し、現在は運営委員も務めています。今回は、「膵腫瘤の一例」と題したクイズ形式の症例提示に対し、画像読影、症例検討を行いました。種々の後腹膜腫瘍とその画像の特徴を紹介し、PET診断医への教育・啓蒙を行いました。
発表日 2015年7月10日 学会名 第29回名古屋PET症例検討会 開催地 名鉄グランドホテル、名古屋市、愛知 発表形式 口演(症例検討・発表) 演題 膵腫瘤の一例 (木沢記念病院出題) 演者 東達也総括研究員 要旨 60歳代の男性、腹痛を認め、採血上、白血球数の上昇、CEA値の軽度高値を認めたため、CT, MRI精査したところ、後腹膜腫瘤を指摘された。FDG-PET/CT上、同部に不均一な集積亢進を認め、腫瘍病変が疑われた。種々の鑑別診断を行ったが、最終結果は「膵腺房細胞がん」であった。PET診断初学者はもとより、ベテラン診断医の皆さんにも再教育として役立てていただけるように、クイズ症例に対し画像読影・検討・発表を行った。
第50回滋賀県立成人病センター研究所セミナーを開催しました。
タイトル 第50回滋賀県立成人病センター研究所セミナー 開催日時 2015年6月29日(月)17時15分~18時15分 場所 滋賀県立成人病センター研究所会議室 演題 外傷性脳損傷後遺症の神経基盤 演者 上田 敬太 先生(京都大学医学部附属病院/精神科神経科/助教) 要旨 外傷性脳損傷は、(1)直達外力によって生じる局所脳損傷 (前頭葉眼窩面・側頭極を含む側頭底面に生じやすい)、(2)回転による剪断力により生じるびまん性軸索損傷 (Diffuse axonal injury: DAI) に大きく分類される。 局所脳損傷、特に前頭葉眼窩面から腹内側面の障害では、脱抑制や衝動性が生じやすいとされ、われわれの研究においても情動認知の障害が生じることがわかっている。一方で、びまん性軸索損傷については、後遺症の症候学的特徴や神経基盤についての研究はわずかである。特に社会生活の困難さの原因となる社会行動障害、社会認知の障害については、脳損傷全般において十分な研究はなされていない。 われわれの予備的検討では、びまん性軸索損傷群において、脳梁などの白質だけでなく、前部帯状回、視床、被殻などの中心構造に加え、両側の島皮質・扁桃体にも体積低下が生じていることが明らかになった。また、こういった体積低下部位と神経心理・精神医学的所見との関連性についても検討し、抑うつ傾向と前部帯状回、アパシー傾向と前部帯状回、島皮質との関連を見いだした。また、白質に関する予備的検討では、脳梁の体積減少と処理速度の低下との間に強い関連を見いだした。 びまん性軸索損傷群に認められる脳萎縮の原因としては、近年アミロイドおよびTau蛋白の沈着が注目されている。特に、繰り返しの頭部打撲後に生じる脳萎縮について、スポーツ外傷(アメリカンフットボール、ボクシングなど)が問題となっており、研究報告も増えつつある。繰り返しの無い頭部外傷については研究は少なく、特にびまん性軸索損傷のin vivo研究は、この領域の知見を増やすことに大きく寄与すると予想される。 連絡先 東達也
第77回日本耳鼻咽喉科臨床学会学術講演会にて、東達也総括研究員が2つの講演を行いました。
第77回日本耳鼻咽喉科臨床学会学術講演会において、東達也総括研究員が放射性ヨウ素治療に関する教育講演を2題行いました。6/25日のランチョンセミナーでは、「分化型甲状腺癌に対する放射性ヨウ素治療―最近のトピックス―」と題した教育講演を、6/26日のモーニングセミナーでは、「分子標的治療を考慮した分化型甲状腺癌に対する放射性ヨウ素治療」と題した教育講演を行いました。前者では、核医学治療の一つであるI-131を用いた放射性ヨード内用療法の基礎と現状について講演し、内用療法の国内の医療環境や最近の外来アブレーションをめぐる内外での動きなど、最近のトピックスについて報告しました。後者では、2014, 2015年に相次いだ分子標的薬の甲状腺分化癌に対する保険承認を受けて、治療適応となる条件、「放射性ヨウ素治療不応」を実際のケースに基づいて紹介し、分化型甲状腺癌における分子標的薬治療の意義を示しました。
発表日 2015年6月25-26日 学会名 第77回日本耳鼻咽喉科臨床学会学術講演会 開催地 アクトシティ浜松、浜松市、静岡県 発表形式1 口演(教育講演:ランチョンセミナー) 演題1 分化型甲状腺癌に対する放射性ヨウ素治療~最近のトピックス~ 演者1 東達也 要旨1 分化型甲状腺癌(differentiated thyroid cancer以下DTC)に対する放射性ヨウ素治療(放射性ヨウ素I-131内用療法、アイソトープ治療、radioactive iodine therapy以下RAI治療)の有用性はすでに数多く報告されてきており、遠隔転移のない症例の再発や癌死に関与する独立予後因子とされ、ハイリスク群でも局所再発、遠隔転移、癌死の低下が期待されてきた。 一方、我が国では専用の入院病床の不足もあり、日本核医学会の推計ではRAI治療が必要と考えられる推定患者数年間7,000例に対し、実施治療件数は3,000程度に留まり、DTCに対するRAI治療はあまり普及してこなかった。 さらに近年我が国では2003年の診療報酬制度でのDPCシステムの導入と2004年の国立大学の独立行政法人化をきっかけに、「非採算部門」であるRAI治療入院病床数は減少し、2002年の188床から10年後139ベッドとなり、約1/4の減少となった。これは同じ10年間で約75%の増加を示した入院治療件数とは対称的である。 2011年我々は被膜外浸潤・転移のあるDTC術後RIT例の予後を解析し、全摘術後の初回RITまでの期間が180日を超えると経過中の死亡率が4倍以上上昇することを報告した。最新の報告でもDTC患者のRAI治療入院のための待機時間が半年以上である医療機関は50%以上と、深刻な状況は改善されていない。これは全国の半数近くの医療機関で、悪性腫瘍の転移を持った患者が無治療で半年近く待たされ、死亡率の上昇というリスクを負わされているという事態を意味するものであり、大きな社会問題と言えるだろう。 これらの改善を目指した関連学会などの積極的な活動の成果が実を結び、ここ数年で我が国でもDTCに関する医療環境は大きく変化しつつあり、大変注目されている。 2010年我が国でも甲状腺腫瘍診療ガイドラインが出版され、アブレーションやリコンビナントTSH(rhTSH)製剤が推奨された。また2010年の1,110MBq(low dose) 外来アブレーションの承認、2012年のrhTSH製剤を用いたアブレーション準備法への保険適応の拡大などが相次ぎ、low dose外来アブレーションへの環境が整った。 さらに2012年にはNew England Journal からアブレーションにおける、rhTSH法と従来法(甲状腺ホルモン休止法)、low dose法とhigh dose法の大規模ランダマイズ試験が報告され、rhTSH法とlow dose法を組み合わせても良好なアブレーション完遂率が得られるとの結果が示された。 これらをうけて我が国でもlow dose外来アブレーションが活発化、開始直後の2012年からすでにDTCに対するRAI治療のうち約20%を占めるに至っており、今後もさらなる普及が期待されている。また2011年の東日本大震災と福島原発の事故をうけ、甲状腺癌や被ばくに関する国民の関心の高まりもあり、従来法よりも被ばく低減に繋がるrhTSH法でのlow dose外来アブレーションがさらに注目されている。 本講演ではrhTSH法でのlow dose外来アブレーションのさらなる普及を期待して、これらのDTCに関する医療環境の変化を最近のトピックスとして改めてご紹介したい。 発表形式2 口演(教育講演:モーニングセミナー) 演題2 分子標的治療を考慮した分化型甲状腺癌に対する放射性ヨウ素治療 演者2 東達也 要旨2 分化型甲状腺癌(differentiated thyropid cancer以下DTC)に対する放射性ヨウ素治療(放射性ヨウ素I-131内用療法、アイソトープ治療、radioactive iodine therapy以下RAI治療)は、遠隔転移のない症例の再発や癌死に関与する独立予後因子とされ、ハイリスク群でも局所再発、遠隔転移、癌死の低下が示唆されるなど、その有用性はすでに確立されているが、我が国では専用の入院病床の不足もあり、DTCに対するRAI治療はあまり普及してこなかった。 近年、甲状腺腫瘍診療ガイドラインが出版され、1,110MBq(low dose) 外来アブレーションの承認、rhTSH製剤を用いたアブレーション準備法への保険適応の拡大が相次ぐなど、非転移例でのlow dose外来アブレーションによる治療が拡大しつつあり、我が国でもDTCに関する医療環境はやや改善しつつある。 その一方で、転移を有する重症例に目を向けると、まだまだ状況に改善は見られない。最新の報告でもRAI治療入院のための待機時間が半年以上である医療機関は50%以上と、深刻な入院病床不足の状況は続いている。 2011年我々は被膜外浸潤・転移のあるDTC術後RIT例の予後を解析し、全摘術後の初回RITまでの期間が180日を超えると経過中の死亡率が4倍以上上昇することを報告した。これは全国の半数近くの医療機関で、悪性腫瘍の転移を持った患者が無治療で半年近く待たされ、死亡率の上昇というリスクを負わされているという事態を意味するものであり、大きな社会問題と言えるだろう。 2014年6月に分子標的薬であるソラフェニブの「根治切除不能な分化型甲状腺癌」に対する効能追加が本邦で承認された。これまで遠隔転移を有する多くのDTC患者にとってRAI治療は代替治療のない「最後の砦」であり、仮にRAI治療が効果ない場合でもいたずらにRAI治療を繰り返さざるを得ないケースが多かったことを考えると、患者にも医療者にも大変な朗報であり、その適切な臨床使用が広がれば、入院病室不足を解消する一つの方策にもなり得るものとして大いに期待されている。 一方、有害事象の存在等を考慮すれば慎重な適応患者の選択が必要となるため、甲状腺癌薬物療法委員会、日本核医学会が合同で示した指針(2014年10月)にも、患者選択上の重要な条件として、「RAI治療抵抗性」「進行性」などが示された。これらの定義については同指針でも詳細な記述がなされているが、実臨床では判断の難しい症例に遭遇することも多いものと推察される。 演者自身にはソラフェニブの使用経験がないため、その臨床利用の実際に関しては他演者に譲るが、本講演では転移を有するDTC患者における我々の豊富な治療経験から、DTCに対するRAI治療の効果判定や臨床経過の実際をお示しするとともに、明らかに効果ある症例、ない症例、効果の判定の難しい症例、「進行性」の判断の難しい症例などの提示に加え、「RAI治療抵抗性」患者をRAI治療で継続治療せざるを得なかった症例、半葉切除後にRAI治療を行った症例なども可能な限りお示しする予定である。 実臨床に携わる先生方との議論を通じて、「RAI治療抵抗性」や「進行性」に対する理解を深め、適切な患者選択の基準を示唆することで、ソラフェニブ臨床利用のさらなる促進に繋がればと考えている。
谷垣専門研究員が難治性の脳腫瘍神経膠芽腫(グリオブラストーマ)に対し、新しい治療効果が期待される分子標的薬の相互作用を発見し研究論文を発表しました。
滋賀県立成人病センター研究所谷垣健二専門研究員らは、亜ヒ酸が神経膠芽腫のMyc 阻害薬(10058F4) への感受性を増加させることを見出し、アメリカの科学・医学雑誌である『プロスワン誌』に論文を掲載しました。滋賀医科大学脳神経外科野崎和彦教授、滋賀医科大学分子神経科学研究センターMR医学分野椎野顯彦准教授、京都大学脳神経外科宮本享教授らとの共同研究グループの成果です。本研究は難治性である神経膠芽腫の新たな分子標的治療法の開発につながることが期待されます。
経膠芽腫は根治に至るのが非常に難しい脳腫瘍の一つであり、抜本的な治療法が未だないため、新たな治療法の開発が待たれています。Mycは神経膠芽腫の癌幹細胞の維持や、癌細胞の生存に必須のグルコース分解やグルタミン分解等の代謝調節に重要な役割を果たしている癌遺伝子です。そのため、Mycという分子を治療の標的とした薬剤(分子標的薬)が開発されてきましたが、生体内で有効な治療効果を持つ薬剤の開発には至っていませんでした。今回、谷垣専門研究員らは、急性前骨髄球性白血病の治療にも用いられる亜ヒ酸が神経膠芽腫のMyc 阻害薬(10058F4) への感受性を増加することを見出し、ヒトの神経膠芽腫癌幹細胞をマウスに移植した神経膠芽腫モデルにおいても亜ヒ酸と10058F4 の同時投与が生体内でも腫瘍退縮効果を持つことを明らかにしました。さらに、亜ヒ酸が神経膠芽腫の癌幹細胞維持に必須の役割を持つNotchシグナルの阻害剤とは相互作用しないことを見出しました。亜ヒ酸と10058F4との相互作用は癌幹細胞維持でなく代謝調節を介している可能性が考えられます。今回の我々の研究は、悪性度の高い神経膠芽腫の効果の高い新たな治療法の開発につながるのではと期待されます。
タイトル:Arsenic trioxide sensitizes glioblastoma to a Myc inhibitor
(「亜ヒ酸は神経膠芽腫のMyc 阻害剤への感受性を高める」)
Yayoi Yoshimura, Akihiko Shiino, Kazue Muraki, Tadateru Fukami, Shigeki Yamada, Takeshi Satow, Miyuki Fukuda, Masaaki Saiki, Masato Hojo, Susumu Miyamoto, Nobuyuki Onishi, Hideyuki Saya, Toshiro Inubushi, Kazuhiko Nozaki, Kenji Tanigaki
掲載誌名:プロスワン誌 (プレス解禁日時:日本時間2015年6月4日午前3時(2015年6月3日(水)午後2時))記事
図1 ヒト神経膠芽腫癌幹細胞を移植したマウスで認められた脳腫瘍
図2 ヒト神経膠芽腫癌幹細胞を移植したマウスのMRI画像
継時的にMRI画像から腫瘍サイズを測定し亜ヒ酸と10058F4の生体内 での効果を評価した。
加川信也主任研究員が第61回米国核医学会総会にて発表しました。
6月6日から10日までアメリカのボルチモアで開催された第61回米国核医学会総会にて発表しました。世界初のPET薬剤であるPTV-F1(ピタバスタチンの誘導体)についての基礎及び臨床研究の2演題の発表です。
発表日 2015年6月6日 学会名 SNMMI(Society of Nuclear Medicine and Molecular Imaging;第61回米国核医学会議) 開催地 ボルチモア(アメリカ) 演者 加川信也(主任研究員) 演題1 Radiosynthesis of [18F]PTV-F1, pitavastatin (HMG-CoAreductase inhibitor) derivative for Organic Anion Transporter Imaging of Liver Shinya Kagawa1,2, Ryuichi Nishii3, Tatsuya Higashi1, Hiroshi Yamauchi1, Keiichi Kawai2 , Hiroyuki Kimura4, Masahiro Ono4, Hideo Saji4, Yuichi Sugiyama5 1) Shiga Medical Center Research Institute, 2) Graduate School of Medical Science, Kanazawa University, 3) Department of Radiology, Faculty of Medicine, University of Miyazaki, 4) Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Kyoto University , 5) RIKEN Innovation Center 演題2 [18F]PTV-F1 PET for Organic Anion Transporter Imaging of the Liver -Preclinical and Phase I Clinical Study- Ryuichi Nishii1,2, Shinya Kagawa2,3, Tatsuya Higashi2, Hiroshi Yamauchi2, Hiroyuki Kimura4, Keiichi Kawai 3, Youichi Mizutani1, Shigeki Nagamachi1, Toshinori Hirai1, Masahiro Ono4, Yuichi Sugiyama 5, Hideo Saji4 1) Department of Radiology, Faculty of Medicine, University of Miyazaki, 2) Shiga Medical Center Research Institute, 3) Graduate School of Medical Science, Kanazawa University, 4) Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Kyoto University, 5) RIKEN Innovation Center 要旨 世界初のPET薬剤である[18F]PTV-F1(肝臓における有機アニオントランスポーターイメージング剤)の京都大学と宮崎大学と理研による共同研究であり、基礎から臨床に関わる発表2演題です(標識合成法の開発、正常健常ボランティアを対象にした臨床検討)。 第1題は、ピタバスタチンの誘導体である[18F]PTV-F1の臨床使用に向けて、標識合成、品質評価、安全性評価を検討しました。第2題は、臨床応用の前段階として、正常ボランティアを対象とした世界初の[18F]PTV-F1のPET検査についての報告です。これらの2演題により、滋賀県立成人病センターでの[18F]PTV-F1を用いた肝臓の有機アニオントランスポーターイメージングの研究が世界をリードしており、今後の研究成果が期待される内容でありました。
山内副所長が執筆した脳循環障害重症度評価に基づく治療に関する総説がNeurologia medico-chirurgicaに掲載されました。
症候性アテローム硬化性脳主幹動脈閉塞性疾患患者では脳循環障害の重症度評価は脳卒中再発予測に極めて有用です。しかし、脳循環障害の重症度評価に基づいてどのように治療方針を決定したらよいかに関しては、エビデンスが少ないです。山内副所長らは、PETによる脳循環障害の重症度評価に基づいた、バイパス手術の適応や血圧管理法について検討してきました。本総説では、当研究所でのエビデンスを中心に、脳循環障害重症度評価に基づく治療に関する最近エビデンスと今後の方向性について解説しました。
掲載日 2015年6月2日 掲載雑誌名 Neurologia medico-chirurgica., 2 June, 2015 | doi:10.2176/nmc.ra.2015-0071 著者 Hiroshi Yamauchi 表題 Evidence for Cerebral Hemodynamic Measurement-based Therapy in Symptomatic Major Cerebral Artery Disease 要旨 In patients with atherosclerotic internal carotid artery or middle cerebral artery occlusive disease, chronic reduction in cerebral perfusion pressure (chronic hemodynamic compromise) increases the risk of ischemic stroke and can be detected by directly measuring hemodynamic parameters. However, strategies for selecting treatments based on hemodynamic measurements have not been clearly established. Bypass surgery has been proven to improve hemodynamic compromise. However, the benefit of bypass surgery for reducing the stroke risk in patients with hemodynamic compromise is controversial. The results of the two randomized controlled trials were inconsistent. Hypertension is a major risk factor for stroke, and antihypertensive therapy provides general benefit to patients with symptomatic atherosclerotic major cerebral artery disease. However, the benefit of strict control of blood pressure for reducing the stroke risk in patients with hemodynamic compromise is a matter of debate. The results of the two observational studies were different. We must establish strategies for selecting treatments based on hemodynamic measurements in atherosclerotic major cerebral artery disease.
福井大学放射線作業にかかる教育訓練セミナーにて、当研究所の東達也研究員が教育講演を行いました。
平成27年5月26日、福井大学 放射線作業にかかる教育訓練(更新登録者対象)教育訓練セミナーが福井大学ライフサイエンスセンターにて行われ、当研究所の東研究員が下記のように教育講演を行いました。東研究員は今回「ラジオ・アイソトープ治療と被ばく」と題して講演を行い、放射線被ばくに関する一般的な講演に加え、ラジオ・アイソトープ治療に関しては基礎と日本国内の現状、将来展望までを紹介し、ラジオ・アイソトープ治療に関する理解を深めてもらいました。
発表日 2015年5月26日 学会名 福井大学放射線作業にかかる教育訓練(更新登録者対象)教育訓練セミナー 開催地 福井大学ライフサイエンスセンター、吉田郡永平寺町、福井県 発表形式 口演(教育講演) 演題 ラジオ・アイソトープ治療と被ばく 演者 東達也(招待講演) 要旨 世界的に盛んに行われているラジオ・アイソトープ治療は、国内でわずか3種類のみが保険診療で行われているに過ぎず、日本は「ラジオ・アイソトープ治療後進国」と言っても過言ではない。国内で行われているのは、(1)転移性骨腫瘍に対するストロンチウム疼痛緩和療法、(2)悪性リンパ腫に対するゼヴァリン放射 免疫療法、(3)分化型甲状腺癌に対する術後ヨウ素内用療法である。 (1)、(2)は投与量の関係から入院が不要で、国内でも問題なく外来治療が盛んに行われており、順調に発展している。一方、(3)は、1940年代から行われている歴史ある治療であるが、放射線防護のために多くの場合で特別な入院病室が必要であるために、必ずしも一般化せず、国際的にも長年細々と行われてきた。 チェルノブイリ事故を契機に放射線防護のための国際的な基準が1990年代に公表され、これに従って、我が国でも入院を必要とする基準・「退室基準」が定められ、これにより入院・外来の基準が明確にされたことから、治療患者が急増した。 各国はそれぞれの社会環境、医療環境に応じた投与量の基準を設けたが、各国の投与量基準の差は最大で20倍にも上っており、それぞれの対応には大きな違いが見られる。基準が非常に厳格ながら入院病室が豊富なドイツと、非常に緩やかで入院病室がほとんど不要なアメリカでの実情を紹介し、基準が厳格ながら治療患者急増による入院病室不足に悩む日本における現況を示して、今後の術後ヨウ素内用療法とその将来展望について講演した。 東日本大震災とこれに続く東京電力福島第一発電所の事故の影響もあり、日本における放射線の医学利用には逆風が吹いているが、日本核医学会 などの関連学会を中心とした数多くの対策などを簡単に紹介し、ラジオ・アイソトープ治療普及への理解と協力を求めた。
核医学治療国際シンポジウムにて、当研究所の東達也研究員がシンポジストとして講演を行いました。
平成27年5月23日、福島県立医科大学、ふくしま国際医療科学センターが主催、日本核医学会が共催する、「核医学治療国際シンポジウム「核医学治療の現状と未来―加速器によるRI製造を目指して―」」がグランフロント大阪のコングレコンベンションセンターにて行われ、当研究所の東研究員が下記のようにシンポジストとして講演を行いました。東研究員は世話人の一人として、今回「RI内用療法―我が国の現状と問題点―」と題して講演を行い、核医学治療・RI内用療法に関して日本国内の現状、問題点を紹介し、加速器によるRI製造を目指した核医学治療の普及と発展に向けた問題提起を行いました。
発表日 2015年5月23日 学会名 核医学治療国際シンポジウム「核医学治療の現状と未来:加速器によるRI製造を目指して」 開催地 グランフロント大阪コングレコンベンションセンター、大阪市、大阪府 発表形式 口演(シンポジウム) 演題 RI内用療法―我が国の現状と問題点― 演者 東達也(シンポジスト) 要旨 国内で行われている核医学治療・RI内用療法は、(1)転移性骨腫瘍に対するストロンチウム疼痛緩和療法、(2)悪性リンパ腫に対するゼヴァリン放射免疫療法、(3)分化型甲状腺癌に対する術後ヨウ素内用療法のわずか3種類のみで、日本は「ラジオ・アイソトープ治療後進国」と言っても過言ではない。我が国の現状と問題点について、まとめて報告する。 (1)、(2)は投与量の関係から入院が不要で、国内でも問題なく外来治療が盛んに行われており、順調に発展している。一方、(3)は、1940年代から行われている歴史ある治療であるが、放射線防護のために多くの場合で特別な入院病室が必要であるために、必ずしも一般化せず、国際的にも長年細々と行われてきた。チェルノブイリ事故を契機に放射線防護のための国際的な基準が1990年代に公表され、これに従って、我が国でも入院を必要とする基準・「退室基準」が定められ、これにより入院・外来の基準が明確にされたことから、治療患者が急増した。 各国はそれぞれの社会環境、医療環境に応じた投与量の基準を設けたが、各国の投与量基準の差は最大で20倍にも上っており、それぞれの対応には大きな違いが見られる。基準が非常に厳格ながら入院病室が豊富なドイツと、非常に緩やかで入院病室がほとんど不要なア メリカでの実情を紹介し、基準が厳格ながら治療患者急増による入院病室不足に悩む日本における現況を示して、今後の術後ヨウ素内用療法とその将来展望について講演した。日本核医学会などの関連学会を中心とした数多くの対策などを簡単に紹介し、ラジオ・アイソトープ治療普及への理解と協力を求めた。
山内副所長が第56回日本神経学会学術大会で発表しました。
発表日 2015年5月22日 学会名 第56回日本神経学会学術大会 開催地 新潟 発表形式 口演 演者 山内浩 共同演者 東達也、加川信也、岸辺喜彦、高橋昌章 演題 アテローム硬化性脳主幹動脈閉塞性疾患患者のる5年脳卒中再発率と貧困灌流、血圧管理 要旨 【目的】症候性アテローム硬化性脳主幹動脈閉塞性疾患患者で、貧困灌流を呈する患 者は脳卒中再発リスクが高いが、1)貧困灌流を呈する患者の再発リスクは時間と共に低下するか、2)厳格な血圧コントロールが再発リスクを低下させるか明らかでない。本研究の目的は、1)貧困灌流を呈する患者の5年間の再発リスクを明らかにし、2)貧困灌流、経過観察中の血圧と再発リスクとの関係について検討することである。 【方法】症候性アテローム硬化性脳主幹動脈閉塞性疾患患者130例を対象とし、PETを用いて脳循環動態評価を行ない、その後5年間内科的治療で経過観察した。血圧値は、イベント例ではその直前受診時のもの、イベント無し例は5年後のものを解析した。収縮期血圧値は、<130mmHg、130-149mmHg、150-169mmHg、>170mmHgの4群に分類した。 【成績】5年間の同側脳梗塞再発、および、全脳卒中発症は、貧困灌流(酸素摂取率増加かつ血流量/血液量比低下)がある群で、それぞれ、25.0% (4/16)と37.5% (6/16)であり、ない群の、3.5%(4/114)と13.1%(15/114) に比べて、有意に多かった(それぞれ、P<0.001とP<0.01)。 2年後以降、同側脳梗塞再発は著明に減少し、貧困灌流がない患者で1例発生したのみだった。血圧と脳卒中再発率との関係は灌流障害(血流量/血液量比低下)の有無で異なっていた(interaction、P<0.01)。灌流障害のある例(貧困灌流例を含む)では血圧<130mmHgで再発リスクが高く、灌流障害のない例では、130-149mmHgで再発リスクが最も低いJ-curve関係を呈した。 【結論】貧困灌流を呈する患者は5年再発リスクが高いが、5年再発リスクの大部分は2年後に消失する。灌流障害のある患者(貧困灌流を含む)では、過度の降圧(<130mmHg)は再発リスクを高める可能性があり、厳格な血圧コントロールには、特に発症後2年以内の場合注意が必要である。
加川主任研究員が第10回日本分子イメージング学会総会にて発表しました。
開催日 2015年5月20-21日 学会名 第10回日本分子イメージング学会総会 開催地 東京都江戸川区 演題 臨床使用に向けたBenzyl [18F]Fluoroacetateの合成及び製剤化の検討 演者 加川信也 共同演者 水間広、矢倉栄幸、西井龍一、東達也、山内浩、立石裕行、大野正裕、高橋和弘、尾上浩隆、川井恵一 要旨 我々はこれまでにAcetate(酢酸塩)をフッ素標識したPET診断薬[18F]Fluoroacetate ([18F]FACE)に着目し、一般的な合成法であるオンカラム加水分解法だけではなく、臨床応用へ向けてより簡便で安全な合成法であるtwo-pot蒸留法や新しい固相抽出技術を利用したone-pot蒸留法を用いた合成検討を行い、ラット脳虚血-再灌流モデルにおいて[18F]FACEの取り込みとグリア細胞との関係について検討してきた。 本研究では、虚血性脳血管障害の予後判定を目的とした画像診断法の開発を目指して、脳への移行性を高めた[18F]FACEのベンジルエステル体であるBenzyl [18F]Fluoroacetate (Benzyl [18F]FACE) の合成及び製剤化の基礎検討を行った。
第4回アジア甲状腺がんマスタークラス(香港)にて、当研究所の東達也研究員が招待講演を行いました。
平成27年5月9日、第4回アジア甲状腺がんマスタークラス(4th ASIAN MASTERCLASS OF THYROID CANCER)が香港核医学会の主催にて行われ、当研究所の東研究員が下記のように招待講演を行いました。東研究員は今回「Radioiodine Ablation of Thyroid Remnant - Optimal Dose and Release Criteria -」(放射性内用療法による甲状腺がん術後残存甲状腺破壊-適正投与量と患者退出制限-)と題して招待講演を行い、アジア諸国との交流を深めました。この会議にはアジア各国から著名な核医学医らが多数招かれ、50名を越える参加者があり、熱気に溢れた討議が行われました。
発表日 平成27年5月9日 開催地 香港、ハイアットリージェンシー香港(18 Hanoi Road, Tsim Sha Tsui) 発表形式 口演(招待講演) 演題 Radioiodine Ablation of Thyroid Remnant - Optimal Dose and Release Criteria - 要旨 分化型甲状腺癌に対する術後ヨウ素内用療法は、1940年代から行われている歴史ある治療であるが、放射線防護のために特別な入院病室が必要であるために必ずしも一般化せず、国際的にも長年細々と行われてきた。生存率、再発予防における有用性を示す論文が1990年代に相次いで公表され、治療患者が急増したため、放射線防護のための入院病室からの患者の退院に関する国際的な指針が1990年代にICRPなどから示され、これに従って各国はそれぞれの社会環境、医療環境に応じた投与量の基準を設けて、術後ヨウ素内用療法を行うこととなった。 しかしながら、各国の投与量基準の差は最大で10倍にも上っており、それぞれの対応には大きな違いが見られる。基準が非常に厳格なドイツと非常に緩やかなアメリカでの実情や、入院病室不足に悩む日本における現況を示して、今後の術後ヨウ素内用療法とその将来展望について講演した。東日本大震災とこれに続く東京電力福島第一発電所の事故の影響もあり、日本における放射線の医学利用には逆風が吹いているが、日本核医学会などの関連学会を中心とした数多くの対策などを簡単に紹介し、アジア各国の理解を求めた。
第74回日本医学放射線学会総会において、当研究所の共同研究員である西井龍一先生(現宮崎大学)がCyPos賞Platinum Medalを受賞しました。
平成27年4月16-19日に行われた第74回日本医学放射線学会総会にて、当研究所の共同研究員で現在宮崎大学医学部附属病院放射線科講師の西井龍一先生がCyPos賞Platinum Medalを受賞しました。西井龍一先生は米国留学後、2007年に帰国され、当研究所に専門研究員として2007年から2011年まで在籍され、その後宮崎大学医学部附属病院放射線科に異動されました。
この4月にパシフィコ横浜で開催された第74回日本医学放射線学会総会は併設開催された国際医用画像総合展と合わせ22,000人を超える参加者を誇る学術集会です。その学術集会中の電子発表であるCyPos発表では、CyPos賞としてプラチナ賞1演題、ゴールド賞、シルバー賞、ブロンズ賞各8演題が審査により選ばれることになっています。本大会では、西井先生が当研究所の画像研究部門に在籍中に理研との共同で行ってきた新規PET薬剤フルオロ酢酸([18F]FACE)に関する研究発表が、第1位のプラチナ賞に輝きました(第8回日本分子イメージング学会総会による最優秀発表賞 に続き二度目の受賞)。CT、MRIやIVR(経血管診断・治療)等の臨床発表や放射線治療学発表など多岐にわたる分野の中からのプラチナ賞受賞であり、当研究所の研究活動の高さを物語る受賞となりました。
発表日 2015年4月19日 学会名 日本医学放射線学会 表彰 第74回日本医学放射線学会総会 CyPos賞Platinum Medal 受賞者 西井龍一先生(現宮崎大学医学部附属病院放射線科講師) 対象演題 Detection of early phase of cerebral ischemia by 2-[18F]fluoroacetate PET(早期脳虚血におけるフルオロ酢酸PET) 演者 1) Ryuichi Nishii, 2) Hiroshi Mizuma, 3) Shinya Kagawa, 2) Masahiro Ohno, 2) Takayuki Ose, 2) Takuya Hayashi, 2) Kazuhiro Takahashi, 3) Tatsuya Higashi, 3) Hiroshi Yamauchi, 1) Youichi Mizutani, 1) Shigeki Nagamachi, 2) Hirotaka Onoe 1) Department of Radiology, Faculty of Medicine, University of Miyazaki, Miyazaki, Japan 2) RIKEN Center for Life Science Technologies, Kobe, Japan 3) Division of PET imaging, Shiga Medical Center Research Institute, Moriyama, Japan 要旨 急性期脳虚血におけるF−18フルオロ酢酸の集積について検討した。ラット中大脳動脈閉塞/再灌流による局所脳虚血モデルを用い、F−18フルオロ酢酸の脳集積動態を解析した。F−18フルオロ酢酸は脳虚血障害早期より虚血障害領域に高集積を示し、脳虚血領域の早期診断が期待される結果であった。 しかしCD-11b及びGFAP免疫組織染色との比較による脳虚血障害後のグリア細胞活性との比較検討では、これまでの説と異なり、脳虚血モデルラットにおけるF−18フルオロ酢酸の脳集積はグリア細胞活性を必ずしも反映していないことが示唆された。 記事 http://www.innervision.co.jp/report/item/2015/jrc2015/jrc_closing