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遺伝子検査について

病気の診断をしたり、薬の効き具合を予測するために遺伝子を調べることをいいます。遺伝子は親から子に伝わる遺伝物質です。遺伝子は親から子だけでなく、体を構成する細胞(体細胞 たいさいぼう)が分裂する際にも細胞から細胞へ受け継がれます。体細胞で生じた遺伝子変異は子供には伝わりません。体細胞に含まれるがん細胞の遺伝子異常も子供には伝わりません。このように遺伝子には子孫に伝わるものと、そうでないものという2つの意味があり、両者を区別することが大切です。子孫に伝わる遺伝子の情報は患者の家族にも共有される物なので慎重に取り扱われる必要があります。遺伝子検査は他の検査と同じく利益が不利益を上回るときに行えさえすれば、安全かつ効果的な健康増進に役立てることができます。

近年の医学の進歩によって人間の遺伝子(生命の設計図)の全体像が明らかになってきました。体質、顔かたちや性格が人それぞれに違うのは環境要因よりも遺伝子の影響が大きいと考えられています。遺伝子は病気のなりやすさや薬の効き具合などにも大きく影響します。そこで患者個人の遺伝子を調べることでより効果的で安全な医療を提供できるという考え方が広まりつつあります。遺伝子検査はこの考えに立ってすでに日常的に病院で行なわれています。ここでは遺伝子検査について簡単に解説します。

「遺伝子」2つの意味

遺伝子は体を構成する約60兆個の細胞の中の細胞核という場所に格納されています。すべての細胞は1個の細胞である受精卵に由来し、受精卵と同じ遺伝子が60兆個の細胞に引き継がれています。遺伝子の実体はDNAというひも状の化学物質でその「ひも」の上には4種類の分子(A,C,G,T)が一列に並んでおり、この分子の配列に情報が記録されています。このような長いひも(1個の細胞に2メートル)が2本よじれた二重らせんを作っています。ヒトの細胞には60億個の配列が含まれています。デジタル家電全盛の今日、6GB(ギガバイト)の情報と言った方がピンと来る方も多いかと思います。受精卵の遺伝子は父親からの3GBと母親からの3GBが合わさった物です。USBメモリにも簡単に入ってしまう程度の情報量です。ただ1個の細胞(直径が1ミリの100分の1程度)に6GB入っていることを考えると驚異的な集積度と言えます。

がん細胞の説明図

遺伝子は親から子に引き継がれていきますが(これが一つ目の意味)、一つの受精卵から生まれる60兆個の体細胞にも引き継がれます(二つ目の意味)。遺伝子のうち子孫に伝わるものは精子や卵子になるほんの一部の生殖細胞の遺伝子だけです。ですから、生殖細胞以外で起きた遺伝子の変化は子孫に遺伝しません。子孫に伝わる生殖細胞の遺伝子と子孫に伝わらない遺伝子の区別をすることは遺伝子検査でとても重要です。

遺伝子を調べると聞くとなにか恐ろしい物のように思われる方も多いと思います。確かに遺伝子検査には注意を要する点もありますので、それを先に説明して、その後で遺伝子検査の利点を解説します。

遺伝子検査のもたらす危険

血縁者での遺伝情報割合の図

遺伝子検査はその他の臨床医学検査と同じように安全で効率的な医療を提供する上で役に立つ情報を提供します。しかし、他の検査と違って遺伝子検査が思わぬ波紋を患者と家族に引き起こす可能性があることを理解してください。遺伝子検査によってある遺伝子に異常(または異常とまではいえないまでも比較的珍しいタイプであること)が見つかった場合、もしそれが子孫に伝わる方の遺伝子であった場合、血縁のある人にもその遺伝子異常が共有されている可能性があります。遺伝子検査の結果が単に患者個人の情報であるだけでなく、血縁者の情報でもあるために、その結果が患者や家族の精神的負担をもたらす危険があります。そこで検査結果の取り扱いには注意が必要です。患者の遺伝子情報を知る権利と知らされずにいる権利の両方を考慮すべきです。遺伝子情報を知ることの利益と不利益を天秤にかける必要がありますが、そのバランスは遺伝子異常の種類や血縁関係の距離によって大きく変わるので一概には判断できません。検査結果を知らされる場合には、先立って遺伝カウンセラーなどの専門家による相談サービスを利用すべきです。

遺伝子検査が役に立つ場面

いきなり危ない側面を説明したのは、それを理解した上でこれから説明する遺伝子検査の長所を分かってもらいたいが為でした。現在、遺伝子検査がもっとも普及しているのはがん治療の分野です。たとえ同じ臓器のがんであっても、遺伝子異常のパターンは患者ごとに異なります。最近使われ始めた分子標的抗がん剤は異常のある遺伝子を狙い撃ちしますので、遺伝子異常の有る無しが効果の有る無しに直結します。無駄な副作用、経済的負担を減らすために遺伝子検査がいくつかのがんで有効で、今後、さらに遺伝子検査が有効となるがんの種類は増えていくと予想されます。がんの遺伝子異常は子孫には伝わりません。

遺伝子の図

今後、遺伝子検査が最も積極的に導入されると見込まれている分野は治療薬の効果予測に関係する分野(ファーマコジェノミクス)です。治療薬が体の中で代謝され排泄される過程で個人差があり、この個人差によって薬物の血中濃度が変わります。したがって薬物代謝の個人差を遺伝子検査によって予測すれば、薬の投与量をその人に合った量に加減することができます。また副作用を防ぐこともできます。このタイプの遺伝子情報は子孫に伝わり家族とも共有する物ですから、注意して扱わねばなりません。

親から受け継いだ遺伝子の異常で起きる病気(血友病や筋ジストロフィーなど、それ以外にも多くの病気があります)の診断には遺伝子検査が有用です。

まれには親から自分の体に遺伝子が伝わる過程のどこかで新しく遺伝子異常が生まれた結果おこる遺伝疾患もあり、これらの診断にも役立ちます。

統合失調症や自閉症と言った精神疾患にも遺伝的素因が関与していることが分かっています。将来早期に診断し早期に治療を開始するために遺伝子検査が使われるかもしれません。

遺伝子検査の実例

  • がんの診断
    • 骨髄増殖性腫瘍におけるJAK2遺伝子の変異
    • 白血病の染色体転座
  • 抗がん剤の効果予測
    • 大腸がんのKRAS遺伝子の変異
    • 肺がんのEGFR遺伝子の変異
    • 乳がんのHER2遺伝子の増幅
    • 肺がんのALK遺伝子の融合
  • 薬剤投与量の調節
    • タモキシフェン(乳がん治療薬)とCYP2D6遺伝子タイプ
  • 薬剤の副作用予測
    • イリノテカン(抗がん剤)とUGT1A1遺伝子タイプ
    • ネビラピン(エイズ治療薬)とHLA-B 遺伝子タイプ
  • 遺伝性疾患の診断
    • デュシュンヌ型筋ジストロフィー
    • ハンチントン舞踏病
    • 血友病
    • 家族性高コレステロール血症

リンク

ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針
http://www.lifescience.mext.go.jp/bioethics/hito_genom.html

ヒト遺伝子検査受託に関する倫理指針
http://www.jrcla.or.jp/info/info/info_25.html

医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン
http://www.congre.co.jp/gene/pdf3/guideline110218.pdf

小児保健医療センターの遺伝相談
http://www.med.shiga-pref.jp/mccs/file/data_file/iden_3.pdf


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