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研究所報2005

C-11酢酸 とN-11アンモニアの肺への取り込みの比較 工藤崇・羽田達彦*・加川信也 ・岩崎甚衛・岸辺喜彦・山内浩 * 成人病センター循環器科

1.はじめに

 C-11酢酸はその洗い出し速度を測定することで心筋酸素代謝の評価を行うことが出来るのに加え、早期相(静注後3-6分)の取り込みから心筋血流の相対的分布を評価できることが知られている。また、van den Hoffらの報告では2-コンパートメントモデル法により心筋血流の絶対値も測定出来ると報告されており、当研究所でもN-13アンモニアで用いられるPatlak graphical analysis法を用いた手法で心筋取り込み速度定数(K*)を計算し、これから心筋血流の絶対値が求める検討を行ってきた。この課程で、計算されたK*値の画像がアンモニアより酢酸が優れていること、K*値の計算誤差が酢酸の方が少ないことを見いだした。この原因として、アンモニア画像に時に見られる肺の高集積に着目し、肺・心筋・血液中の放射能分布の経時的変化をN-13アンモニアとC-11酢酸で対比した。

2.対象・方法

9名の虚血性心疾患患者において、N-13アンモニアおよびC-11酢酸によるPETを一週間以内に行った。C-11酢酸の撮影は安静時にて、N-13アンモニアの撮影は安静時とジピリダモール0.56mg/min/kg の負荷で行った。
N-13アンモニアは約700mBqのN-13アンモニアを肘静脈より静注、静注直後から5分間のdyanamic収集を行った。収集プロトコルは5秒x12フレーム、10秒x6フレーム、20秒x2フレーム、30秒x4フレームである。C-11酢酸についても同様のプロトコルで撮影した。C-11酢酸についてはさらに引き続いて酸素代謝測定のため1分x15フレームの撮影も行っているが、本研究ではこのデータは使用していない。
撮影されたデータの左室腔内(血液プール)、心室中隔、左肺野にそれぞれ関心領域を設定し、静注直後~静注三分後までのそれぞれの時間放射能曲線を求めた。
投与量、体重によって、体積あたりに分布する放射能は影響を受け、個体間の差を生じる。この差を標準化するため、すべての画像の時間放射能曲線は左室腔の時間放射能曲線の最大値を100%とする相対値に標準化した。

3.結果

時間放射能曲線は酢酸とアンモニアで大きく異なった。アンモニアでは安静時・負荷時に関わらず、血液プールの値に対し肺野の放射能が比較的高く、静注後100秒以降では肺野の平均値は血液プールよりも高くなった。酢酸では肺野の放射能はすべての時相で血液プールより低値であった。また、肺野の集積の個体間のばらつきは酢酸では非常に小さかったが、アンモニアでは個体ごとに大きなばらつきを示した。
時間放射能曲線の形を統計的に評価するため各時点での放射能を時間で積分したもの(Area under the curve;AUC)を計算した。血液プールのAUCは酢酸、安静時・負荷時アンモニアの三者で有意差が無かったが、肺野のAUCはアンモニアでは安静時・負荷に有意差は認めなかったが、酢酸のみはアンモニア(負荷・安静とも)に対して有意に(p<0.01)低値を示し、アンモニアと酢酸の肺内挙動が著明に異なることが証明された。

4.考察

C-11酢酸とN-13アンモニアの静注早期における肺内挙動が異なることが証明された。このことは、今まで示されたことが無く、新たな発見であると考える。
PETによる心筋血流測定はN-13アンモニアにせよC-11酢酸にせよ静注で投与される放射性物質が動脈血中から心筋内に移行する過程を観察することで、計算される。静注される薬剤は動脈血に移行する前に必ず肺を通過するため、肺での挙動・肺への取り込みは心筋血流測定に大きな影響を与える。さらに肺は左室側壁に接するため、肺から左室側壁への散乱線が大きいと、心筋血流測定に与える影響はさらに大きくなる。
今回の発見はC-11 酢酸が酸素代謝を測定するのに利用できるのみでなく、酢酸が従来心筋血流測定の標準的手法と考えられていたN-13アンモニアよりも心筋血流測定に適した生理的性質を有している可能性を見いだしたと考えられる。

参考文献

1) van den Hoff J, Burchert W, Borner A, et al [1-11C]Acetate as a Quantitative Perfusion Tracer in Myocardial PET. J Nucl Med. 2001; 42:1174-1182.
2) Brown M, Marshall DR, Sobel BE, Bergmann SR. Delineation of myocardial oxygen utilization with carbon-11-labeled acetate. Circulation.1987;76:687-696.
3) Gropler RJ, Siegel BA, Geltman EM. Myocardial uptake ofcarbon-11-acetate as an indirect estimate of regional myocardial bloodflow. J Nucl Med. 1991;32:245-251.
4) Choi Y, Huang SC, Hawkins RA, et al. A simplified method for quantification of myocardial blood flow using N-13 ammonia and dynamic PET. J Nucl Med. 1993;34:488?497.


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