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研究所報2005

内頸動脈閉塞性疾患における選択的神経細胞障害と境界領域梗塞との関連 山内浩 ・工藤崇 ・加川信也 ・岸辺喜彦 ・岩崎甚衛

1.はじめに

 内頸動脈閉塞性疾患における虚血性選択的神経細胞障害の発生機序は明らかでない。ほとんどの大脳皮質神経細胞に存在する中枢性ベンゾジアゼピン受容体のイメージングにより、虚血による神経細胞の変化に関する情報を生体で得ることができる。一側性の境界領域梗塞は、内頸動脈閉塞性疾患に頻度が高いことが報告され、血行力学的発生機序が示唆されている。内頸動脈閉塞性疾患に起因する血行力学的脳虚血が、境界領域梗塞を引き起こすと同時に、梗塞領域を越えた大脳皮質領域においてベンゾジアゼピン受容体低下として検出される選択的神経細胞障害の原因となる可能性がある。
本研究では、内頸動脈閉塞性疾患において、選択的神経細胞障害と境界領域梗塞とが関連しているかどうか検討し、選択的神経細胞障害が血行力学的発生機序により生じる可能性を検証した。

2.対象と方法

 頭蓋外内頸動脈に60%以上の狭窄または閉塞を有する患者62名(男性50例,女性12例,平均年齢65歳)を対象とした。臨床診断は、無症候21例、TIA12例,軽症脳梗塞29例である。慢性期に、ポジトロンCT(PET)と11C-Flumazenilを用いて中枢性ベンゾジアゼピン受容体密度を求めた。 MRI にて虚血性病変のタイプ(皮質境界領域梗塞、その他の皮質梗塞、皮質下境界領域梗塞、線条体内包梗塞、ラクナ梗塞、およびその他の白質梗塞)を評価し、ベンゾジアゼピン受容体密度の血管病変側半球大脳皮質平均値(小脳比)(梗塞巣を除く)との関連を検討した。また、PETと15O-標識ガスを用いて、脳循環代謝諸量を測定し、ベンゾジアゼピン受容体密度との関係も検討した。

3.結果

 48名で血管病変側半球に梗塞が存在した。境界領域梗塞は18名で認められ、その内訳は、皮質境界領域梗塞単独5名、深部境界領域梗塞単独6名、両者合併7名であった。
境界領域梗塞のある患者群では(1.10±0.13)、ない患者群(44名)(1.32±0.17; p<0.0001)および健常群(10名)(1.37±0.12; p=0.0003)と比較して、大脳皮質ベンゾジアゼピン受容体密度(小脳比)が有意に低下していた。
それぞれの梗塞の有無で比較すると、皮質境界領域梗塞を有する患者は有しない患者よりも大脳皮質ベンゾジアゼピン受容体密度(小脳比)が有意に低く、深部境界領域梗塞を有する患者も有しない患者より大脳皮質ベンゾジアゼピン受容体密度(小脳比)が有意に低かった。そこで、多変量解析をおこなうと、皮質境界領域梗塞が、ベンゾジアゼピン受容体密度低下の独立した予測因子と判明した。
ベンゾジアゼピン受容体密度の血管病変側半球大脳皮質平均値(小脳比)は、脳血流量(r=0.54、 p<0.0001)および酸素代謝率(r=0.61, p<0.0001)の血管病変側半球大脳皮質平均値と有意に正相関し、酸素摂取率と有意に負相関した(r=-0.25, p=0.047)。

4.結論と考察

 内頸動脈閉塞性疾患において、ベンゾジアゼピン受容体低下として検出される選択的神経細胞障害は境界領域梗塞と関連していた。この結果は、境界領域梗塞を引き起こした血行力学的脳虚血が原因で、慢性期に選択的神経細胞障害が生じたことを示唆している。
酸素代謝低下との関連は不可逆的機能低下が生じていることを示唆するが、一方でなお酸素摂取率と負相関が認められ、慢性的な脳虚血と神経細胞障害との関連および慢性的な脳虚血の治療による神経細胞障害抑制の可能性も推察される。
内頸動脈閉塞性疾患では、軽症発作例でも、MRI にて一見正常にみえる大脳皮質において選択的神経細胞障害が生じることを念頭に置き患者の管理にあたる必要があり、神経細胞保護の観点からの治療が必要である。

参考文献

1) Yamauchi H, Kudoh T, Kishibe Y, Iwasaki J, Kagawa S. Selective neuronal damage and borderzone infarction in carotid artery occlusive disease. J Nucl Med 2005;46:1973-1979.


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