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研究所報2005

ラットENU白血病系を用いたがん関連遺伝子の単離の試み 小網健市(京都大学医学部腫瘍生物学 )・ 逢坂光彦

1.はじめに

 ラットDMBA白血病において高率にN-rasのコドン61の2番目の塩基にA→T点突然変異があり、この系を特徴づける遺伝子変異であることを報告してきた1),2)。一方N-ethyl-N-nitrosourea (ENU)でもDMBAと形態学的に類似した白血病をラットに引き起こすが、N-rasには変異が見られないことが分かっている3)。  この研究ではENUを用いた誘発を行い、遺伝子変異や遺伝子発現の比較検討を試みた。ENUはラットに高率に白血病を誘発するが4、同量のENUを投与していても白血病を発症せず、極度の貧血を呈して死に至る個体がある。これらの2群から得られた骨髄細胞における発現量に差のある遺伝子を単離するため。cDNAサブトラクション法により比較し、発がん関連の新しい遺伝子の単離を試みた。

2.方法

 6週齡のDonryuラットに0.02%ENU水溶液の経口投与を開始し、120日間程度投与を継続した。白血病の発症を確認したものは末梢血のスメア標本を作製し、白血病細胞の形態を確認した。白血病症例および貧血例のそれぞれから骨髄の細胞を採取し、mRNAを抽出した。これをcDNA subtractionにより両者の間の発現量に差のある遺伝子をクローニングし、塩基配列を決定した。発現の差の確認は、得られた配列を基にして新たなプライマーを設計し、RT-PCR法により確認する。

3.結果と考察

 cDNA subtractionの結果得られた多数のクローンにはいくつかの未知遺伝子が含まれていた。それらの正常骨髄、および白血病細胞での発現定量をした。症例によるばらつきが見られるものが多かったが、一定の傾向が見られる遺伝子もあり、さらに検討を続けている。

参考文献

1) Osaka M, Matsuo S, Koh T, Liang P, Kinoshita H, Maeda S, Sugiyama T. N-ras mutation in 7,12-dimethylbenz[a]anthracene (DMBA)-induced erythroleukemia in Long-Evans rats. Cancer Lett. 91:25-31, 1995.
2) Osaka M, Matsuo S, Koh T, Sugiyama T. Loss of heterozygosity at the N-ras locus in 7,12-dimethylbenz[a] anthracene-induced rat leukemia.Mol Carcinog.18:206-212, 1997.
3) 小網健市他、ENU誘発ラット白血病におけるras、p53遺伝子の変異の検討日本癌学会総会記事 p103, 1997.
4) Ogiu T, Odashima S. Related Articles Induction of rat leukemias and thymic lymphoma by N-nitrosoureas.Acta Pathol Jpn. 32 (Suppl 1):223-35, 1982.


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