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研究所報2004

C-11酢酸 PETによる心筋血流定量の可能性 工藤崇・羽田達彦*・加川信也 ・岩崎甚衛・岸辺喜彦・山内浩 * 成人病センター循環器科

N-13アンモニアによる血流絶対値画像とC-11酢酸による同一患者同一部位の心筋血流絶対画像
図2

左:N-13アンモニアによる血流絶対値画像

右:C-11酢酸による同一患者同一部位の

1.はじめに

 一般には心筋血流の絶対値定量にはO-15水かN-13アンモニアが用いられる。N-13 アンモニアによる心筋血流測定はO-15水による方法に比べて手技的に簡便であること、心電図同期画像を撮影することが可能な点などの利点があるが、一方で心機能の低下した患者で非常に画質が低下するなどの欠点も認められる。この画質の低下は、特にpixel by pixelで心筋血流絶対値を画像化した血流パラメトリック画像の作成時に著明となり、心不全患者などの心機能低下患者における血流定量測定の精度・有用性を悪化させる原因となっていると考えられる。
C-11酢酸は従来より心筋の酸素代謝を半定量的に測定するために用いられてきた核種であるが、近年N-13アンモニアと同様の手法を応用することで心筋血流の定量測定にも利用できる可能性が報告されている。C-11酢酸やF-18 FDGを用いた心筋代謝の評価は、心筋血流の評価を別の検査として必要とする問題があるが、もしC-11酢酸による心筋血流定量が臨床的に利用可能な物であれば、一つの検査で心筋代謝と血流の同時評価が可能となり大きな利点を生む。
今回、我々は同一対象者にC-11酢酸PETとN-13 アンモニアPETを行い、心筋血流定量画像をそれぞれ作成し対比した。

2.対象と方法

 7名の虚血性心疾患患者において、N-13アンモニアおよびC-11酢酸によるPETを一週間以内に行った。いずれの撮影も安静時にて行った。
N-13アンモニアは約700mBqのN-13アンモニアを肘静脈より静注、静注直後から5分間のdyanamic収集を行った。収集プロトコルは5秒x12フレーム、10秒x6フレーム、20秒xフレーム、30秒xフレームである。C-11酢酸についても同様のプロトコルで撮影した。C-11酢酸についてはさらに引き続いて酸素代謝測定のため1分x15フレームの撮影も行っているが、本研究ではこのデータは使用していない。
撮影されたデータはそれぞれ当研究所で開発された絶対血流イメージ作成プログラムで血流絶対値の画像に再構成された上で、Polar map画像へと変換した。
血流の計算式は過去の文献よりアンモニアについては

アンモニアの血流の計算式

 (Eは摂取率、MBFは心筋血流)、酢酸については

酢酸の血流の計算式


とした。心筋血流の計算はPatlak graphical analylsis法を用いた。
作成されたPolar map画像上にそれぞれ25個の関心領域を設定することで、N-13アンモニアとC-11酢酸による血流絶対値を同一患者の同一部位同士で比較した。また、N-13アンモニアとC-11酢酸による血流絶対値画像を視覚的に対比した。

3.結果

アンモニアによる心筋血流と酢酸による心筋血流の相関。
図1 アンモニアによる心筋血流と酢酸による心筋血流の相関。

 ただし、Blant Altoman解析を行ったところ、心筋血流が増加するに従って、C-11酢酸PETによる血流評価はN-11アンモニアPETによる評価に比べて血流値を過大に評価する傾向を認めた(図3)。

Blant Altoman解析。横軸はC-11酢酸PETによる血流とN-11アンモニアPETによる血流の平均。縦軸はその差。

図3 Blant Altoman解析。横軸はC-11酢酸PETによる血流とN-11アンモニアPETによる血流の平均。縦軸はその差。

また、視覚的に心筋血流画像の画質の比較を行った。酢酸による心筋血流の画像はアンモニアによる血流画像に比べて、ほぼ同等からより良好、という結果が得られた。酢酸による心筋血流画像とアンモニアによる心筋血流画像の差が最も著しかった例を図2に示す。

4.考察

 C-11酢酸による心筋血流評価が可能であることが示された。さらに、心筋血流画像はC-11酢酸の方でより良好である傾向を認めた。
C-11酢酸は従来心筋の酸素代謝評価のために用いられている核種である。心筋代謝の評価は心筋梗塞後の心筋Viabilityを評価する重要な要素であり、C-11酢酸もこの目的で利用され良好な結果が得られている。しかし、心疾患において最も重要な情報はやはり心筋血流であり、心筋血流の情報抜きにして心筋の代謝のみを評価することはあまり現実的でない。このため、心筋代謝を評価する際には心筋血流の検査を別途必要とし、患者に余分な負担をかけてしまうという問題が生じる。
従来よりC-11酢酸PETの早期像が心筋血流の相対分布を反映することは知られていたが、近年C-11酢酸によって絶対血流の測定できる可能性が報告される用になってきた。本研究では従来より当院にて用いられているPatlak graphical analysis法を用いることによって、C-11酢酸を用いた心筋血流測定が可能であることを示した。これによって、C-11酢酸を用いれば心筋代謝と心筋血流が一回の検査で同時に評価可能であることが示された。患者の負担軽減に大きく寄与する物と期待される。
また、心筋血流画像そのものもアンモニアよりも酢酸の方が優れていることが示された。原因については別途研究が必要と考えるが、C-11酢酸にはN-13アンモニアを置き換える可能性があると思われる。

参考文献

1) Muller P, Czernin J, Choi Y, et al. Effect of exercise supplementation during adenosine infusion on hyperemic blood flow and flow reserve. Am Heart J. 1994; 1228:52?60.
2) Choi Y, Huang SC, Hawkins RA, et al. A simplified method for quantification of myocardial blood flow using N-13 ammonia and dynamic PET. J Nucl Med. 1993;34:488?497.
3) van den Hoff J, Burchert W, Borner A, et al [1-11C]Acetate as a Quantitative Perfusion Tracer in Myocardial PET. J Nucl Med. 2001; 42:1174-1182
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