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研究所報2004

N-13アンモニア PETによる心筋血流絶対画像の画質低下に関与する因子の検討 工藤崇 ・羽田達彦*・加川信也 ・岩崎甚衛・岸辺喜彦・山内浩 * 成人病センター循環器科

1.はじめに

 PETによる心筋血流定量には一般にN-13アンモニアや-15水が用いられる。N-13アンモニアはアイソトープの静注のみで画像が得られる点、比較的簡単に心筋血流の定量が可能である点で、広く利用されている。しかし、N-13アンモニアによる血流定量画像は時に非常にノイズの多い画質不良な像を呈することがある。
SPECTで用いられるTl-201などでは、肺野への取り込みが亢進することあり、特に運動負荷後の肺集積亢進は虚血に伴う心機能低下のよい指標であるとされている。N-13アンモニアにおいても類似した原因で肺野への集積が亢進して、これが画質の低下を生んでいる可能性は否定できない。過去の研究では喫煙歴とN-13アンモニアの肺集積を関連付けた報告は認められたが、心機能との関係に関する研究は認められなかった。
本研究では画質の低下の原因の一つとして肺野へのN-13アンモニアの集積と心機能の関連を対比した。

2.対象と方法

 対象は27例の虚血性心疾患ないしは慢性心不全の患者。これらの対象について、安静時にN-13アンモニアによる血流PETを行った。約700MBqのアンモニアを静注したのち、5分間のdynamic撮影、引き続いて10分間の心電図同期撮影を行った。心電図同期は心拍8分割にて収集した。このうち心電図同期撮影より得られたデータを心電図同期心筋シンチ解析プログラム「pFAST」にて再構成し、左室駆出率(EF)、左室拡張末期容積(EDV)、左室収縮末期容積(ESV)を計算した。また、左室中央部の横断像から左室内腔と左肺野にそれぞれ関心領域(ROI)を設定し、カウントを計算、この比を肺/動脈血カウント比(L/B ratio)として、肺野へのN-13アンモニアの集積の指標とした。また、27例のうち7例についてはC-11酢酸PETも行い、dynamic撮影における動脈血、心筋、および肺野の放射能の経時的変化を対比した。

3.結果

 全例でN-13アンモニアPETによる心筋血流定量を行う事ができた。L/B ratioは1.35±0.54、EFは50.9±16.7(%)、EDV, ESVはそれぞれ146.6±58.7,79.0±61.2(ml)であった。 L/B ratioを目的変数とした相関分析では、EDVおよびESVとL/B ratioの間に弱い相関関係を認めた (L/B ratio=0.00423EDV+0.734, R2=0.21, p<0.05. L/B ratio=”0.00427ESV+1.018,” R2=”0.23,” p<0.05)。(図1,2)EFとの間ではEFが低下するほどL/B ratioが大きくなる(=肺野集積が強くなる)傾向が見られたが、有意ではなかった(L/B ratio=”0.0118-7EF+1.952,” R2=”0.13,” p=”n.s.)。(図3)

EDVとESVの相関。横軸はEDV、縦軸はL/B ratio。
図1EDVとESVの相関。横軸はEDV、縦軸はL/B ratio。
ESVとESVの相関。横軸はESV、縦軸はL/B ratio。
図2ESVとESVの相関。横軸はESV、縦軸はL/B ratio。
EFとESVの相関。横軸はEF、縦軸はL/B ratio。
図3EFとESVの相関。横軸はEF、縦軸はL/B ratio。

 この原因を調べるため、C-11酢酸を行うことのできた7例において、早期相における心筋、左室内腔(=動脈血)、および肺の放射能の経時的変化をC-11酢酸とN-13アンモニアの間で対比した。N-13アンモニアとC-11酢酸においては心筋への分布、動脈血中からの放射能の消失はほぼ同等であったが、N-13アンモニアにおいてはC-11酢酸に比べて肺野への放射能の集積が早期から高く、洗い出しも遅いことが認められた。(図4)

図4上段:N-13アンモニアの時間放射能曲線
図4下段:C-11酢酸の時間放射能曲線

図4

上段:N-13アンモニアの時間放射能曲線
下段:C-11酢酸の時間放射能曲線

これらのことから、N-13アンモニアによる画質の低下は心機能の低下に伴うN-13アンモニアの肺への停滞および肺胞からの排出が関与している可能性があるのではないかと考えられた。

4.考察

 N-13アンモニアPETによる心筋血流定量画像の画質の低下と心機能の低下の間には弱い相関があることが示された。また、時間放射能曲線の検討からN-13アンモニアは肺に停滞する傾向があることが示された。これらのことから、画質の低下は新規異能低下に伴う肺へのN-13アンモニアの停滞が一因となっている可能性が示唆された。
臨床でよく用いられるトレーサーであるTl-201は心機能低下時にはいやに停滞することがよく知られている。この現象は、心機能の低下を診断する一つの指標として臨床では用いられている。今回の研究から、同様の現象がN-13アンモニアでも生じていることが示された。しかし、N-13アンモニアPETはTl-201 SPECTとは異なり、心筋血流の定量を主な目的とした精密検査であり、この現象を利用して心機能低下を診断する意義はあまり無いものと思われる。むしろ、この現象は心筋血流の定量の障害となり、何らかの方法でこれを改善することが望ましいと思われる。
本研究では原因の一つとして肺へのN-13アンモニアの集積が示唆された。肺への集積の機序としては、肺実質の細胞内への取り込みと、肺胞内へ気化して排出される機序が考えられる。N-13アンモニアは揮発性の物質であることから、Tl-201とは異なり、後者の機序も関与している可能性が高いが、これについては呼気ガスの放射能測定などさらなる検討が必要と思われる。

参考文献

1) Boucher CA, Zir LM, Beller GA, et al. Increased lung uptake of thallium-201 during exercise myocardial imaging: clinical, hemodynamic and angiographic implication in patients with coronary artery disease. Am J Cardiol 1980; 46: 189.
2)Kagaya A, Fukuda H, Yoshida K, et al. [Pulmonary kinetics of 13N-ammonia in smoking subjects--a quantitative study using dynamic PET]. Kaku Igaku. 1992; 29:1099-106
3)Nakata T, Katagiri Y, Odawara Y, et al. Two- and three-dimensional assessments of myocardial perfusion and function by using technetium-99m sestamibi gated single-photon emission computed tomography with a combination of count- and image-based techniques. J Nucl Cardiol. 2000;7:623?632


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