近年、1) 内頸動脈閉塞症では脳循環障害の程度は個々の患者で異なること、2) PETによる酸素摂取率の測定やSPECTなどによるAcetazolamide負荷血流増加反応の測定により評価した脳循環障害の程度が高度な患者では、脳梗塞再発のリスクが高いこと、3) このような患者にバイパス手術を行えば脳梗塞再発を減らせることが明らかにされている。それ故、脳循環障害の程度の評価は、内頸動脈閉塞症患者の管理上必須である。
個々の内頸動脈閉塞症患者で脳循環障害の程度は側副血行の程度により決定される。側副血行の決定因子のひとつとして重要なのが、血管撮影上の(解剖学的な)側副血行路である。脳循環障害は、側副血行路の機能が不十分で、血流供給が不足することで生じる。内頸動脈閉塞症では、Willis輪が主要な側副血行路で、眼動脈や脳軟膜吻合は、Willis輪の機能が不十分である際に動員され、かつ側副血行としての血流供給能も低い可能性がある。もしそうなら、眼動脈や脳軟膜吻合は脳循環障害のマーカーとして有用であろう。しかし、これまで内頸動脈閉塞症患者における、血管撮影上の眼動脈や脳軟膜吻合の存在と脳循環障害との関連を検討した研究の結果は一致していない。
内頸動脈閉塞症患者における、側副血行路の機能と脳循環障害との関連は、虚血性病変に起因する代謝低下により、脳組織の血流の需要がどの程度減少するかにより影響される。MRI上正常にみえる大脳皮質にも、一次的(軽度の虚血性変化、神経細胞障害など)、および二次的(経神経性の機能抑制など)により代謝の低下が生じる。眼動脈や脳軟膜吻合は、正常の代謝状態では脳循環障害を生じても、虚血性病変に起因する代謝低下により血流需要が低下すれば脳循環障害を生じない可能性がある。しかし、これまで、内頸動脈閉塞症患者における側副血行路の機能と脳循環障害との関連を、虚血性病変に起因する代謝低下を同時に解析し検討した報告はない。
本研究では、症候性内頸動脈閉塞症患者において、PETにより評価した脳循環障害(酸素摂取率の上昇)および酸素代謝低下の程度と、血管撮影上の側副血行路のパターン、および MRI 上の虚血性病変のタイプとの関連について検討し、1) 眼動脈や脳軟膜吻合の存在が、酸素摂取率の上昇と関連しているか、2)虚血性病変による代謝低下が、側副血行路と脳循環障害との関係に影響するかについて検討した。
1)それぞれの側幅血行路の有無で患者を分類した場合、酸素摂取率の値(脳循環障害の指標)に差はなかった。しかし、眼動脈あるいは軟膜吻合のどちらかを有する患者群は、どちらもない患者群よりも酸素摂取率の値が有意に高かった(表1、2)(図1)。
2)有意な酸素摂取率の上昇(健常者の95%上限値52.9%以上)を示す患者は18例あり、そのうち17例(94%)は眼動脈あるいは軟膜吻合を有していた。3)眼動脈あるいは軟膜吻合を有する患者は27例あり、そのうち17例(63%)で酸素摂取率は上昇していた。4)虚血性病変のうちで、前方型-表在型境界領域梗塞と線条体内包梗塞が、酸素代謝率の低下と有意に関連しており、眼動脈あるいは軟膜吻合を有しながら酸素摂取率が正常である場合(37%)の一因と考えられた(表3、4)(図2)。
5) そこで多変量解析を行うと、眼動脈あるいは脳軟膜吻合を有することと線条体内包梗塞がないことが、酸素摂取率の上昇と有意に関連していた(表5)。
1) 症候性内頸動脈閉塞症では、眼動脈や軟膜吻合の動員が高度脳循環障害(酸素摂取率の上昇)と関連している。その原因として眼動脈や軟膜吻合は、Willis輪に比べて側副血行としての血流供給能が低いためと考えられる。
2) しかし、この関連は、虚血性病変に起因する代謝低下により血流の需要がどの程度減少するかにより影響される。それ故、側副血行路のパターンは脳循環障害の正確な指標とはならず、脳循環動態の直接的測定が脳梗塞再発リスクの判定には必須である。
3) 代謝低下による血流需要減少を考慮することは、症候性内頸動脈閉塞症における、側副血行と脳循環障害の関係を理解する上で重要である。
1) Yamauchi H, Kudoh T, Sugimoto K, Takahashi M, Kishibe Y, Okazawa H. Pattern of collaterals, type of infarcts, and hemodynamic impairment in carotid artery occlusion. J Neuro Neurosurg Psychiatry 2004; 76: 1697-1701.
滋賀県立総合病院研究所 〒524-8524 滋賀県守山市守山5-4-30 Tel:077-582-6034 Fax:077-582-6041
Copyright(c) 2004- 2019 Shiga Medical Center Research Institute, All Rights Reserved.