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研究所報2004

陳旧性心筋梗塞患者のウォーキングリハビリは安静時の心筋血流を改善させジピリダモール薬剤負荷による心筋血流増加度もよりよくする 羽田龍彦 * * 成人病センター循環器科

1.はじめに

 Belardinelli R1)らは1998年に、虚血性心筋障害患者への有酸素運動の継続が心筋のタリウム集積を改善させると報告しその機序として、冠側副血行路増生や冠細小動脈の拡張能の改善やその狭窄の退縮を考察しているが、その詳細は不詳である。近年、運動時の冠循環において調節的な役割を演じていると考えられているnitric oxide (NO)に関心が集まっている。NOが冠血管の弛緩作用を有することならびに運動時の冠血管でNO産生が増加することなどの知見が根拠となっている。1996年、Hintze2)らは犬の実験で、冠動脈および末梢血管の拡張反応やその内皮からのNO産生に対して有酸素運動が及ぼす影響について検討しており、有酸素運動の継続が冠動脈および末梢血管のNO依存性血管拡張反応を増強させることおよび冠微少血管のNO産生を増加させることを明らかにした。しかし現在、人においての報告はいまだ十分ではない。そこで有酸素運動継続の局所心筋血流や冠血流予備能に対する影響について陳旧性心筋梗塞後患者を対象としてアンモニアPETを用いて局所心筋血流およびジピリダモール負荷による局所心筋血流増加度合いすなわち冠血流予備能を調査した。

2.対象と方法

 病状の安定している陳旧性心筋梗塞患者58名を対象として自転車エルゴメーターを用いての呼気ガス分析で調べた嫌気性代謝閾値の運動強度を心拍数で還元しその強度でのウォーキングを7ヶ月間継続させた。またその前後でPET検査により局所心筋血流量を計測した。またジピリダモール負荷による血流増加度も調べた。また同時期に冠動脈造影検査も行い器質的狭窄の増悪の有無を精査し再狭窄や他枝疾患の増悪のためPTCA治療を要するものは対象から除外した。運動量は万歩計で計測し一日の総歩行数とした。対象患者は当院心臓リハビリ外来に通院していただき運動継続の徹底と病態の定期フォローをおこなった。PET検査はAdvance GE Medical Systems PET scannerを用いておこない、患者は仰臥位安静状態でtransmission scanを10分間行ない、引き続き院内に設置されているサイクロトロンおよび自動合成装置から得られたN13-ammonia700?800MBqを静注し、10分間撮像した。また2時間後に引き続き、ジピリダモール(0.56mg/kg/4min.)静注後に同じくPET撮像を繰り返した。再構成はcomputer system (Dr. view V, Asahi-Kasei)により左室の短軸画像を作成し、関心領域の局所心筋血流の定量評価をおこなった。

3.結果

 図1では横軸に一日総歩行数を示し縦軸に安静時局所心筋血流量の7ヶ月前後での差を示した。左から梗塞部、その境界部、梗塞対側健常部と示した。梗塞部では一日総歩行数と安静時局所心筋血流量の間に有意な関係を認めなかったが境界部ならびに梗塞対側健常部では有意な正の相関関係を認めた。すなわち一日歩行数が14000歩の範囲内であれば運動暦の乏しい器質的狭窄性冠動脈疾患患者では歩行量すなわち運動量に相当して局所心筋血流量も増加していた。
次に図2ではジピリダモール負荷での局所心筋血流の増加割合の変化を7ヶ月前後で示した。図に示されたように梗塞部では両者間に有意な関係を認めなかったが境界部ならびに梗塞対側健常部では有意な正の相関を認めた。すなわち一日歩行数が14000歩の範囲内であれば運動暦の乏しい器質的狭窄性冠動脈疾患患者では歩行量すなわち運動量に相当してジピリダモール薬物負荷による血流増加反応もより良くなっていた。

図1
図2

4.考察

 ウォーキングリハビリは、よりしっかりと行うことにより生存心筋において安静時の局所心筋血流量をより改善させた。またウォーキングリハビリは生存心筋においてジピリダモール薬物負荷による冠血流増加度合いをよりよく改善させた。以上より嫌気性代謝閾値強度のウォーキングリハビリは心筋梗塞後の生存心筋において局所心筋血流および冠血流予備能の両者を改善させることが期待される。

参考文献

1) Belardinelli R, Georgious D, Ginzton L, Cianci G, Purcaro A: Effect of moderate exercise training on thallium uptake and contractile response to low-dose dobutamine of dysfunctional myocardium in patients with ischemic cardiomyopathy. Circulation. 1998; 97: 553-561
2) Zhang X, Xu X, Forfia PR, Nasjletti A, Hintze TH: Neutral endopeptidase (NEP) and angiotensin converting enzyme (ACE) modulate nitric oxide (NO) via local kinin formation production from canine coronary microvessels. Circulation. 1996; 94: 8: I-61


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