滋賀県立総合病院研究所は平成11年(1999年)4月に開設され、設立当初3年間の成果を収録した最初の研究所報が杉山武敏初代所長の元で出されたのが平成13年(2001年)です。研究が軌道にのりはじめた平成14年4月から私が杉山所長の後を引き継ぐことになり、すでに報告した平成14年度、15年度に引き続き平成16年度の研究所の活動と研究成果をここに報告させて頂き皆様方のご批判を仰ぎたく何卒よろしくお願い申し上げます。
当研究所は成人病センター病院と並立する主として生活習慣病を視野においた医学研究所として設立されたもので、PET(positoron emission tomography、陽電子放出断層撮影)装置を用いて臨床研究を行う部門と、病気の原因や発症のメカニズムを基礎医学的な視点で研究する部門の二つの研究部門から成り立っています。それぞれの研究部門に3名ずつ合計6名の研究員と、その研究活動を支える人達の総勢十数名の小さな研究所ですが、設立以来国際的にも通用する真に独創的なレベルの高い研究を目指して一同一丸となって研究に励んで参りました。学術的に高いレベルの研究を目指す一方で、研究成果が県民の皆様T細胞前駆細胞は胸腺において、まずαβとγδ T 細胞への運命決定が行われる。αβ T 細胞はCD4+ もしくはCD8+ T 細胞へと分化し抹消へ移動する。抹消へと移行したCD4+ T 細胞は抗原への免疫応答の種類を決定するTh1 もしくはTh2 細胞へ分化する。 Th1細胞はinterferon-g (IFN-γ)を産生し細胞性免疫をつかさどり、Th2 細胞はIL-4 を産生し液性免疫を惹起し血清中のIgG1やIgE の産生を誘導する。
Notch/RBP-J シグナルは神経系・造血系等の様々な細胞の運命決定に重要な役割をはたすことが知られている。受容体であるNotch はリガンドであるJagged やDelta と結合することによって活性化され、Notch細胞膜貫通領域が蛋白分解され細胞内ドメインが切り出される。Notch の細胞内ドメインは切り出された後、核へと移行し転写因子であるRBP-J と結合し、HES1などの標的遺伝子の転写をを活性化することが知られている(図1)。
γδ T細胞の分化・抹消への移動、αβ T 細胞の成熟におけるNotch /RBP-J シグナルの役割
胸腺におけるT細胞の分化段階はCD4とCD8の2つの分子の発現から4つのサブセットに分類される。CD4~CD8~(double-negative : DN))細胞が最も未分化な細胞であり、DN細胞はCD44とCD25の発現から更にDN1-4の4種のサブセットに分けられる(図2)。
骨髄から胸腺へ移行してきたもっとも未分化な細胞がDN1細胞である。DN2細胞の段階でαβとγδ T 細胞の運命決定が起こり、αβ T細胞に分化した細胞はDN3細胞となりTCR β鎖の組換えが起こる。TCR β鎖の組換えに成功した細胞はDN4細胞を経てDP細胞、CD4+もしくはCD8+細胞へと分化していく。我々はDN2細胞からDN3細胞にかけてCreを発現するlck-cre transgene を用いRBP-JをDN2ステージより欠損させた。αβ T細胞の分化においてはNotch1が欠損した時と同様、DN3ステージでの成熟障害が認められた(図3)。
A: RBP-J欠損下における胸腺細胞のサブセットの絶対細胞数
B: BrdU パルス投与3日後のBrdU陽性DN細胞数、RBP-J が欠損するとDN3ステージで分化が遅延する(*, P<0.05)
C: BrdU パルス投与後におけるBrdU 陽性γδ T細胞数
D: RBP-J欠損下における脾臓、腹腔リンパ節におけるγδ T細胞絶対数
E: BrdU パルス投与(上)と持続投与(下)後におけるBrdU陽性γδ T細胞数
CD4+ T 細胞のTh1/Th2 細胞への分化におけるNotch/RBP-Jシグナルの役割
A: RBP-J欠損下における正常血清抗体価
B: OVA 免疫後32日後のOVA特異的抗体価
C: RBP-J欠損下におけるTh1(IFN-γ陽性)細胞とTh2(IL-4陽性)細胞の分化、脾臓よりナイーブCD4+T細胞を単離しIL4存在下と非存在下で抗CD3抗体と抗CD28抗体にて刺激を行った。
我々は特異的な発生時期に特異的な細胞種のみで遺伝子を欠損させるconditional knockout mice の手法を用いて、Notch/RBP-JシグナルがT細胞発生において多段階において分化を制御しているということ、特に抹消によるTh1/Th2細胞の分化制御が生体内における免疫反応のタイプにすら影響を与えうる事を明らかにしてきた。今後,抹消のどの領域において、またどのような免疫反応のどの細胞にNotchのリガンドが発現されているかを解析する事によって、Notchシグナルによる免疫反応制御機構が解明されることと考えられる。Notchシグナルを修飾することによって免疫反応制御の可能性を模索することは、アレルギー、自己免疫疾患などの新たな治療の開発につながると期待される。
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