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研究所報2003

Acetazolamideが視覚刺激時の血流と酸素代謝の変化におよぼす影響 山内浩・岡沢秀彦・杉本幹治 ・高橋昌章・岸辺喜彦

1.はじめに

健常脳の神経活動時には血流量の増加は酸素代謝の増加よりも程度が大きい。このことは機能的MRI(BOLD法)による信号変化の基礎になっている。近年、機能的MRIにより、中枢性薬剤投与前後で、神経賦活時の信号の変化を測定し比較することにより、薬剤の神経作用を評価しようとする試みがあり、その有用性が示唆されている。しかしながら、ほとんどの場合、薬剤投与時に、神経活動にともなう血流と酸素代謝の反応の関係が変化しないことが検証されていないので、BOLD信号変化の解釈は困難である。
acetazolamideなどの炭酸脱水素酵素阻害剤は、pHを下げシナプスの伝達効率を減少し、抗けいれん作用を示すと考えられている。既報で、我々は、acetazolamideは、全脳および局所脳血流量を増加させるが、酸素代謝には有意な変化を及ぼさないことを報告した1)。本研究の目的は,acetazolamideが、神経刺激時の血流と酸素代謝の変化に及ぼす影響を、PETによる直接測定を行うことで、明らかにすることである2)。

2.対象と方法

 若年健常志願者6例(平均年齢26歳)を対象とした。ポジトロンCTおよび15O標識の水(ボラス静注法)と酸素ガス(ボラス吸入法)を用いて、1) 安静時(画面の中心の十字を凝視)、2)acetazolamide投与前の視覚刺激時(4Hzで反転する黄青の環状のチェッカーボードによる)。および3)投与後(10分、 20分)の視覚刺激時に、この順序でそれぞれ脳血流と酸素代謝率の順に測定した。脳血流量はautoradiographic methodにより、酸素代謝率はthree-weighted integral method (two-compartment model)により計算した。酸素代謝率/血流量比も計算した。大脳皮質視覚野の値(左右平均値)と全脳平均値(その他の大脳皮質領域の平均値)とを求め、検討した。

3.結果

1)acetazolamide投与前、視覚刺激により、安静時と比較して、視覚皮質の血流量は有意に増加した(平均33%, p<0.005)が、酸素代謝率の変化は有意ではなかった(図1)。血流量と酸素代謝率の全脳平均値には有意な変化はなかった(図2)。acetazolamide投与後、視覚刺激により、安静時と比較して、全脳および視覚皮質で、血流量と酸素代謝率は同様に変化した(血流は増加、それぞれ37%と65%、酸素代謝は減少、それぞれ-8%と-16%)(図1,2)。

2) 既報で、我々は、acetazolamideが血流と酸素代謝に及ぼす影響は大脳皮質各領域でほぼ等しいことを示している1。そこでacetazolamideによる全脳の変化から視覚皮質での変化を抽出する目的で全脳平均値で視覚皮質の値を補正した(図3, 4, 5)。その結果、acetazolamide投与後の視覚刺激に対する視覚皮質の血流量と酸素代謝の反応は、acetazolamide投与前よりも減少していた(血流、20%対38%、酸素代謝-9%対3%)。一方、視覚刺激時の酸素代謝/血流量比の値はacetazolamide投与前後で不変で、その反応の程度も同じ(-24%)であった。

4.結論と考察

1)acetazolamideは視覚刺激に対する視覚皮質の血流と酸素代謝の反応の両者を減少させた。この結果は、acetazolamideが神経興奮性を減少させることを示唆し、抗てんかん薬としての使用を支持する。
2)安静時からの変化率で評価した場合、acetazolamide投与により、視覚刺激に対する視覚皮質の血流と酸素代謝の反応の間の関係が変化した。すなはち、視覚刺激により、血流が増加し神経活動の増加が示唆されるにもかかわらず、酸素代謝は減少した。この結果は、エネルギーの変化ではなく、その総量が神経賦活時の脳活動を支えるという理論により解釈可能である。視覚刺激時の酸素代謝/血流量比の値がacetazolamide投与前後で不変であったことは、視覚刺激に対する血流と酸素代謝の反応の間の関係は、エネルギー総量に関しては変化していないことを示す。acetazolamide投与前後ともに安静時より視覚刺激時のエネルギー総量は増加しているが、acetazolamideによる神経興奮性の減少が、酸素代謝/血流量比を一定に保ちながら、acetazolamide投与後の視覚刺激時のエネルギー総量を減少させたと考えられる。刺激された視覚領域での何らかの代謝分画の変化により酸素代謝総量が減少した可能性がある。神経活動に関連した代謝の変化は嫌気性のブドウ糖代謝の増加である。安静時に行われていた好気性代謝の一部が、神経刺激時に嫌気性代謝に変化すると考えると酸素代謝の減少とエネルギー総量の増加を同時に説明可能である。
3)酸素代謝/血流量比減少は機能的MRIで得られるBOLD信号の増加と関連がある。acetazolamide投与前後で血流の増加反応は減少したが、酸素代謝/血流量比の反応は不変であったことは、BOLD信号の変化の解釈を困難にする可能性がある。BOLD信号変化を薬剤の中枢作用の定量的指標として解釈する際には注意が必要である。

参考文献

1) Okazawa H, Yamauchi H, Sugimoto K, Toyoda H, Kishibe Y, Takahashi M. Effects of acetazolamide on cerebral blood flow,
blood volume and oxygen metabolism: A PET study with healthy volunteers. J Cereb Blood Flow Metab 2001; 21: 1472-1479.
2) Yamauchi H, Okazawa H, Kishibe Y, Sugimoto K, Takahashi M. The effect of acetazolamide on the changes of cerebral blood
flow and oxygen metabolism during visual stimulation. NeuroImage 2003; 20: 543-549.


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