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研究所報2003

治療法決定のためのasparagine synthetase(ASNS) の発現量解析 入野保・逢坂光彦 滋賀県立小児医療センター・小児科鬼頭敏幸

1.はじめに

 T-ALLや一部のAMLにおいては、このasparagine synthetase (ASNS)の欠損あるいは低発現例があり、これらの症例に対してアスパラギナーゼによりアスパラギン枯渇、蛋白合成抑制、DNA合成阻害を引き起こし、アポトーシスを介して細胞死に導く治療法の有効性が報告されている。1)2)3)
ASNSを発現している正常組織、骨髄中の正常前駆細胞には障害性がないため、選択毒性の強い薬剤である。適応症例の診断や治療法選択のために、リアルタイムPCRによるASNS遺伝子の発現量解析法を確立した。

2.方法

 細胞株はK562、HL60、Molt-4、U937と健常者の末梢血細胞より抽出したtotal RNAより合成したcDNAをテンプレートとし、リアルタイムPCRにて発現量の定量分析を行った。また、各細胞株および健常者末梢血のサイトスピン標本をASNSモノクローナル抗体により免疫染色を行い比較検討した。

3.結果

ASNSおよびGAPDHの検量線は両者ともに6乗希釈レベルまで直線性が認められた。これは絶対量として10コピーまで検出できる計算になり、あらゆる材料のASNSの定量解析は充分可能と考えられる。
細胞株ではK562が最も発現が高く、Molt-4が最も低く、また免疫染色との相関性も認められた。これらの定量値は免疫染色の染色性とほぼ相関する。健常者末梢血ではK562に比べ1/10程度の発現量であった。免疫染色の結果は顆粒球では発現がみられ、単球やリンパ球では陰性細胞が多く観察された。

4. 考察と今後の展望

リアルタイムPCRによるASNSのmRNA発現量解析はタンパク発現量を反映していた。免疫染色など定性的な方法と違い、定量化でき、その直線性に優れ感度も高かった。他法に比し手技が簡便であることも併せ、診断や治療法選択の指標として有用性が高い。臨床症例についても詳細に検討中である。またFlow Cytometryによる細胞内AS蛋白の定量的解析法の確立を進めたい。

参考文献

1) Story, M.D., Voehringer, D.W., Stephens, L.C., and Meyn, R.E.: L-asparaginase kills lymphoma cells by apoptosis. Cancer
Chemother Pharmacol 32, 129-33. 1993.
2) Bussolati, O., et. al.: Characterization of apoptotic phenomena induced by treatment with L-asparaginase in NIH3T3 cells.
Exp Cell Res 220, 283-91. 1995.
3) Ueno, T., et. al: Cell cycle arrest and apoptosis of leukemia cells induced by L-asparaginase. Leukemia 11, 1858-61. 1997.


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