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研究所報2002

HDL受容体、SR-BIの遺伝子異常により引き起こされる病態の解明 -新しい遺伝子検査法の開発- 加嶋照美・上田之彦

1.はじめに

 HDLコレステロールは、冠動脈疾患の負の危険因子と考えられている。HDLの抗動脈硬化作用の説明として最も重要なものが、コレステロール逆転送系である。すなわち、HDLは、血管壁を含めた末梢細胞から、余分なコレステロールを引き抜き、それを肝臓に運ぶ働きをしているため、動脈硬化を抑制するのである。このコレステロール逆転送系で重要な働きをしているのが、肝臓でHDLからコレステロールを受け取る受容体、SR-BIである。SR-BIは、比較的最近発見された分子で、その遺伝子は非常に大きく、解析が容易でないため、この遺伝子異常の報告は未だなされていない。そこで我々は、この遺伝子の異常を解析する検査技術を開発し、特に冠動脈疾患との関連を明らかにしようとしている。

2.研究の目的と方法

 遺伝子異常症のほとんどは、その遺伝子上の1塩基の置き換えや欠損、過剰によるものである。この1塩基異常を検出する検査法として広くSSCP(Single Strand Conformation Polymorphism)法が用いられている。しかしながらこの方法で一度に調べることのできるのはせいぜい数百塩基の大きさであるため、SR-BIのように七万塩基にもおよぶ巨大な遺伝子を対象としうるのは困難である。そこで我々は、SR-BI遺伝子の転写産物、メッセンジャーRNAが約2000塩基からなることに着目し、静脈採血した血液の白血球分画から抽出したRNAをRNA逆転写酵素でDNAに変換し、得られたcDNAを利用することにした。このcDNAを鋳型として、PCR法により200-300塩基からなるDNA断片を複製し、それをSSCP法で解析することとした。

3.結果

 まず、研究所正常ボランティア3名の血液、約5mlからRNAを抽出し、RNA逆転写酵素によりcDNAを得、PCR法により得られたDNA断片をSSCP法により解析した。その結果、図1に示すように、1名に他の2名と異なる泳動パターンを認めた。

図1,SR-BI遺伝子のSSCP
SR-BI遺伝子のSSCP

この部分の遺伝子DNA配列を解析したところ、AおよびBでは父方、母方でtとcの二つの配列を持つのに対し、Cの遺伝子では父方母方ともにtの配列を持つことがわかった(図2)。

図2,塩基配列
塩基配列

4.まとめ

 今回の準備的実験では、健常者を検討したため、病的意味のある遺伝子変異は発見できなかったが、少なくとも今回我々が考案した方法で、SR-BI遺伝子の変異を発見することが可能であることが証明された。今後、冠動脈疾患を持つ患者検体に応用して解析することにより、これまでに発見されていない遺伝子異常が診断されうると考えられる。


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