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研究所報2002

ラットENU白血病系を用いたがん関連遺伝子の単離の試み 京都大学医学部小網健市 逢坂光彦

1.はじめに

 ラットDMBA白血病において高率にN-rasのコドン61の2番目の塩基にA→T点突然変異があり、この系を特徴づける遺伝子変異であることを報告してきた(1,2)。一方N-ethyl-N-nitrosourea(ENU)でもDMBAと形態学的によく類似した白血病をラットに引き起こすが、N-rasには変異が見られないことが分かっている(3)。
この研究ではENUを用いた誘発を行い、遺伝子変異や遺伝子発現の比較検討を試みた。ENUはラットに高率に白血病を誘発するが(4)、同量のENUに暴露されても白血病を発症せず、著しい貧血を呈し死に至る個体がある。これらの2群から得られた骨髄細胞における発現量に差のある遺伝子を単離するため。cDNAサブトラクション法により比較し、発がん関連の新しい遺伝子の単離を試みた。

2.方法

6週齡のDonryuラットに0.02%ENU水溶液の経口投与を開始し、120日間程度投与を継続した。白血病の発症を確認したものは末梢血のスメア標本を作製し、白血病細胞の形態を確認した。白血病症例および貧血例のそれぞれから骨髄の細胞を採取し、mRNAを抽出した。これをcDNA subtractionにより両者の間の発現量に差のある遺伝子をクローニングし、塩基配列を決定した。発現の差の確認は、得られた配列を基にして新たなプライマーを設計し、RT-PCR法により確認した。

3.結果と考察

cDNA subtractionの結果、おびただしい数のクローンが得られたため、その塩基配列を一つ一つ調べている。得られた塩基配列情報をBLASTで相同性を確認すると、データベース上に存在しない全く新しい遺伝子の断片がいくつか得られている。また、これまでに腫瘍との関連は全く考えられていない遺伝子もでてきている。予想外に新しい遺伝子の断片が得られているため、今後はその全長を決定し、さらに細胞の腫瘍化のどのような場面でその役割を果たしているのか、遺伝子の機能解析を進める予定をしている。

参考文献

1) Osaka M, Matsuo S, Koh T, Liang P, Kinoshita H, Maeda S, Sugiyama T. N-ras mutation in 7,12-dimethylbenz[a]anthracene (DMBA)-induced erythroleukemia in Long-Evans rats. Cancer Lett. 91:25-31, 1995.
2) Osaka M, Matsuo S, Koh T, Sugiyama T. Loss of heterozygosity at the N-ras locus in 7,12-dimethylbenz[a] anthracene-induced rat leukemia.Mol Carcinog.18:206-212, 1997.
3) 小網健市他、ENU誘発ラット白血病におけるras、p53遺伝子の変異の検討日本癌学会総会記事 p103, 1997
4) Ogiu T, Odashima S. Related Articles Induction of rat leukemias and thymic lymphoma by N-nitrosoureas.Acta Pathol Jpn. 32 (Suppl 1):223-35, 1982.


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