ENGLISH

研究所報2002

PETによる腫瘍の病期診断への応用 18FDG-PETの頭頸部腫瘍に対する診断能力に関する研究 嘉田真平1)林正彦1) 結城和央1)岡沢秀彦2) 1)成人病センター 耳鼻咽喉科 2)同 研究所

1.はじめに

 頭頸部領域の腫瘍の診断には、CTやMRIなどの形態学的診断に加え、悪性腫瘍の場合は、腫瘍の機能的診断また全身検索として、これまではGaシンチや骨シンチが行われていたが、その感度や分解能での優れた特徴ゆえに当院では18FDG-PETがその代替検査となっている。Gaシンチや骨シンチと比較して全身検索における18FDG-PETの有用性は、その感度や分解能から明らかであるが、耳鼻咽喉科的診察やCTやMRIなどの形態学的診断と比較して18FDG-PETはどの程度の診断能力があるかを検討した。また、頭頸部腫瘍に対する18FDG-PET検査の当院での現状・今後の課題や展望について報告する。

2.対象・方法

 当院研究所で18FDG-PET検査を開始してから、平成13年末までの約2年間の頭頸部領域の腫瘍(良性・悪性)の18FDG-PET検査のすべての症例を対象とした。診断能の検討については、疾患の種類や検査の目的によらず、すべての頭頸部腫瘍の18FDG-PET検査を対象とした。 今回の検討を行うにあたっての診断の根拠・確認の方法となる検査・観察方法は以下の通りである。
臨床的診断: 耳鼻咽喉科的診察(鼻咽腔喉頭内視鏡含む)・CT・MRI等PET以外の検査方法
18FDG-PET診断:良悪性の境界領域(淡い)も含め異常集積のあるものを陽性
診断の確認方法:病理組織学的所見、経過観察(2-24ヶ月)
今回の検討の対象となった頭頸部領域の18FDG-PET施行症例で、院内外の施行件数・部位別件数・目的別件数は以下の通りである。
当院:56件(45例)、他院:9件(8例)、 計65件(53例)
他院:天理よろづ・公立甲賀が3件ずつ、
その他3件
男性:45件(35例)、女性:20件(18例) 平均年齢:62.3歳

・原発疾患別
今回の検討の対象となった頭頸部領域の18FDG-PET施行症例:原発疾患別
                                                            
・目的別件数
今回の検討の対象となった頭頸部領域の18FDG-PET施行症例:目的別件数

これらの件数のうち、原発不明癌の原発検索は6件(5例)であり、そのうち5件(4例)が他院の依頼であった。

3.結果・考察

(1)原発巣に対する診断能力
原発不明癌で依然として原発不明のものは除外(3件)
他院症例で結果が確認できないものは除外(1件)
→4件除外し、合計61件が対象

・18FDG-PET検査の原発巣に対する感度・特異度
原発巣(+) 原発巣(-)
18FDG-PET検査(+) 42 1
18FDG-PET検査(-) 3 15

18FDG-PETの原発巣に対する感度は93%、特異度は94%。

・臨床的診断の原発巣に対する感度・特異度
原発巣(+) 原発巣(-)
臨床的診断(+) 42 0
臨床的診断(-) 3 16

臨床的診断の原発巣に対する感度は95%、特異度は100%。

 治療前・再発時の臨床的診断・18FDG-PETの結果はほぼ一致しており、また、治療後の経過観察中、病変がないことの診断も一部を除いて18FDG-PETで診断できている。
18FDG-PETで偽陰性となったものは、初期喉頭癌(T1・2)の3例であった。偽陽性となったのは、上咽頭癌の治療後で炎症との区別がつきにくい症例であった。なお、上記の集計には含まれていないが、精査中、胃カメラで発見された早期食道癌に集積しなかった症例も2例あった。厚さも含め5mm以上(立方体)のサイズがないと18FDG-PETでは集積しないこと、鼻咽腔喉頭内視鏡や上部消化管内視鏡検査は欠かせないこと、を再認識した。
臨床的診断で診断できなかった原発不明癌で、18FDG-PETで原発が判明した症例は3例(肺癌・扁桃癌2例)であった。それ以外の症例は、原発巣を確認してからの診断であるから一致している。
これまでの報告では、耳下腺・甲状腺を除く頭頸部腫瘍の原発巣に対する18FDG-PETの診断能は、感度93%、特異度96%、精度94%との報告1)があるが、比較しても遜色のない結果と言える。今回の当院での検討では耳下腺や甲状腺腫瘍も含まれているが、主に悪性の診断がついた症例を対象として行っているため結果への影響は少なかったと考えられる。

(2)リンパ節転移に対する診断能力
良性疾患は除外(3件)
他院の症例で結果が確認できないものを除外(4件)
→7件除外し、合計58件が対象

・18FDG-PET検査のリンパ節転移に対する感度・特異度
リンパ節転移(+) リンパ節転移(-)
18FDG-PET検査(+) 28 3
18FDG-PET検査(-) 1 26

18FDG-PETのリンパ節転移に対する感度は97%、特異度は90%。

・臨床的診断のリンパ節転移に対する感度・特異度
リンパ節転移(+) リンパ節転移(-)
臨床的診断(+) 23 5
臨床的診断(-) 6 24

臨床的診断のリンパ節転移に対する感度79%、特異度83%。

 18FDG-PETで偽陰性となったものは、5 cm強の大きい甲状腺腫瘍(T4)の5 mm大のリンパ節転移のあった症例であった。甲状腺癌の主病変への集積で分かり難かったと考えられるが、臨床的には手術的に同時に摘出する部位であったため、影響はなかったといえる。一方偽陽性となったのは、喉頭癌治療前・耳下腺癌治療後・中咽頭癌治療後の症例であり、炎症との判断が難しいレベルの集積の症例であった。ただ、これらの症例は臨床的にはリンパ節転移はないと診断していたため、PETを再度行うなどの経過観察をして現在転移を認めていない症例が2例ある。残りの1例は、喉頭癌の手術時に片側の頸部郭清を行い、術後の病理検査にて転移を認めなかった。
18FDG-PETの診断上の問題点は、病変への感度は良いが、FDGが悪性腫瘍以外(生理的集積部位・良性腫瘍・治療後などの炎症部位)にも集積するため特異度が劣ることであるが、そのことを支持する結果と言える。
リンパ節転移を疑う淡い集積のあった症例は18FDG-PET陽性例28例中4例であった。うち、2例は臨床的にはリンパ節転移(+)であったが、嚢胞状リンパ節転移であったため集積が弱かったと考えられる。残り2例は経過観察中に増大し、手術が行われ、病理検査でリンパ節転移を確認した。淡い集積は病変の可能性があり厳重な経過観察が必要と考えられる。
18FDG-PETでのリンパ節転移(-)症例(26例)のうち、生検などで病理組織学的に確認したのは、臨床的にリンパ節転移があると診断していた3症例である。臨床的にリンパ節転移(+)と診断した症例(28例)のうち、5例が18FDG-PETでは集積を認めなかった。このような場合、当院では病変のある可能性は低いと考え、頸部郭清などの積極的な治療は行わずに生検または経過観察をしている。生検等での病理組織学的確認は3例でしており、いずれも転移はなく、また、2例は経過観察しているが現在のところリンパ節転移は判明しておらず、5例全例が18FDG-PETの結果と一致している。このような症例では、過剰な治療を回避できているうえに、全身検索も兼ねているという点で、患者のQOLや医療経済的な観点から18FDG-PETは有用であるといえるだろう。
臨床的にリンパ節転移(-)と診断した症例(30例)のうち、6例が現在までにリンパ転移があることが判明しており、6例中5例で18FDGが集積していた。臨床的診断・18FDG-PETともに診断できなかったのは先に挙げた甲状腺の5mmのリンパ節転移の症例のみである。
18FDG-PETの頭頸部癌のリンパ節転移の診断については、Laubenbacherら2)の感度80%・特異度98%、Braamsら3)の感度66%・特異度100%という報告があるが、当院での結果は、これらの結果と比較すると、感度は優れているが特異度では劣ると言える。これは、淡い集積も含めて18FDG-PET(+)としているからと考えられる。淡い集積を18FDG-PET(-)であると仮定し直すと、感度は24/29=83%、特異度は29/29=100%となり、これまでの報告と同様の傾向となる。

4.まとめ

・今後の展望
感度は良いが炎症部位に取り込まれて偽陽性となりやすい点、ごく小さい病変は偽陰性となってしまう点、この2点の特徴に注意して行えばこれまでの検査では得られなかった情報が得られるため、患者のQOLや医療経済的な観点からも有用であるといえる。しかし、保険適応がない、サイクロトロン等の設備が高価、という2点の普及の障害がある。しかし、保険適応は今後予定されており、また、18FDGの半減期は110分あるので一般RI製剤として提供されれば、サイクロトロンのない施設でもPETカメラのみで18FDG-PETが可能になる。
・今後の課題
今回の検討では、最終診断の根拠となる経過観察の期間が、短いため、より長期間の経過観察を行うことで、今回の結果が正しいのか否かを確認する必要がある。さらに、今回18FDG-PETの診断の根拠とした集積の程度は「淡い集積も含めて集積とする」というややあいまいなものとも言えるため、今後は18FDGの集積の度合い(SUV:Standardized-Uptake-Value)による病変の有無の検討も今後の課題と言える。また、当院では開始してから2年であり、現在までの45症例のうち、複数回の18FDG-PET検査を行った症例は10例のみ(3回:1例、2回:9例)であり、今後は複数回施行症例が増えることが予想され、18FDG-PETによる経過観察に関する検討も想定される。

本研究の要旨は京都大学医学部耳鼻咽喉科研究発表会(平成14年1月19日)で口演した。

参考文献

1) 日本アイソトープ協会医学・薬学部会サイクロトロン核医学利用専門医委員会FDG-PETワーキンググループ:FDG-PET検査の臨床的有用性と医療経済効果に関する全国調査報告. RADIOISOTOPES 49 ・ 3, V~XIiii, 2000.
2) Laubenbacher C, Saumweber D, Wagner Manslau C, et al : Comparison of fluorine-18-fluorodeoxyglucose PET, MRI and endoscopy for staging head and neck squamous-cell-carcinomas. J Nucl Med 36 : 1747-1757, 1995.
3) Braams JW, Prium J, Freling NJ, et al : Deteection of lymph node metastases of squamous-cell cancer of head and neck with FDG-PET and MRI. J Nucl Med 36 : 211-216, 1995.


滋賀県立総合病院研究所 〒524-8524 滋賀県守山市守山5-4-30 Tel:077-582-6034 Fax:077-582-6041

Copyright(c) 2004- 2019 Shiga Medical Center Research Institute, All Rights Reserved.