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研究所報2002

PETによる心機能画像の臨床応用に関する研究 冠動脈疾患患者の運動療法の局所心筋血流および冠血流予備能に及ぼす効果 羽田龍彦*、岡沢秀彦、岸辺喜彦、高橋昌章、玉井秀男* *成人病センター・循環器内科

1.はじめに

 Belardinelli Rら1)は1998年に、虚血性心筋障害患者への有酸素運動の継続が心筋のタリウム集積を改善させると報告している。その機序として、冠側副血行路増生や冠細小動脈の拡張能の改善や冠狭窄の退縮を考察しているが、しかしその詳細は不詳である。近年、運動時の冠循環において調節的な役割を演じていると考えられているnitric oxide (NO)に関心が集まっている。NOが冠血管の弛緩作用を有すること2)ならびに運動時の冠血管でNO産生が増加することなどの知見3)が根拠となっている。1996年、Hintzeらは犬の実験で、冠動脈および末梢血管の血管拡張反応や血管内皮からのNO産生に対して有酸素運動が及ぼす影響について検討しており、有酸素運動の継続が冠動脈および末梢血管のNO依存性血管拡張反応を増強させることおよび冠微少血管のNO産生を増加させることを明らかにした。3)またその機序として、有酸素運動が血流によるずり応力を増加させて内皮からのNO産生を増加し、その結果、血管拡張反応を増強させるとしている。しかし現在、人においての報告はいまだない。そこで今回我々は有酸素運動継続の冠拡張能に対する影響に着目し、有酸素運動継続による冠血管拡張反応増強作用が人の心筋血流においても生ずるものかどうか冠動脈疾患患者を対象として、13N-ammonia positron emission tomography (PET) を用いて、局所心筋血流及び冠血流予備能を器質的冠狭窄部心筋とその対側部健常心筋、心筋梗塞後患者の梗塞部心筋および梗塞対側健常部心筋とその境界部心筋において評価検討した。また心筋梗塞後患者へのウォーキングリハビリの運動量と局所心筋血流量および血流予備能の関連も評価した。

(1)器質的狭窄性冠動脈疾患患者への運動療法の局所心筋血流および冠血流予備能におよぼす効果

研究方法

 1999年9月から2001年3月までの期間で狭心症の診断のもと滋賀県立総合病院にて心臓カテーテル検査を受け、経皮的冠動脈形成術の適応がなく内服フォローが可能となった16症例(男性:15名、女性:1名)を対象とした。平均年齢は65±10歳であった。対象患者を無作為にトレーニング群と外来フォロー群に分類、トレーニング群は8名で全例男性で平均年齢は67±9歳であり、外来フォロー群は8名で男性7名、女性1名で平均年齢は63±10歳であった(Table1)。トレーニング群は週1回の通院心臓リハビリテーションと1日10000歩を目標にした在宅ウォーキングにてフォローし外来フォロー群は月1回の外来診察のみとした。トレーニング群は坐位自転車エルゴメーター(フクダ電子社製Well Bike(BE-350))とOxycon-Alpha(フクダ電子、東京)を用いて決定した嫌気性代謝閾値強度の運動を7ケ月間継続させた。両群とも7ケ月前後で冠動脈造影検査と13N-ammonia positron emission tomography (PET) 検査を繰り返し施行した。


Table 1 Chracteristics of the 16 patients with Ischemia Heart Desease

  Patient No. Age/Sex Organic Stenotic Artery
Training group      
  1 55/M LCX
  2 53/M LAD
  3 75/M RCA
  4 71/M LCX
  5 77/M LAD
  6 66/M LCX
  7 74/M LCX
  8 65/M LAD&LCX
  Mean ±SD 67±9
Control group      
  1 63/M LAD
  2 50/M LAD
  3 73/M RCA&LAD
  4 66/F RCA&LAD
  5 69/M RCA
  6 72/M LCX
  7 65/M RCA&LAD
  8 44/M RCA
  Mean ±SD 63±10
RCA dominant right coronary artery, LCX dominant left circumflex artery, and LAD left anterior descending artery.

冠動脈造影検査では器質的狭窄性病変の進行増悪の有無の評価をおこなった。またPET検査では器質的冠狭窄部心筋とその対側部健常心筋において局所心筋血流及び冠血流予備能を評価した。PET検査はAdvance GE Medical Systems PET scannerを用いておこない、患者は仰臥位安静状態でまずtransmission scanを10分間行ない、引き続き院内に設置されているサイクロトロンおよび自動合成装置から得られた13N-ammonia700~800MBqを静注し、10分間撮像した。また2時間後、ジピリダモール(0.56mg/kg/4min.)を静注後に同じくPET撮像を繰り返した。データー収集後、Hanning filter cutoff 6mmを用い、24スライスの心筋体軸横断像を得た。またその空間分解能(FWHM)は5.0mmであり、再構成はcomputer system (Dr.view V, Asahi-Kasei)により左室の短軸、垂直長軸、水平長軸画像を作成し、関心領域の局所心筋血流の定量評価をおこなった。統計学的処理として、すべてのデーターは平均±標準偏差で表示した。両群間の各心筋領域の局所心筋血流値の差の検定は対応のないt検定を、また同一群同一心筋領域の7ケ月前後の血流値の差の検定は対応のあるt検定をそれぞれ用い、p<0.05を有意差の判定とした。

結果

 Table2およびFigure1,2に結果を示した。両群のコントロールの局所心筋血流は器質的冠狭窄部心筋では、トレーニング群:0.46±0.04ml/g/min、外来フォロー群:0.55±0.08ml/g/min、対側部健常心筋では、トレーニング群:0.53±0.22ml/g/min、外来フォロー群:0.59±0.08ml/g/minであった。心臓カテーテル検査上の器質的狭窄部の狭窄度は両郡間で変わりはなかったが、器質的冠狭窄部心筋では、外来フォロー郡で有意に局所心筋血流が高値であった。ジピリダモール負荷による局所心筋血流増加度では器質的冠狭窄部心筋では、トレーニング群:1.38±0.34、外来フォロー群:1.12±0.11、対側部健常心筋では、トレーニング群:1.96±0.53、外来フォロー群:1.68±0.50、と各領域両群間に有意差は認められなかった。次に7ケ月目の検討では、器質的冠狭窄部の局所心筋血流は、トレーニング群:0.53±0.08ml/g/min、外来フォロー群:0.57±0.08ml/g/min、またジピリダモール負荷による局所心筋血流増加度は、トレーニング群1.51±0.29、外来フォロー群:1.05±0.07でありトレーニング群で局所心筋血流の血流増加度に有意な改善を認めた。一方、対側部健常心筋ではその局所心筋血流はトレーニング群にて有意に増加しており0.53±0.22ml/g/minより0.69±0.10ml/g/minであった。またジピリダモール負荷による局所心筋血流増加度も同じくトレーニング群にて改善しており器質的冠狭窄部心筋では1.51±0.29、その対側部健常心筋では1.98±0.40であった。一方、外来フォロー群では両領域の局所心筋血流およびそのジピリダモール負荷による血流増加度ともに有意な変化は認められなかった。


Table2 Regional Myocardial Blood Flow in the Patients with Ischemic Heart Disease
  Index Myocardial Blood Flow (ml/min/g)
    PET at 2 weeks PET at 7 months
Training group Ischemic region    
(N=8)  Basal value 0.46+0.04 0.53+0.08*
   Peak after dipyridamole 0.62+0.09 0.78+0.06*
   Coronary vaso_?dilator response 1.38+0.34 1.51+0.29
 
  Remote region    
   Basal value 0.53+0.22 0.69+0.10*
   Peak after dipyridamole 1.04+0.33 1.38+0.27*
   Coronary vasodilator response 1.96+0.53 1.98+0.40
 
Control group Ischemic region    
(N=8)  Basal value 0.55+0.08$ 0.57+0.08
   Peak after dipyridamole 0.61+0.08 0.60+0.07$
   Coronary vasodilator response 1.12+0.11 1.05+0.07$
 
  Remote region    
   Basal value 0.59+0.08 0.60+0.09$
   Peak after dipyridamole 0.99+0.30 0.83+0.37$
   Coronary vasodilator response 1.68+0.50 1.41+0.62$
 
Plus-minus values are mean±SD. * p<0.05 compared with PET at 2 weeks. $ p<0.05 compared with the training group. The coronary vasodilator response is defined as the ratio of peak myocardial blood flow to basal myocardial blood flow.
図1
                                                            
図2

結論

 器質的狭窄性冠動脈疾患患者への有酸素運動による心臓リハビリテーションは器質的冠狭窄部心筋とその対側部健常心筋両者ともに局所心筋血流および冠血流予備能を改善させる。

(2)心筋梗塞後患者への運動療法の局所心筋血流および冠血流予備能におよぼす効果

研究方法

 1999年9月から2001年5月までに滋賀県立総合病院に急性心筋梗塞症にて緊急入院後、緊急経皮的冠動脈形成術にて救命しえた63症例中、本研究に同意の得ることのできた20症例(男性:14名、女性:6名)を対象とした。平均年齢は65±10歳でpeak CKは4721±3563 IU/lであった。経皮的冠動脈形成術術後2週目に対象患者を無作為にトレーニング群と外来フォロー群に分類、トレーニング群は10名で男性6名、女性4名であり平均年齢は58±13歳、peak CKは5728±4274IU/lであった。一方外来フォロー群は10名で男性8名、女性2名、平均年齢は57±14歳でpeak CKは3744±2404IU/lであった。両群間に年齢およびpeak CKに有意差は認められなかった(Table3)。トレーニング群は週1回の通院心臓リハビリと1日10000歩を目標にした在宅ウォーキングにてフォロー、尚外来フォロー群は月1回の外来診察のみとした。トレーニング群は坐位自転車エルゴメーター(フクダ電子社製Well Bike(BE-350))とOxycon-Alpha(フクダ電子、東京)を用いて決定した嫌気性代謝閾値強度の運動を7ケ月間継続させた。両群とも経皮的冠動脈形成術術後2週目と7ケ月目に冠動脈造影検査と13N-ammonia positron emission tomography (PET) 検査を施行した。冠動脈造影検査では治療対象血管の再狭窄の有無および他枝病変の進行増悪の有無の評価をおこなった。またPET検査では局所心筋血流及び冠血流予備能を健常部心筋、梗塞部心筋およびその境界部心筋において評価した。PET検査はAdvance GE Medical Systems PET scannerを用いておこない、患者は仰臥位安静状態でまずtransmission scanを10分間行ない、引き続き院内に設置されているサイクロトロンおよび自動合成装置から得られた13N-ammonia700~800MBqを静注し、10分間撮像した。また2時間後に、ジピリダモール(0.56mg/kg/4min.)負荷試験後に同じくPET撮像を繰り返した。データー収集後、Hanning filter cutoff 6mmを用い、24スライスの心筋体軸横断像を得た。またその空間分解能(FWHM)は5.0mmであり、再構成はcomputer system (Dr.view V, Asahi-Kasei)により左室の短軸、垂直長軸、水平長軸画像を作成し、関心領域の局所心筋血流の定量評価をおこなった。統計学的処理として、すべてのデーターは平均+標準偏差で表示した。両群間の各心筋領域の局所心筋血流値の差の検定は対応のないt検定を、また同一群同一心筋領域の7月前後の血流値の差の検定は対応のあるt検定をそれぞれ用い、p<0.05を有意差の判定とした。


Table 3 Characteristics of the 20 patients with Myocardial Infarction
Patient No. CK Age/Sex Leads with Q waves Infarct-Related Artery Peak U/liter
Training group
1 66/M V1-V3 LAD 7960
2 67/F V1-V2 LAD 1026
3 61/F II,III,aVF RCA 4520
4 50/M II,III,aVF,V1-V5 LAD 12850
5 61/M V1-V4 LAD 2019
6 28/M III,aVF RCA 5500
7 59/F III,aVF RCA 13125
8 53/M LCX 3680
9 71/F V1-V3 LAD 2741
10 68/M V1-V3 LAD 3860
Mean± SD 58±13 5728±4274
Control group
1 23/M V1-V3 LAD 9150
2 51/M V1-V4 LAD 3360
3 54/M V1-V4 LAD 4120
4 62/M V1-V3 LAD 753
5 71/M LCX 804
6 44/M V1-V4 LAD 5320
7 66/M III,aVF RCA 2430
8 66/F LCX 5244
9 67/M V1-V3 LAD 3520
10 68/F V1-V3 LAD 2741
Mean±SD 57±14 3744±2404
CK denotes creatine kinase, RCA dominant right coronary artery, LCX dominant
left circumflex artery, and LAD left anterior descending artery.

結果

 Table4、Figure3,4に結果を示した。両群ともに心臓カテーテル検査上、心筋梗塞責任血管の有意な再狭窄を認めた症例はなく全例検討対象とした。冠動脈形成術術後2週目の局所心筋血流は梗塞部では、トレーニング群:0.12±0.04ml/g/min、外来フォロー群:0.10±0.11ml/g/min、梗塞対側健常部では、トレーニング群:0.63±0.07ml/g/min、外来フォロー群:0.69±0.13ml/g/min、またその境界部では、トレーニング群:0.43±0.07ml/g/min、外来フォロー群:0.47±0.09ml/g/minであり各領域両群間に有意差は認められなかった。またジピリダモール負荷による局所心筋血流増加度も同じく梗塞部では、トレーニング群:1.10±0.12、外来フォロー群:1.04±0.06、梗塞対側健常部領域では、トレーニング群:1.57±0.36、外来フォロー群:1.52±0.44、またその境界領域では、トレーニング群:1.48±0.35、外来フォロー群:1.58±0.30と各領域両群間に有意差は認められなかった。次に冠動脈形成術術後7ケ月目の局所心筋血流での検討では、梗塞部の局所心筋血流は、トレーニング群:0.13±0.04ml/g/min、外来フォロー群:0.19±0.10ml/g/min、またジピリダモール負荷による局所心筋血流増加度は、トレーニング群0.98±0.13、外来フォロー群:0.91±0.07であり両群間に有意差は認められなかった。一方、梗塞対側健常部および境界部領域ではその局所心筋血流はトレーニング群にて有意に増加しており、それぞれ0.69±0.08ml/g/min、0.49±0.07ml/g/minであった。またジピリダモール負荷による局所心筋血流増加度も同じくトレーニング群にて改善しており梗塞対側健常部では1.57±0.36から1.90±0.34へと有意に改善し、その境界部領域でも1.48±0.35から1.74±0.34と改善の傾向を認めた。一方、外来フォロー群では両領域の局所心筋血流およびそのジピリダモール負荷による血流増加度ともに有意な変化は認められなかった。


Table4 Regional Myocardial Blood Flow in the Patients with Myocardial Infarction
  Index Myocardial Blood Flow (ml/min/g)
    PET at 2 weeks PET at 7 months
Training group Infarcted region    
(N=10)  Basal value 0.12±0.04 0.13±0.04
   Peak after dipyridamole 0.13±0.04 0.13±0.04
   Coronary vasodilator response 1.10±0.12 0.98±0.13*
 
  Border region    
   Basal value 0.43±0.07 0.49±0.07*
   Peak after dipyridamole 0.62±0.16 0.87±0.16*
   Coronary vasodilator response 1.48±0.35 1.74±0.34
 
  Remote non-infarcted region    
   Basal value 0.63±0.07 0.69±0.08*
   Peak after dipyridamole 0.99±0.31 1.29±0.22*
   Coronary vasodilator response 1.57±0.36 1.90±0.34*
 
Control group Infarcted region    
(N=10)  Basal value 0.10±0.11 0.19±0.10
   Peak after dipyridamole 0.11±0.01 0.10±0.01$
   Coronary vasodilator response 1.04±0.06 0.91±0.07*
 
  Border region    
   Basal value 0.47±0.09 0.53±0.17
   Peak after dipyridamole 0.73±0.13 0.73±0.07$
   Coronary vasodilator response 1.58±0.30 1.47±0.29$
 
  Remote non-infarcted region    
   Basal value 0.69±0.13 0.70±0.13
   Peak after dipyridamole 1.05±0.37 1.07±0.32$
   Coronary vasodilator response 1.52±0.44 1.53±0.40$
 
Plus-minus values are means ±SD. * p<0.05 compared with PET at 2 weeks. $ p<0.05 compared with the training group. The coronary vasodilator response is defined as the ratio of peak myocardial blood flow to basal myocardial blood flow.
図3
                                                            
図4

結論

有酸素運動による心臓リハビリテーションは心筋梗塞後の生存心筋において局所心筋血流および冠血流予備能両者を改善させる。

(3)心筋梗塞後患者へのウォーキングリハビリの心筋局所血流および冠血流予備能におよぼす効果

研究方法

 1999年9月から2001年5月までに滋賀県立総合病院に急性心筋梗塞症にて緊急入院後、緊急経皮的冠動脈形成術にて救命しえた63症例中、本研究に同意の得ることのできた20症例(男性:14名、女性:6名)を対象とした(Table6)。平均年齢は65±10歳でpeak CKは4721±3563 IU/lであった。対象患者は経皮的冠動脈形成術術後2週目にウォーキングリハビリについて説明し月1,2回の当院心臓リハビリテーション外来通院と1日10000歩を目標にした在宅ウォーキングリハビリにて7月間フォローした。尚対象患者は坐位自転車エルゴメーター(フクダ電子社製Well Bike(BE-350))とOxycon-Alpha(フクダ電子、東京)を用いて決定した嫌気性代謝閾値強度の心拍数を処方し、その強度でのウォーキングを継続させた。対象患者は全例その前後で冠動脈造影検査と13N-ammonia positron emission tomography (PET) 検査を施行した。冠動脈造影検査では治療対象血管の再狭窄の有無および他枝病変の進行増悪の有無の評価をおこなった。またPET検査では局所心筋血流及び冠血流予備能を健常部心筋、梗塞部心筋およびその境界部心筋において評価した。PET検査はAdvance GE Medical Systems PET scannerを用いておこない、患者は仰臥位安静状態でまずtransmission scanを10分間行ない、引き続き院内に設置されているサイクロトロンおよび自動合成装置から得られた13N-ammonia700~800MBqを静注し、10分間撮像した。また2時間後、ジピリダモール(0.56mg/kg/4min.)静注後に同じくPET撮像を繰り返した。データー収集後、Hanning filter cutoff 6mmを用い、24スライスの心筋体軸横断像を得た。またその空間分解能(FWHM)は5.0mmであり、再構成はcomputer system (Dr.view V, Asahi-Kasei)により左室の短軸、垂直長軸、水平長軸画像を作成し、関心領域の局所心筋血流の定量評価をおこなった。統計学的処理として、すべてのデーターは平均+標準偏差で表示した。同一心筋領域の7,8ケ月前後の血流値の差の検定は対応のあるt検定を用い、p<0.05を有意差の判定とした。また2つの測定値間の相関の検討には短回帰分析を用いて検討し、同じくp<0.05を有意差の判定とした。


Table5 Characteristics of the 20 patients with Myocardial Infarction
          Daily physical activity
Patients No. Age/Sex Leads with Qwaves Infarct-Related Artery CK peak(U/liter) using the pedometer
          (Step/day)
1 66/M V1-V3 LAD 7960 5688+1900
2 23/M V1-V3 LAD 9150 4860+1860
3 67/F V1-V2 LAD 1026 10994+7539
4 51/M V1-V4 LAD 3360 5178+2390
5 61/F II,III,aVF RCA 4520 6619+3111
6 54/M V1-V4 LAD 4120 5713+4519
7 50/M II,III,aVF,V1-V5 LAD 12850 6765+2210
8 62/M V1-V3 LAD 753 9523+1685
9 61/M V1-V4 LAD 2019 6938+2568
10 71/M - LCX 804 4300+1280
11 28/M III,aVF RCA 5500 9455+3011
12 44/M V1-V4 LAD 5320 2850+1340
13 59/F III,aVF RCA 13125 8700+3855
14 66/M III,aVF RCA 2430 5630+1560
15 53/M - LCX 3680 6492+2255
16 66/F - LCX 5244 3860+1260
17 71/F V1-V3 LAD 2741 4108+1280
18 67/M V1-V3 LAD 3520 7891+1105
19 68/M V1-V3 LAD 3860 5822+2012
20 68/F V1-V3 LAD 2741 4800+1430
Mean+SD 65+10 - - 4721+3563  
CK denotes creatine kinase, RCA dominant right coronary artery, LCX dominant left circumflex artery and
LAD left descending artery

結果

 Figure5に結果を示した。図では横軸に7ケ月間の1日万歩計総歩数の平均値を、縦軸に安静時局所心筋血流増加度合いを心筋梗塞領域、梗塞対側健常部領域とその境界部領域の3領域につき示した。図に示されたごとく両者には梗塞対側健常部領域とその境界部領域においてそれぞれR=0.652,R=0.549の有意な正の相関関係が認められた。次にFigure6では同じく横軸に7ケ月間の1日万歩計総歩数の平均値を、縦軸にはジピリダモール負荷による冠血流増加度の7ケ月前後での改善度合いを心筋梗塞3領域につき示した。図に示されたごとく両者には境界部領域においてのみR=0.279の有意な正の相関関係が認められた。

図5
                                                            
図6

結論

 有酸素強度でのウォーキングをより多くすることにより健常部心筋では局所心筋血流がより著しく改善し心筋梗塞後虚血性障害を有する生存心筋においては局所心筋血流および冠血流予備能ともにより著しく改善する。

考察

 運動による心筋潅流の改善に関する研究は、1957年のEcksteinによるイヌの実験までさか上る。彼は実験的な冠動脈狭窄を作成したイヌにトレッドミル負荷を用いて6~8週間にわたる運動をさせて、側副血行路の発達のあることを証明した。4)同様の実験結果はネズミやブタを用いても認められている。一方、人間の場合も同様の効果が期待されるが、側副血行路の増加がはたして運動療法自体によるものかあるいは冠動脈病変の進行により発達するものかの違いを明確に識別し、定量化することはいまだ困難である。側副血行路の直接的証明法として冠動脈造影検査は有用であるが、その解像度はたかだか200umであり、それより細いレベルの細動脈の情報は得られない。このような中、放射性同位元素を用いての報告が1980年より認められるようになった。1994年、Niebauerらは狭心症患者に5年間もの長期間にわたり運動療法と食事療法を継続させた結果、コントロール群と比較して脂質代謝は改善し、運動耐容能や最大2重積は有意に改善し、負荷タリウム心筋シンチグラフィー上の心筋血流も3割弱の改善を認めたが、冠動脈造影上の動脈硬化病変の進行を食い止めることはできなかったと報告している。5)また同じくLinxue Lらでは、55%の改善を認めたと報告している。6)この心筋タリウム集積欠損の減少は、トレーニングにより心筋酸素供給が改善したことを意味する事実であるが、冠動脈造影検査をはじめとする今までの検査手法ではその機序を明確に説明することができないのが現状である。さらに今日では動物実験による検討から、運動による血管内皮細胞のずり応力(shear stress)の役割が注目されるようになっており、有酸素運動が冠血流によるずり応力を増強させ、そのことが血管内皮からのNO産生を増加させて、その結果、血管拡張反応を増強させると推測されている。7)今回我々は心筋局所の血管拡張性や局所血流に着目し、この動物実験結果が人間にもあてはまるかどうかを13N-ammonia PETを用いて心筋局所血流を評価し検討をおこなった。 今回器質的狭窄性冠動脈疾患患者を対象とした研究では、トレーニング群においてのみ、器質的冠狭窄部心筋および対側健常部心筋ともに安静時およびジピリダモール負荷時両者とも心筋局所血流の改善を認めた。またトレーニング群では、ジピリダモールによる冠血流増加度も改善の傾向を認めたが外来フォロー郡では2領域ともに悪化傾向を示し両群間に有意差を生じた。また心筋梗塞患者を対象とした研究でも心筋梗塞障害領域を除く梗塞対側健常部領域およびその境界部領域においてトレーニング群にのみ、器質的狭窄性冠動脈疾患患者を対象とした研究と同様な改善を認めた。次に嫌気性代謝閾値強度の運動量と局所心筋血流量の関係ではFigure5に示されたように梗塞対側健常部とその境界領域において有意な正の相関関係が認められた。すなわち1日11000歩までの調査では、より多くウォーキングすればそれだけ心筋血流の増加が期待されるという結果であった。一方ジピリダモール負荷による血流増加度では心筋梗塞境界領域すなわち虚血性障害生存心筋においてのみウォーキング量と有意な正の相関関係が認められた。以上これら今回の我々の結果は、運動がHintzeらの犬の実験結果3)と同じ機序で内皮依存性血管拡張反応を改善させ、内皮細胞機能の正常化に寄与した結果もたらされたと推測される。しかし健常部心筋と虚血性障害部心筋でジピリダモール負荷による血流増加度のウォーキングリハビリによる改善度合が異なるなど今後さらなる研究が必要である。 最後に本研究の問題点であるが、ジピリダモール負荷による冠血流増加度が純粋なNO由来の内皮機能評価指標とはいえないことである。しかし、安静時心筋血流の増加は明らかな側副血行路の増生が認められていない以上内皮細胞機能改善に起因するものであり、動脈硬化の進行に従いジピリダモール負荷による冠血流予備能も低下するとのUren NG8)らの報告から血管拡張反応性を評価する一指標として用いたが差し支えないものと思われた。また今回の検討対象症例は少なく、今後さらに多くの症例での検討が必要である。

参考文献

1) Belardinelli R, Georgious D, Ginzton L, Cianci G, Purcaro A: Effect of moderate exercise training on thallium uptake and contractile response to low-dose dobutamine of dysfunctional myocardium in patients with ischemic cardiomyopathy. Circulation. 1998;97:553-561.
2) Dunker DJ ,et al :Inhibition of nitric oxide production aggravates myocardial hypoperrfusion during exercise in the presence of a coronary stenosis. Circ Res. 1994;74:629-640.
3) Zhang X, Xu X, Forfia PR, Nasjletti A, Hintze TH: Neutral endopeptidase (NEP) and angiotensin converting enzyme (ACE) modulate nitric oxide (NO) via local kinin formation production from canine coronary microvessels. Circulation. 1996;94:8:I-61.
4) Eckstein RW, et al: Effect of exeercise and coronary aretry narrowing on coronary collateral circulation. Circ Res. 1957;5:230-235.
5) Niebauer J, Hambrecht R et al: Five years of physical exercise and low fat diet: Effects on progression of coronary artery disease. J Caidiopul Rehabil. 1994;15: 47-64.
6) 李林雪, 野原隆司, 牧田茂et al.:慢性冠動脈疾患に対する長期集団運動療法効果の評価-運動負荷201Tl心筋SPECTを用いて-.呼吸と循環. 1996;44:745-752.
7) Niebauer J, Cooke JP: Cardiovascular effects of exercise: Role of endothelial shear stress. J Am Coll Cardiol. 1996;28:1652-1660.
8) Uren NG, Crake T, Lefroy DC, et al: Reduced coronary vasodilator function in infarcted and normal myocardium after myocardial infarction. N Engl J Med. 1994;331: 222-227.


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