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研究所報2002

ヒト二次性白血病に見られた融合遺伝子MLL-MSFについて 逢坂光彦

1.はじめに

 白血病の原因は不明な点が多いが、最近原因の一つとして二次性白血病が注目されている。二次性白血病というのは、最初に何かのがんにかかった患者が抗がん剤治療を受けた後、しばらくしてから起こってくる白血病のことで、急性白血病の10%程度を占めるともいわれる。特にTopoisomerase II inhibitorというタイプの抗がん剤で治療を受けた患者には二次性の白血病の発症率が高い傾向があり、その二次性白血病では染色体の11番と他の染色体とが相互転座することが多い。染色体11q23転座は、二次性白血病の他にde novo白血病においては、乳児白血病の約60%にみられ、また急性リンパ性白血病(ALL)の未分化型と急性骨髄性白血病(AML)のFAB分類M4とM5およびmixed-lineage白血病に多くみられる異常である。近年、11q23の切断点近傍の遺伝子(mixed-1ineageleukumia:MLLまたはALL-1,HRX,HTRX)が単離され、この遺伝子とどんな遺伝子が融合するかということを明らかにするのに世界中で競争が行われている。
MLL遺伝子のcDNAは約15kbと長大なものである。ゲノム構造は36個のエクソンより構成され、3969個のアミノ酸からなるタンパクをコードする。このMLLタンパクは431kDaと予想され、N末端にATの豊富な配列と結合するAT-hooksがあり、DNAメチルトランスフエラーゼの一部のドメイン相同性のある47アミノ酸からなるMT領域、そして中央部にDNA結合領域であるZnフィンガー領域をもつ転写因子である。MLL蛋白とショウジョウバエの体節形成に関与するtrithoraxは、Znフィンガー領域が高い相同性がみられることと、両者のC末端がzesteのエンハンサーの116アミノ酸と高い相同性がみられることより、MLL蛋白はDNAの結合あるいはDNA結合蛋白との相互作用により分化の制御に関与するものと考えられている。MLLノックアウトマウスでの報告では、ホモのマウスはすべて胎児期に死亡してしまい、造血細胞のコロニー形成能が著しく低くなり、また脊椎骨の発生異常とHOX遺伝子の発現異常がみられた。ホモ・へテロマウスともに白血病の発症はみられていない。マウスMLL遺伝子の3′側をヒトAF9遺伝子で置き換えたknock-inES細胞を用いたキメラマウスは、数カ月後には高頻度に急性骨髄性白血病(AML)を発症するが、MLL-N末端knock-inキメラマウスからは白血病はみられていない。
11q23転座型白血病ではMLL遺伝子の切断部位はexon 5からexon 8の間8.5kbの間に集中しています。MLLの切断点はde novo白血病では5′側に、治療関連白血病では3′側に多いという傾向が報告されている。11q23転座の転座相手は40以上の染色体領域に及んでおり、既に20を越す相手遺伝子が単離されているが、すべてに共通したものはない。臨床的にも11q23転座型白血病では相手遺伝子により白血病の病型や臨床像が異なり、従来から相手遺伝子の重要性が示唆されていた(1)。

2.新たな融合遺伝子の単離

 私は11番染色体と17番染色体との相互転座がある白血病の症例から新たな融合遺伝子を単離した。この症例は最初にHodgkin病を発症し、化学療法と放射線治療をうけ、その治療終了後17ヶ月後に新たな白血病を発症した典型的な二次性白血病の症例である。この二次性白血病は染色体転座t(11:17)(q23:q25)をもち、サザンブロットによる解析からMLL遺伝子の関与が明らかであった。融合相手遺伝子は最終的に2801塩基からなり、予想されるタンパクの一次構造にはGTP結合ドメインをもち、セプチン(septin)のファミリーに属することが明らかになりMSF(MLL septin-like fusion)と名付けた(2)。MSFの正常臓器における発現を調べると、ほとんどすべての臓器に4kbと1.7kbの発現があり、また脾臓、胸腺、末梢単核球には3kbのmRNAが発現していた。またこの症例におけるMSFの関与を、サザンブロットによりゲノムの組み替えについて、RT-PCRによりMLL-MSF融合遺伝子の発現をそれぞれ確認した。

3.融合遺伝子の機能解析

3MSF はその構造から細胞質に存在するタンパクであることが予想され、MLLと融合した場合の挙動からその機能が推定できると考えられたため、MSFの発現部位の確認と融合遺伝子MLL-MSFの細胞内局在について検討した。GFP発現ベクターにMSFの全長cDNA、およびMLL-MSFのcDNAをそれぞれ挿入した。MLL-MSFはt(11:17)白血病の症例にみられたものと同じ配列である。これらのベクターをSaos-2細胞に一過性に導入し共焦点レーザ顕微鏡により観察したところ、MSFは細胞質内に存在する一方、MLL-MSFは核内に局在することが明らかになった。融合遺伝子MLL-MSFがMLLと同様の転写因子の機能をもつことが推測されるため、MLL-MSFによるHoxA7プロモーターの活性化及び骨髄細胞の形質転換能について検討した。HoxA7プロモーターはMLLにより制御を受けていると考えられているものである(3)。MLL-MSFとHoxA7-luciferaseベクターを一時的にCOS-1細胞に導入しluciferase活性を測定した。MLL-MSFはMLLやMLL-ENLと同様にHoxA7プロモーターを活性化させる。形質転換能についてはMLL-MSFをレトロウイルスベクターにより骨髄細胞に感染させ、MLL-MSFにより細胞をがん化することを確認した。MLL-MSFが転写因子の機能をもち、白血病化において重要な遺伝子変化であることが明らかになった。MSFについては未だ昨日は不明なままであるが、最近ヒトの乳癌や卵巣癌においてMSFに異常があることが報告された(4)。これまでにseptinファミリーの中で癌との関連が報告されているのはMSFのみであり、その機能解析の必要があり、今後の課題としたい

参考文献

1) Rowley JD. The critical role of chromosome translocations in human leukemias. Annu Rev Genet. 32:495-519, 1998.
2) Osaka M, Rowley JD, Zeleznik-Le NJ. MSF (MLL septin-like fusion), a fusion partner gene of MLL, in a therapy-related acute myeloid leukemia with a t(11:17)(q23:q25). Proc Natl Acad Sci USA. 96:6428-6433, 1999.
3) Schreiner SA, Garcia-Cuellar MP, Fey GH, Slany RK. The leukemogenic fusion of MLL with ENL creates a novel transcriptional transactivator. Leukemia13:1525-533, 1999.
4) Russell SE et al., Isolation and mapping of a human septin gene to a region on chromosome 17q, commonly deleted in sporadic epithelial ovarian tumors. Cancer Res. 60:4729-4734, 2000.


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