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研究所報2002

PETによる脳機能画像の臨床応用に関する研究 MRI T2強調画像上の大脳白質病変の意義に関する研究 山内浩

1.はじめに

 MRIの出現により大脳白質病変が鋭敏に検出されるようになった.病変の程度は認知機能障害や歩行障害と関連し,将来の脳卒中や痴呆の発症のリスクとも相関すると考えられているが,確定的では無い。この点が明らかになれば,脳ドッグなどにより,早期に大脳白質病変を検出し,将来の脳卒中や痴呆の発症を予防する試みが重要になる.そこで以下の研究を行った。

2.大脳白質病変と認知機能との関係1)

【目的】MRI T2強調画像上高信号域として検出される大脳白質病変の広がりは,認知機能障害,特に前頭葉機能低下に関連した障害の指標となる可能性がある。しかしながら,白質高信号病変の広がりが認知機能障害と直接関連しているかは明らかではない。我々の過去の検討において,MRI T2強調画像上同程度の広範な高信号域を示すラクナ梗塞患者を対象とした時,脳梁萎縮の程度が知的機能低下の程度と相関していた(図1)2).脳梁萎縮は大脳領域間のネットワークの障害を引き起こす重度の白質障害の存在を示す可能性がある.本研究の目的は,種種の程度の白質高信号病変を有する患者群において,大脳白質病変の広がり,脳梁萎縮の程度と認知機能低下との関係を明らかにすることである。
【方法】神経症状を呈しMRIを撮像した患者のうちで,臨床的にラクナ梗塞あるいは異常なしと診断された患者62名(年齢68±8歳)を対象とした.そのうち28名はMRI上ラクナ梗塞を認めた。T2強調画像上の皮質下白質高信号病変の広がりをスコア化し(0-16点),T1強調画像上の脳梁矢状断面積を測定した.認知機能検査として,ミニメンタルテスト(全般的な知的機能を反映)と語想起テスト(前頭葉機能を反映)を施行し,多変量解析を用いて,各テストの成績と白質病変スコアおよび脳梁面積との関係を検討した。
【結果】脳梁面積はミニメンタルテストの成績と,白質病変スコアは語想起テストの成績とそれぞれ独立して,有意に相関していた(表1,2)。
【結論】MRI T2強調画像上白質病変を有する患者において,脳梁萎縮の程度は全般的な知的機能低下と関連している.一方,T2強調画像上高信号域として検出される大脳白質病変の広がりは,前頭葉機能低下と関連している。

3.脳卒中発症危険因子としての大脳白質病変3)

【目的】MRI T2強調画像上高信号域として検出される大脳白質病変の広がりは,脳卒中発症と関連した脳の小血管の動脈硬化の程度を反映している可能性がある。この研究の目的は,MRI T2強調画像上の大脳白質高信号病変の程度がその後の脳卒中発症,特に小血管の動脈硬化と関連したラクナ梗塞あるいは脳出血の発症,の独立した危険因子であるかを明らかにすることである。
【対象と方法】何らかの神経症状によりMRIを撮像した患者のうちで,臨床的にラクナ梗塞あるいは異常なしと診断され患者89名(平均年齢68±8歳)を対象とした.そのうち42名はMRI上ラクナ梗塞を認めた。脳主幹動脈の狭窄や心房細動を有する患者はいなかった。MRI T2強調画像上の白質高信号病変の広がりをスコア化した。Coxの比例モデルを用いて多変量解析を行い,白質高信号病変のスコアとその後の脳卒中発症との関係を検討した。
【結果】1)経過観察中(平均51ヶ月),9名の重度(初回スコア9-16)白質病変患者のうち4名に,40名の軽度(スコア1-8)白質病変患者のうち3名に脳卒中が発症した(p<0.005)(ラクナ梗塞5例,脳出血2例)(図2)。白質病変の無い患者40名には脳卒中は生じなかった。2)白質病変スコアは脳卒中発症の独立した危険因子であった。3)初回白質病変が無いか軽度の80名の解析において,経過観察中白質病変が進行した4名のうち2名に, 進行しなかった76名のうち1名に脳卒中が発症した(p<0.001)。
【結論と考察】MRI T2強調画像上の大脳白質高信号病変の程度,およびその進行は,その後の小血管の動脈硬化と関連したラクナ梗塞あるいは脳出血の発症の独立した危険因子である 。

図1

図1.同程度の広範な高信号域を示すラクナ梗塞患者3例における脳梁萎縮.上段の軽度脳梁萎縮例では,痴呆はなく,WAIS-TIQ 107,中段の中等度萎縮例では,軽度痴呆を認め,IQ 81,下段の高度萎縮例では,中等度痴呆を認め,IQ 60以下と,脳梁萎縮の程度が知的機能低下の程度と関連している。

ミニメンタルテスト成績と脳梁面積の関係の多変量解析

表1.ミニメンタルテスト成績と脳梁面積の関係の多変量解析。脳梁面積(前1/2)とミニメンタルテストの成績との相関は,脳梁面積(後1/2)および白質病変スコア(前方および後方の両方)を調整後も有意である。

表2.語想起テスト成績と白質病変との関係の多変量解析

表2.語想起テスト成績と白質病変との関係の多変量解析。白質病変スコア(前方)と語想起テストの成績との相関は、脳梁面積(前および後1/2)を調整後も有意である。

図2.白質病変の程度と脳卒中再発頻度との関係(生存分析曲線)

図2.白質病変の程度と脳卒中再発頻度との関係(生存分析曲線)。重度(severe,初回スコア9-16)白質病変患者は,軽度(mild,スコア1-8)白質病変患者や白質病変の無い(none)患者に比べて再発頻度が高い。

4.まとめと今後の展望

 広範な白質病変は,認知機能低下を引き起こすが,脳梁萎縮を生じる程の重度の病変のみが痴呆へとつながる可能性がある。一方,広範な白質病変は広範な細動脈硬化と関連しているため,脳卒中発症の危険因子としても重要である。今回,明らかな臨床症状をともなわずに,高血圧などの危険因子と関連して,白質病変の数や広がりが進行することを示したが,白質病変の進行と認知機能低下との関連は明らかではない。白質障害による脳血管痴呆の予防には,MRIによる軽度の白質病変の早期発見と重度の病変への進展予防とが重要であろう。そのためには白質病変の発症および進展の機構を明らかにすることが必要である。現在,高血圧が発症および進展にかかわる修飾可能な因子として重要と考えられており,血圧のより厳密なコントロールにより白質病変の進展が予防できる可能性がある。ポジトロンCT(PET)による脳循環動態の評価は,白質に広範な病変を有する患者で,脳循環を改善する治療が有効な例を選別するのに有用かもしれない.今後の検討課題である。

参考文献

1) Yamauchi H, Fukuyama H, Shio H. Corpus Callosum Atrophy in Patients with Leukoaraiosis may Indicate Global Cognitive Impairment. Stroke 2000; 31: 1515-1520.
2) Yamauchi H, Fukuyama H, Ogawa M, Ouchi Y, Kimura J: Callosal Atrophy in Patients with Lacunar Infarction and Extensive Leukoaraiosis: An Indicator of Cognitive Impairment. Stroke 1994; 25: 1788-1793.
3) Yamauchi H, Fukuda H, Oyanagi C. Significance of white matter high-intensity lesions as a predictor for strokes based on arteriolosclerosis. J Neurol Neurosurg Psychiatry 2002 72: 576-582.


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