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研究所報2002

PET画像の機能画像化に関する研究 岡沢秀彦・岸辺喜彦・杉本幹治
一回投与法による血流・代謝の測定時の動脈採血に関する研究 高橋昌章・山内 浩

1.はじめに

 PET検査の目的は、単なる放射能分布画像に生理的意味を持たせることであるが、その最大の特徴である優れた定量性は、動脈採血による血中RIカウントと画像上の信号が、物理量として確立されて始めて意味を持つ。一回投与法においては、血中カウントが刻々と変化するため、多点頻回採血または自動持続採血が必要であるが、前者は多くの人手を要するため、研究者の少ない当施設においては、後者の方法の確立が必須である。PET装置の周辺機器として導入された自動持続採血装置、Pico-Countでの動脈血カウントの適切な補正(遅れdelayとなまりdispersion)法を、同時に行った多点頻回採血法でのカウントを参考に検討し、Pico-Countによる採血チューブ内の影響を最小とする方法の確立を目標とした。

2.対象および方法

脳血流・酸素代謝を定量測定する目的で検査した正常ボランティアおよび脳血管障害患者25名に対し、O-15水一回静注法とO-15酸素一回吸入法をそれぞれ行い、PETダイナミック収集と同時に動脈採血を行った。採血は図1に示すようにPico-Count1)による自動持続採血と用手的多点頻回採血を同時に行った。自動採血時の血流速度は、10 ml/min(10名 = グループ1)または7 ml/min(15名 = グループ2)とし、グループ1で検討した補正法をグループ2に適用し、採血量を減少させても補正が適切であるかどうかを検討した。なまり(dispersion)の補正にはmono-exponentialまたはdouble-exponentialでの補正式を適用し、補正なしの自動持続採血カウント、多点頻回採血法のカウントでの定量値と、基準となるガス定常法での定量値と比較検討した。dispersion補正に用いた補正式は以下の通りである2)-4)。

式1
                                                            
式2

a, tiはそれぞれ規定の定数である。多点頻回採血法のカウントでこれらの定数を予想し、以下の式に代入して補正された時間-放射能曲線を得た。

図1PICO-COUNT
                                                            
式1
                                                            
式2

g(t)は実際にPico-Countから得られた時間-放射能曲線を表す。

3.結果・考察

 多点頻回採血法で得られた時間-放射能曲線を用いた脳血流・酸素代謝画像の定量値は、同一被験者で行われたO-15ガス定常法での定量値と良く一致した。その時間-放射能曲線を基準とし、Pico-Countでの動脈血カウントを上記公式での最小二乗法を用いて補正したところ、O-15水一回静注法とO-15酸素一回吸入法では各定数がやや異なるものの、同一方法内ではある定数を用いた補正で十分、真の動脈血時間-放射能曲線を予測可能であることが分かった。図2は、それぞれの方法で得られた血流・酸素代謝の定量画像を示すが、用手的多点頻回採血法およびdouble-exponentialによる補正を行った自動持続採血法での定量値はO-15ガス定常法での定量値と良く一致したものの、補正なしあるいはmono-exponentialによる補正を行った自動持続採血法での定量値は過大評価することが分かった。

4.まとめ

 補正法の違いが定量値に影響を与えることが確認された。適切な補正法を用いることにより、基準となるO-15ガス定常法と同等の定量画像が得られるので、頻回採血を行わなくてもボーラス法(一回静注及び一回吸入法)の利用が可能である。検査時間の短いボーラス法は、長時間の検査に耐えられない症例や、繰り返し検査(脳賦活検査、薬剤投与前後の比較等)の際に有効と考えられる。 本研究は、Brain Imaging Using PET (Senda Met al. ed.)に掲載された。(別冊115~121ページ)

図2 動脈血カウント補正法による定量値の変化

動脈血カウント補正法による定量値の変化

A:ガス定常法, B: 多点頻回採血法, C: double-exponentialによる補正, D: mono-exponentialによる補正, E:補正なし(C-EはPico-Count)。各スライスの下にある数値は、それぞれの方法による全脳平均(ml/min/100g)。

参考文献

1) Votaw JR and Shulman SD. Performance evaluation of the Pico-Count flow-through detector for use in cerebral blood flow PET studies. J Nucl Med 1998; 39:509-515.
2) Iida H, Kanno I, Miura S, Murakami M, Takahashi K, Uemura K. Error analysis of a quantitative cerebral blood flow measurement using H215O autoradiography and positron emission tomography, with respect to the dispersion of the input function. J Cereb Blood Flow Metab 1986; 6: 536-545.
3) Vafaee M, Murase K, Gjedde A, Meyer E. Dispersion correction for automatic sampling of O-15-labeled H2O and red blood cells. In: Quantification of brain function using PET, Myers R et al. (ed.), Academic Press, San Diego, 1996; pp.72-75.
4) Okazawa H, Kishibe Y, Sugimoto K, Takahashi M, Yamauchi H. Delay and dispersion correction for a new coincidential radioactivity detector, Pico-Count, in quantitative PET studies. J Cereb Blood Flow Metab 2001; 21(suppl): S553.


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