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研究所報2002

PET画像の機能画像化に関する研究 岡沢秀彦・山内浩・杉本幹治
新しい一回投与法による脳血流・酸素代謝の測定に関する研究 高橋昌章・岸辺喜彦

1.はじめに

 一般の核医学検査や放射線画像とPET検査の最も大きな違いは、画像の定量性にある。撮像終了後再構成された断層画像は、被験者に投与された放射性化合物の分布にすぎず、血流・代謝等の生体機能を表した画像ではない。PET検査の目的は単なる放射能分布画像に生理的意味を持たせることである。このため、どのような解析を行い、どのように画像計算を行えば適切な血流・代謝画像となるかが約20年に渡り研究され続けている。現段階での標準的計算法は確立しつつあるが、より適切な計算法とされる方法も引き続き報告されており、また、検査法の簡便化も大きなテーマの一つである。各種トレーサーにおいて最適な定量法を検討し、当研究所における検査法を確立するのが本プロジェクトの目標である。
具体的に一例を挙げると、脳血流の計算にはO-15ガスによる定常法1)と、O-15水による一回静注法があり、さらに後者は1-コンパートメントで解析2)-3)するか2-コンパートメントで解析4)-6)するかで方法が異なる。O-15ガス定常法は被験者の呼吸状態による影響を大きく受け、正常被験者と患者とでは条件が異なってくる可能性があるが、O-15水一回静注法は比較的被験者の状態には影響を受けにくく、脳血流の測定法としては理想的である。一方、O-15ガス定常法では、脳内酸素代謝の定量も同時に行えるが、O-15水一回静注法では脳血流量が得られるのみで、脳内酸素代謝の定量を行うにはO-15ガスの一回吸入法を追加する必要がある。当研究所での脳血流・酸素代謝測定の標準法として、いずれの方法が適しているかを評価検討した。

2.対象および方法

 正常ボランティア7名に対し、O-15ガス定常法とO-15水一回静注法、O-15酸素一回吸入法をそれぞれ行い、脳血流量・血液量・酸素代謝の定量値を比較した。また、脳血管障害患者10名に対し、同様の検査を行い、健常側と患側とで、測定法の違いが定量値に影響するかを検討した。(詳細は別刷96~106ページ参照。)

3.結果・考察

 O-15水一回静注法とO-15酸素一回吸入法を組み合わせることで、良好な脳血流量・血液量・酸素代謝の定量値および定量画像が得られた。しかし、一般的な方法であるO-15ガス定常法と比較すると、酸素代謝率がやや過大評価する傾向にあり、また、画質もやや劣化することがわかった。これらは、放射性薬剤の投与量および撮像時間から考えて予想しうる範囲内であり、短時間での検査が必要な場合は有効な検査法であると考えられた。(別刷参照。)

4.まとめ

 解析法の違いにより定量値に大きな差はなく、いずれの方法でも臨床的に応用可能であることが示された。O-15ガス定常法は長時間の検査となるが、画像の質や定量値の安定性に優れるため、慢性疾患の経過観察には有効である。一方で、検査時間の短いボーラス法(一回静注及び一回吸入法)は、長時間の検査に耐えられない症例や、繰り返し検査(脳賦活検査、薬剤投与前後の比較等)の際に有効と考えられる。
本研究は、Journal of Cerebral Blood Flow and Metabolism 2001年7月号に掲載された7)。

参考文献

1) Frackowiak RSJ, Lenzi G-L, Jones T, Heather JD. Quantitative measurement of regional cerebral blood flow and oxygen metabolism in man using 15O and positron emission tomography: Theory, procedure and normal values. J Comput Assist Tomgr 1980; 4: 727-736.
2) Raichle ME, Martin WRW, Herscovitch P, Mintun MA, Markham J. Brain blood flow measured with intravenous H215O. II. Implementation and validation. J Nucl Med 1983; 24: 790-798.
3) Alpert NM, Eriksson L, Chang JY, et al. Strategy for the measurement of regional cerebral blood flow using short-lived tracers and emission tomography. J Cereb Blood Flow Metab 1984; 4: 28-34.
4) Ohta S, Meyer E, Thompson CJ, Gjedde A. Oxygen consumption of the living human brain measured after a single inhalation of positron emitting oxygen. J Cereb Blood Flow Metab 1992; 12: 179-192.
5) Ohta S, Meyer E, Fujita H, Reutens DC, Evans A, Gjedde A. Cerebral [15O]water clearance in humans determined by PET: I. Theory and normal values. J Cereb Blood Flow Metab 1996; 16: 765-780.
6) Okazawa H, Vafaee M. Effect of vascular radioactivity on regional values of cerebral blood flow: Evaluation of methods for H215O PET to distinguish cerebral perfusion from blood volume. J Nucl Med 2001; 42: 1032-1039.
7) Okazawa H, Yamauchi H, Sugimoto K, Takahashi M, Toyoda H, Kishibe Y, Shio H. Quantitative comparison of the bolus and steady-state methods for measurement of cerebral perfusion and oxygen metabolism: PET study using 15O-gas and water. J Cereb Blood Flow Metab 2001; 21:793-803.


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