琵琶湖周辺に集積する知識・技術・ノウハウ
琵琶湖周辺には、水環境ビジネスに取り組む企業や水環境保全に関する研究を進める大学等研究機関が集積しています。
また、企業の中には、行政や他の企業との連携を通じて、新たな技術やサービスを共同開発し、さらなるビジネスの展開・飛躍を進めているところもいくつかみられます。
目次
1.水環境ビジネスにつながる技術・サービスの共同開発例
リン、フッ素等の高性能吸着材を産学官で共同開発(髙橋金属((株))
※「環境調和型産業システム構築のための基盤技術の開発」((独法)科学技術振興機構・地域結集型共同研究事業。実施年度:2003〜2007)
湖南省研修生受入を機に、国際化を独自に展開((株)日吉)
県の依頼により水の透明度の測定機器を開発し、水環境ビジネスに進出(オプテックス(株))
■ 開発当時の透明度自動測定の様子。測定された結果が、県庁前で掲示された。
【海外を研究フィールドとした国プロジェクトの一例】
「リスク評価に基づくアジア型統合的流域管理のための研究教育拠点」JSPSアジア研究教育拠点事業(2011〜2016) 清水芳久教授(京都大学大学院工学研究科附属流域圏総合環境質研究センター)
「アジアのメガシティの人間安全保障工学拠点」JSPSグローバルCOEプログラム(2008〜) 松岡譲教授(京都大学工学研究科)
バングラデシュにおける砒素汚染等の現地調査・研究 中島淳教授(立命館大学)
コラム:水環境ビジネスを取り組む企業が集積している理由
滋賀県内には、膜処理や管更生の研究開発拠点や、水質分析等を行うサービス企業、その他独自の手法で水環境ビジネスに取り組む中小企業が集積しています。それらが集積した経緯や理由について、琵琶湖の水環境保全の取組に注力したキーパーソンや企業の人に聞いてみました。
■ 小林泉
滋賀県琵琶湖環境部技監]富栄養化防止条例の施行当初(1980〜1982)に保健所環境公害課に在籍。水環境保全及び水質改善の最前線で業務に携わった。
水処理膜の企業が多いのは、繊維産業が集積していたことが理由の1つだったかもしれません。滋賀県は、麻・綿・ちりめんという3種の織物が集積する全国でも珍しい地域で、琵琶湖水や地下水などの豊富な水資源に恵まれ、それをもとに繊維産業が発展してきました。
また、繊維産業では、作業工程において、染色排水、精練排水、漂白排水など、さまざまな排水が生じるため、富栄養化防止条例への対応は困難を極めたようで、この対策として水処理技術の工夫・開発がより盛んになったのではないでしょうか。
実際、織物会社の中には、条例制定後より「琵琶湖の水を守らなればならない」という強い使命をもって熱心に水処理対策に取り組み、海外企業も含めて多くの視察を受け入れて、水処理対策のノウハウをご自身の失敗例とともに解説しているところもありました。
条例への対応が、水質分析等サービスの企業の集積・発展につながった
■ 中村満氏
湖南・甲賀環境協会 顧問]湖南・甲賀環境協会の2代目代表を長らく務め(1990〜2012.6)、協会活動を牽引。現在、NPO法人びわこ環境理事長を務める。
富栄養化防止条例の制定後、企業や工場は、条例に対応するため工場排水の高度処理を導入するにあたり、まず自社の工場排水を分析するところから始まりました。全国で初めてで前例が無いことから、当時はどんな施設を設置し、どこまでの処理をすべきか、会員同士で施設をみせあって勉強したり、時には行政と企業が技術論を戦わせることもありました。現在も『びわ湖のために』という使命感のもと、各企業は自主規制を設け日々努力しております。このように、県内の企業や工場が法・条例や自主規制に対応する際に、水質分析やコンサルティング等サービスを行う企業は欠かせず、滋賀県で発展するようになったのではないでしょうか。
また、2000年にはNPOびわこ環境を設立しました。こちらは、湖南・甲賀環境協会の会員企業に永らく勤めた企業OBの集団で、企業で培った豊富な経験・知識を活用し、後世に継承していく目的で、同協会のバックアップに限らず、行政や企業、団体の指導・コンサルタントを行っています。
琵琶湖の水を日々眺める地域環境が、斬新な発想の水環境ビジネスの創出を後押ししている
■ 青山章氏
(株)アオヤマエコシステム代表取締役
滋賀県の人は毎日、琵琶湖や琵琶湖に流れる川の水を見る機会があります。そのため、水に対する意識が高く、少しでも汚れているとすぐに気づいているように思います。他の地方の人とお話ししていると、私たちのような発想はないように思います。
そのため、滋賀県にはいろんな発想で、独自の水環境ビジネスに取り組む企業が集積しているのではないでしょうか。
また、官民連携で水環境ビジネスを取り組む際にも、滋賀県での「水に対する高い意識」と、技術やサービスをセットにして売り込むことができると、面白いビジネスモデルができるように思います。