冠動脈バイパス手術について

  1. 虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)とは
  2. 手術適応
  3. 冠動脈バイパス手術方法
  4. 術後経過
  5. 動脈硬化2次予防(再発予防)

1. 虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)とは

心臓にはその筋肉に栄養を送っている冠動脈という血管があります。この血管が多くは動脈硬化のために狭くなり血流が妨げられると、心筋が酸欠状態(虚血)になり胸痛という形で表れます。この病気を狭心症といいます。心筋はまだ生きており、安静にして心臓を休ませてやると虚血が改善して痛みはなくなります。一方、心筋梗塞とは血流が途絶したまま虚血が改善しない場合で、心筋細胞が死んでしまって心筋が動かなくなってしまう状態です。壊死した心筋は生き返ることはなく、心筋壊死が広範囲に及ぶと血圧を維持できずショック状態となり、ひどい場合には突然死に至ることもあります。癌に次いで死因の第2位となっている恐い病気です。

狭心症の段階で、狭くなった血管の血流を回復することで心筋梗塞を予防することが必要です。治療方法には、冠動脈拡張薬による内服療法やカテーテルによる風船治療、バイパス手術があります。カテーテル治療については循環器内科の紹介欄を参考にして下さい。

2. 手術適応

一般的には左主幹部病変(LMTD)、3枝病変(3VD)、慢性閉塞病変(CTO)、再狭窄病変といった重症冠動脈病変はバイパス手術の適応となります。しかし最近では薬剤溶出性ステントの有効性もあり、これらの病変に対しても積極的にカテーテル治療が行われるようになっており、心臓外科でバイパス手術が必要な症例は限られてきました。しかし再狭窄を繰り返す例、重症石灰化病変例、カテが不適な症例にはバイパス手術が適しています。また大動脈瘤や弁膜症を伴った症例ではバイパス手術も同時に行い、一度で治療が可能です。

カテーテル治療と比較すると、手術侵襲が大きい、リスクが若干高いことは不利な点です。しかし、カテーテル治療では病変によっては数回にわたる治療が必要で、数ヵ月後の確認造影、再狭窄による治療を含めると、頻回にカテーテル検査、治療を要し、10回以上カテーテルを受けている方も少なくありません。造影剤による腎機能への悪影響もあります。一方、バイパス手術では一度の治療で済む、全身麻酔で寝ている間に終わる、5~10年はカテーテル検査をしなくても良い、といった利点があります。

3. 冠動脈バイパス手術方法

風船治療は詰まった血管を風船やステントを使って直接拡げる治療ですが、バイパス手術は詰まった血管はそのまま放置して新しい血管を移植して血流を回復する治療です。道路に例えると、土砂崩れで通行不可能になった道を土砂を除去して再開通させるのが風船治療で、一方、その道はあきらめて放置し、別の道(バイパス)を建設するのがバイパス手術です。

胸の前面中央を縦に20cm程度皮膚切開し、その下にある胸骨も縦に割って前胸部を左右に開いて心臓を露出させます。新しい血管(グラフト)として、主に自分の下肢の大伏在静脈や内胸動脈を使用し、詰まった冠動脈の末梢側につなぎます。動脈の場合は直接血流が再開しますが、静脈の場合はその中枢側を大動脈につなぐことでバイパスが完成します。大動脈が硬くて吻合できない時には、他の動脈につないで血流を分けてもらいます。

基本的には人工心肺装置を使用しない心拍動下バイパス(off-pump coronary artery bypass :OPCAB)を第一選択に行っています。しかしOPCABでは、心臓の後面にバイパスする時には心臓を持ち上げて脱転する必要があり、不整脈や血圧低下を生じる危険を伴い、最悪の場合、心室細動となり生命に危険が及ぶことがあります。手術の安全性を第一に考えると、循環維持を目的に補助的に人工心肺を使用することが必要なケースがあり、特に心筋梗塞後の低左心機能例、左室拡大例、重症LMTD例では、人工心肺補助下の心拍動下バイパス術を選択する場合があります。

バイパス方法は、予後を左右する内胸動脈-左前下行枝のバイパスが基本で、他の病変については、若年例では動脈グラフトを多用し、高齢者では静脈グラフトを使用することもあります。脳梗塞や腎不全を合併しているハイリスク症例では、必要最低限のバイパスで済ませて、風船治療との併用療法も検討します。

冠動脈バイパス術
OPCAB(心拍動下、冠動脈バイパス術)

4. 術後経過

手術当日に麻酔から醒め、人工呼吸器の管をはずし、会話可能となります。翌日には、食事が可能となり、歩行も無理ではありません。傷の痛みは当然ありますが、腹部を切開する手術よりは軽度で、適度な鎮痛薬で対処できます。2日目にはつながれている管をすべて抜去して、トイレに歩いて行くことも可能です。1週間もすれば、退院可能なレベルまで回復しています。通常は2週目に心臓カテーテル検査を行い、バイパスと心機能の評価を行ってから退院となります。その後、2週間から1か月に一度の外来通院となります。退院後は1ヶ月ほどの自宅療養の後、社会復帰が可能です。3ヶ月も経てば、ゴルフも可能となります。心筋梗塞や不整脈の有無にもよりますが、心筋虚血がなくなり、術前には危険でできなかったことが可能となります。マラソンをされている方もいます。

5. 動脈硬化2次予防(再発予防)

動脈硬化の進展予防、造ったバイパスを長持ちさせることは、生命予後を左右する重要なことです。そのためには動脈硬化の危険因子、生活習慣病の管理が必要です。禁煙を心がけ、高血圧、糖尿病を適切にコントロールしなければなりません。高コレステロール血症の改善は欠かせず、バイパス開存に影響します。アスピリンなどの抗血小板薬は有効です。適度な運動は大いに結構です。