認知症の治療とケア

1. まずは正しい病気の理解から

認知症に対する治療の第一歩は、患者さんの病気の種類や特徴をしっかりと把握することです。とくに家族や介護者が、患者さんの病気の性質を正しく理解しておくことは重要です。

正体の分からない敵(病気)に立ち向かうのは苦しく不安なものです。介護者の不安は患者さんにも伝わるため、患者さんの状態を悪化させる原因にもなりかねません。

病気の性質を正しく理解し、対応法をあらかじめ知っていれば、介護者の心にも余裕が生まれます。症状の変化に一喜一憂せず冷静に対処することも可能になるかもしれません。介護者の気持ちにゆとりがあれば、患者さんへの態度にも反映されるため、患者さんに安心感を与えることができます。

認知症の治療やケアでは、まず患者さんの気持ちを安心させることが、何よりも大切なのです。

介護

2. 薬物療法について

ここ数年の間に認知症の薬物療法は、大きく進歩しました。

コリンエステラーゼ阻害剤

薬物療法の最も大きな進歩は、コリンエステラーゼ阻害剤が使用可能になったことです。アルツハイマー病やレビー小体病では脳の神経伝達物質であるアセチルコリンが減少しますが、コリンエステラーゼ阻害剤は脳のアセチルコリンの分解を妨げる薬剤です。最近の研究で神経細胞が壊れるのを保護する作用もあることがわかりました。残念ながら、脳の神経細胞の脱落を完全に防ぐ薬ではないので根治療法とはいえませんが、多くの患者さんで認知機能や精神症状の改善が報告されています。(Q&A参照)

抗うつ薬

認知症の初期には、うつ病の合併のために、状態が悪化する場合が少なくありません。従来の抗うつ薬は認知機能を低下させる作用があったのですが、副作用の少ない抗うつ薬が開発され、認知症患者さんにも用いることができるようになりました。

神経遮断薬

興奮や暴力などのいわゆる問題行動に対して用いられる神経遮断薬も、以前に比べて副作用の少ない薬が開発されてきています。


このほか、患者さんの状態に応じて、ビタミン剤や血流改善薬、漢方薬などが用いられます。ただし、薬物療法は認知症の種類や患者さん個々の状態によって、慎重に選択し調節することが重要です。

薬物療法

3. ケアとリハビリテーション

廃用性障害について~使わない脳はさびつく~

最近の研究で、使わない脳は退化が早いことが明らかになってきました。逆に活発に働いた脳では神経細胞が新生される可能性も指摘されています。脳は使わないとさびついて機能が低下してしまうのです。これが、廃用性障害です。

認知症患者さんに廃用性障害が起こる仕組み

患者さんは以前には簡単にできていたことが以前と同じようにはできなくなります。社会生活や家庭生活はなかなか患者さんのペースに合わせてはくれないので、患者さんは周囲から取り残され、残っている能力を発揮できる場面がどんどん奪われていきます。例えば、人の話を聞いて理解する能力や話す能力は衰えていないのに、記憶障害のために話の内容が周囲の人とかみ合わず、会話を楽しむことができなくなります。できないために使わない、使わないためにさらに機能が低下する、という悪循環に陥るために、本来の病気以外に廃用性の障害が合併してくるのです。

感情も大切

残っている能力を発揮できなくなるもう一つの原因は、感情面の問題です。患者さんは自分の能力の衰えを感じ取っていることが多く、不安感やこんなはずではないという焦燥感、怒り、といった感情に支配されることになります。感情は人間の認知や行動の基礎であり、感情が崩れると認知機能にも悪影響を及ぼします。また感情面の変化が周囲との摩擦を生み、孤立して、自分の能力を発揮する場所はさらに奪われていきます。

リハビリテーションについて

こうした状況を打ち破るためには、患者さんが生活をゆったりと、しかも役割を持ちながら楽しめる環境を整えることが重要になります。「認知症のリハビリ」が一般的なリハビリと決定的に違うのは、「できないことを訓練する」のは患者さんにとって苦痛でしかなく効果もない、という点です。近年、グループホームや認知症デイケアが重要視されるのは、個々の患者さんの「できること」を生かして人との積極的な交流を保てる場を提供することで、病気の進行を遅らせたり症状を安定させる効果が期待されるからです。また、最近計算ドリルやゲームなどによる「認知症の予防」がもてはやされています。計算ドリルを楽しめる患者さんには有意義かもしれませんが、嫌がる患者さんに無理に勧めることは、患者さんに苦痛を与えてかえって不利益を生じる可能性があります。あくまでも、ひとりひとりの患者さんの気持ちや能力に配慮してリハビリプランを考えることが大切です。

介護サービスの積極的利用を

患者さんの脳のはたらきを活発にさせるためには、自分のペースで楽しんで行動できるような環境設定と、患者さんにとって心地よい適度な刺激が必要です。それらを家庭だけで行うのは難しいので、早期から、デイサービス/デイケアなどの、公的なサポートを利用することが望まれます。

4. 病気の種類による対応

病気の種類によっては、さらに下記のような注意が必要となります。

レビー小体病の場合

初期にはうつ傾向やパニックに陥りやすいのが特徴です。症状の変動や、幻覚などに対して、介護者が冷静に対応することが重要です。特に幻視に対しては、否定しても効果はないことが多く、「(幻視が見えていても)心配ないですよ」と安心させることが大切です。薬剤としては、少量の抗うつ薬やコリンエステラーゼ阻害剤が効くことがあります。ただし、神経遮断薬には過敏なことが多く、幻覚を抑えようとして神経遮断薬を不用意に用いることは危険です。

前頭側頭葉変性症の場合

一日の行動が決まりきったパターンになっていく患者さんが多いようです。いったん行動パターンが決まってしまうと、これを変えることが困難なため、早期から望ましい行動パターンを形成するように誘導することが重要です。このタイプの患者さんは、注意してもまったく動じず、逆に反発することも多いので、やさしく誘導することが必要です。周徊の徴候がみられたら、これを固定してしまわないように、デイサービスを利用することをお勧めします。また、同じ物を繰り返し集める行為がみられることがありますが、実害がなければ注意する必要はありません。