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腹腔鏡下手術

1. 腹腔鏡手術とは?

腹腔鏡手術とは、小型カメラ(内視鏡)と細い鉗子を用いてお腹の中の手術をする方法です。手術の内容は従来からある『開腹手術』と同じですが、腹腔鏡手術では、直径5mmから1cm程度の小さなキズを通して挿入した細いカメラや鉗子を使って手術を行います。このため開腹手術とは違って、腹腔鏡手術では術後のキズが殆ど目立ちません。

2. 腹腔鏡手術の適応

現在殆どの婦人科良性疾患に対して、腹腔鏡手術は保険適応されています。


具体的には

  1. 良性卵巣腫瘍手術に対する腹腔鏡下卵巣腫瘍摘出術
  2. 子宮筋腫、子宮腺筋症に対する腹腔鏡下子宮全摘術
  3. 子宮筋腫に対する腹腔鏡下子宮筋腫核出術
  4. 子宮内膜症に対する腹腔鏡下子宮内膜症病巣除去術

などが挙げられます。


婦人科悪性腫瘍に関しては、現在初期の子宮体がんに対する腹腔鏡手術が保険適応されています。一方子宮頸がん、卵巣がんに対しては現在のところ保険適応にはなっておらず、一部の施設で高度先進医療として腹腔鏡手術の導入が進められています。初期子宮体がんに対する腹腔鏡手術に関しては、平成27年10月より当院も施設認定を受け実施可能になりました。子宮頸がん、卵巣がんに対する腹腔鏡手術は現在のところ当院では行っていません。

3. 腹腔鏡手術の特徴

腹腔鏡手術の特徴は、なんと言っても従来の開腹手術に比べてお腹に残るキズが小さいことです。このため腹腔鏡手術は

  1. キズが目立たない
  2. キズが小さい分、術後早期(1~2日目)の回復が早い
  3. キズの痛みが気になりにくいため、開腹手術に比べて入院期間が短い

という点が大きな利点として挙げられます。


その他には、

  1. 手術中お腹の臓器を乾いた空気にさらすことがないため、術後の癒着が起こりにくい
  2. カメラで術野を拡大して手術を行うため、従来の開腹手術より繊細な操作ができる

といった利点もあるとされています。

4. 開腹手術よりも優れている?

それでは腹腔鏡手術はあらゆる点で開腹手術より優れているのでしょうか?

開腹手術では通常2人~3人で手術を行いますが、お腹のキズを通して、全手術スタッフの両手を使って手術を進めることができます。


一方腹腔鏡では通常お腹の3~4カ所の小さなキズを通して手術を行いますが、このうち1カ所は観察用の内視鏡が占拠してしまいます。このため手術操作に使える手(実際は細い鉗子になります)は全部で2~3本しかなく、腹腔鏡手術では手術手技が開腹手術よりかなり制限されます(キズの数を増やせば良いのですが、そうすると腹腔鏡の美容上の利点が損なわれてしまいます)。


その他では、内視鏡で見える範囲は開腹手術に比べて狭いため、見えないところで異変が起こった場合に発見が難しかったり、手術時間が開腹手術より長くなる傾向があると報告されています。

5. 婦人科疾患毎の腹腔鏡手術の特徴

  1. 卵巣腫瘍
     
    良性の卵巣腫瘍に対する腹腔鏡手術は開腹手術と比較して同等以上の安全性があるとされています。キズが小さいという腹腔鏡手術の利点が最も発揮される疾患です。ただし、卵巣がんの疑いが否定できない場合は開腹手術をお勧めします。
     
  2. 子宮筋腫
     
    正常な子宮を温存したい場合に行う子宮筋腫核出術と子宮筋腫の根治を優先して行う子宮全摘術があり、何れの手術も腹腔鏡下で行うことが出来ます。但し子宮筋腫核出の場合、腹腔鏡手術では(1)小さな筋腫は残ることがある、(2)深い子宮筋腫を核出した場合子宮のキズの縫合力が弱く、将来妊娠時に子宮破裂につながる可能性がある、ことに注意が必要です。ですから、子宮筋腫の大きさ、場所、数によっては開腹手術の方が望ましいことも少なくありません。子宮摘出の場合は子宮が大きかったり、癒着が強い場合は手術時の合併症頻度が増加します。「子宮を腟から摘出するにはちょっと筋腫が大きい」場合が最も腹腔鏡の利点が発揮できます。
     
  3. 子宮内膜症
     
    子宮内膜症による不妊症に対しては、腹腔鏡による子宮・卵巣温存手術が最も推奨されています。内視鏡で視野を拡大して繊細な手術が施行でき、術後の癒着が起こりにくい腹腔鏡手術が威力を発揮します。一方子宮内膜症による月経困難症に対して子宮全摘術を含めた根治手術が必要になることがあります。この場合の子宮摘出術は、術後合併症発生のリスクが開腹手術より高くなります。合併症発生を極力回避するという点からは、開腹手術に軍配が上がります。

6. おわりに

腹腔鏡はこれまでご説明した通り、従来の開腹手術に比べて多くの利点があります。その一方で、腹腔鏡は限られた視野で限られた数の手術器具で手術操作を行うため、開腹手術であれば生じにくい合併症が起こることもあります。つまり腹腔鏡手術は、順調に手術が問題なく終われば「キズも目立たず、楽で、早く退院できた。」すばらしい手術なのですが、いったん合併症が起こると「こんなはずじゃなかったのに・・・。」といった困ったことになる可能性があります(勿論合併症の頻度はそう高いわけではありません)。腹腔鏡手術が「キズの小さい楽な手術である」ことは大半の患者さんにおいて事実であっても、「安全で確実な手術である」とは断言できないことを十分ご理解頂く必要があります。


また、現在当施設には婦人科内視鏡技術認定医は在籍しておりません。このため当施設では、安全性を十分に評価した上で患者さんに腹腔鏡手術をお勧めするように心がけています。治療前の評価で難易度の高い腹腔鏡手術が必要であると判断した場合には、他の医療施設にご紹介することがありますことをご了承ください。