学術賞を受賞した⾥⼝保⽂上席総括学芸員「撮影:⽇本第四紀学会」
・⾥⼝保⽂上席総括学芸員が「⽇本列島における後期鮮新世〜中期更新世広域⽕⼭灰の層序 確⽴に関する⼀連の研究」に対して、⽇本第四紀学会学術賞を受賞しました。
・ 林 ⻯⾺専⾨学芸員が執筆した「滋賀県の遺跡花粉データベースからみる地域・局所スケ ールの植⽣変遷史(第四紀研究,第 63 巻第 1 号,3‒17 ⾴)」に対して、⽇本第四紀学会 論⽂賞を受賞しました。
・ ⽇本第四紀学会*2025 年⼤会(島根⼤学松江キャンパス)で授賞式が⾏われました。
* ⽇本第四紀学会は、国際第四紀学連合(INQUA)の⽇本⽀部を⺟体にして 1956 年に発⾜し、地球史の現代といえる時代(約 260 万年前から現在にいたる第四紀)の⾃然、環境、⼈類の研究を通して、現在と近未来の環境を理解するべく、それに関 わるさまざまな分野の専⾨家で構成されている。
⾥⼝保⽂(滋賀県⽴琵琶湖博物館 上席総括学芸員)
⽇本列島における後期鮮新世〜中期更新世広域⽕⼭灰の層序確⽴に関する⼀連の研究(Studies on the establishment of the stratigraphy of widespread tephras from the Late Pliocene to the Middle Pleistocene in the Japanese Islands)
選考理由(概要):
プレート境界に隣接する⽇本列島には、激しい地殻変 動を反映して⼭地とその間に分布する⼤⼩様々な堆積盆 が発達する。⽇本列島における第四紀テクトニクスを解 明する上で、各堆積盆での層序確⽴と堆積盆間での堆積 史⽐較は不可⽋である。こうした研究を進めていく上で 広域に分布する後期鮮新世〜中期更新世テフラを⽤いる ことは⾮常に有効である。
このような⽇本の第四紀研究の特性を背景に、⾥⼝保 ⽂会員は、⻑年にわたり房総半島の上総層群・三浦層群、 静岡県掛川層群、伊勢湾周辺地域の東海層群、古琵琶湖 層群、⼤阪層群に含まれるテフラに着⽬し、フィールド ワークと室内分析からなる研究を進めてきた。これらの 成果は、他の研究者によるテフラ層序、古地磁気層序、 ⽣層序等の研究成果を総合的に取りいれ、本州中央部に おける約 5 Ma 以降の鮮新・更新統に関する総合編年と してまとめられ、数多く研究論⽂で引⽤されている。
⾥⼝保⽂会員の⼀連の研究成果は、⽕⼭灰層序だけで はなく、共同研究を通じて古地磁気、古植⽣、微化⽯、 古海洋に関する研究への応⽤に繋がっており、第四紀学 に顕著な貢献を果たしている。また所属博物館の学芸員 として、琵琶湖をテーマに地域の第四紀学に関わる教育 普及活動を実施し、⼀般の⼈々の第四紀に関する関⼼を ⾼めてきた。
林 ⻯⾺(滋賀県⽴琵琶湖博物館 専⾨学芸員)
「論説 滋賀県の遺跡花粉データベースからみる地域・局所スケールの植⽣変遷史」 第四紀研究,第 63 巻第 1 号,3‒17 ⾴.
選考理由(概要):
本論⽂は、滋賀県における考古遺跡調査から得られた花粉分析データを活⽤し、局地的スケールのみならず地 域的スケールにおいても過去の植⽣変遷を明らかにしたものである。特に、遺跡ごとの個別的な植⽣景観の復元 と、それらを統合することで得られる俯瞰的な視点の両⾯から検討を⾏い、空間スケールを変えた植⽣復元の⽅ 法論的可能性を⽰した点は⾼く評価される。
使⽤されたデータベースは、滋賀県南部の低地を中⼼に調査された 60 遺跡 891 層準に及ぶ花粉データを、 著者らが丹念に集成したものであり、2017 年に公益財団法⼈滋賀県⽂化財保護協会紀要に公表されている。遺 跡分布や調査状況に伴う地理的偏りという課題を抱えつつも、2013 年度までの調査成果を網羅的に集約し、標 準化されていない多様な報告書から⼀貫したデータを抽出・整理したものである。本論⽂は、このデータベース に収集されたデータを活⽤し、著者が⽬指す森と⼈との相互関係史の実証的な解明を試みている。
このように、本論⽂は遺跡花粉データベースの実⽤性を確かめるとともに、今後のデータ更新・蓄積によるデ ータベースの質的向上への道筋を⽰しており、第四紀学における実証的研究の模範となるものである。