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「幻の安土城」復元プロジェクト・令和7年度特別史跡安土城跡調査整備事業に伴う天主台周辺地区発掘調査中間報告

  • 調査期間:令和7年7月30日~令和7年12月(予定)
  • 調査主体:滋賀県文化スポーツ部文化財保護課
  • 調査個所:特別史跡安土城跡天主台周辺地区~伝本丸取付台東半(東近江市南須田町)
  • 調査面積:594平方メートル
  • 調査目的:天主台周辺地区の環境整備に関わる資料を得るための発掘調査

1.調査区の概要

調査区である伝本丸取付台東半部の規模は、長軸方向が約43m、短軸方向が約17mです。

調査前は見学者の立ち入り制限を設けない公開エリアでした。伝本丸跡と天主跡とをつなぐ見学者動線には腐植土が堆積しておらず、雨に洗われ、踏圧もあって周囲よりもやや低くなって樹根や礎石が露出しています。

2.見つかった遺構

立ち木は残していますので全面掘削はしていませんが、これまでに、昨年度の伝本丸取付台北半で発見した建物とは別の建物礎石とそれを仕切る石列が見つかっています。また、昭和の石垣修理の影響範囲も確認しています。

《建物礎石》

調査区の中央部分から東側では建物の礎石が見つかっています。今回確認した礎石は、昨年度の調査で確認した礎石のように1mを超える大型のものは無く、現在のところ80cm 程度のものばかりです。

《石列》

昨年度の調査では、礎石建物を区画する石列が見つかっていました。今回の調査ではこれにつながる石列が見つかっています。石列は途中で南に向きを変えますが、最終的にどこにつながるかはまだわかっていません。

石列の石材は、平坦な面を天主石段側に向けて直線的に揃えて並べています。

《石垣修理の影響範囲と移行検出面》

調査区の周囲の石垣は昭和40 年代に修理工事を行っています。今回の調査では、その影響範囲をこれまでに確認しています。

石列や遺構検出面は北東に傾斜しています。これは、雨水を伝本丸跡に流れないように対策したものと考えられます。なお、伝本丸跡の発掘調査では、伝本丸取付台側に石組み溝が見つかっており、取付台からの雨水対策が講じられています。

3.出土遺物

表土層である腐植土層からは、昭和の見学者に由来する空き缶・空き瓶等とともに瓦片が出土しています。
遺構精査中には、瓦片の他に瀬戸天目茶碗の口縁片、土師皿の口縁片、白磁片がこれまでに出土しています。

4.今後の調査方針

石列や礎石・抜き取り痕の有無を精査し、見学者通路を付け替えて通路部分を調査します。

下記に留意して今後の整備に必要な情報が得られるよう調査を進めます。

  1. 建物礎石は、礎石の抜き取り跡の有無を精査します。石段や石垣、石列との位置関係を考慮し、建物規模等を推定する手がかりを得る予定です。
  2. 今回の調査で見つかった石列は、昨年度調査で見つかった石列とつながりました。天主石段の前を囲むように面を揃えて石列が配置されていたことが確認できました。今後の調査により、石列の全体像を明らかにする予定です。

【資料・写真】※無断転載禁止

北側から見た調査区
調査区西側の礎石列
調査区東側の建物礎石
天主石段から見た調査区南西側

5.調査成果にかかる有識者のコメント

  • 山岸常人委員(京都大学名誉教授/建築史)のコメント
    • 今回の発掘では、伝本丸取付台に東西30 メートル程度、南北10 メートル程度の大規模な建物があったことが明確になり、昨年度調査区で検出した建物とともに天主東部の足下を囲んでいたことがはっきりした。
    • 本丸御殿から天主への動線は、今回確認の建物の中を通る可能性があり、今後の精査でこの動線部分も明らかになるはずである。
    • 天主への入口近辺の建物構成が明らかになりつつあるという意味で、今回の調査は極めて価値の高い成果となっている。
  • 坂井秀弥委員(奈良大学名誉教授/史跡整備・考古学)のコメント
    • 天主周辺の調査が3年目となり、郭に設置された建物などの様子がかなり判明してきた。
    • 今年度の伝本丸取付台の建物は、確認された礎石からみて、郭のほぼ全域の範囲に及ぶ大規模なものとみられる。建物の西妻側にある石列は、昨年の天主東側の建物に伴う石列と同様の機能をもち、建物の区切りを示すものと考えられる。
    • 建物の礎石は、これまでと同様、すべて熱を受けて赤化して割れており、激しい火災の様子を物語る。オリジナルの石垣も同様で、赤化して割れているものが多い。
    • 伝本丸取付台東半とそこに設置された建物は、一段下の本丸御殿の方向とほぼ一致する。昨年・一昨年に確認した伝本丸取付台北半の建物が天主建物とほぼ同じ方向であり、本丸周辺の郭と建物が整然と設計されたことがうかがえる。また、その建設工事も石垣・郭・建物が一体的に施行されたと考えられる。
  • 佐藤亜聖委員(滋賀県立大学教授/考古学)のコメント
    • 一昨年から今年度の調査によって伝本丸取付台の全貌がほぼ明らかになった。これまで一連の建物か、複数の建物の集合であったか判然としなかった場所であるが、明確に二つの建物(群)に分かれることが判明したことは重要な成果である。
    • さらに、二つの建物の間には、天主上り口の前に石列によって区画される空間があることがわかり、城郭中枢部の具体的な構造が見えてきた。建物の内部には土間を思わせる硬化面があるなど、特殊な利用状況が垣間見える。
    • 今後は周辺の更なる調査で天主台を取り巻く枢要部がどのような機能を持っていたか、また機能分化があったのか、などを推定していくことが重要だろう。
お問い合わせ
文化スポーツ部 文化財保護課 安土城・城郭調査係
電話番号:077-528-4678
FAX番号:077-528-4956
メールアドレス:[email protected]
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