滋賀県立美術館整備基本計画、素案です。
本資料は、滋賀県立美術館について、今後どのような美術館を目指すのか、その将来像をどのように考えているのか、そして、その将来像を実現するために、どのような施設整備を行うのかについて、考え方と方向性を整理したものです。
表紙では、整備の考え方を示したイラストを大きく掲載しています。このイラストは、滋賀県立美術館と、その周辺に広がるびわこ文化公園との関係を、俯瞰的に示したイメージ図です。画面全体は、やや高い位置から見下ろした視点で描かれており、美術館の建物と、公園の緑地、園路、広場などが一体として表現されています。中央付近には、滋賀県立美術館の建物が描かれています。建物は横に広がりを持つ低層の構成で、周囲の自然環境となじむような配置として表現されています。美術館の周囲には、芝生や樹木などの緑地が広がっています。建物の外周には園路が描かれており、公園内を歩きながら美術館に近づくことができる動線が示されています。イラストでは、美術館の中と外、公園と建物の境界が明確に分断されているのではなく、ゆるやかにつながっている様子が表現されています。園路は直線だけでなく、緩やかなカーブを描いており、公園の中を回遊しながら移動できることがわかる構成となっています。また、屋外には人が点在して描かれており、散策する人、立ち止まる人、複数人で行動する人など、さまざまな利用のされ方が表現されています。人物は、特定の年齢や属性が強調される描き方ではなく、子どもから大人まで、幅広い利用者が想定されていることが読み取れる表現となっています。イラスト全体では、美術館が公園の中に孤立して建っているのではなく、公園の風景の一部として位置づけられていることが示されています。このイメージ図は、滋賀県立美術館を、建物単体としてではなく、びわこ文化公園と一体で利用される場所として整備していく考え方を、視覚的に表したものです。
ここでは、滋賀県立美術館整備基本計画(素案)の目次を示しています。はじめに、滋賀県立美術館整備の経緯を整理します。次に、滋賀県立美術館整備基本計画の目指す姿を示します。そのうえで、目指す姿を実現するための整備の考え方を、整備の概念図として整理します。続いて、施設整備を進めるにあたって特に重視する整備のポイントを整理します。次に、現在の滋賀県立美術館の現状と課題を整理します。あわせて、滋賀県立美術館が担う役割と事業について整理します。最後に、これらを踏まえた施設整備の方向性と、整備事業の進め方について整理します。このような流れで、本計画素案を構成しています。
ここでは、美術館整備に関するこれまでの経緯を整理します。
平成25年度に、新生美術館基本計画を策定しました。この計画では、当時の滋賀県立近代美術館が抱えていた課題として、建物の老朽化が進行していること、展示室の規模や構成が収集してきた作品に十分対応できていないこと、収蔵庫の容量が不足していること、あわせて、休館中であった琵琶湖文化館の機能を継承するための改修・増築を行う整備計画としていました。
その後、平成29年4月から工事の準備のため美術館は休館に入り、8月に建築工事の入札を行いましたが、入札は不調となりました。これを契機に整備を一旦立ち止まり、対応方針の検討を行いました。
そこで、平成30年、滋賀県としては、休館中の美術館をできるだけ早く再開館させることを最優先とする判断を行い、早期の再開館に必要な喫緊の課題である安全確保を中心とした老朽化対策のみ改修工事を先行させることとしました。さらに令和元年度には琵琶湖文化館の機能継承については新琵琶湖文化館の単独整備で対応する旨を表明しました。
そして、令和2年度から令和3年度にかけて、老朽化対策工事を実施しました。
この工事では、耐震対策、防水工事、消火設備の更新、トイレの改修、展示室内装の改修など、早期の再開館に必要な喫緊の課題である安全対策を中心とした老朽化対策のみの改修工事を実施しました(約12億円)。
令和3年3月には、美術館と新たに整備する琵琶湖文化館を核として滋賀の美の魅力を発信する全体計画「美の魅力発信プラン」を策定し、美術館の根本的な課題である、施設機能の向上について今後検討を要する事項として記載しました。
同年6月には、名称を改めて滋賀県立美術館として再開館しました。
令和5年には、屋根・作品用エレベータ等の長寿命化改修工事を実施しました。
令和6年には、「美の魅力発信プラン」3年目の中間見直しに合わせて、積み残しとなっている美術館の施設機能や面積の課題に対応するとともに、ソフト・ハードを含めた機能向上の方向性を整理し、3月に美術館魅力向上ビジョンとしてとりまとめました。
そして令和6年4月より、このビジョンを実現するための施設整備の計画として滋賀県立美術館整備基本計画の検討を進めてきました。
ここでは、計画の目指す姿を記載しています。
県立美術館では、美術館が抱える様々な課題や美術館を取り巻く社会情勢の変化に対応するとともに、滋賀の美の魅力を発信する存在感のある施設となるため、外部有識者で構成した美術館魅力向上部会での議論(令和5年7月~12月)を踏まえ、美術館の新たな方向性について調査・検討し、令和6年3月に「滋賀県立美術館魅力向上ビジョン」を策定しました。
ビジョンでは、まず現状分析を行いました。
強み(内部資源・環境のプラス要素)として、アール・ブリュットコレクション、滋賀ゆかりの美術工芸等、現代美術の特徴的なコレクションと関連する調査研究や展示の実績、教育交流事業の実績、公園内に立地していること、近隣に図書館や大学、医療、福祉などの専門機関が立地していること、高速道路からのアクセス利便性をあげています。
弱み(内部資源・環境のマイナス要素)として、展示室の狭さ、収蔵庫の収容力に余裕がないこと、展覧会観覧者が長期的に減少傾向、施設の老朽化、ギャラリーの展示環境等の制約、野外空間の活用が不十分、公共交通機関でのアクセスが不便、公園内の園路や案内表示の整備が不十分であることをあげています。
機会(外部資源・環境のプラス要素)として、公園へパークピーエフアイ制度の導入、県全体の15歳未満人口の割合が、全国上位2番目、新名神の延伸、法改正による美術館への新たな役割の期待、国の第4期教育振興基本計画において全国の博物館、美術館等の機能強化、設備整備の促進が明記されたことなどをあげています。
脅威(外部資源・環境のマイナス要素)として、余暇の過ごし方の選択肢が多様化し、全国的に美術館のリニューアルや新設が相次いで行われる中、県立美術館の存在感が相対的に低下していること、展覧会の開催経費(輸送費、保険料等)や館の運営経費(委託費、光熱費等)が高騰していることをあげています。
これらを踏まえ、目指す姿「子どもも大人も来たくなる未来をひらく美術館」とそれを導く5つのコンセプトを定めました。
コンセプト1は、子どもたちがアートに出会い親しむことができるです。子どもたちが、楽しみながらアートや美術館に出会い、親しむことのできる、体験型・参加型の展示空間や学びのプログラムを構成します。
コンセプト2は、コレクションを通して多様性を深く考えることができるです。幅広い分野のコレクションを比較して鑑賞できるようにし、表現の多様性を提示します。好奇心をくすぐる他にはない企画を展開し、新たな視点を得るきっかけをつくります。
コンセプト3は、滋賀の文化の息吹を感じることができるです。滋賀ゆかりの作家や作品を守り伝え、この土地で育まれた文化の奥深さを感じられる空間を構成します。現在進行形の活動にも焦点を当て、滋賀の文化のダイナミズムを体感できる場を提供します。
コンセプト4は、誰にとっても居心地が良くウェルビーイングを高めることができるです。様々な主体が、自由な発想で活動できる環境を醸成するとともに、日常から離れてゆっくりと作品と向き合える時間も大切にします。誰もが幸せな時間を過ごせるよう、美術館のサード・プレイス(居場所)としての価値を高めます。
コンセプト5は、公園と一緒に楽しむことができるです。美術館を取り巻く瀬田丘陵の豊かな自然環境やそこに溶け込む野外作品を生かし、公園と一緒に楽しめる憩いの時間やわくわく感あふれる空間を演出します。
ここでは、ビジョンの目指す姿を実現するため、整備における考え方を概念図でまとめています。
概念図は、数年にわたる検討と実践を踏まえて整理したものです。障害のある人とない人、大人や子どもなど、さまざまな県民とのワークショップを行ってきました。関係者や有識者との会議を重ね、国内外の美術館の事例調査を行ってきました。家族向けの展覧会、障害のある人とともにつくりあげた展覧会、江州音頭も取り入れた夏祭り、対話鑑賞を活用した社会的処方の取組など、具体的な事業も実施してきました。
これらを踏まえ、概念図では、キッズアートセンターを中心に、美術館の主要な展示や機能を連続的に配置する構成を整理しています。中央のキッズアートセンターから、周囲に矢印が延びており、その先には、現代美術展示室(目玉となる常設作品プラスここにしかない作品群)、室内の彫刻庭園、企画展展示室、アール・ブリュット、県民ギャラリー、滋賀ゆかりの美術と工芸、開かれた収蔵庫、日本画その他といった要素を配置しています。
あわせて、誰もがアクセスしやすく、公園と一緒に楽しめるための公園整備も周辺に記載しています。
この概念図のポイントは2点あります。
1点目は、美術館活動の中心にキッズアートセンターを据えることです。美術館の片隅ではなく、中心にあると感じてもらえる存在として位置づけること、美術館は「子どもにも大人にも開かれ、未来へつながる場所」であることを示すこと、将来的には県内キッズなら、一度は滋賀県立美術館に来たことがあるようにすること、日本におけるキッズ分野のリーディングミュージアムとなることが期待できます。
2点目は、県民共有の財産であるコレクションの有効活用を図ることです。所蔵作品が十分に公開できておらず、美術館への親しみや共感が育ちにくい現状を打破すること、国内随一の質を誇る戦後アメリカ・日本の現代美術や世界有数のアール・ブリュットコレクションの空間を持つことで全国的にユニークな美術館となること、これにより、滋賀ゆかりの美術・工芸等もしっかりと展示でき、県立の美術館としての意義をより感じてもらえるようになれるものと考えています。
以上により、県立美術館をゲートウェイにして滋賀が、「世界」と、もっとつながっていくこと、ここにしかないアートとの出会いを求めて「世界」の人たちが、滋賀を目指してやってくることを目指して整備を進めていきたいと考えています。
ここからは概念図に基づき、少し具体的に整備のポイントを説明します。
整備のポイントの一つ目は、キッズアートセンターの誕生です。キッズアートセンターはキッズインスタレーションスペース、ドロップインワークショップコーナー、ワークショップルームといった要素で構成されます。
キッズアートセンターは、未来の、クリエイティブな滋賀に向けての投資です。子どもたちが、早い時期から、難しくはない形で本質的なアート体験をできる場を用意することは、子どもの権利に鑑みて、行政がすべきことのひとつであること。また、これを美術館が実施するというのは、未来の観客を育てることにとどまらず、将来、クリエイティブな人材が県内からより多く輩出されていくようになるための布石でもあると考えています。
キッズインスタレーションスペースは、遊びながらアートに親しめる体験型・参加型の展示空間です。アーティストやデザイナーとのコラボレーションよって、芸術を感じる心や創造性を育むことが期待できるプログラムを開発、実践します。パリのポンピドゥー・センターが実施している子どものためのアートスペースなど先進事例を参考にし、年1回程度の定期的な展示替えを想定しています。また、学校との連携により団体観覧の受け入れを積極的に行うとともに、それをきっかけに何度も家族で来館してもらえるよう取組を進めていきます。
ワークショップルームは、子どもから大人まで、創作活動を楽しめる空間です。平日は、学校団体鑑賞の受け入れ。週末は、一般向けワークショップ等を実施し、また、一区画は、開館時間中なら自由に出入り可能で、自分で好きに創作もできるフリースペースを設け、居心地よくサードプレイスとしても利用される空間をつくっていきたいと考えています。
ドロップインワークショップコーナーは、企画展示室近くに設ける予約不要の創作コーナーです。展示をきっかけに、創作意欲や好奇心を刺激し、自発的な体験や表現を通じてさらなる気づきや学びを提供します。大人も一緒に楽しみ、世代間コミュニケーションの場ともなると考えています。
整備のポイントの二つ目は、現代美術展示室です。
光をキーワードに、ここにしかない現代美術の展示棟をつくります。
今、世界の主要美術館ではスタンダードとなっている外光の入る気持ちのよい空間をつくり、滋賀県が着実に収集してきた20世紀後半のアメリカ美術のコレクションを常設展示。ロスコやスティルなど、アジアではここでしか見られない奇跡のコレクションがあることを打ち出していきます。素案では現代美術展示室のスケッチを示しています。室内は天井が高く、広がりのある空間として描かれています。展示室の一部の壁は大きなガラス部分があり、ガラスの向こう側には公園の緑が見え、自然光の気持ち良い光が展示室でも感じられます。展示室の壁には大型の絵画がかかっていますが、決して窮屈さは感じません。こういった空間で様々な方が気持ちよく現代美術作品を楽しんでいる様子が描かれています。
また、目玉作品として、話題性のある新しい滋賀県立美術館のシンボルとなるような作品を新規に収蔵し恒久設置することで、「滋賀でしか実現できないアートとの出会い」をより魅力的なものとします。
素案では参考検討作品例として没入型(イマーシブ)作品の元祖とも言えるジェイムズ・タレルのインスタレーション作品を2点示しています。いずれもLEDライト等を用い光の効果で部屋全体が包まれる作品です。光そのものを使った体験型アートであるタレルの作品は、美術史、心理学、生理学、哲学の知識がなくても、「見るとはなにか」「色とはなにか」「感じるとはなにか」ひいては「今ここに立っている私とはなにか」を深く考えさせてくれる点が高く評価されており、高松宮記念世界文化賞を受賞してもいます。そんな彼の作品は、2013年のグッゲンハイム美術館での個展には47万人が訪れたように、アートファン以外にも絶大な訴求力を持っています。
整備のポイントの三つ目は、アール・ブリュットです。
世界に誇るアール・ブリュットのコレクションで世界各地と連携します。しっかりとしたボリュームで常設的に鑑賞できる環境の整備や関連情報を紹介するコーナーも併設を考えています。今や世界有数の規模となったアール・ブリュットのコレクションを、滋賀が収集することになった歴史的背景を含めて常設展示をしていくことで、滋賀の文化的な歴史と強みを国内外にアピールしていきます。
整備のポイントの四つ目は、滋賀ゆかりの作品をいつでも鑑賞できる開かれた収蔵庫としての展示室です。
保管と公開の機能を兼ね備えた開かれた収蔵庫として展示室を再整備します。県民の財産であるコレクションの数々を保管しながら、公開機会を確保しようとするもので、工芸作品など収蔵対象は保存環境を踏まえ検討します。滋賀ゆかりの美術・工芸は、従来の選抜型(セレクティブ)ではなく、収蔵庫のような集積型の展示室とすることで、より多くの作品をいつでも見てもらえるようにします。これにより、美術館のコレクションは県民の共有の財産であることがより明確となり、シビックプライドの醸成にもつながっていることを訴えていきたいと考えています。ここでは、開かれた収蔵庫としての展示室のイラストが描かれています。多くの作品が並び、通常の展示室よりも密度の高い展示の様子を表現しています。具体的には大人の背丈の2倍以上の高さのある複数の絵画ラックが部屋のなかに並んでおり、来館者は絵画ラックの手前まで足を運ぶことができ、絵画ラックにかかっている作品を観ることができます。絵画ラックは奥の方にも複数枚続いており、様々な平面作品が収蔵されている様子もわかります。展示と収蔵の機能をあわせ持つ空間として構成されているようすを表現しています。
整備のポイントの五つ目は、公園と一体となった整備です。
美術館だけでなく公園全体にアートを広げていきたいと考えており、アートに親しむきっかけや公園のシンボルとなるような野外作品の整備を進めます。
また、誰にとっても居心地が良い空間の充実のため、館内スロープの改善、カームダウンスペースの新設、公園と一緒に楽しめる憩いの空間の充実、彫刻作品を眺めながらくつろげるエリアの充実、キッチンカーとテラス席による飲食の提供を考えています。
そして、県民ギャラリーの改善については、より多くの県民や団体の創作の発表の場として使っていただきやすいように敷地内で移設します。現在エントランスを利用している搬入出について専用搬入出口を設けるとともに、照明や区分使用しやすい可動壁の設置など展示環境の改善を行います。
このページでは、滋賀県立美術館の現状について、「利用者」「コレクション」「展示や取組」の三つの観点から整理しています。
まず、利用者についてです。休館前の平成28年と令和6年との比較をしています。利用者数は、11万人から11万人と横ばいになっています。ここで示している利用者数は、各展覧会、教育交流事業、ギャラリー利用などを合計した数です。来館者満足度については、78パーセントから95パーセントに増加しています。満足度はアンケートにおいて「大変良かった」または「良かった」と回答した割合を指しています。中学生以下の利用者の割合は、4パーセントから11パーセントに、障害者の利用者の割合は、3パーセントから5パーセントにそれぞれ増加しています。利用者数は横ばいですが、満足度や子ども、障害者の利用割合は増加しているところです。
次に、コレクションについてです。滋賀県立美術館のコレクションには、小倉遊亀、安田靫彦、速水御舟などの「日本美術院を中心とした近代日本画」、志村ふくみ、清水卯一、野口謙蔵などの「滋賀ゆかりの美術・工芸等」、ロスコ、スティル、白髪一雄などの「戦後アメリカと日本の現代美術」、2016年から収集を開始し、世界的にも有数の所蔵作品数を誇る「アール・ブリュット」、2021年から新たに収集方針に加えた「芸術文化の多様性を確認できるような作品」があります。滋賀ゆかりの作品のほか、現代美術や近代日本画、アール・ブリュットは全国的に見ても特徴的なものとなっています。
次に、展示や取り組みについてです。
ザ・キャビンカンパニー大絵本美術展など子どもが楽しめるもの、小倉遊亀、笹岡由梨子など滋賀県ゆかりの作品や若手アーティストの展示、みかたの多い美術館展、さわる展示など多様性をより深く感じられる展示、健康や幸福感に良い影響を与えるアートの社会的価値に係る取組、対話鑑賞などウェルビーイングに資する取組を進めてきました。リニューアル以降これらの新たな取り組みを始めていますが、今後の展開のためには施設面で制約があるところです。
ここでは、背景となる社会情勢や法制度を整理しています。世界レベルでは、ICOM(国際博物館会議) ミュージアムの新定義採択、気候の変動に伴う気温上昇やゲリラ豪雨等をあげています。国レベルでは、文化芸術基本法の改正施行、博物館法の改正施行、孤独・孤立対策推進法の施行、地球温暖化対策推進法の改正施行をあげています。県レベルでは、新生美術館基本計画、美の魅力発信プランの策定、美術館魅力向上ビジョンの策定を行いました。
次に滋賀県立美術館の主な課題を整理しています。まず、建物や設備の老朽化(経年劣化、水漏れ、空調設備等の耐用年数到来)が進んでおり、竣工後40年を超えた施設機能の低下があります。次に、展示収蔵環境の制約、社会情勢の変化に伴い求められる機能の多様化、建物の環境性能やアクセスの向上等、将来を見据えた美術館にふさわしい機能の不足があります。このことから、改修や機能の充実にかかる整備が必要であると考えています。
ここでは項目ごとに現状課題と将来を見据えた対応などを整理しています。
キッズエリアについては、学校団体の受け入れスペースに制約がある、一般的な導線と離れた場所にある配置となっており、子どもがアートに親しめるための体験型・参加型の展示空間の充実が必要と考えています。
ギャラリーについては、作品の搬出入導線がエントランスからであり制約が大きい、外光の侵入、貧弱な照明となっており、ギャラリー専用の搬入出口の確保、敷地内移設し展示環境の改善を図ることが必要と考えています。
展示室については、展示面積や天井高の制約により、展示できる作品の数に制限があったり魅力が生きてこないこととなっており、優れた収蔵品にふさわしい常設展示のためのゆったりとした空間の確保が必要と考えています。
収蔵庫については、収容力が限界のため今後の受贈・作品収集に支障があること、一般的には美術館における収蔵の役割が見えにくいことから、収蔵スペースの確保や既存展示室を収蔵庫として活用するなど収蔵機能の見える化との両立を図る必要があると考えています。
公園関連については、バス停、駐車場からの距離が遠いこと、悪路、でこぼこ、駐車場からの導線の分かりにくさがあり、だれもがアクセスしやすい公園内導線の確保や野外作品など公園と一体で楽しめる工夫が必要と考えています。
最後に設備については、配管劣化による水漏れ、雨水侵入、回廊等に結露が生じており、今後も美術館としての機能を維持していくため、空調設備更新など施設設備の改修が必要と考えています。
ここでは、美術館の根幹となる事業と役割を整理しています。美術館の主な事業として、美術品収集、展覧会開催、教育・コミュニケーション、社会とのかかわり、リンクと発信などをあげており、人がつくった様々なものに触れることを通じて、社会や環境の多様性をより深く感じられる場をつくることとしています。これらのことから、滋賀の宝を後世に継承する、滋賀における創造の場を支える、子どもたちの学びや育ち、県民の交流に貢献する、創造性あふれる豊かな社会づくりに貢献する、滋賀の魅力を国内外に伝える役割があると考えています。
ここでは、整備にあたり重要となる視点を整理しています。
まず、子どもがアートに親しめる環境整備と学びや育ちへの貢献という視点です。子どもがアートに出会う機会となる展示・イベント、学校との連携による団体観覧や出張授業による来館の促進を図っていきます。
次に、様々な主体とのかかわりの視点です。県民・利用者については、インクルーシブな美術館として様々な方に親しんでもらう展示やイベント、整備過程における県民や関係団体の参画・協働、ファンドレイジングやファン・コミュニケーションを通じた共感の醸成と歳入確保の推進を行います。福祉については、福祉や医療分野等との連携による社会的処方の実践を行います。企業については、企業や経済界と美術館の協働による事業展開、企業CSR・メセナとの連携を進めます。観光・交通については、滋賀の多様な文化的資源を発信、文化やアートの魅力に着目した周遊観光の促進、交通アクセスの確保や文化情報発信での連携を進めます。大学については、周辺の大学や芸術系大学と相互連携に取り組みます。公園については、ザ・シガパークビジョン、滋賀県公園緑地検討協議会、図書館、埋蔵文化財センター などとの連携や調整を進めます。地域については、びわこ文化公園都市、市町、地域の自治会、団体等との連携や調整を進めます。
最後に、新しい琵琶湖文化館との連携の視点です。県立美術館は、県内の近現代美術の中核拠点、アートを通じて未来をひらく取組に特徴があります。他方で、琵琶湖文化館は、県内歴史文化系博物館の中核拠点、近江の文化財の保存活用に特徴があります。2館が役割を分担・連携しながら話題性や発信力のある取組を展開し滋賀の魅力を発信していくこととします。
ここでは、「子どもも大人も来たくなる 未来をひらく美術館」実現のため、今後、設計提案を受ける段階や整備を進めるにあたり踏まえるべき点を5点あげています。1点目は、将来を見据えた美術館にふさわしい機能の確保です。2点目は、美術館へのアクセスの改善です。3点目は、子どもをはじめ誰もが利用できるユニバーサルミュージアムです。4点目は、持続可能性を見据えた建物(CO2ネットゼロの推進、県産材活用等)です。5点目は、県民の誇り・県の象徴となるような魅力ある建物です。
ここでは、航空写真をもとに増築可能範囲を示しています。既存館の東側にある図書館との間には3m程度のレベル差があり、増築は難しいと考えます。また、既存館の北東には公園の池の水を循環させる装置が設置されており、造成を伴う増築は現実的ではありません。このため増築可能範囲は既存館南側と北西側に限定されるものと考えています。なお、現段階の想定であり、具体的には、設計者の選定段階で改めて示します。
ここでは、整備の想定面積および概算費用を示しています。
面積は、現在の8,545平米から、改修増築により、整備後は、約12,000平米から12,500平米を想定しています。次に項目別に整理しています。キッズについては、現状255平米から3.9倍の1,000平米へ、745平米の増を想定しています。主には、キッズインスタレーションスペースが600平米、ドロップインワークショップコーナー が80平米となります。展示については1,875平米から1.9倍の3,565平米へ、1,690平米の増を想定しています。主には、現代美術展示室が1,000平米、現エントランスの一部を展示空間に改修することで330平米、アール・ブリュット展示室が360平米を想定しています。収蔵については、収蔵庫としての増築は想定していませんが、一部既存展示室を「開かれた収蔵庫としての展示室」にすることで、展示・収蔵機能を兼ねるエリアが約670平米程度確保できると想定しています。その他共用部などについては、5,566平米から1.2倍の約6,700平米へ、約1,100平米の増を想定しています。県民ギャラリーについては増築部分への移設を想定しています。
次に建物整備にかかる概算整備について、約100億円を想定しています。改修と増築にそれぞれ約50億円を想定しています。近年の物価上昇を踏まえ、費用対効果の向上を図りつつ整備内容を精査したものであり、改修・増築の金額配分は精査中です。また、別途関連費用として、公園整備に係る費用、設計調査費等のほか、キッズアートセンターのプログラム開発や目玉となる作品購入費用を見込むこととしますが、具体的な金額は精査中です。
ここでは、整備による目標を示しています。年間利用者数について、令和6年度は延べ人数11万人、実人数6.4万人ですが、再開館後が延べ人数23万人、実人数16万人とします。来館者満足度については「大変よかった」と「よかった」の割合について、令和6年度は95.4%ですが、再開館後も90%以上の継続とします。
ここでは、事業手法とスケジュールを示しています。事業手法については、「滋賀県PPP/PFI 手法導入優先的検討方針」に基づき、本計画の策定時を目途に、PPP/PFI手法と従来型手法との比較により最適な手法を選定することとされています。今回の整備に関しては、改修を伴う美術館の整備であることを踏まえ、従来手法による整備の方が合理性が高いと考えといます。想定スケジュールについては、整備については、令和7年度に基本計画策定、8年度に設計者選定、9年度と10年度に基本設計と実施設計、11年度の前半に施工者選定、11年度の後半から13年度までに工事、14年度中の再開館とします。美術館としては、令和10年度までは通常開館、11年度から休館を想定しています。そのほか美術館の取り組みとして、子どもがアートに親しめる取組、アール・ブリュット、社会的処方の取組など、休館中も含めて継続して取り組みます。また休館期間に入りましたら、再開館に向けた機運醸成やプレイベントなども実施します。
以上が、滋賀県立美術館整備基本計画素案の内容です。