不当労働行為とは、使用者(会社、事業者)が労働組合や労働者に対して、団結権や団体交渉権、団体行動権を侵害するような行為のことを指し、労働組合法第7条第1号から第4号までにおいて禁止されています。
不当労働行為は、大きく分けると以下の種類に分類できます。
このページでは、それぞれの不当労働行為の類型について、具体的な事例を交えながら説明していきます。事例はいずれも過去の労働委員会命令例や裁判例を元にしていますが、実際の事件を審査する場合は、個別の事情を考慮する必要があります。そのため、下記の事例に該当するように思える場合であっても、必ずしも不当労働行為に該当するとは限りません。
また、不当労働行為に該当するかどうかは、審査手続きの中で両当事者の主張や証拠に基づいて判断するものです。そのため、電話やメール等で、具体的な事案が不当労働行為に該当するかどうかの問合せをいただいても、労働委員会事務局としては回答を行うことができませんので、御了承ください。
不利益取扱いとは、労働組合に関わったことを理由として労働者を解雇したり、その他不利益な取扱いを行ったりすることです。組合員個人や組合全体を狙い撃ちする形で不利益な取扱いを行うことで、他の組合員や非組合員に対し、「労働組合に加入すると不利益を被る」という恐怖感を与え、組合活動を委縮させることにつながるため、法律で明確に禁止されています。
なお、「労働組合に関わったことを理由として」という部分について、条文ではより具体的に、(1)労働組合に加入していること、(2)労働組合に加入しようとしたこと、(3)労働組合を結成しようとしたこと、(4)正当な組合活動をしたこと、の4つのパターンを挙げています。例えば次のような事例は、最も分かりやすい不利益取扱いの例と言えるでしょう。
しかし、近年ではこうした、あからさまな不利益取扱いの数は減り、一目見ただけでは不利益取扱いとは分かりにくいものが増えています。例えば、実際には組合員であることを嫌って解雇したにもかかわらず、表向きは別の解雇理由を挙げていた事例や、組合員に対して人事評価を厳しめに採点するなど、発覚しづらい方法を用いていた事例などが挙げられます。
そのような場合であっても、普段の言動などから使用者が労働組合を敵視していることが明らかであったり、客観的に見て組合員を狙い撃ちにした処分であることが明らかな場合は、不利益取扱いに該当すると判断されることがあります。例えば下記の事例では、それぞれ記載の理由により不利益取扱いに当たると判断されています。
なお、不利益の範囲は、降格や昇給停止などの経済的なものにとどまらず、福利厚生やその他精神的な待遇も広く含むとされています。そのため、以下のような場合においても不利益取扱いに当たるとされた事例があります。
黄犬契約とは、労働組合に加入しないことや、労働組合から脱退することを雇用条件とすることを指します。もともと、アメリカではこうした雇用契約のことを ’yellow-dog contract’ と呼んでいて、これを日本語に直訳したのが、この言葉の由来です。黄犬契約の具体例としては、次のような事例が挙げられます。
団交拒否とは、労働組合が申し入れた団体交渉を、正当な理由がないのに拒否することを指します。団体交渉を行う権利は、憲法第28条で保障されたものですから、これを侵害することは当然禁じられています。
ただし、「正当な理由がないのに」という条件のとおり、正当な理由がある場合であれば、使用者は団体交渉を拒否することも認められています。例えば、社内に組合員が1人もいない外部の労働組合が団交を申し入れた場合や、組合員が使用者にたびたび暴力をふるっていて、使用者が身の危険を感じていた場合など、団体交渉を拒否することに正当な理由があると判断された事例もあります。しかし、一般的には、団体交渉の拒否について「正当な理由」が認められることはあまり多くなく、厳格な判断が行われています。
団交拒否については、例えば以下のような事例において不当労働行為に該当すると判断されています。
労働組合法第7条第2号では、条文の上では「団体交渉を正当な理由なく拒否すること」のみが禁止されています。しかし、例えば団体交渉には応じるものの、実態としては交渉する意思がないような場合はどうでしょうか。表面上は団体交渉には応じているため、条文には違反しないようにも思われます。
しかし、実質的に見れば団体交渉を拒否しているのと変わりがないと考えられるため、こうした行為も団交拒否と同様、不当労働行為に該当するとされています。こうした行為を特に「不誠実団交」と呼びます。具体的には、次にあげるような事例が該当します。
支配介入とは、労働組合の結成や運営に使用者が介入しようとしたり、労働組合を使用者が支配しようとしたりすることです。例えば、組合活動を妨害することや、不利益をちらつかせて組合を使用者の言いなりにすることなどが、支配介入に該当します。
なお、支配介入は、労働組合の結成や運営への干渉が行われればその時点で成立するとされていますので、干渉の結果として労働組合の結成や運営に影響があったかどうかは問題となりません。例えば、先ほどの例で言えば、不利益をちらつかせた時点で支配介入は成り立つのであって、その結果組合が実際に使用者の言いなりになったかどうかは関係ないのです。
また、支配介入を行い得る主体は、社長や理事長など、組織のトップだけに限りません。部長や課長など、経営上の意思決定権を持たない役職者であっても、実質的な人事権を持っていれば、支配介入を行う使用者となり得ます。また、係長など、それよりさらに下の立場の者が支配介入行為を行った場合であっても、使用者がそのことを知っていて、かつ止めようとしなかった場合などは、使用者の意思に沿って行われた行為であると判断され、不当労働行為だと認定されることがあります。
支配介入であると認められた事例としては、例えば下記のようなものがあります。
社内に複数の労働組合がある場合に、特定の労働組合だけ優遇したり、逆に特定の労働組合にだけ不利な扱いをすることは、一方の組合の弱体化につながるため、組合間差別として支配介入の一形態にあたると考えられています。また、既に存在する労働組合を嫌って、使用者が別の組合の結成を援助することも同様に支配介入に当たり得ます。
これは、労働組合が社外のものであっても同様です。近年は特に合同労働組合の活動が活発化していますが、使用者はそうした社外の労働組合に対しても、合理的な理由がない限り、社内の労働組合と同等の取扱いをすべきであるとされています。
以下に、組合間差別に当たる不当労働行為であると判断された事例を挙げます。
経費援助とは、使用者が組合の運営経費に対して経理上の援助を行うことです。労働組合の運営経費を使用者が援助することは、一見してみれば組合にとって喜ばしいことのようにも思えますが、一方では「使用者にお金を出してもらった」という弱みが生まれかねません。そうなると使用者に対して強くものが言えなくなり、対等な労使関係が維持できなくなる恐れがあります。そのため、こうした経費援助も不当労働行為として禁止されているのです。
ただし、組合に対して必要最小限の広さの事務所を貸し与えることや、団体交渉中の組合員の賃金を保証することなどは、条文で認められているため、経費援助には当たりません。
組合役員に金品を提供しようとした会社に対し、組合が救済申立てを行うというのが最も一般的なパターンですが、組合役員が既に金品の提供を受け続けていることに対して、組合員個人が救済申立てを行うケースも散見されます。また、救済申立てを行う会社に協力的な別組合の結成や運営に便宜を図るという事例も多く、その場合は組合間差別と併せて不当労働行為となり得ます。
経費援助に該当するとされた事例を、以下に挙げておきます。
報復的不利益取扱いとは、不当労働行為の救済申立てを行ったり、審査や調整の場で証拠の提示や発言を行ったこと等を理由として、不利益な取扱いをすることを指します。審査や調整に対する使用者の報復的な行為を禁止することで、労働者の権利をより確実に保護するという目的を持っています。
ここでいう調整とは、労働争議のあっせん、調停、仲裁のことを指し、個別的労使紛争のあっせんは含みません。また、裁判や労働審判などの手続きも含みません。ただし、個別的労使紛争のあっせんについては、申請を理由として不利益な取扱いをしてはならないことが別の法律(個別労働紛争解決促進法)で定められていますし、裁判や労働審判などを理由とした場合も含め、そもそも第7条第1号の不利益取扱いに該当し得ます。
報復的不利益取扱いの具体的な事例には、下記のようなものがあります。
会社や経営者が不当労働行為を行っていると思われる場合、労働委員会に救済申し立てを行うことができます。申し立てができるのは、会社の所在する都道府県の労働委員会、組合の所在する都道府県の労働委員会、不当労働行為が行われた都道府県の労働委員会、のいずれかです。
例えば、東京都に本社を置き、滋賀県に工場を持つ会社が、大阪府に本部を置く労働組合に対して不当労働行為を行った場合、組合は東京都労委、大阪府労委、滋賀県労委のいずれかに申立を行うことができます。
申立ては組合が主体となって行うことが多いですが、個人として申立てを行うことも可能です。手続きについての詳しい情報は「不当労働行為の審査」のページをご覧ください。