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最新の文献から【基礎的研究】

B-25-4-1気道において、肺に定着する記憶B細胞がアレルギー性IgE応答を維持する➡記憶B細胞は肺にいるNelson AJ et al. Lung-resident memory B cells maintain allergic IgE responses in the respiratory tract. Immunity 2025; 58: 875-888. ★★★

従来、IgEを発現するB細胞は記憶B細胞(memory B cells, MBCs)を形成しないというのが定説であった。しかし本研究では、吸入アレルゲンによって誘導される肺局所の免疫応答に着目し、肺に定着するIgG1⁺ MBCsがIgE産生の主要な前駆細胞であることを示した。マウスアレルギーモデルを用いて、アレルゲン曝露により肺にB細胞が浸潤し、IgG1⁺ MBCsが肺組織に定着、局所のTh2細胞由来IL-4刺激を受けてIgEへのクラススイッチを遂げ、IgE産生形質細胞へと分化することが明らかとなった。再アレルゲン曝露時には、循環系に依存せずに肺内のMBCsが再活性化され、IgE産生を再開する。この局所免疫記憶は、系統的なIgE抗体産生とは独立して気道アレルギー応答を維持する仕組みであり、慢性的なアレルギー性喘息の病態維持における肺常在型MBCsの役割を支持する。したがって、病原性IgE応答の制御には、肺常在型MBCsの形成および機能の制御が有効な標的となり得ることが示唆された。

 

B-25-4-2RORγt eTAC細胞が経口耐性や制御性T細胞の誘導を調整する➡経口免疫療法の新たなプレイヤーSun IM et al. RORγt eTACs mediate oral tolerance and Treg induction. J Exp Med 2025; 222: e20250573. ★

食物抗原に対する免疫寛容の成立においてRORγt系統抗原提示細胞(APCs)、特にRORγt+ Aire発現細胞(R-eTACs)の役割を解明した。系譜追跡および単一細胞RNA解析により、R-eTACsは骨髄由来であり、抗原提示能と制御性T細胞(Treg)誘導能を有することが示された。R-eTACsは主要組織適合遺伝子複合体クラスIIMHCII)とインテグリンβ8の発現を介して経口耐性を誘導し、その欠失はTreg形成不全および過剰な抗体反応を引き起こす。これにより、R-eTACsが経口免疫寛容の中核的メディエーターであることが明らかとなった。

B-25-3-1IgE依存性食物アレルギー小児におけるヘルパーT細胞分化の偏りにカルシウム流入障害が関連している➡新たな治療標的としてSOCE/calcineurin経路の可能性を示唆Lai CL et al. Impaired calcium influx underlies skewed T helper cell differentiation in children with IgE-mediated food allergies. Allergy 2025; 80: 513-24. ★

IgE依存性食物アレルギーの小児において、T細胞受容体(TCR)を介したカルシウム流入(SOCE:store operated calcium entry)が低下していることを明らかにした。この低下が、Th1および制御性T細胞(Treg)の分化障害と関連し、Th2優位な免疫応答を引き起こす可能性があることを示唆している。

 

B-25-3-2食物に対する免疫応答を引き起こす抗原提示細胞‐T細胞反応の同定➡抗原提示細胞を使い分けるCampos Canesso MC et al. Identification of antigen-presenting cell-T cell interactions driving immune responses to food. Science 2025; 387: 1165. ★★★

In vivoで抗原提示に関わる細胞を同定できるLIPSTIC法という手法を用いて、抗原提示細胞の種類によって免疫応答の仕方が変わることを示した。即ち、コンベンショナル樹状細胞(cDC)1型やRORγt 陽性抗原提示細胞が食物抗原を提示して末梢性制御性T細胞(pTreg)を誘導して耐性に至るのに対して、寄生虫感染ではcDC2型が抗原提示してTh2を誘導し、免疫応答に至る。

 

B-25-1-3 引っ掻きが神経によるマスト細胞活性化を通じてアレルギー性炎症や生体防御を促進する➔引っ掻くことの功罪Liu AW et al. Scratching promotes allergic inflammation and host defence via neurogenic mast cell activation. Science 2025; 387,489. ★★★

アレルゲンで刺激されたマスト細胞がpruritogen(掻痒促進因子)を放出することで神経を刺激してサブスタンスPを産生させ、さらにサブスタンスPがマスト細胞を刺激することでTNF産生が亢進し、アレルギー性皮膚炎症を引き起こす一方で、黄色ブ菌に対する生体防御機構を活性化することを示した。

 

 

B-25-1-1 実験的アレルギー性腸炎における代謝物及び細菌叢に及ぼす高IgEレベルの影響➡IgEが何らかの影響を及ぼすZubeldia-Varela E et al. The impact of high-IgE levels on metabolome and microbiome in experimental allergic enteritis. Allergy 2024; 79: 3430-3447.

実験的にアレルギー性腸炎を起こすマウスモデルを用いて、高IgE産生を起こすIgEノックインマウスと通常マウスで血清中及び便中の代謝物や腸内細菌叢を比較。IgE高値であることはこれらの結果に影響を及ぼすことを示した。アレルギー疾患の診断治療戦略のヒントになる可能性。

 

B-25-1-2 マウスによって受け継がれる共生真菌が2型免疫反応を促進する➡腸内にいる真菌の役割解明に向けてLiao Y et al. Fungal symbiont transmitted by free-living mice promotes type 2 immunity. Nature 2024; 636: 697-704.

マウス腸内の共生真菌 Kazachstania pintolopesii (K. pintolopesii) は野生および実験室マウスで腸内に優勢に存在し、細菌に依存せず安定して定着する。粘膜環境が変化すると、この真菌はIL-33を介してタイプ2免疫応答を引き起こし、寄生虫感染に対する防御を強化する一方、食物アレルギーの悪化を招く可能性も示された。この特性は、真菌共生体が宿主免疫とどのように相互作用し、健康や疾患に影響を与えるかを理解する上で重要である。本研究は、腸内免疫と真菌共生の進化的適応を解明する一助となる。

 

B-25-1-3 IgEによるFcε受容体I活性化の分子的メカニズム➡アレルゲンと出会う前にマスト細胞で起こっていることChen M et al. Molecular mechanism of IgE-mediated FcεRI activation. Nature 2025; 637:453-460.

マスト細胞上のFcε受容体IにIgEモノマーが結合することにより、マスト細胞の分化、成熟が制御される。本研究では、IgE結合後の各コンポーネントの動態を詳細に分析し、抗原非依存性のIgEモノマー結合による受容体活性化の機序を明らかにした。

 

 

B-24-11-1 IL-33で活性化された好塩基球がTh2細胞の肺への進入を調節することにより喘息を促進する⇒好塩基球がゲートキーパーにSchuijs MJ et al. Interleukin-33-activated basophils promote asthma by regulating Th2 cell entry into lung tissue. J Exp Med 2024; 221: e20240103.

マウス喘息モデルを用いた解析により、IL-33で活性化された好塩基球がアレルゲン刺激によるTh2細胞の肺への移動を制御することにより、アレルギー性気道炎症を促進することを示した。

 

B-24-11-2 アレルギー性気道炎症においてアンドロゲンは、グルタミン分解を制限することで、性依存性Th17代謝を抑制する⇒女性で喘息が悪化する理由Chowdhury NU et al. Androgen signaling restricts glutaminolysis to drive sex-specific Th17 metabolism in allergic airway inflammation. J Clin Invest 2024; 134: e177242.

Th17誘導性の喘息は女性に多いことが知られているが、その理由は不明であった。本研究では、女性におけるTh17活性化はグルタミン代謝に依存しており、男性ホルモンであるアンドロゲンはグルタミントランスポーター発現を抑制することによりグルタミン代謝を低下させることで、Th17活性化を抑えていた。女性においてTh17依存性喘息が悪化する説明となる。

 

B-24-11-3 ヒト化マウスにおいて、Lactobacilli、bifidobacteria、及び酪酸によるアレルギー性気道及び消化管炎症の予防⇒腸内細菌の効果をマウス実験で示すKhatri R et al. Prevention of allergic airway and gut inflammation in humanized mice by lactobacilli, bifidobacteria, and butyrate. Allergy 2024; 3150-53. ★★

ヒト化マウスモデルを用いて、プロバイオティクス(BactoFlor® 10/20)や短鎖脂肪酸(酪酸)がアレルギー性炎症を予防する効果を検討。免疫不全マウスに重度のアレルギー患者由来の免疫細胞を移植し、アレルゲンを投与後、これらを経口的に投与した。その結果、腸および肺の炎症が顕著に抑制され、特に腸のバリア機能の回復や炎症関連細胞の減少が観察された。さらに、制御性T細胞の移動が促進され、これが効果の重要な要因であることが示唆された。この研究は、プロバイオティクスやその代謝産物がアレルギー治療の補助として有望であることを示すもので、他の炎症性疾患への応用可能性も示唆される。

 

B-24-11-4 腸内細菌叢の乱れは、ILC2-B1細胞-内因性IgE産生の枢軸形成を通じて、長期にわたるアレルギー素因を促す⇒生直後の乱れが一生涯影響Kabil A et al. Microbial intestinal dysbiosis drives long-term allergic susceptibility by sculpting an ILC2-B1 cell-innate IgE axis. J Allergy Clin Immunol 2024; 154: 1260-76. ★★

正常マウスに生後早期からバンコマイシンを投与して短鎖脂肪酸(SCFA)産生性腸内細菌を減少させると、ILC2、Th2サイトカイン、B1細胞などが上昇し、IgE産生亢進が起こった。このマウスにSCFA(特に酪酸)を補充すると、これらのアレルギー性のフェノタイプは正常化した。

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滋賀県立総合病院
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