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じんけん通信

 人権施策推進課では、人権に関する特集記事「じんけん通信」を毎月、ホームページ上で発信しています。

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令和4年(2022年)1月(第165号)

 今年も人権に関するいろいろな情報を分かりやすくお届けしていきますので、どうぞそろしくお願いします。

 さて、今回のじんけん通信は、前回号(令和3年12月号)に引き続き、滋賀県人権相談ネットワーク協議会の講座(2021年10月15日開催)において、県立精神保健福祉センター 辻本哲士 所長より、「ひきこもりの現状と県の取組について」をテーマに講義いただいた内容(後編)を紹介します。

 参考:「滋賀県人権相談ネットワーク協議会」について

 県では、さまざまな人権に関する悩みに対して解決のお手伝いができるよう、国、県、市町などの53の関係機関で滋賀県人権相談ネットワーク協議会を組織し、連携を図っています。

特集 ひきこもりの現状と県の取組について(後編)

■滋賀県でのひきこもり対策

 令和3年5月に自由民主党の、いわゆる「ひきこもり」の社会参画を考えるPT(プロジェクトチーム)第一次提言が行われました。現状のひきこもり支援施策の再点検、息の長い支援の充実、コロナ禍におけるひきこもり支援、良質な支援者の育成、国民の意識醸成など様々な提言が出されています。

いわゆる「ひきこもり」の社会参画を考えるPT第一次提言
自民提言

・政府においては、本提言を踏まえ、ひきこもり状態に陥るのは「自己責任」でなく、「社会全体で取り組むべき課題」として捉えて施策を進めるべきであり、自治体等がひきこもり支援に取り組みやすい環境整備を加速化するとともに、ひいては、全ての国民が、存在そのものが肯定され、幸福感や生きがい、安心感を持って人生を過ごすことができる社会の構築に向けて取り組むことを強く求めるものである。
 (「1 はじめ」より抜粋)

・ひきこもりの定義は、「様々な要因の結果として社会的参加(就学、就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6ヶ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態を指す現象概念」とされている。

・令和3年度末までに市区町村において取り組むこととして、以下の3点を掲げている。

 (1)ひきこもり相談窓口の明確化・周知
 (2)支援対象者の事態やニーズの把握
 (3)市町村プラットホームの設置・運営

・その取組の前提として、市区町村におけるひきこもり支援の企画立案等の中心的役割を担う部局の設定、関係部局間の連携による包括的な支援体制の構築、近隣の市区町村との合同による支援体制の構築等、地域の実情に応じた支援体制づくりの検討を示している。
 (「2 現状のひきこもり支援施策の再点検」より抜粋)

 この提言を受けて国は、ひきこもり状態にある方やその家族への支援に当たって、多様な選択肢を用意することが重要であると認識しています。各自治体において官民を問わない様々な社会資源がより多く参画・連携できる環境を整備するため、「ひきこもり支援に関する関係府省横断会議」が持たれています。

 令和3年7月に開催された第2回会議において、先進的な取組として「滋賀県のひきこもり支援センターの取組」について説明を行った内容を中心に、今回、お話していきます。

ひきこもり支援施策の全体像

全体像

 国は、ひきこもり支援施策の全体像として、「ひきこもり地域支援センター」を都道府県(政令市)ごとに設置するものとしています。本県では、県立精神保健福祉センター内に「ひきこもり支援センター」を設置しています。

 ひきこもり地域支援センターに医療・法律等の多職種から構成される専門チームを設置し、専門的なアドバイスを行うなど、市町村への支援体制を拡充し、相互の連携を強化していこうというのが今の動きです。厚生労働省の令和4年度予算概算要求では、ひきこもりに特化した専門的な相談窓口を設ける市町村への補助など、ひきこもり支援強化のための関連経費が盛り込まれています。

ひきこもり支援推進事業

 ひきこもり地域支援センターの設置運営は、センターを中心に関係団体や教育、福祉、行政などの関係機関がネットワークをつくり、ひきこもり当事者・家族などをサポートしていくものです。取組内容は、自治体によって様々です。

 将来的には、市町村が中心となって身近なところで支援が行われていくようになり、県は、そのバックアップをするという形となり、関係団体と、どのようにネットワークをつくっていくかが重要になると思います。

支援センター図

ひきこもりに関する法律

 行政は法律や制度によって施策を推進しますが、「ひきこもり対策基本法」というものはありません。現行の様々なひきこもりに関連する法律、例えば精神保健福祉法や発達障害支援法、自殺対策基本法など、多くの法律をうまく組合せて、ひきこもり対策を行っています。

 必ず制度の狭間に落ちてしまわれる方がおられるため、今までの支援の在り方をより充実させたいと考えています。

〔ひきこもりに関連する法律〕

〔ライフステージ全般〕精神保健福祉法、発達障害支援法、自殺対策基本法、生活困窮者自立支援法、生活保護法、社会福祉法、障害者総合支援法、障害者虐待防止法、障害者差別解消法(合理的配慮)
〔出生前から幼少期〕母子保健法、成育基本法、児童福祉法、児童虐待防止法、配偶者暴力防止法
〔児童思春期〕教育機会確保法、いじめ防止対策推進法
〔青年期〕子ども・若者育成支援推進法、若者雇用促進法、アルコール健康障害対策基本法、ギャンブル等依存症対策基本法
〔成人期·中高年期〕介護保険法、高齡者虐待防止法

ひきこもりに関連する支援機関

 ひきこもりに関係するのは、ひきこもり地域支援センターをはじめ、保健・医療・福祉、就労、出産・子育て・教育などの支援機関です。支援対象者の年代も様々で、どこでひきこもっても、対応できる体制が重要になります。医療や就労などの機関とネットワークをつくり、センターだけではなくチームを組んで支援していこうと考えています。

 息の長い支援をしていくということに関しては、学校からハローワークにつなぐなど、横の連携をしていく必要があります。どのように支援機関の縦、横のネットワークをつくっていくかが、ひきこもり対策のポイントです。一つの機関で、ひきこもり問題をすべて解決するということは無理なことなのです。

支援機関

滋賀県のひきこもりの現状

 内閣府の調査結果(※1)から、本県のひきこもり推計数を算出すると、県人口約141万人に対し、約1万3千人(15~39歳の若年層6千人、40~64歳の中高年層7千人)となっています。

(「令和2年度ひきこもり支援に関する実態調査」結果として公表(※2))

※1内閣府調査:「平成27年度若者の生活に関する調査」および「平成30年度生活状況に関する調査」
※2公表方法: 県立精神保健福祉センターHPの「ひきこもり支援センター」欄に掲載

県立精神保健福祉センターについて

 県立精神保健福祉センターの相談支援係に、ひきこもり支援センターと、子ども・若者総合相談窓口があり、この両方が、ひきこもり対策の中核になっています。

ただ、センターだけで県内すべてのひきこもり者への対応はできませんが、一つの機関としてできる範囲で、一次相談から講演会や研修会の実施、他の行政機関との協力、連携に努めています。

体制図

滋賀県ひきこもり支援センターの相談状況

 相談数は増加傾向にあり、令和2年度では、相談実人数が約700名、相談延べ件数は5,000件を超えています。当センターの特徴としては、若者支援が中心のため、20歳以下の人が7割を占めています。高齢者については、高齢者支援機関とのネットワークを持ちながら対応しています。

相談実績
推移
割合

 全国の状況(令和元年度)を見ると、相談件数では、都道府県設置のセンターの中では、本県のセンターが最も多くなっており、ひきこもり支援に力を入れていることを理解いただければと思います。

全国グラフ

滋賀県ひきこもり支援センターのひきこもり対策

 滋賀県ひきこもり支援センターにおいての、ひきこもり対策の取組についてです。

目指す姿

 目指す姿として、次のことを目標としています。

○ひきこもりの背景や当事者・家族がおかれている多種多様な状況について、何らかの社会的障壁がある状態と捉え、必要な支援を受けながら、当事者の自分らしい生活を保障していく。

○若者が、自分自身の人生の主人公になっていくという主体化を支え促していく。

○ひきこもり状態にある方やその家族が、地域の中で孤立することなく、その人らしく生活できるようつながりを続けていく。

相談体制

 相談体制としては、50代、60代も含め全般に相談を受けながら、ケース検討では、職員が1人で抱えるのではなく、センター内の専門職と相談しながら、家族支援やアウトリーチ活動、本人支援、学習会など行い、他の機関とのネットワークにより対応しています。

体制
相談の流れ

 まず本人等が相談窓口に来られたら、情報収集し状況判断(アセスメント・プランニング)を行い、ひきこもりの3分類(前編の12月号をご覧ください。)のどの領域に入るかを把握しながら、基本的には家族相談、本人相談を行って、時にはグループを使いながら、他機関と連携して状況を見ていきます。

流れ

<本人向けグループ>

 本人向けグループは、軽作業を通じ侵襲的(※)でないコミュニケーションを体験しながら生活リズムや現在の身体の状態を意識できる場として、また、仲間との交流を通じ孤独感の軽減や安心感の獲得、コミュニケーションの場として、当事者の状態に応じた中間的・過渡的段階の集団活動を実施するものです。現在、次のグループがあり、この活動を通じて少しずつセンターに来てもらうようにしています。

 ※用語の説明:侵入し襲うこと。この場合は、恒常性を乱すようなの意。

本人向け

 また、「若者サミット」というもので、ひきこもり当事者が活動をしてセンターはサポートで入るだけで、当事者がつくっていくようなイベントも行っています。

サミット

 若者サミットでは、「家にひきこもることで人間関係のストレスからは解放されました。しかしこれからどうなるかという不安と、世間からの目が非常に気になるようになり、孤独が生まれてきました」、「『このままではダメでしょ』それは自分が一番わかっていることです。でもどうにもならないから困っています。」、「将来のことを考えると不安にさいなまれました。」といった体験談を話してくれます。関心がありましたら、センターの方にお尋ねください。

ひきこもり支援専門家チーム

 今、力を入れようとしているのは、「ひきこもり支援専門家チーム」というものです。専門家、要するに医療だけでは難しく、法律面などの相談も必要とする場合があります。

 例えば、お金の問題や遺産の問題をどうするかといった相談であるとか、学校現場をどうしたいとか、就労をどうしたらいいかといったことについて、メンバーが集まって事例検討したり、場合によっては一緒に訪問したりと、多職種で支援を考えるというようなこともしています。

専門家チーム
公私協働事業

 ひきこもり支援センターで、公私協働事業として地域づくり作業をしています。これは、滋賀県社会福祉協議会、市町社会福祉協議会、民生委員等とのネットワークの中で、ひきこもりを別のスタンスで見ていただいています。

 例えば、「ひきこもり者と家族が孤立しない地域支援体制づくり事業」として、次のような行政ではできないような、寄り添い、伴走型の支援を民間の支援団体と情報交換しながら取り組んでいます。

公私協働
児童生徒の健全育成に係る県と市町の連携協定

 この連携協定の取組は、国のモデル事業になりました。学校を中退して、そこからひきこもってしまい、まったく連絡が入ってこないということが課題になります。そこで、学校、関係機関が連携をすることによって、ひきこもりの可能性、リスクのあるような方々に関しては、県と市町が連携し、情報を共有して切れ目のない支援をしようというものです。

 市町、市町教育委員会、県、県教育委員会の四者で協定を締結し、県と市町、教育委員会と福祉部局の枠を超えて、県立学校に進学した児童生徒のうち特別な支援を必要とする方々の情報を共有し、連携した支援を行います。

 関係県庁HP「県政eしんぶんお知らせ」令和3年3月23日掲載

おわりに

 全国的な取組として、全国精神保健福祉センター長会の中に、ひきこもり対策委員会が設けられており、8050問題を含め、ひきこもりに関して共同研究や研修事業に取り組んでいます。本日の説明内容に関しての資料もセンター長会のHPに掲載していますので、ご関心がありましたらご覧ください。

全国精神保健福祉センター長会HP 

 ひきこもりの相談窓口として、様々なパンフレットにいろんなことが書かれていますが、統一的に、ここに一番に相談したらよいというところはありません。お話したように、すべての関係機関が、ある意味相談窓口になるという自覚を持ってもらい、ひきこもり支援センターに連絡をいただいた上で、一緒に支援を組立てていくことが必要です。

 すべての関係機関が支援相談窓口になっていかないと、どこか1か所では無理だということは御理解いただけたと思います。相談のお問い合わせがあった際には、まず日頃つながりのある関係機関などに相談していただいて、もしうまくいかないようであれば、ひきこもり支援センターに連絡してもらうようにと伝えていただければと思います。

 今後とも、本県でのひきこもり支援の取組をすすめていくために、本日受講の皆さんとのネットワークもつくって行きたいと思っていますので、よろしくお願いします。

ジンケンダーのちょっと一言

一言

人権カレンダー1月

・ 17日 防災とボランティアの日
平成7年(1995年)1月17日に発生した阪神・淡路大震災を契機として、広く国民が災害時におけるボランティア活動および自主的な防災活動への認識を深めるとともに、災害への備えの充実強化を図ることを目的として「防災とボランティアの日」(1月17日)および「防災とボランティア週間」(1月15日から21日)が設けられています。日頃から災害時の連携・協働の取組みを考え、地域の中で防災に携わる方々の間の連携を深めましょう。

・ 30日 世界ハンセン病の日
昭和29 年(1954 年)、フランスの社会運動家、ラウル・フォレローさんが提唱。毎年1月の最終日曜日を「世界ハンセン病の日」としています。この日には、世界各地でハンセン病に関するさまざまな啓発活動が行われます。

お問い合わせ
滋賀県総合企画部人権施策推進課
電話番号:077-528-3533
FAX番号:077-528-4852
メールアドレス:[email protected]
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