IPMとは、「総合的な病害虫・雑草管理」と定義されています。
総合的病害虫・雑草管理とは、利用可能な防除技術を経済性も含めて検討し、病害虫や雑草の発生を抑制するための手段を総合的に講じるもので、人の健康に対するリスクと環境への負荷を軽減、あるいは最小の水準にとどめる技術のことです。
滋賀県の実践指標を下記に示しましたので、IPMの取組についてチェックしましょう。
(キャベツの場合、冬作が中心なので、7月以降からスタートし、次年6月をゴールとするとわかりやすい)
管理項目 | 管理ポイント | 実施状況チェック欄/前年作 | 実施状況チェック欄/今年作 | 実施状況チェック欄/次年作 | |
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ほ場選定など | 品種、ほ場、作付け時期の選択と改善 | 1)同一ほ場でのアブラナ科野菜の連作は避ける。 | |||
2)根こぶ病の発生ほ場では、作型と品質を考慮し抵抗性が高い品種を選択する。 | |||||
3)土壌診断を受け、適切な施肥、資材施用を行う。 | |||||
育苗時対策、雑草対策 | 健全苗の育成 | 4)消毒されている種子を使用する。 | |||
5)セル成型育苗等では、市販の園芸培土等の病原菌や雑草種子の混入していない用土を用いる。 | |||||
6)育苗では物理的・耕種的防除法を活用し、病害虫の発生を抑制する。 | |||||
雑草の管理 | 7)植付けまでに雑草が発生した場合や畦畔の雑草については、雑草種子の結実前に耕耘や草刈りを行う。 | ||||
8)雑草の発生状況や草種等を勘案し、除草剤を選定する。 | |||||
9)定植後に灌水するなど、スムーズに苗を活着させ、外葉が早く地表面を覆うようにする。 | |||||
10)中耕や培土は雑草が大きくならないように行う。 | |||||
病害虫対策 | ほ場衛生 | 11)作付けほ場には、根こぶ病が発生しているほ場の土を持ち込まないよう注意する。 | |||
12)病害虫の被害株は早めに処分する。 | |||||
効率的な病害虫防除 | 13)関係機関等が発表する発生予察情報を入手し、病害虫の発生動向を確認する。 | ||||
14)ほ場内を見回り、病害虫の発生や被害を把握するとともに、気象予報などを考慮して防除の要否を判断する。 | |||||
15)土着天敵類が十分に活動できるよう、バンカープランツを設置し、天敵に影響の少ない薬剤を選定する。 | |||||
16)初期害虫を効果的に防除するため、育苗~定植時に粒剤等を施用する。 | |||||
生物農薬や性フェロモン剤の利用 | 17)生物農薬の利用を進める。 | ||||
18)集団化しているほ場では、地域全体で性フェロモン剤を利用し、地域全体の害虫の発生抑制を図る。 | |||||
農薬の使用全般 | 農薬の使用全般 | 19)農薬使用に当たっては、効果の高い剤を選択し、飛散が少なくなるように天候やほ場条件などを勘案しながら、散布方法を決定する。 | |||
20)対象の病害虫に複数の農薬がある場合、できるだけ特定の成分を繰り返し使用しないよう選択する。 | |||||
21)各農作業の実施日、病害虫・雑草の発生状況、使用した農薬の名称、使用時期、使用量、散布方法等の栽培管理状況を作業日誌として記録する。 | |||||
○の数の合計 |
管理ポイント | 管理ポイントの考え方や病害虫・雑草の発生抑制効果など |
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1)同一ほ場でのアブラナ科野菜の連作は避ける。 | 病原菌密度を上昇させない。前作に野生エンバク等を作付けると根こぶ病菌の密度を低下させることができる。 |
2)根こぶ病の発生ほ場では、作型と品質を考慮し抵抗性が高い品種を選択する。 | 根こぶ病の発生および被害を抑制できる。 |
4)消毒されている種子を使用する。 | 種子の消毒や無病土を利用することで、種子伝搬する病害の発生抑制、初期病害虫、雑草の発生抑制対策となる。育苗施設での物理的防除法については、施設開口部の防虫ネットによる被覆、アルミ蒸着テープ等の反射資材の利用、黄色蛍光灯の利用などが有効である。耕種的防除法については、日当たりの悪い場所ではべと病、黒斑病などが発生する場合があるので、苗箱の位置のローテーションや換気等により、乾きをよくする。 |
5)セル成型育苗等では、市販の園芸培土等の病原菌や雑草種子の混入していない用土を用いる。 | |
6)育苗では物理的・耕種的防除法を活用し、病害虫の発生を抑制する。 | |
8)雑草の発生状況や草種等を勘案し、除草剤を選定する。 | 耕耘・うね立て前に雑草の発生が多い場合は、茎葉処理型除草剤を使用する。前作が水稲である場合はイネ科雑草が多く、畑地では広葉雑草が多い傾向にあるので、雑草の草種にあった除草剤を選定する。 |
11)作付けほ場には、根こぶ病が発生しているほ場の土を持ち込まないよう注意する。 | 根こぶ病発生ほ場から移動する時は、靴や作業機(トラクター等)に付着した土を落とし、作付けほ場に持ち込まないよう注意する。 |
12)病害虫の被害株は早めに処分する | 残渣は可能な限り、ほ場外に持ち出し、すき込まないようにする。やむをえない場合は、なるべく早期にすき込む。 |
13)関係機関等が発表する発生予察情報を入手し、病害虫の発生動向を確認する。 | 県や地域の発生予察情報を入手し、該当情報をファイルする等、後でチェックできるようにした場合に○印を付けることができる。 |
14)ほ場内を見回り、病害虫の発生や被害を把握するとともに、気象予報などを考慮して防除の要否を判断する。 | 虫害については、ヨトウムシ類の若齢幼虫の集団やこの幼虫によるかすり状の食害、ダイコンアブラムシによる葉の脱色や奇形化が見られる場合には防除を行う。また、害虫の発生地点に目印を付け、殺虫剤の散布後に効果確認を行うことも重要である。病害については、降雨が続いた後や台風通過後は、早めに殺菌剤を散布する。また、土壌病害は、前年の発病程度から防除法を決定する。 |
15)土着天敵類が十分に活動できるよう、バンカープランツを設置し、天敵に影響の少ない薬剤を選定する。 | 土着天敵が定着できるようバンカープランツ(キャベツに寄生性のないアブラムシなどが寄生する植物のことで、ほ場の一部に栽培すると天敵の餌となる昆虫を維持でき土着天敵が温存される)を設置するとともに、天敵に対して影響が少なくなるよう、IGR剤などを使用する。 |
16)初期害虫を効果的に防除するため、育苗~定植時に粒剤等を施用する。 | アオムシ、アブラムシ等は生育初期に恒常的に発生する。これらの害虫は、育苗~定植時の粒剤等を施用すると防除効果が高い。この防除により、土着天敵に影響の大きい有機リン系、ピレスロイド系薬剤の生育期間中の散布回数を低減することができる。これにより、土着天敵が活動しやすい環境を整える。 |
17)生物農薬の利用を進める。殺虫剤:BT(バチルス・チューリンゲンシス)剤/殺菌剤:エルビニア・カルトボーラ剤 | 適用のある病害虫に対して、農薬登録のある薬剤を利用する。また、病害では発病後の散布では効果が劣る場合があるので、発病前からの予防散布が重要である。 |
18)集団化しているほ場では、地域全体で性フェロモン剤を利用し、地域全体の害虫の発生抑制を図る。 | 大面積の処理が有効であり、小規模の処理では効果が期待できない。なお、性フェロモン剤による交信攪乱を行っているほ場周辺では、フェロモントラップによる発生予察はできない。 |
注:病害虫発生予察情報は下記ホームページで公開しています。
滋賀県病害虫防除所ホームページ