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ケトン食治療入院

修正アトキンズ食
低グリセミック指数食

文責:熊田知浩

てんかん発作が毎日あり、抗てんかん薬がなかなか効かず、困っておられる患者さんご家族へ。ケトン食治療、って聞いたことありますか?

ケトン食治療とは、昔から行われているてんかんに対する食事療法です。炭水化物の摂取を極力減らし、脂質を多めに摂取することで、体内に蓄積されるケトン体という物質が直接的または間接的に神経細胞およびそのネットワークに作用して抗けいれん作用を有し、てんかん発作に効果があるとされています。(図1)難治てんかん患者の約5割に効果があるとされ(発作頻度が50%以上減少する人の割合)、眠気などの抗てんかん薬にありがちな副作用がないのが利点です。

しかし、「おいしくない食事、周りと違う食事をずっと食べさせるのはかわいそう」、「家でどうやって調理していいか不安」、「長く続けられるか心配」、等の理由で医師から提示されてもなかなか踏み切れないでいるご家族が多いと思います。

図1:体内のケトン体産生

そこで、当院では、短期間の「ケトン食療法お試し入院」プログラムを作成しました。

ケトン食は、固形食を経口摂取可能な方(離乳食中の乳児も含む)は「修正アトキンズ食 (modified Atkins diet)」または「低グリセミック指数食(low glycemic index treatment)」という方式で行います。修正アトキンズ食では、炭水化物制限(1日10~30g)は必要ですが、カロリー、水分制限がありません。低グリセミック指数食では血糖値の変動が低いとされる低グリセミック指数の炭水化物を用い、制限はさらに緩和(1日40~60g)されます。ともに従来のケトン食より制限が緩和された分、食べやすくなっています。

修正アトキンズ食

元来の「アトキンズダイエット」とはアトキンズ博士が1970年代に考案し全米で流行した低炭水化物食によるダイエット(減量)方法のことです。「修正」とは、このアトキンズダイエットをケトン食に応用するにあたり、炭水化物制限を厳格にした(減量法では1日約100gの制限であったのを1日10g~30gに修正)ことを表しています。1990年代にアメリカのジョンスホプキンス病院で従来のケトン食に耐えられない患者に緒制限を緩めたケトン食を提供する目的で考案された方法で世界中に広がりました。具体的には炭水化物を制限する以外、水分、総熱量(カロリー)、タンパク質の制限を必要としません。炭水化物10g/日制限で始め、最終的には30g/日まで緩和可能です。

低グリセミック指数食

グリセミック指数(Glycemic index:GI)とは、ある食品の血糖上昇傾向を表す指標です。つまり、GI値の高い食品は食後の血糖値の変動が大きく、GI値の低い食品は血糖値の変動が小さいということです。(血糖値が上昇するとインスリンの分泌も増加しますので、糖尿病の食事療法ではインスリン分泌を抑える目的で、同じ量の炭水化物を摂取するならGI値の低い食品が推奨されています。)低グリセミック指数食は2002年にアメリカのマサチューセッツ総合病院で考案されたケトン食の1つの方法です。ポイントは炭水化物の量の制限を40~60gに緩和するかわりに、質の制限(低GI値の炭水化物)を行うという点です。低GI値の炭水化物とはGI値が約50以下(ブドウ糖を基準食として計算)のもので、具体的には納豆かけ玄米、パン(ふすま粉使用)、そば、パスタなどの穀物、バナナ、みかん、いちご、リンゴなどの果物が含まれます。
※従来のケトン食はケトン比(脂質の重量):(炭水化物+タンパク質の重量)を3:1~4:1に設定するように献立を作成します。修正アトキンズ食、低グリセミック指数食は炭水化物摂取量を決めますが、ケトン比の計算は行いません。修正アトキンズ食、低グリセミック指数食と従来のケトン食(古典的ケトン食)、通常の食事(普通食)の、摂取できる3大栄養素の組成の比較表を示します。(図2)

図2:ケトン食の摂取3大栄養素の組成比較表

有効性と継続期間について

従来のケトン食と有効性を比較した科学的エビデンスのある研究は少ないですが、50%以上発作頻度が減少した患者割合がおおよそ4~6割と、従来のケトン食と遜色ない結果を示す報告が多いです。
従来のケトン食では治療開始後1週間以内(早ければ3日以内)に十分なケトン体が体内に産生されます。ケトン食治療が有効な場合は、治療開始後3週間以内に多くの患者で効果が明らかになるといわれています。修正アトキンズ食、低グリセミック指数食では私たちの経験では効果がそれより遅くあらわれる場合もあり、3ヶ月~6ヶ月は効果を認めなくても継続してみる価値はあると考えています。効果があれば2~3年間は継続されることをお勧めしています。

当院での「ケトン食療法お試し入院」について

入院までのおおよその流れ

主治医、栄養士と入院日を決定します。入院前1ヶ月間の発作記録をつけてもらいます。入院前に外来で1度栄養士が面談し、現在のご家庭での食事摂取状況や味の好みなどをうかがいます。また、修正アトキンズ食と低グリセミック指数食についての説明を行い、どちらを行うか相談させていただきます。
(低グリセミック指数食の方が修正アトキンズ食より食べやすいです。しかし、現時点では実績、経験は修正アトキンズ食の方が多いです。)

入院後の治療

入院期間は3~4週間に設定しています。摂取カロリーは、普段の摂取量と同じにし、炭水化物のみ制限します(修正アトキンズ食:10g/日、低グリセミック指数食:50g/日)。入院前まで内服されていた抗てんかん薬は変わらず続けます。(可能なら糖質の含まない剤型に変えることはあります。)なお、バルプロ酸(商品名デパケン、セレニカ、ハイセレニン、バレリン、エピレナート)を内服中の児はカルニチンという栄養素が不足することが知られており、カルニチン欠乏の状態でケトン食を行うと肝障害等の副作用が出現する可能性が高くなります。従って、バルプロ酸を内服している方にはカルニチンを補充します。
入院中の食事献立の例(1食分の献立と使用食材)を図3(修正アトキンズ食、幼児)、図4(修正アトキンズ食、離乳食)、図5(低グリセミック指数食、学童)に示します。献立の工夫で様々な味が楽しめます。実際、私達が食べてみても、少し脂っこい印象はありますがおいしく頂けます。低グリセミック指数食の場合は量は少ないですが1日に1~2食、ごはん(玄米)、パン(ふすま粉)、パスタ、そばなどのいわゆる「日本人の主食」を食べることが可能です。入院中に作成した献立はご家族にお渡しし、退院後の食事調理の際の参考にしていただけます。また、入院中は定期的に血液検査、尿検査を行ない、体内のケトン体蓄積の程度、血糖値の変動と副作用(高コレステロール血症、高尿酸血症等)をモニターします。

入院中の治療の中断について

治療中に感冒罹患等で体調不良になった場合は、一旦中断し体調が回復してから再開する場合があります。どうしてもケトン食が食べられない場合、途中で中止することもあります。

退院後の治療

退院後も食事療法を続ける場合、不足しやすい水溶性ビタミン、葉酸、カルシウム、カルニチンなどを患者さんごとの必要度に応じて内服薬でサプリメントとして補充します。副作用の評価は血液検査、尿検査に加えて腎エコーにて尿路結石の有無のチェックも行ないます。また、外来受診の度、希望があれば栄養士と面談しメニュー等について相談していただけます。ケトン食有効で長期継続される場合、経過中に主治医と相談の上、抗てんかん薬の一部を減量、中止する事ができる可能性があります。効果がある場合、治療期間はおおよそ2~3年間を目安にしています。中止する際は、炭水化物制限を徐々に解除して行きます。

※このプログラムは固形物の経口摂取が可能な患者さんを対象に作っていますが、そうでない患者さんに対しても各々の摂食形態に応じて対応させていただいています。経管栄養の方、ミルクの経口摂取が中心の方は、ケトンフォーミュラというケトン食用の治療ミルク(病院から主治医が特殊ミルク事務局に申請することで、無料で患者さんに提供されます)にグリセミック指数の低い栄養剤を組み合わせて注入献立を組みます。

図3:修正アトキンズ食、幼児)
図4:修正アトキンズ食、離乳食)
図5:低グリセミック指数食、学童)
お問い合わせ
病院事業庁 小児保健医療センター
電話番号:077-582-6200
FAX番号:077-582-6304
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