コイ科の琵琶湖固有種であるホンモロコは、10cm程度の小魚で、春季には湖岸や内湖岸のヤナギの根、水草などに産卵します。ふ化した稚魚は沿岸域で生活した後、冬季を沖合の深層で群泳して過ごし、翌春に再び産卵のため接岸するという生活史を送ります。寿命はほぼ1年で、ほとんどが産卵を終えると1歳で死亡しますが、稀に2歳以上のものも存在します。また近年の研究から、サケの様に生まれた場所に戻ってきて産卵する回帰という特性をもつことが示唆されています。
淡白ながらも旨味のある白身の魚で、肉質がよく骨も柔らかいため「コイ科で最も美味」と言われることもあり、琵琶湖では重要な漁獲対象種となっています。漁獲量は、1995年までは年間150~350トンありましたが、外来魚の影響や産卵繁殖場の減少に加え、琵琶湖の水位低下による卵の干出等が要因となり、それ以降急減し、2004年には5トンにまで激減しました(図1)。
そこで本種の資源回復に向け、2000年以降稚魚の放流等の増殖事業を強化してきました。さらに2011年以降は、増殖事業に加えホンモロコ繁殖適地における外来魚集中駆除、産卵期における禁漁や遊漁の規制といった産卵親魚保護および異常繁茂した水草除去等の環境改善など種々の対策が総合的に行われてきました(図2)。さらに、琵琶湖の水位を調整する瀬田川洗堰の操作についても、治水、利水に影響のない範囲で環境に配慮した運用が行われています。
滋賀県水産試験場では、10月に資源量推定用の標識を付けたホンモロコを約10万尾放流し、冬季の漁獲物に含まれる標識魚の割合から琵琶湖全体のホンモロコ資源尾数を推定しています(図3)。
前項で紹介した資源回復に向けた総合的な取り組みが奏功し、近年ホンモロコ資源は回復傾向を示しており、特に2019年以降は急激に資源量が増加しています。
2020年までの資源状況や漁獲状況をもとにホンモロコ資源の評価を行った結果、資源量150トン時にMSY(最大持続生産量)が50トンとなる計算になりました(図4)。実際には、2020年は推定資源量152トンに対し、漁獲量が33トンであり、資源に余裕があるものと推察されます。また、神戸チャートによる資源評価結果からも近年のホンモロコ資源は安定しているものと思われます(図5)。
上記のとおりホンモロコ資源は回復傾向を示しており、また南湖を含む多くの産卵場でまとまった産卵が確認されるようになりました。そこで県では、これまでの稚魚の大量放流を中心とした増殖の取組みから、資源状況に応じた漁獲制限などにより柔軟に資源対策を実施する資源管理型漁業を主体とした取組みへ移行することとしました。
今後はホンモロコ資源をMSY(最大持続生産量)が達成できる水準に保てるよう、資源評価と漁獲管理に取り組むとともに、外来魚駆除など漁場環境の保全対策も継続する必要があります。