不当労働行為とは、使用者(会社、事業者)が労働組合や労働者に対して行われる、団結権や団体交渉権、団体行動権を侵害するような行為のことを指し、労働組合法第7条第1号から第4号までにおいて禁止されています。
不当労働行為と思われる行為を受けた場合、労働組合または組合員は、労働委員会に救済申立てを行うことができます。労働委員会は申立てを受けて双方に準備書面の提出を求め、調査・審問で双方の主張を確認します。そうして互いの対立点や法的な論点を洗い出し、結論を命令書にまとめて発出します。訴状を提出し、答弁書の提出や口頭弁論を経て判決を下す民事訴訟とよく似た流れとなります。
このページでは、救済申立てから命令・和解までの流れを詳しく説明していきます。不当労働行為とはそもそもどのようなものなのかについては、「不当労働行為の具体例」のページをご覧ください。
申立ては、申立書を労働委員会に提出することで行います。申立書には、申立てを行う組合(申立人といいます)の所在地・代表者などの情報、申立ての相手方となる使用者(被申立人といいます)の所在地・代表者などの情報のほか、どういった救済を求めるのかと、使用者のどういった行為が不当労働行為だとするのかを記載します。
労働委員会は各都道府県に存在しますが、申立てを行えるのは、(1)労働組合の所在する都道府県の労働委員会、(2)申立ての相手方となる使用者の所在する都道府県の労働委員会、(3)不当労働行為と思われる行為の行われた都道府県の労働委員会、のいずれかです。例えば、東京都に本社を置き、滋賀県に工場を持つ会社が、大阪府に本部を置く労働組合に対して不当労働行為を行った場合、組合は東京都労委、大阪府労委、滋賀県労委のいずれかに申立てを行うことができます。
申立書は郵送で提出することも可能ですが、手続きの流れについての説明や、事件の背景事情の聞き取りなどを行う必要があるため、やむを得ない場合を除いては来庁の上で提出していただくようお願いしています。
申立書には、使用者に対して求める救済の内容を書く必要があります。使用者から受けた不当労働行為が、解雇や減給などの不利益取扱いや、団体交渉の拒否などの場合は、まずは不利益処分を撤回することや団体交渉に応じることを求めるのが一般的です。また、特に解雇や減給の事例においては、そうした処分がなされていなかったら支払われていたはずの賃金との差額(バックペイといいます)を支払うよう求めることもあります。
また、それらの救済と併せて、謝罪文の手交や掲示を求めることも、広く行われています。この場合、申立書には単に「謝罪文を掲示すること」とのみ書くのではなく、文面や用紙の大きさ、掲示場所などを具体的に指定する必要があります。申立書には救済内容の記載例も付属していますので、参考にしてください。
申立ては、いつでも行えるというわけではありません。民事訴訟や刑事訴訟に時効があるように、不当労働行為の救済申立ても、不当労働行為と思われる行為がなされてから1年以内に行う必要があります。同様の行為が繰り返し行われている場合は、一連の行為が最後に行われた時点を基準にして、1年以内かどうかを判断します。この「一連の行為」については、年1回の給与査定において不利益取扱いがあった場合、毎月の給与支払いもその査定に基づくものであるため、査定と支払いは一体として一つの不当労働行為とみるべきである、という判断が下された例があります(平成3年6月4日最高裁判決)。この場合、不当労働行為が最後に行われたのは直近の給与支払日ということになります。ただし、「一連の行為」の判断は、事例ごとの特殊な事情も踏まえたうえで行われますので、似た事例であっても必ずしも一連の行為とみなされるわけではありません。
なお、既に1年以上経過してしまった行為について申立てを行っても、労働委員会は審査手続きには入らず、申立てを却下することになります。申立てを行うときは、申立期間内であるかどうかを確認するようにしてください。
申立ては、労働組合として行うか、組合員個人として行うことができますが、それぞれ条件があります。
労働組合として申立てを行う場合、組合が労働組合法第2条と第5条第2項の要件をすべて満たしている必要があります。具体的には、人事権を持つ管理職が組合員として加入していないこと、会社から資金等の援助を受けていないこと、組合役員の選出方法や会計報告などについて定めた規約を有することなどです。これらの要件を満たすかどうかは、組合の提出した書類(規約、会計報告書など)をもとに労働委員会が審査します。審査の詳細については、「労働組合の資格審査」のページをご覧ください。審査に必要な書類は原則として申立書と同時に提出していただきます。
組合員個人の場合、団交拒否・不誠実団交(労働組合法第7条第2号)にかかる申立ては行えません。
申立書を受理すると、労働委員会は公益委員の中から審査委員を選任します。審査委員とは、民事訴訟でいうところの裁判長のような存在で、申立人・被申立人双方の主張を聞き、提出された証拠や証言を精査して、申し立てられた行為が不当労働行為に該当するかどうかを判断します。滋賀県労働委員会においては、審査委員となる公益委員は弁護士や大学教授などで構成されています。
また、審査委員の選任と併せて、労働者委員・使用者委員からそれぞれ参与委員の申出を受けます。参与委員は、不当労働行為かどうかの判断に直接携わるわけではありませんが、それぞれの見地から審査委員に意見表明を行うことができます。また、双方に和解を促す場面においても、専門的知見を活かして説得に当たります。
答弁書や準備書面とは、自らの主張を詳しく説明し、また相手への反論を記載するための書面です。救済申立てを受けた被申立人は、申立書に記載されている事柄について反論や主張を行う「答弁書」を労働委員会に提出します。被申立人による答弁書の提出期限については、滋賀県労働委員会では労働委員会規則第41条の2第3項の規定により、救済申立書の写しが送付された日から原則として15日以内としています。被申立人から提出された答弁書は申立人にも送付され、申立人はその答弁書への再反論や新たな主張を「準備書面」の形にまとめて提出します。
また、申立人の主張に不明な点があると審査委員が感じた場合、それについての説明も併せて準備書面に記載するよう求めます(これを求釈明といいます)。求釈明は被申立人に対しても行われますので、被申立人も準備書面で釈明と再々反論を行い、さらに申立人は2回目の準備書面で釈明と再々再反論を……と繰り返していくことになります。このように、準備書面を互いに何度も提出して主張や反論を重ねていくことで、事件の背景事情や主張の食い違っている点、法的な争点などを明確にしていくのです。
準備書面の提出と併せて、自らの主張を裏付ける証拠を提出することができます。具体的な例を挙げると、不利益取扱いの事案であれば解雇通知書や懲戒処分通知書、不誠実団交の事案であれば団体交渉の議事録などが証拠として考えられるでしょう。なお、これらの証拠は、後に説明する証人と区別するため、書類としての証拠という意味で「書証」という言い方をしますが、実際には必ずしも書類である必要はありません。例えば、支配介入の事案などにおいて、組合を敵視する経営者の発言を収めた録音データや電子メールのログが提出されることもあります。
これらの書証は、「証拠説明書」と併せて提出する必要があります。それぞれの証拠が具体的にどういった主張を裏付けるものなのかを、証拠説明書で示すのです。また、証拠説明書には「疎明番号」という欄がありますが、これは証拠一つ一つに割り当てられる番号のことで、申立人・被申立人のどちらが提出した、どの証拠なのかを区別するためのものです。申立人が提出した書類であれば「甲第1号証」「甲第2号証」……、被申立人が提出した書類なら「乙第1号証」「乙第2号証」……のように、提出順に付番されます。
ところで、証拠として出したいけれど相手側が保有しているため提出できない、というような資料がある場合はどうすればよいでしょうか。例えば、組合員であることを理由に人事評価を下げられたという事案の場合、人事評価書類を証拠として提示できないと、主張を立証できません。しかし、その書類は人事担当者が保有しているため、組合が入手することはできません。このような場合、「物件提出命令申立書」を労働委員会に提出することができます。この申立書に従って労働委員会から物件提出命令が出されたら、相手側はそれに従う必要があります(不服申立ては可能です)。しかし、物件提出命令申立書が出されたからといって、必ずしも提出命令が出されるわけではありません。提出命令は、その資料がなければ事実の判断ができないような重要なものについてしか出せないため、場合によっては提出命令は必要ないと判断されることもあります。
準備書面によりある程度の主張や争点が見えてきたら、審査委員、参与委員と両当事者が県庁内にある労働委員会室に集まり、対面での調査も行います。調査は非公開で行われるため、ビデオカメラやICレコーダーなどの持ち込みはできません。
労働委員会室での調査は、まず両当事者が対面して始まります。審査委員が両当事者に対し、出席者や提出書類などの確認を行うほか、準備書面等に誤字がある場合はその確認も行います。続いて、申立人、被申立人それぞれ個別に、準備書面の内容や詳しい事情について聞き取りを行います。相手方が聞き取りを受けている時間は、別室で待機します。最後に、再び両当事者を対面させ、それぞれから個別に聞き取った内容の概要を審査委員が説明した上、次回の調査の日程を決めて、その日の調査は終了となります。事件にもよりますが、一般的には一つの事件につき、労働委員会室での調査は5回程度行われます。
労働委員会での調査の際に、代理人や補佐人を申請することができます。
代理人とは、文字どおり申立人や被申立人の代理となる人です。準備書面を作成・提出したり、調査の場で審査委員の質問に答えたり、審問の場で相手方への尋問をしたりなど、本来なら事件当事者本人がすべきことを、本人に代わって行うことができます。例えば、申立人であれば上部組合の役員、被申立人であれば労務担当の取締役なども、労働委員会の許可があれば代理人となることができます。ただし、弁護士でない者が報酬を得て代理人となることは、法律で禁じられています(弁護士法第72条)。
補佐人とは、事件当事者や代理人に付き添って調査や審問に出廷し、当事者や代理人の発言を補足したり、証拠書類の提示を手伝ったりなどのサポートをする人です。例えば、申立人であれば組合の役員や、不利益取扱いを受けた本人などが補佐人として考えられるでしょう。被申立人であれば労務担当の部長や課長などが補佐人となることが多いようです。また、外国人労働者が当事者となる事件などでは、通訳を補佐人とすることも可能です。
不当労働行為の審査でも民事訴訟でも、証拠となるのは書証だけではありません。証人の証言もまた、事実を示す証拠として重視されます。申立人、被申立人がそれぞれ、自らの主張を裏付ける証人に証言させることができます。
自分側の証人として誰かに証言してもらうには、事前に「証人尋問申請書」を労働委員会に提出する必要があります。また、例えば申立人が会社の人事部長に尋問をしたい場合など、相手側の人物を証人として引き出したいときは、「証人等出頭命令申立書」を提出します。ただし、物件提出申立書と同様、出頭命令は必要ないと判断されることもあります。
なお、審査委員が証人に対し、事前に「陳述書」の提出を求めることがあります。陳述書とは、審問をスムーズに進行させるため、どのような証言を行うのかを事前に文章にまとめたもので、陳述書も書証の一つとして扱われます。
証人尋問は、「宣誓」、「主尋問」、「反対尋問」、「補充尋問」の順に行われます。
宣誓は、虚偽の証言をしないことを約束させるために行われるもので、正当な理由なく宣誓を拒否した場合や、宣誓をしたにもかかわらず虚偽の証言を行った場合は、それぞれ過料や懲役の罰則が科せられることがあります。
主尋問は、証人尋問申請を行った側、つまりは自分側からの尋問です。自らの主張を裏付けるような証言を、この主尋問によって引き出していきます。尋問中に、それまでに提出してきた書証を提示し、それについて証言させることもあります。主尋問に費やせる時間は、証人尋問申請書に記載された予定時間をもとに労働委員会で決定します。事件や証人の性質にもよりますが、30分~60分程度となることが多いようです。
反対尋問は、主尋問の内容に対して相手側が行う尋問です。主尋問での証言内容について、相手側にとって有利な内容を引き出すべく質問が行われます。主尋問での証言内容以外についての質問は原則として行えません。
補充尋問は、審査委員や参与委員が証人に対して行う尋問で、事実認定のために必要な場合に適宜行われます。
労働委員会の命令は強制力を伴うものであるため、場合によっては、命令書を発出することで労使間の関係性に悪影響が及ぶことも考えられます。また、両当事者に歩み寄りの姿勢がみられることも少なくありません。
そうした場合、命令ではなく和解による解決を審査委員・参与委員が促すことがあります。和解に応じるかは当事者の意思に委ねられますが、和解のメリットとしては、命令と比べて良好な労使関係を維持できること、素早い解決につながることなどが挙げられるでしょう。滋賀県労働委員会がこれまでに扱った事件のうち、命令書の発出で終わった事件は、申立てから終結まで平均して450日ほどかかっているのに対し、和解の場合は平均130日程度と非常に短期間での解決が実現しています。
滋賀県労働委員会の命令に不服がある場合、国の機関である中央労働委員会に再審査を申し立てることができます。再審査の申立ては、命令書が交付された日から15日以内に行う必要があります。
また、中央労働委員会への再審査ではなく、地方裁判所に取消訴訟を提起することも可能です。取消訴訟は、中央労働委員会での再審査結果に対して行うこともできます。いずれの場合も、被申立人は命令書が交付された日から30日以内、申立人は6か月以内に行う必要があります。また、滋賀県労働委員会の命令に対する取消訴訟では大津地方裁判所が、中央労働委員会の命令なら東京地方裁判所が、第一審の管轄裁判所となります。