令和7年5月16日(金)に開かれた国の文化審議会文化財分科会において、次の建造物を国宝・重要文化財に指定するよう文部科学大臣に答申されました。
滋賀県内の建造物の国宝指定は64年ぶりとなります。
【国宝】琵琶湖疏水施設(びわこそすいしせつ)1件1所
第一隧道(だいいちずいどう)
※琵琶湖疏水施設として国宝に指定されたのは第一隧道、第二隧道、第三隧道、インクライン、南禅寺水路閣の1件5所で、このうち第一隧道が滋賀県および京都府に所在します。
【重要文化財】琵琶湖疏水施設(びわこそすいしせつ)1件3所
大津閘門(おおつこうもん)及び堰門(せきもん)、大津運河(おおつうんが)、第一隧道(だいいちずいどう)
※琵琶湖疏水施設として重要文化財に指定されるのは1件16所4基4棟であり、このうち大津閘門及び堰門、大津運河が滋賀県に所在し、第一隧道は滋賀県および京都府に所在します。
今回指定される1件1所が国宝、1件3所が重要文化財に指定されると、滋賀県内の国宝(建造物)件数は23 件、24 棟になり、重要文化財(建造物)件数は、191 件、280 棟に変更になります。
琵琶湖疏水施設について
琵琶湖疏水施設は、琵琶湖を水源として滋賀県大津市から京都府京都市に至る長大な運河を構成する施設で、明治18年(1885)に着工され同23年(1890)に竣工した第一疏水や、その後大正時代までに整備された第二疏水やその関連施設があります。琵琶湖と京都を運河で結ぶ計画は近世初期から様々な案がありましたが、明治14年(1881)に当時の京都府知事である北垣國道が京都の産業振興を図ろうと計画したのが現在の琵琶湖疏水の始まりです。当時の国内での大規模土木事業が外国人技術者に依存するなか、田邉朔朗をはじめとした日本人技術者の手で完成しました。
今回指定候補の16所、4基、4棟のうち滋賀県に所在するのは、第一疏水に含まれる大津閘門及び堰門、大津運河、第一隧道の3所です。
各建造物の概要
大津閘門及び堰門:船の通航時に琵琶湖と大津運河の水位差を調節する大津閘門と、湖水の増減に関わらず疏水に一定量を供給する水量調整を行う堰門を南北に並べた施設です。れんが造りの本格的な閘門として国内で最初期のもので、今でも琵琶湖と疏水路の水位差を調整する役割を果たしています。
大津運河:疏水運河のうち大津閘門と第一隧道を結ぶ区間で、琵琶湖疏水のその他の運河と比べて改変が少なく、曳舟道や石造の護岸などの当時の構造が良く保存されています。また竣工時に植えられた桜並木と共に多くの県民や観光客に親しまれる景観となっています。
第一隧道:工事に大きな役割を果たした第一竪坑、第二竪坑を含む全長2,436.1メートルのトンネルです。当時としては長大なトンネルであり、疏水工事のなかでも最大の難関だったため、トンネル工事としては国内初の竪坑工法を採用しています。これは垂直に掘り下げた穴の両側と大津、藤尾の計4か所から掘り進めることで工期の短縮が見込めるだけでなく、換気と採光にも寄与する効率的な工法で、現在も地上には隧道の一部として煉瓦造の第一竪坑、第二竪坑が残ります。また、坑門は古典主義等の様式的な装飾を施した重厚な意匠とし、さらに明治の元勲である伊藤博文と山縣有朋の揮ごうを扁額として掲げるなど、他に類を見ない記念碑的な造りとします。
琵琶湖疏水施設は、琵琶湖の水資源や舟運を活かして京都の近代化と発展に大きく貢献し、現在も都市基盤施設として活用されており、また各建造物に高度な技術が発揮され、明治期の建設分野における技術的達成度を示す代表的な遺構として、歴史的に価値が高い文化財と言えます。